23.砂糖入りのミルクコーヒーを飲む者は、全員死ぬべきだからだ
すみません!前話の最後、うっかり時間を勘違いして「午後」と書いてしまいましたが、正しくは「明日」でした…
現在は修正済みです。 お騒がせして申し訳ありません!
「こ、これで……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。絶対に」
「吾も……問題ないと思います。ちゃんと、全部の武器に……呪いをかけましたので」
そう——今は、もう翌日だ。
昨日の午後、俺たちは一つの実験を行った。
デュランに、わざと武器に呪いをかけてもらったのだ。
デュランの呪いは、不死族の中でもトップクラスの冒険者だったこともあって、かなり精密にコントロールできることが判明した。
最初は紫色のオーラが見えるが、二分後には完全に消える。
でも、呪いの効果自体は一時間続く——
つまり、見た目は普通だけど、実際には品質が低下している武器ができるってわけだ。
この視覚効果、存在する意味あるのか? いっそ消した方がいいんじゃないか?
マジで、デバフ効果なのに「いかにも呪われてます!」って視覚的にアピールしてどうするんだよ。
敵に「あ、コイツ呪われてるから気をつけよう」って教えてるようなもんじゃないか。
とにかく、何度も実験を重ねて、完璧な計画を立てた。
そして——今日。
店の中には、すでに全ての武器に呪いがかけられている。
見た目は普通。でも、品質は低下している。
完璧だ。
検査官が来て、「品質が低下してますね」って言う。
「ああ、それは一時的なものです。すぐ直ります」
一時間待つ。
呪いが解ける。
「ほら、直ったでしょう?」
完璧な計画だ!
……いや、待てよ。
冷静に考えたら、これって相当バカバカしい作戦だな。
でも、他に方法がないんだから、仕方ない。
「緊張するわね……」
ペルフィが、ソワソワしながら言った。
「まあ、大丈夫だって。きっと上手くいくから」
「そうね……でも、念のため、みんなで何か飲んで落ち着きましょう」
エルスが、そう言って——
パッ!
魔法陣が現れた。
「魔法デリバリー! 加糖ラテ、五つ!」
五つのカップが、空中に現れた。
「……おお」
ゴルドリックが、感心したように言った。
「便利な魔法だな」
「でしょう? 」
俺たちは、それぞれカップを手に取った。
「……ゴルドリックさんも飲むんですか?」
「ああ、悪いか?」
「いや……意外だなって」
おっさんが甘いラテを飲んでる図って、何かシュールだな。
筋肉ムキムキの人が、カフェで可愛いスイーツ食べてるみたいな。
「男でも甘いものは好きなんだよ。鍛冶仕事は体力使うからな。糖分補給は大事だ」
「そ、そうですよね……」
意外とまともな理由だった。
俺たちは、緊張しながらラテを飲んだ。
甘い。
うん、確かにこれは落ち着く。
そして——
ガチャ!
扉が開いた。
「……!」
俺たちは、一斉に扉の方を向いた。
「……え?」
入ってきたのは——
クラーク!?
いや、マジで!?
あの、クラーク!?
「初めまして。本日、こちらの検査を命じられたクラークです」
クラークが、無表情で言った。
「……はああああああああああああああああ!?」
俺は、思わず絶叫した。
「何で!? 何でお前がここにいるんだよ!?」
「? 何を言っているんですか? 」
「いや、そうじゃなくて! お前、俺たちのこと覚えてないの!?」
「……? あなた方と、どこかでお会いしましたか?」
クラークが、首を傾げた。
おいおいおいおいおい!
マジか!?
本当に忘れてるのか!?
いや、確かに——
クラークと会ったのは、一昨日の夜のイベントだ。
あの時、エルスとクラークが、コーヒーに砂糖を入れるか入れないかで大喧嘩して——
最終的に、魔法でドンパチやり始めたんだよな。
そもそも、なんでクラークは俺たちのことを覚えてないんだ?
あんなに派手に喧嘩したのに。
いや、待てよ。
もしかして、これってチャンスなんじゃないか?
クラークが俺たちのことを忘れてるなら、今回はスムーズに検査が終わるかもしれない——
「では、検査を始めさせていただきます」
クラークが、店内を見回した。
「あ、はい……」
ゴルドリックが、緊張した様子で答えた。
よし!
このまま、何事もなく検査が終わってくれれば——
その時だった。
クラークの視線が——
俺たちが持っているカップに向いた。
「……それは?」
「え? あ、これか? ただのラテですけど——」
「ラテ……? それは……ミルク入りのコーヒーか?」
「ええ、そうですけど——」
「砂糖は、入っているのか?」
クラークの声が、わずかに低くなった。
おい。
おい、待て。
まさか——
「入ってますよ」
エルス、即答!!
その瞬間——
クラークの目が、ギラリと光った。
「……思い出した」
「え?」
「お前……一昨日の夜、私に向かって『ブラックコーヒーなんて苦いだけで不味い! 砂糖とミルクを入れてこそコーヒーだ!』と言い放った女だな!?」
「……あ」
やばい。
「そして、お前たちは——その仲間か!」
クラークの視線が、俺たちに向いた。
「ちょ、ちょっと待って——」
「この店、閉鎖。三十秒後に解体する」
「ちょおおおおおおおおおおっと待った!」
俺は、慌てて叫んだ。
「おかしいだろ! 何で!? まだ検査もしてないのに!」
「理由は簡単だ。砂糖入りのミルクコーヒーを飲む者は、全員死ぬべきだからだ」
「結局それかよ! 最後までそこに拘るのかよ!」
いや、マジで何なんだよ、この人!
コーヒーの好みぐらいで、人を殺そうとするなよ!
つーか、お前の好みを、他人に押し付けるんじゃねえよ!
「絶対に許しません!こんな理不尽、認められるわけないじゃないですか!」
お!
エルス、いいぞ!
正論だ!
ゴルドリックも、エルスを見て——
目に、尊敬の光が浮かんだ。
よし!
このまま、エルスに言い負かしてもらえば——
「私は、砂糖入りのコーヒーの権利を断固として守ります!」
——その瞬間、ゴルドリックの目から光が消えた。
あ。
ゴルドリックさん、絶望してる。
でも、絶望するなよ……
「ふざけるな!」
エルスが、怒りのあまり——
手に持っていたラテを、クラークに向かって投げつけた!
「おい!」
シュッ!
クラークの剣が、一瞬で鞘から抜かれ——
ガシャン!
カップが真っ二つに斬られた。
「う、嘘だろ……」
俺は、呆然とした。
今の、マジで見えなかったぞ。
居合いか?
つーか、コーヒーカップに本気で居合い使うなよ!
そして——
バシャアアアアア!
中身のラテが、飛び散った。
そして——
そのラテが、店内のあちこちに飛び散り——
呪いをかけた武器にも、バシャバシャとかかった。
「あ……」
「やば……」
「……」
気まずい空気が流れた。
やばい。
「は、はやく!」
ペルフィが叫ぶと——
「う、うん!」
ペルフィが、慌てて自分のラテを飲み始めた。
ゴルドリックとデュランも、慌てて飲んだ。
俺も、急いで飲み干す。
熱い。
でも、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
「……フン」
クラークの目つきが、少しだけ和らいだ。
「お前の仲間たちは、まだ分別があるようだな」
よかった……
「今日は、お前たちがコーヒーを捨てたことを評価して、見逃してやる」
「よ、よかった……」
「だが——その代わり、徹底的に検査させてもらう。不正があれば、容赦はしない」
いや、待て。
「見逃してやる」って言った直後に「容赦はしない」って、どっちだよ。
結局、見逃してないじゃないか。
「ちょ、ちょっと待ってこのや——」
「うおおおおおおおおおい!」
俺は、慌ててエルスの口を塞いだ。
「む、むむむ!?」
「黙ってろ! せっかく少し機嫌が直ったのに、また怒らせてどうすんだよ!」
俺は、エルスの耳元で囁いた。
「これ以上あいつと対立したら、心理カウンセリング店どころか、マジで牢屋行きだぞ! つーか、お前のせいで牢屋に入ることになったら、俺は絶対にお前を許さないからな!」
「む、むむ……」
エルスが、渋々頷いた。
俺は、ゆっくりと手を離した。
「……フン」
エルスが、不満そうにクラークを睨んだ。
でも、もう何も言わなかった。
よし。
「では、検査を始める」
クラークが、武器の一つを手に取った。
俺たちは、固唾を呑んで見守った。
頼む……
上手くいってくれ……!
クラークが、剣を調べている。
じっと、刀身を見ている。
そして——
「……」
クラークが、首を傾げた。
「この剣……」
やばい。
まさか、もう気づかれた?
「……特に問題はないな」
「……!」
よし!
俺たちは、ホッとした。
クラークは、次の武器を手に取った。
また、じっくりと調べている。
「……これも、問題なし」
よし!
「……あ、あの」
デュランが、小さく震える声で言った。
「その……」
「……何だ?」
「そ、そのコーヒーがかかった武器……吾の呪いが……解けて……」
「「「「……え!?」」」」
全員が、同時に凍りついた。
「ど、どういうこと!?」
ペルフィが、小声で叫んだ。
「い、いや……吾、金属と会話できるじゃないですか……」
デュランが、オドオドしながら言った。
「今、あの武器の中の鉄君が……『ああああ、気持ちいい〜! 久しぶりに本調子だ〜!』って、伸びをする声を出したんです……」
「……!」
「普通は、そんな声、出さないはずなんですけど……」
「……」
おい。
おい、待てよ。
まさか——
コーヒーが、呪いを解除した?
いや、そんなわけないだろ。
コーヒーに、そんな効果があるわけが——
「……おい、金属の声が聞こえるのか?」
ゴルドリックの目が、キラリと光った。
「は、はい……」
「そうか……金属と会話できるのか……」
「ちょ、ちょっと! それどころじゃないでしょ!呪いが解けた理由なんて、後で考えればいいわ! 今は、どうやってクラークを誤魔化すかを——」
ペルフィが、慌てて割り込んだ。
その瞬間——
「……ん?」
クラークが、ある武器を手に取った。
それは——
コーヒーがかかった武器だった。
「……この剣」
クラークが、じっと剣を見た。
「……妙だ」




