表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/65

21.三角関係

「あの……すみません、もう一回言ってもらえますか?」


俺は思わず身を乗り出した。今の、聞き間違いじゃないよな?いや、聞き間違いであってほしい。


「僕、ルナが好きなんです」


俺とエルスは顔を見合わせた。エルスの目が「どうしましょう」って訴えてる。


「えーと、その……あなたのパーティー、解散するのはペルフィさんだけなんですよね?ルナさんは残るんでしょう?」


「はい」


「じゃあ、二人で冒険続ければいいじゃないですか。恋愛相談なら、別に問題ないような……」


「そ、そうですよ!」


エルスも慌てたように援護射撃を始めた。


「ルナさんと二人きりで冒険できるなんて、むしろ良い展開じゃないですか!ペルフィさんに気を使う必要もないし、堂々と恋人同士になれるし——」


「違うんです」


レオンは静かに首を振った。あの苦い笑みを浮かべたまま。


「そんな単純な話じゃないんです」


彼は少し間を置いて、続けた。


「実は……ペルフィが何の相談でここに来てるか、知ってるんです」


「!?」


俺とエルスが同時に声を上げた。


「い、いつから……」


「ずっと前から、なんとなく察してました」


レオンが遠い目をした。


「彼女、僕にいつもお弁当作ってくれて、装備の手入れを手伝ってくれて……でも、僕がルナと話すと急に機嫌が悪くなって」


ペルフィの典型的なツンデレ行動だな。


「『バカ』『アホ』『死ね』って言われ続けて、正直、本当に嫌われてるのかと思った時期もありました」


レオンが苦笑した。


「でも、彼女が初めてここに来た夜……」


彼の表情が少し柔らかくなった。なんか、その時のペルフィを思い出して、微笑ましいような、困ったような、複雑な感情が見える。


「僕、外にいたんです」


「は!?」


「外にいた!?なんで!?」


ストーカーか!?いや、でも心配して後をつけたのか?


「ペルフィを探してて、たまたまここの前を通りかかったら、中から酔っ払った声が聞こえて……『バカ隊長』とか『鈍感』とか叫んでて……ああ、やっぱり僕のことかって」


なるほど、それで確信したのか。


「翌朝、確認のために来たんです。彼女の本当の気持ちを」


「ああ、思い出した」


できれば…あの朝のことは、本当に思い出したくない…


「はい。でも、もう一つ理由があって」


レオンが俺たちを見た。羨ましそうな、それでいて少し寂しそうな目で。


「僕は……もしペルフィがパーティーに残れないなら、せめて居場所があればいいと思って」


「居場所?」


「彼女、前に言ってたんです。『森には帰りたくない』って。でも、このままだとそれしか選択肢がない。だから……」


彼は深呼吸をして、続けた。


「正直に言います。あの日、あの合成獣を見た時、最初は何が起きたのか分からなくて……」


レオンが少し笑った。


「でも、あなたたちがあの生き物に名前をつけてる姿を見て、思ったんです」


彼は俺たちを真っ直ぐ見た。


「あの……あなたは但馬さんですよね?但馬さんと、その助手さんなら、ペルフィの強すぎる感情も受け止めてくれるかもしれないって」


『見ました?私、助手って呼ばれてますよ』


エルスの心の声が聞こえた。


なんか妙に嬉しそう?


『今それどころじゃないだろ』


『でも、ちゃんと助手として認識されてるんです!』


なんでそこで喜ぶんだよ。


「ペルフィと初めて会ったのは、三年前でした。彼女、魔法学校を卒業したばかりで、でも実家と大喧嘩して飛び出してきたらしくて」


「大喧嘩?」


「詳しくは知りませんが、相当深刻だったみたいです。ギルドの近くの小さな倉庫で、一人で泣いてたんです。膝を抱えて、小さくなって」


倉庫で泣いてる金髪エルフ美少女!なんて王道な出会いだ。


「声をかけたら、最初は『うるさい!』って魔法撃たれそうになって」


やっぱりペルフィらしい。


「でも、話を聞いたら、行くところがなくて、お金もなくて……だから、うちのパーティーに誘ったんです」


「それで、三年間一緒に冒険してきて……」


レオンが続けた。


「彼女、本当にいい子なんです。衝動的で、感情的で、すぐ魔法ぶっ放すけど……でも、誰よりも仲間思いで、努力家で」


完全に惚気じゃないか。


「つまり」


俺は咳払いをした。


「あなたは、ペルフィを俺たちに託して、ルナと二人で逃げるってことか?」


「但馬さん!」


エルスが声を上げた。


「そんな言い方……」


……でも、本質的にはそういうことだろ?


「それに、さっきルナが好きって言ったよな?なんでペルフィの話ばかりするんだ?」


レオンが深いため息をついた。そして、覚悟を決めたような顔で——


「実は……僕、ペルフィも好きなんです」


『クズ男』


エルスの即座の心の声。


『同感。でも、まあ……二股の気持ちも分からなくはない』


『但馬さんも最低ですね』


『ちょっと待て、俺は理解できるって言っただけで——』


「でも」


レオンが慌てて付け加えた。


「ペルフィへの『好き』は、守ってあげたいっていう感じで……妹とか、親友みたいな」


妹扱い!?ペルフィが聞いたら絶対キレる。メテオどころかアルマゲドン唱えるぞ。


「彼女、戦闘では誰よりも強いけど、心は本当に脆くて……だから守りたくなるんです」


「で、ルナは?」


「ルナは……」


レオンの顔が変わった。さっきまでの困惑した表情じゃなくて、本当に大切なものを語る時の顔だ。


「去年、僕たちが魔獣に襲われた時のことです」


彼の声が震えた。


「僕は重傷を負って、意識を失いかけていました。ペルフィは魔力を使い果たして倒れていて……」


え?ちょっと…


ただの茶番のはずなのに、なんであいつらあんなにガチなんだよ!? もしかしてこの契約、魔王も部下には隠してるのか!?


「その時、ルナだけが立っていたんです。彼女も限界だったはずなのに、僕たちを守るために、震えながら魔獣の前に立って」


彼の声が優しくなった。


「『この人たちには、指一本触れさせない』って言ったんです。そして、自分の生命力を削って最後の回復魔法を……」


レオンが俺たちを見た。


「その時、分かったんです。この人と一緒にいたいって。強さじゃなくて、その優しさと覚悟に惹かれたんです」


俺もエルスも、黙って聞いていた。


つまり、これは……本物の恋だ。


ちくしょう……これは本当にまずい。


「要するに、解決すべき問題は二つ。一つ目、ペルフィにパーティー解散をどう伝えるか。二つ目、恋愛感情の整理」


「はい……」


「しかも時間がない」


「そうなんです。法案の施行も近いし……それに」


レオンが俯いた。顔が真っ赤だ。


「実は、今夜……ルナに告白されたんです」


「「は!?」」


「帰り道で、急に『ずっと一緒にいたい』って……!でも、僕はペルフィのことも気になって……『少し時間をくれ』って言ったんです。それで、どうしても答えが出なくて、気づいたらここに」


深夜の恋愛相談か。しかも三角関係。面倒くさすぎる。


その時——


ガタッ。


二階から物音がした。


なんだ?タコちゃんが暴れてる?


いや、違う。もっと……人が動いてるような……


まさか、ペルフィが起きて——いや、でも防音魔法かけてるし。


でも、なんか嫌な予感がする。


「とりあえず」


俺は立ち上がった。


「レオンさん、今夜は帰って寝ろ。頭を冷やして、明日また考えればいい」


「でも——」


「俺たちも寝る時間だ」


「あ、すみません。こんな遅くに……」


レオンが慌てて立ち上がった。


「報酬は……少し多めに払います」


金!


俺の心が叫んだ。欲しい!めちゃくちゃ欲しい!


エルスのへそくり、全部使い果たした。明日からどうやって生活するんだ。


食費は?店の運営費は?このままじゃマジでヤバい。


レオンが財布を取り出した。金貨が見える。キラキラ光ってる。


受け取れば、当面の生活は安泰だ。エルスに怒られることもない。ペルフィの食費も気にしなくていい。


でも——


レオンの顔を見た。疲れ切って、悩んで、それでも真剣に相談に来た男の顔。


ペルフィのことを本気で心配して、ルナのことも大切に思って、板挟みになって苦しんでる。


こんな状態の奴から金を取るのか?


いや、でもこれは仕事だ。俺はカウンセラー(偽物だけど)で、相談料をもらうのは当然の権利。


でも、解決策も出せてない。ただ話を聞いただけ。これで金を取ったら、詐欺師と同じじゃないか。


いや、聞くだけでも立派なカウンセリングだ。


でも、営業時間外に押しかけられて、深夜に起こされて……割増料金もらってもいいくらいだ。


いや、でも彼は切羽詰まってたんだ。他に頼れる場所がなくて……


ああもう!


「……営業時間外だから、今回は無料でいい」


言ってしまった。後悔はある。めちゃくちゃある。でも、言ってしまった。


「でも、それじゃ——」


「いいから帰れ。早く寝ろ」


レオンが深々と頭を下げて、店を出て行った。


扉が閉まった瞬間、俺は振り返ってエルスを見た。


「なあ、女神様」


「はい?」


「どんなにポンコツでも、心理学の本くらいは出せるよな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ