26.エピローグ いずれ必ず、全てお話しします
結局、俺たちはゴルドリックの店に引き返した。
デュランが無事に就職できたことを祝おうと思ったのだが──
「ああ、但馬よ。お前、もううちに来なくていいぞ」
「えっ」
まさかのクビ宣告。
いや、デュランを紹介した報酬は既に貰ってるし、元々短期のバイトだったからいいんだけどさ。それにしても突然すぎないか。
「デュランがいりゃあ人手は足りる。それによ、お前、カウンセラーの方が忙しくなるんだろ?」
ああ、そういうことか。
なんだかんだ言って、気を遣ってくれてるのかもしれない。
「……ありがとうございます」
「礼なんざいらねえよ。それより、デュラン!」
「は、はい!」
「今日は歓迎会だ!お前らも付き合えよ!」
というわけで、俺たちは街の酒場に繰り出すことになった。
「それで、酒場でどうなったかって?」
ああ、もう思い出したくもない。
デュランのやつ、カウンターで酒を注いでた黒髪の美人ウェイトレスを見た瞬間、完全にフリーズしやがった。
「あ、あ、あの……」
ぽろん。
頭、落下。
「きゃあああ!?」
ウェイトレスの悲鳴。
「だ、大丈夫です!これは曲芸で──」
ペルフィが慌ててフォローに入るも。
「マインドフルネス……マインドフルネスを……」
ぽろん。
また落ちた。
「マインドフルネス!今ここに意識を!」
エルスが必死に指導するも。
ぽろん、ぽろん、ぽろん。
もうダメだ。正念も何も効いてない。
結局、店中が大騒ぎになって、俺たちは謝罪と弁償で50金貨のうち20金貨を失った。
恋って怖いな、本当に。
そして今、深夜のカウンセリング店。
ペルフィは既に寝ていて、俺とエルスだけがリビングに残っていた。
タコちゃんが俺の膝の上で丸くなっている。
「……なあ、エルス」
「はい、なんでしょう?」
「お前、本当に女神なのか?」
エルスが紅茶を飲む手を止めた。
「……急にどうしたんですか」
「いや、だってさ。魔法は失敗するわ、計画は滅茶苦茶になるわ、ゴールデンアップルパイで禁断症状出るわ……」
俺はこれまでのエルスの「ポンコツエピソード」を指折り数え始める。
「女神ってもっとこう、完璧で全知全能なイメージがあるんだけど」
「ひ、酷いです!確かに少し不器用なだけで──」
「少しじゃないだろ」
「うっ……」
エルスは俯いた。
いつもならここで言い訳か、泣き落としか、話を逸らすかのどれかだ。
でも──
「……但馬さん」
エルスが顔を上げた。
その表情は、いつになく真剣だった。
「その質問に対しては……私、ちゃんとお答えしなければいけませんね」
「え?」
「私は確かに女神です。それは嘘じゃありません」
エルスは、俺の目をまっすぐ見つめて言った。
「でも、その……私がなぜこんな風に『不完全』なのか。なぜ但馬さんを『心理カウンセラー』として転生させたのか」
彼女は一度、言葉を切った。
「その理由については……ごめんなさい。今は、まだ、お話しできません」
「……」
「いずれ必ず、全てお話しします。だから、それまで──」
エルスは少しだけ寂しそうに笑った。
「信じて、待っていてくれますか?」
俺は、エルスの顔をじっと見た。
彼女は本気だ。
そして、何か大きな秘密を抱えている。
「……まあ、いいけどさ」
俺はため息をついた。
「でも、いつか教えろよ。ちゃんと」
「はい。約束します」
エルスは安堵したように微笑んだ。
それから、また紅茶を一口飲んで──
「それより、明日からの予約、どうしましょうね。二十人以上いましたよ?」
「げっ、マジか」
「マジです」
俺は頭を抱えた。
心理学の知識ゼロの俺が、二十人以上の悩みを解決できるのか?
いや、今までだってどうにかなってきたんだ。
きっと、これからも──
「……なんとかなるさ」




