22.呪いか、それとも祝福か?
「……お、おい。デュラン……その剣……」
「え? あ、はい……どうかしましたか?」
デュランが、不思議そうに俺を見た。
ペルフィとエルスも、剣の方を見た。
そして——
「「……え?」」
二人とも、同時に凍りついた。
「な、何……あれ……」
ペルフィが、信じられないという表情で呟いた。
「む、紫色の……オーラ……?」
「……おい、ゴルドリックさん」
俺は、ゴルドリックの方を向いた。
「あの剣……一体、どういうことですか?」
「……ん?」
ゴルドリックが、剣を見た。
そして——
その瞬間、ゴルドリックの顔色が真っ青になった。
「な、な、な、な——」
「お、落ち着いてください! ゴルドリックさん!」
「何だあああああああああああああああ!? 俺の剣がああああああああああ!」
ゴルドリックが、絶叫した。
「呪われてる!? 何で!? 何でだ!? 今朝まで何ともなかったのに!」
「ゴルドリックさん! 落ち着いて!」
「落ち着けるか! これ、俺が三日三晩かけて作った自信作だぞ! それが呪われてるって——」
「ペルフィ! 何とかして!」
俺が叫ぶと、ペルフィが慌てて詠唱を始めた。
「ええと、ええと……クールダウン!」
パシュッ!
青白い光が、ゴルドリックを包んだ。
「……はあ、はあ、はあ……」
ゴルドリックの呼吸が、徐々に落ち着いていく。
「……ごめん。取り乱した」
「い、いえ……大丈夫ですか?」
「ああ……何とかな」
ゴルドリックは、額の汗を拭いながら、再び剣を見た。
「……でも、本当に何でだ? 今朝まで、何ともなかったはずなのに」
「も、もしかして……今朝来た検査官が、何かしたとか……?」
エルスが、恐る恐る口を開いた。
「……!そうか……あの野郎、武器に細工しやがったのか……!」
「ま、待ってください! まだ決まったわけじゃ——」
「いや、きっとそうだ! あいつら、俺が従わないから、わざと武器を呪ったんだ!」
ゴルドリックが、拳を握りしめた。
「ちくしょう……こんな卑怯な手を……!」
「お、落ち着いてください! 落ち着いて!」
「そうよ!まだ、原因は分からないじゃないですか! もしかしたら、他に理由があるかもしれないし——」
俺とエルスが、必死にゴルドリックを落ち着かせようとした。
「他に理由? 何だよ、それは」
「え、ええと……その……」
くそ、何も思いつかない。
その時——
「……あ。デュラン」
ペルフィが、何かに気づいたように声を上げた。
「は、はい……?」
デュランが、ビクッと肩を震わせた。
「デュランは……呪いの能力、持ってたわよね?」
「……!」
その瞬間、全員の視線が、デュランに集中した。
「え、ええと……その……」
デュランの首が、若干浮き上がった。
「あ! そういえば!前に、教会でゴールデンアップルパイを呪っちゃったって言ってたわね!」
「あ、ああ……その……吾の呪いは、時々、無意識に発動してしまうことがありまして……」
「……つまり。お前が、俺の剣を呪ったってことか?」
「も、申し訳ございません! 本当に、無意識で……!」
デュランの首が、完全に体から離れて、宙に浮いた。
「……はあ」
ゴルドリックが、深いため息をついた。
「まあ……お前がデュラハンなら、呪いを持ってるのは当然か」
「本当に、申し訳ございません……」
「いや、もういい。ただ……できれば、もう俺の武器には触らないでくれ」
「か、かしこまりました……」
デュランが、しょんぼりと首を下げた。
いや、首ごと下がってるけど。
「で、でも、大丈夫ですよ! この呪いは、一時間くらいで自然に消えますから!」
「一時間か……まあ、それなら問題ないな」
「あ、あの……実は、神聖魔法で浄化すれば、すぐに解除できるんですけど……」
デュランが、チラッとエルスの方を見た。
エルスの顔が、一瞬で青ざめた。
『え、ちょ、ちょっと待って! 私に神聖魔法を使えって言ってるの!?』
エルスが、心の中で叫んだ。
あ、心の声が聞こえる。
多分、テレパシーだ。
『無理無理無理! ドリアのところで、うっかり女神だって認めちゃったのに、これ以上正体をバラすわけにはいかないわ!』
『まあ、確かにそうだけど……でも、一時間で解除されるなら、別に問題ないんじゃないか?』
『そ、そうよね……うん、一時間くらい、待てばいいのよね……』
「……エルス?な、何でもないわ! ただ、ちょっと考え事を……」
「……そうか?」
ペルフィが、疑わしそうに言った。
「まあ、いいか。とにかく、一時間待てば解除されるなら、問題ないわね」
「そうですね……」
待てよ。
デュランって、確か——
『影の功労者』って呼ばれてたよな。
つまり、パーティーの中で、敵に呪いをかけて弱体化させる役割を担ってたってことだ。
でも、よく考えたら——
デュラン自身は、武器を使ってるところを見たことがない。
……まさか。
まさか、デュランが武器を使わない理由って——
自分が触った武器を、全部呪っちゃうからじゃないのか?
『デュラン、次はお前が前衛に出ろ!』
『わ、分かりました!』
デュランが、剣を手に取る。
そして——
ボワッ。
剣が、紫色のオーラに包まれる。
『……あれ?』
『お、おい、デュラン! お前の剣、呪われてるぞ!』
『す、すみません! また無意識に……!』
『もういい! お前は後ろで呪いだけかけてろ!』
『はい……』
……ああ、なるほど。
だから、デュランは『影の功労者』だったのか。
前に出たくても、出られなかったんだな。
武器を持てないから。
……何か、切ない。
でも、待てよ。
今、俺は何か——
何か、すごく重要なことに気づいた気がする。
デュランの呪い。
武器の品質低下。
一時間で解除される呪い。
……!
そうか!
そういうことか!
「……ゴルドリックさん」
俺は、急にゴルドリックの方を向いた。
「ん? 何だ?」
「俺、今、とんでもない妙案を思いつきました」
「……は?」
ゴルドリックが、不思議そうに俺を見た。
「明日、検査官がまた来るんですよね?」
「ああ、そうだが……」
「だったら、大丈夫です」
俺は、自信を持って言った。
「俺たちには、完璧な対策があります」




