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第17話:天空のお母さん

三人は村の宿屋で、穏やかな朝を迎えていた。窓から差し込む太陽の光が、床に置かれた古い世界地図を照らし出している。


「…世界の、果て…」


ゴウは、その地図の、まだ見ぬ最果ての地を指でなぞりながら、冒険者の瞳で呟いた。


「一体、どんな場所なんだろうな…」


その一言が、ゴングだった。ゴウとルルの、長くて、不毛で、そして、どこか楽しい、大論争が始まったのだ。


「親父の古い本には、世界の果ては、天と地が繋がる、巨大な滝なんだって書いてあったぜ!空から、海が、永遠に、虚無へと流れ落ちてるんだ!これ以上のロマンは、ねえだろ!」


ゴウが、父から聞かされた知識と、少年らしい感情論で、熱く語る。

だが、ルルは、のんびりとパンをかじりながら、それを一蹴した。


「えー、滝ですかぁ?うーん、あたしは違うと思いますけどねぇ」


「なんでだよ!」


「あたしのハグルマシティの友達のスージーちゃん、そのいとこが、『塩辛クラーケン号』っていう商船に乗ってる船乗りさんなんですけど、その人が言うには、『凍える牙の群島』の、ずーっと先は、ただ、氷の壁が続いてるだけなんですって。世界の果てなんて、案外、そんな、地味で、がっかりな場所なんですよ。幻光(えいが)作家のジャーミアン・コスも、『郵便配達員は郵便局をみた』っていう幻光盤を撮ってましたし」


「そんな夢のない話、あるか!世界の果ては、冒険の最終地点!最後の試練のはずだ!」


「試練ですかぁ…。あたし、怖いのは苦手なので、氷の壁の方がいいです。試練といえば、『英雄と笑う迷宮』っていう幻光(えいが)の、ネバネバしたスライムの罠、あれで一週間、うなされました…」


ゴウの情熱と、ルルの個人的な事情と思い込みが、全く噛み合わない。だが、ゴウの純粋な熱意が、徐々に、ルルのぐだぐだな論理を、追い詰めていった。


「だから!ルルの話は、全部、人から聞いた話とか、幻光(えいが)の話ばっかりじゃねえか!根拠がねえんだよ!」


「うぐっ…!」


論戦で負けそうになったルルは、追い詰められた末に、禁じ手を使った。


「…じゃあ、もう、おっぱいさわ…る?」


「なっ…!?」


「あたしの論理が信用できないなら、もっと、こう、直接的なもので、あたしを信用させてみせます…!ここが世界の果てですよ!さあ!」


ルルは、なぜか、どん、と胸を張った。


「そういう話をしてるんじゃねええええええっ!」


ゴウの絶叫が、のどかな村の朝に響き渡った。

結局、議論は、何の結論も出ないまま、平行線をたどった。

ゴウは、はあと大きなため息をついた。


「もういい!じゃあ、ルル自身はどう思うんだよ!世界の果ては、なんなんだ!?」


その問いに、ルルは、うーん、と、真剣に考え込んだ。そして、彼女独自の、ぶっ飛んだ連想ゲームの末に、一つの、とんでもない結論を、自信満々に告げた。


「わかりました!世界の果てっていうのは、きっと、すっごく居心地のいいソファと、美味しいお茶菓子があって、一生、そこから動かなくていい場所なんです!幻光(えいが)だけをずっと観ていられる!天国みたいな!」


ゴウは、その、あまりに突拍子もない発言に、完全に、思考を停止させた。

ソファ?お茶菓子?天国?


彼が、その奇妙な単語を、脳内で反芻していた、その時だった。

宿屋の扉が、勢いよく開かれた。

そこに立っていたのは、徹夜明けで、髪はボサボサ、顔のあちこちに油の汚れをつけた、イオだった。その瞳だけが、爛々と、狂気的な輝きを放っている。


「…できたぞ」


イオは、それだけ言うと、二人を外へと促した。

村はずれの納屋。そこにあったはずの、錆びついた三輪トラックの姿は、どこにもなかった。

代わりに、そこに鎮座していたのは。

トラックのシャーシを土台に、飛行船の反重力ユニットや、村のガラクタを巧みに組み合わせ、再構築された、奇妙な、しかし、流線型で美しい、オープンカータイプの、空飛ぶ車だった。


「君たちの会話を聞きながら、全ての情報を再計算した」


イオは、ゴウとルルに向き直ると、まるで、最後の選択肢を提示するように、言った。


「我々が調査可能な目的地は、ただ一つしか残されていない。あらゆる地図に載らず、あらゆる伝説から拒絶され、しかし、確実に存在するとされる、最大のイレギュラー。君の両親の人生観を、根底から覆したという、あの場所だけだ」


イオは、完成したばかりの、空飛ぶ車を、指さした。


「世界の果てが、物理的な終着点ではないのだとしたら、それは、概念的な終着点…すなわち、『人間』の果てを、我々に見せつける場所なのかもしれない。それを確かめる必要がある」


「我々は、アーク・ノヴァへ向かう」


その名を聞いた瞬間、それまで楽しげだったゴウの顔から、すっと血の気が引いた。


「…ゴウ?どうしたのだ?君、その場所を知っているのか?」


イオの問いに、ゴウは、乾いた喉で、ゆっくりと答えた。


「…ああ。知ってる。親父から…何度も、話だけは、聞かされた。親父と母さんが、若い頃にした旅の…一番、最後の場所だ」


ゴウの脳裏に、幼い頃、父ケンジが語ってくれた、壮絶な物語が蘇る。それは、どんな冒険譚よりも、どんな幻光(えいが)よりも、彼の心に深く刻み込まれた、父と母の人生そのものだった。

彼は、目の前の二人に向かって、その物語を、自らの言葉で語り始めた。


「そこは、空の上にある国なんだ。雲よりも、ずっと高い場所にあって、地上からは、その姿を絶対に見ることができない、隠された国…」


ゴウは、父の言葉を思い出しながら語る。そこは、飢えも、病も、争いもない、完璧なユートピア。人々は、その体の半分を機械と融合させ、労働という概念すら、そこには存在しない。全てが美しく、全てが計算され尽くした、未来の国。


「…だけど、親父は言ってた。そこには、何もなかったって。生きているっていう、手触りが、何もかも、なかったんだと…」


そして、ゴウは、その物語の、最も恐ろしい核心部分を、震える声で語った。


「その国の連中は、見ていたんだ。ずっと、空の上から。俺たちが住む、この地上の全てを。俺たちの人生を…俺たちの、戦いや、苦しみや、仲間たちの死でさえも…あいつらにとっては、ただの娯楽だったんだ。俺たちの人生は、ただの、よくできた幻光(えいが)だったんだ…」


イオとルルは、息をのんだ。

ゴウの瞳には、父から受け継いだ深い畏怖と、やり場のない怒り、そして、未知なるものへの抑えきれない冒険心が渦を巻いていた。


「親父も、母さんも、その国から帰ってきてから人が変わっちまった。何かが壊れちまったんだ。それくらいやべえ場所なんだよ」


ルルは、完全に怖気づいていた。


「ひぃ…!そ、そんな、人の人生を覗き見するような、悪趣味な国…!ぜ、絶対に行きたくありません…!」


イオが、真剣な顔でゴウに尋ねた。


「…ゴウ。君は、怖いか?」


その問いに、ゴウは、一度、ぎゅっと目を閉じた。そして、再び目を開けた時、その瞳には、燃えるような決意の炎が宿っていた。


「怖いさ!めちゃくちゃ怖い!親父たちの人生観を、あんなに変えちまうような場所なんだぞ!」


だが、彼は続けた。その声は、恐怖を振り払うかのように、力強かった。


「でも、だからこそ、行かなきゃならねえんだ!俺は、この目で確かめたい!親父と母さんが、ただ、考えすぎてただけなんだって、心配性なだけなんだって、証明したいんだ!あいつらが絶望した場所で、俺は、絶望しない!俺は、俺の旅を、続けるんだ!」


それは、偉大すぎる両親の過去を、息子として乗り越えようとする、魂の叫びだった。

ゴウは、飛行船の操縦桿を、強く、強く握りしめた。


「よし、進路決定だ!行くぜ、お前ら!」


彼は、羅針盤が示す、天空の座標を睨みつけた。


「まずは『竜の墓場』を突破する!そして、その先に待つ、伝説の天空の国…アーク・ノヴァへ!」


飛行船は、大きく旋回すると、機首を、空の、さらにその上、星々にほど近い、遥かなる天空へと向け、一気に加速した。



「まだか!?なあ、イオ、まだ着かないのか!?もっとスピード出せないのか、この船は!」


アーク・ノヴァへと向かう飛行船の操縦室で、ゴウは、まるで檻の中の虎のように、落ち着きなく歩き回っていた。父と母の人生を決定づけた、伝説の天空都市。その実態を、一刻も早く、この目で見たい。その焦りと興奮が、彼から冷静さを奪っていた。


「ゴウ、君のその無意味な往復運動が、船体の微細な振動を引き起こし、私の航路計算に誤差を生じさせていると、何度言ったら理解するのだ!」


イオは、複雑な航路図と格闘しながら、こめかみをピクピクさせている。


「だって、気になるんだから…しょうがないだろ!」


イオは、はあと大きなため息をつくと、後方の居住区画に向かって声をかけた。


「ルル。緊急要請だ。『徘徊する英雄』を、物理的に無力化してくれ」


「はーい、お任せくださいー」


のんびりとした返事と共に、居住区から現れたルルは、ゴウの背後に回ると、その巨体で、有無を言わさず彼をぎゅっと抱きしめた。


「なっ!?おい、ルル!離せ!何すんだ!」


「イオさんに、ゴウくんを捕まえといてって、頼まれましたので」


「文字通り捕まえるやつがあるか!」


ゴウがどれだけ暴れても、ルルの柔らかく、しかし、山のようにどっしりとしたホールドからは、逃れることができない。イオは、ようやく訪れた静寂の中で、満足げに航路計算を再開した。


そんなドタバタを繰り広げながら、彼らはついに、アーク・ノヴァへとたどり着いた。

雲海を突き抜けた先に広がる、水晶と白銀でできた、神々しい摩天楼の森。ゴウは、ルルに羽交い締めにされたまま、その光景に息をのんだ。

指定された来訪者用のポートに着陸し、三人が船外に出ると、一体のアンドロイドが、音もなく近づいてきた。


『ようこそ、下界の観測対象者諸君。あなた方の生体情報、及び、現在までの人生における感情の起伏データは、正常に記録されました。規定された観覧期間中、我々の完璧な社会をお楽しみください』


その、完璧に合成された、しかし、何の感情も温かみも感じられない声を聞いた瞬間。

ゴウは、察した。

父が語っていた、あの話は、本当だったのだ。こいつらは、俺たちを、動物園の珍獣か何かのようにしか見ていない。


街を観光し、ゴウは、いよいよ、呆れた。

そこは、完璧だった。ゴミ一つ落ちていない道。栄養バランスが完璧に計算された、味のない食事。そして、感情の起伏という「ノイズ」を、完全に排除された、無表情な人々。


広場では、巨大なホログラムスクリーンに、下界の映像が映し出されていた。それは、どこかの小さな村の、慎ましい結婚式だった。花嫁の父親が、涙ながらに娘への想いを語る、感動的な場面。だが、アーク・ノヴァの住人たちは、それを、まるで珍しい生き物の生態を観察するかのように、ただ、無表情で眺めているだけだった。

人の、最もプライベートで、最も尊い瞬間が、ここでは、ただの「コンテンツ」として、消費されている。


ゴウは、理屈ではなかった。ただ、腹の底から、どうしようもない嫌悪感が、こみ上げてきた。


「…いや、いいや。帰ろう、イオ。こんな場所、もう、一秒だっていたくねえ」


飛行船に戻ったゴウは、操縦席にどかりと座り込んだ。


「なんなんだよ、あの街…。完璧で、綺麗で、何の問題もないはずなのに…。なんで、あんなに、胸クソ悪いんだ…!」


彼は、自分の感情を、うまく言葉にできない。

その、もどかしい沈黙を破ったのは、隣に立つイオだった。彼女は、窓の外に広がる、完璧なスカイラインを、静かに見つめていた。


「…君が感じているのは、おそらく、生命としての、本能的な拒絶反応だ」


イオは、ゴウの心を代弁するかのように、静かに語り始めた。


「あの街は、人生における、全ての負の変数を排除した。痛み、苦しみ、非効率、そして、喪失。だが、その代償として、それらと不可分に結びついた、正の変数をも、捨て去ってしまったのだ」


ゴウは、はっと顔を上げた。


「ここには、悲しみがない代わりに、本当の喜びもない。喪失の恐怖がない代わりに、誰かを心から愛することもない。乗り越えるべき苦難がない代わりに、何かを成し遂げた時の達成感もない。彼らは、生きているのではない。ただ、死なずに、存在し続けているだけだ。君の魂が、その、完璧で、快適で、そして、どうしようもなく無意味な『空っぽ』を、本能で拒絶している。それが、君の感じている、嫌悪感の正体だ」


ゴウの目が、大きく見開かれた。


「…それだ…!俺が言いたかったのは、それだよ、イオ!あいつら、空っぽなんだ!」


その言葉を聞いたイオの唇に、ふっと、温かい笑みが浮かんだ。


(…ケンジとアリアも、これを感じたのか…)


彼女は思った。


(神々の如き完璧な存在を前に、その力にひれ伏すのではなく、その魂の空虚さに、呆れ、そして、憐れんだのか。ああ。なんと、どうしようもなく、愛おしいほどに…人間なのだ、あの二人は)


かつての親友たちの、不器用で、しかし、決して揺らぐことのない人間らしさに、イオの心は、じんわりと温かくなるのを感じていた。



飛行船の船内は、穏やかな駆動音と、星々の静かな光に満たされていた。ゴウもルルも、長旅の疲れからか、それぞれの寝室で深い眠りについている。だが、操縦室では、イオが一人、水晶の通信装置を前に、固い決意の表情を浮かべていた。彼女は、震える指で、一つの連絡先を起動させる。


画面がぼんやりと光り、そこに、明らかに寝起きといった様子の、アリアの姿が映し出された。


『ん…イオ…?あなた、今、何時だと思っているの…?ようやく、ゴウが家を出てからの心配で眠れなかった分を、取り戻そうとしていたのに…』


「時間とは、観測者によって伸縮する相対的な概念だ。そして、今から我々が話す内容は、君の睡眠時間よりも、遥かに重要な価値を持つ」


イオは、アリアの眠たげな文句を、一刀両断に切り捨てた。

アリアは、大きなため息をついたが、親友の真剣な様子を察し、眠い目をこすりながら体を起こした。

イオは、そこから、堰を切ったように語り始めた。


「まず、報告事項だ。我々は、君の息子であるゴウを狙う、空中海賊団を撃退した。その後、天空の聖域にて『刻の羅針盤』の片割れを入手。さらに、私の過去の因縁が残る、二つの街を訪れた」


イオは、ポルペッタ村での、エラーラを知る人々との再会と、ハグルマシティでの、レオとクララの悲劇の顛末を、淡々と、しかし、どこか熱を込めて語った。


「そして、アーク・ノヴァへ行った」


『…!』


アリアの表情が、一瞬で険しくなる。


「ああ。君たちが絶望した、あの神々の劇場へな。…美しかった。論理的に、完璧で、寸分の狂いもない、完成された世界だった。そして、君たちが感じた通り、あれは、生命の対極にある、最も残忍な地獄だった」


イオは、ゴウがあの街を、理屈ではなく、魂で拒絶した様を語った。


「君たちの感受性は、正しかったのだ、アリア。あの完璧な醜悪さの前で、絶望し、それでも人間であることを諦めなかった君たちの心は、何よりも正しかったのだ。私は、ようやく、それを理解した」


その時、物音に気づいたのか、寝間着姿のルルが、眠そうに目をこすりながら、操縦室に入ってきた。


「んん…?イオさん、まだ起きてたんですか…?」


イオは、そのルルの姿を一瞥すると、さらに熱を込めて、演説を始めた。


「そうだ、アリア!人間とは、このルルのように、不完全で、非合理的で、矛盾だらけの存在だ!だが、だからこそ、美しい!完璧を目指す過程で、失敗し、迷い、どうでもいい無駄話に興じる!その、不格好で、泥臭い『過程』そのものにこそ、生命の、本当の価値があるのだ!アーク・ノヴァの連中は、結果だけを求めて、その全てを捨て去った!あれは、生命への冒涜だ!人間とは!なんと、素晴らしいのだ!」


その、あまりに力強い演説を、アリアは、画面の向こうで、静かに聞いていた。彼女の瞳から、一筋の涙が、そっとこぼれ落ちた。


『……エラーラ…』


その声は、震えていた。


『いいえ…イオ。あなた…本当に…。やりなおせているのね。あなた自身の力で、ちゃんと…』


親友からの、心からの言葉。イオの瞳も、潤んでいた。


「…アリア…」


感動的な沈黙が、二人を包む。

だが、次の瞬間、イオはその感動を、自らの手で、粉々に打ち砕いた。

彼女は、涙をぐいと拭うと、真剣な、いや、これまでで最も真剣な表情で、アリアに要求した。


「――─だから、ゴウをください。」


『………は?』


アリアの、完全に思考が停止した声が、響き渡った。


「ゴウは、君とケンジの、そして、エラーラであった私の魂を受け継ぐ、我々三人の集大成だ!彼は、我々が犯した過ちと、そこから得た希望の、全てを体現する存在なのだ!その成長を、未来を、正しく導けるのは、その三つの要素を、全て内包する、この私しかいない!彼は、もはや君だけの息子ではない!世界の、歴史の、必然なのだ!よって、彼の第一保護者の権利を、私に譲渡することを、ここに、正式に要求する!」


『ちょ、ちょっと待ちなさい!何よ、それ!私の息子を、私の可愛いゴウを、あんたにくれてやるですって!?冗談じゃないわ!』


「これは冗談ではない!極めて論理的な帰結だ!」


『どの口が言うのよ!あんた、さっきまで、人間の素晴らしさとか、不完全さの美学とか、語ってたじゃない!なのに、なんで結論が、息子の強奪になるのよ!』


その、母たちの壮絶な口論が、ついに、眠っていた本人を起こしてしまった。


「んん…なんだよ、うるさいな…」


ゴウが、寝ぼけ眼で、操縦室に顔を出す。

イオは、その姿を認めると、電光石火の速さでゴウの体を捕獲し、がっちりと羽交い締めにしてみせた。

そして、通信機の向こうのアリアに向かって、勝利を確信した笑みで、高らかに宣言した。


「アリア!ご覧の通りだ!対象は、すでに、私の実効支配下にある!つまり、ゴウは、今日から、私のものだ!」


画面の向こうで、絶句するアリア。

イオの腕の中で、何が何だかわからず、ただただ困惑するゴウ。

そして、その横で、「あらあら…」と言いながら、いつの間にかパンをかじっているルル。

夜明け前の飛行船は、世界の命運よりも、遥かに複雑で、面倒くさい問題に、直面していた。

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