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3.気まずい道連れと偶然の出会い

俺は今、店への帰り道を歩いていた。


あの後、何が起きたかって?


ゴルドリックのおっさんは、ヘルメットの凹みがあまりにも大きかったから、つい力を入れすぎてしまったと思い込んでいた。


まさか俺が魔法でハンマーを重くしたなんて、夢にも思っていない。


「ああ、すまんすまん!つい職人魂に火がついちまって!」


おっさんは豪快に笑いながら謝っていたが、問題は——


作業台が完全に破壊されたことだ。


地面にめり込んだ作業台は、もはや修復不可能。ということで、武器店は臨時休業。俺も急遽、予定外の休みをもらうことになった。


給料は?もちろん出ない。


最悪だ。


いや、本当に最悪だ。初日で職場を半壊させるバイトとか、ギネス記録狙えるんじゃないか?「最速で職場を破壊した男」とか。前世でも色々やらかしたけど、ここまで派手なのは初めてだぞ。


しかも原因は俺の嫌がらせ魔法だ。まさか「ちょっと重くしてやろう」程度の気持ちが、こんな大惨事を引き起こすなんて。


異世界の魔法、威力調整とか考えてないだろ絶対。


一方、デュランのヘルメットはというと——


「す、素晴らしい!完璧に直っています!」


あのおっさんのハンマーは、力を入れれば入れるほど修復の精度が上がるという、謎の特性を持っていたらしい。重力魔法で強化された一撃のおかげで、ヘルメットは見違えるほど綺麗に直っていた。


皮肉なものだ。


つーか、そんな都合のいい設定あるか?普通、力任せに叩いたら余計ひどくなるだろ。ドワーフの鍛冶技術、マジで意味が分からない。


もしかして、あのおっさん、実は伝説の職人とかなんじゃ——


いや、そんなわけないか。あんな口の悪いおっさんが伝説の職人だったら、世界が間違ってる。


そして今——


「……汝」


「……ん?」


俺の横を、デュランが歩いている。


気まずい。


めちゃくちゃ気まずい。


なんでこいつ、俺についてくるんだよ。


いや、本当になんで?俺、別に「一緒に帰ろう」なんて言ってないぞ?


店を出た時も、普通に「お疲れ様でした」って言って別れたはずなのに、気づいたら隣を歩いてるんだけど。


もしかして、昨夜のことがバレてる?俺とペルフィが教会に侵入して、こいつの頭を召喚したこと、全部バレてる?


でも、もしバレてたら、もっとはっきり言ってくるはずだ。「貴様、昨夜教会で何をした!」とか。


それとも、確信が持てなくて、確かめようとしてる?


くそ、分からない。


というか、この状況、前世のサスペンス映画みたいだ。主人公が自分の犯罪を隠そうとしてるのに、刑事が「いやー、偶然ですね」とか言いながらずっとついてくるやつ。


問題は、俺が犯人側ってことだ!


デュランの方を盗み見ると、彼は何度も口を開きかけて、でもすぐに閉じている。明らかに何か言いたそうだ。


しかも、さっきから何度も立ち止まっている。まるで、「ここで別れよう」と言いたいのに、言えないみたいに。


……もしかして、こいつ、ただ単に気まずくなって帰りたいだけなんじゃないか?


でも、一度ついてきちゃったから、今更「じゃあ、ここで」とか言うのも変だと思って、仕方なくついてきてる?


なんだこの状況。中学生か。


「一緒に帰ろうって言っちゃったけど、やっぱり気まずいから帰りたい」みたいな思春期特有のやつか。


それとも——


あの作業台破壊のせいで、俺が仕事を失ったことに罪悪感を感じてる?


ああ、でも俺が悪いんだけどな。魔法かけたの俺だし。


いや、そもそもゴルドリックのおっさんが毎日毎日小言言ってくるから、つい仕返ししたくなったわけで——


って、いやいや、俺が悪いんだけどさ。


でも、おっさんも悪いだろ。初日からあんなに怒鳴らなくても——


ああもう、誰が悪いとかどうでもいいわ!


「……」


「……」


沈黙が続く。


足音だけが石畳に響く。


デュランの鎧がガシャガシャと音を立てる。


つーか、デュラハンって鎧脱げないのか?それとも、脱いだら裸?裸のデュラハンとか、シュールすぎるだろ。


想像したくない。絶対に想像したくない。


……もう無理だ。


この沈黙に耐えられない。


俺は立ち止まった。


すると——


デュランも立ち止まった。


ガシャン!


頭が落ちた。


おい、また落としたぞこいつ。何回目だよ。これ、日常生活大丈夫なのか?


「……あの、すみません」


心を落ち着かせろ、丹波但馬。冷静に、大人の対応だ。


「なんで俺についてくるんですか?」


「つ、ついてくるだなんて!!わ、吾は、そんなつもりでは!あ、いや、確かについてきてしまいましたが!で、でも、すみません!吾は、汝についていくべきではなかったのです……」


デュランが慌てた。落ちた頭を拾い上げながら、必死に弁解する。


頭を元の位置に戻しながら、彼は震えていた。


おい、なんでそんなに慌ててるんだ。


俺、そんなに怖い顔してたか?


いや、でも確かに、さっきから結構イライラしてたかも。ゴルドリックのおっさんのせいで。


「冷静になってください。とにかく、もし何か言いたいことがあるなら、言ってください」


だから、言いたいことがあるなら言えよ。黙ってついてくるとか、ホラーだから。


「!!!か、可能なのですか!?吾のような者が、汝と、お話しても?」


……なんだこの反応。


「吾のような者」って、何だよ。デュラハンだから?それとも、失業者だから?


いや、俺だって失業者だし。つーか、さっき失業したばかりだし。


「それ、何のコミュ障か。いいから言ってください」


「コミュ障……そうですね、その通りかもしれません」


デュランは小さく頷いた。そして、意を決したように——


おい、まさかこれから告白されるんじゃないだろうな。


「じ、実は……吾、汝をどこかで見たような気が——」


「ああああ!人違いです!デュランさん、俺は生まれてこの方、デュラハンなんて見たことありません!」


嘘だけど!


昨夜、お前の頭を召喚したけど!


でも、それは言えない!絶対に言えない!


「そ、そうですか……?で、では、やはり吾の勘違いで……」


そうだ、きっと勘違い!


信じてくれ!頼む!


この世の中、似てる人なんていくらでもいるだろ!俺、イケメンだし!エルスのおかげだけど!


「あああ、どうしましょう……どうしたらいいのでしょう……こんなことでは、せっかく見つけた仕事も失ってしまいます……どうすれば……」


小声でぶつぶつ呟き始めた。


おい、急にどうした。


さっきまで俺を疑ってたんじゃないのか?


それとも、本当に勘違いだと思ったのか?


助かった——


よし、この隙に——


俺は踵を返して、さっさと歩き出した。


前世の記憶が曖昧だけど、確かそんな諺があった気がする。


「どうしましょう……このままでは、せっかく貯めたお金で心理カウンセリングに行くこともできなくなってしまう……ああ、どうすれば……」


——!!


今、なんて言った?


心理カウンセリング?


俺の店のこと?


いや、待て。この街に心理カウンセリングの店、他にもあるのか?


まさか、競合店?


でも、聞いたことないぞ。


というか、あんなニッチな商売、他にやってる奴いるのか?


「待ってください」


「え!?」


……また頭を落とした。


今日、何回目だよ。


「あ、あの、すみません!吾には独り言を言う癖がありまして!あはは……気にしないでください……」


「いえ、気にします」


俺はデュランに近づいた。


心臓がドキドキしている。


もしかして——


もしかして、これって——


チャンスじゃないか?


客だ!客が来るかもしれない!


そして——


落ちている頭を拾い上げた。


「ひぃ!?」


おい、なんでそんなに怯えてるんだ。


「今言ったこと、もう一度言ってください」


「あ、あの、え、えっと……せっかく見つけた仕事も失ってしまう……」


「違います。その次です」


「つ、次……?え、えっと……このままでは、心理カウンセリングに……」


「心理カウンセリング、というのは?」


キタ━━━━━━━━!!


いや、待て、冷静になれ丹波但馬。


まだ確定じゃない。


もしかしたら、別の店かもしれない。


でも、この街に他に心理カウンセリングの店なんて——


「あ、あの、それは……吾、仕事を探しているのですが……吾は、その、人と話すのが苦手で……それに、今はあの政策のせいで失業してしまいまして……」


政策?ああ、冒険者削減のやつか。


ペルフィも被害者だったな。


でも、デュラハンも冒険者だったのか。


頭が落ちる騎士とか、戦闘中どうしてたんだ。


「それで、仕事を探しているのですが、面接に行っても、いつもこうして言葉に詰まってしまうのです。それに加えて、頭もよく落ちますし……」


確かに、さっきから何度も落としてる。


面接官の前で頭落としたら、そりゃ落とされるわ。


いや、シャレじゃなくて。


「それで、以前、この街に新しく心理カウンセリングの店ができたと聞きまして。そのような場所があるなんて、吾は生まれて初めて聞きました。もしかしたら、そこに行けば、吾の話し方の問題も解決できるかもしれないと……」


キタ━━━━━━━━!!


俺の店だ!


間違いない!


この街に心理カウンセリングの店なんて、俺のとこしかない!


やった!客だ!本物の客だ!


しかも、ちゃんと悩みを抱えてる!


これぞ、まさに俺が求めていた展開!


「でも?」


俺は期待を込めて聞いた。


頼む、「でも、お金がなくて」とか言わないでくれ。


頼むから。


「でも……料金が、とても高いのです」


……


……


ああ、やっぱりそうか。


完全に俺のせいだ。


「それで、今は教会で臨時の仕事をしています。偽装用の騎士像として、立っているだけの仕事ですが……」


……偽装用の騎士像!?


いやいやいや、そもそも何で騎士像のフリをデュラハンがやってんだよ!?


教会はどれだけ金に困ったらそんなことすんだよ!


普通に本物の像を置けばいいだろうが!


なんだこれ、新しい雇用でも生み出すためのパフォーマンスか!?


しかも相手はあのデュラハンだぞ!


頭がポロポロ落ちる奴を、騎士像として雇うとか、教会の人事部どうなってるんだ!


「こんにちは、私は今日応募に来たデュラハンです」


「ああ、デュラハンさんですね。騎士像の仕事、やってもらえますか?」


「はい、頑張ります」


ガシャン。


「……採用です」


ありえないだろ!


どんな面接だよ!


というか、そもそも教会が騎士像を偽装する理由って何だよ!


まさか、本物の像を買う金がないから?


いや、でも教会って金持ってるイメージあるんだけど。


ゴールデンアップルパイとか供えてるし。


あ、でも、あれをエルスが盗もうとしてたから、やっぱり金ないのか?


この世界の教会、マジで経営難なんじゃないか?


「退屈ですが、他にすることもありませんし、お金も貯まりますから……いつか、あの心理カウンセリングの店に行けるように……」


デュランの声が、希望に満ちていた。


……


……


良心が痛む。


いや、マジで痛い。


「俺の名前は丹波但馬。心理カウンセリング店の店長をやってます」


「え……?」


言っちゃった。


でも、もういいや。


このまま黙ってるのも気分悪いし。


それに——


客だしな。


大事な客だ。


「汝が……あの……」


デュランの声が震えている。


「そうです。多分、あなたが行きたかった店です」


「!!!」


デュランの全身が跳ねた。


そして——


ガシャン。


また頭が落ちた。

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