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20.深夜の告白

「すみません……こんな時間に」


レオンの声だ。なんでこんな時間に来るんだよ。


俺は渋々ソファから起き上がって、ドアに向かった。


「今は営業時間外だ」


扉越しに冷たく言った。正直眠い。


「分かってます。でも、これは本当に重要なことで……もう時間がないんです」


レオンの声が切羽詰まっている。


「それに……僕、もうどうしたらいいか分からなくて」


普段の爽やかイケメンボイスじゃない。本当に困ってるみたいだ。


俺は深いため息をついて、ドアを開けた。


そこに立っていたレオンは、いつもの凛々しい姿とは違っていた。髪は乱れ、目の下にはクマができている。


「入れよ」


「ありがとう」


レオンが店に入ってきた。俺は光る繭——エルスの寝床に向かって、思いっきり揺すった。


ぐらんぐらんぐらん!


「んん〜……まだ寝たい〜……」


エルスが寝ぼけた声を出した。


「お客なら追い返して〜……営業時間外って言えばいいじゃない〜」


おい、さっき俺が言ったセリフと同じじゃないか。


俺はエルスの頭を軽く叩いた。


「痛い!何するんですか!」


「客だ。起きろ」


エルスが繭から顔を出した。寝癖で銀髪がぼさぼさだ。そして門口に立つレオンを見て——


「きゃあ!」


慌てて繭から転げ落ちた。


「ちょ、ちょっと!なんで起こしてくれなかったんですか!」


いや、今起こしたじゃん。


エルスは慌てて髪を整えようとしたが、うまくいかない。変装魔法も間に合わない。結局、寝間着みたいな格好のまま、レオンに向かって言った。


「ど、どうぞ!座ってください!」


レオンが椅子に座る。俺も向かいに座った。


「あの……ペルフィは?」


レオンが恐る恐る聞いてきた。


「二階で寝てる」


「そうか……」


彼の表情から察するに、ペルフィには聞かれたくない話らしい。


俺はエルスに目配せした。


「二階に防音魔法かけろ」


「え?あ、はい!」


エルスが手を上げて呪文を唱えた。


「『サイレント・バリア』」


おお、今回は成功したな。珍しい。


俺は咳払いをして、できるだけカウンセラーっぽい表情を作った。


「で、相談とは?」


エルスもノートを取り出して、ペンを構えた。なんか秘書みたいだ。


レオンはしばらく黙っていた。何から話せばいいか迷っているようだ。


やがて、重い口を開いた。


「実は……うちのパーティー、もうすぐ解散なんです」


知ってる。


「ペルフィから聞いたと思いますが……」


「ああ」


「でも、彼女が知らないことがあって……いや、僕も最近知ったんですが」


レオンが苦しそうに続けた。


「冒険者許可証、実はもう発行されたんです」


「え?」


「でも……僕とルナの分だけ」


は?


つまり、パーティーが解散するんじゃなくて、ペルフィだけがクビってこと?


「どうしてそんなことに?」


エルスが思わず聞いた。


「それを調べるために、この二日間、僕とルナは走り回ってました」


なるほど、それで二人きりで出かけてたのか。デートじゃなかったんだ。


「冒険者ギルド、行政機関、できることなら国王にも直接聞きたいくらいでした。でも、まともな答えは得られなくて」


レオンの拳が震えている。


「みんな『内定済み』とか『ランダム選出』とか言うんです。でも、ランダムって……おかしいでしょう?」


確かにおかしい。でも、この世界におかしくないことなんてあるか?


勇者が魔王の出産を手伝う世界だぞ。


「僕たちが命がけで伝説級ゴブリンを倒した意味は何だったんですか?」


伝説級!?


「伝説級ゴブリン!?」


思わず声を上げてしまった。


「ええ、ゴブリンの巣穴の最深部にいた、最強の個体です」


やばい、完全に舐めてた。普通のゴブリンだと思ってた俺が悪かった。


そりゃそうだ。ペルフィがメテオとか唱えるレベルなんだから、相手もそれなりに強いはずだ。


「話を戻すと」


レオンが続けた。


「この件は絶対にペルフィには言えません。彼女の性格、分かるでしょう?」


分かる。絶対に暴れる。魔法ぶっ放して街が消える。


「正直、この前彼女が『好きです、殺したいです』って言った時は心臓が止まるかと思いました」


「あれは魔法の副作用で……」


「ルナがそう説明してくれました。でなければ、本当に殺されるかと」


レオンが苦笑いを浮かべた。


「それで、昨夜ルナと調査していて、一つ分かったことがあります」


「何が?」


「ギルドに、ある名簿があったんです」


名簿?まさかこれから盗みに行くとか言うんじゃ——


「実はもう入手済みです」


え?もう盗んだの?行動早いな!


「ただ、警報が鳴ってしまって、ざっと見ただけですが」


なるほど、それで三十分って言ってたのか。潜入時間の話だったんだ。


「で、何が分かったんですか?」


エルスが真剣な顔で聞いた。珍しくちゃんと仕事してる。


レオンの表情が苦いものになった。


「名簿に載っていたのは、全員不合格者でした」


「……」


「でも、奇妙なことに気づいたんです。ルナに調査魔法で調べてもらったら、彼らには共通点がありました」


「共通点?」


「全員、攻撃力が高い」


は?


「強力な剣士、ペルフィのような大魔法使い……要するに、チームの主力火力担当が軒並み落とされてるんです」


これでランダムはありえない。明らかに意図的だ。


俺は心の中でエルスに話しかけた。


『なあ、お前が言ってた魔王と人類の密約って、具体的にどんな内容だ?』


『文字通りですよ。表向きは戦ってるふりをして、実際は共存してるんです』


『冒険者たちは知ってるのか?』


『知らないはずです。魔王城まで到達できる冒険者はほとんどいませんから』


なるほど……


『多分、俺の推測は当たってるよな?』


『……おそらく』


『レオンに言うか?』


『やめておきましょう。知らない方が幸せなこともあります』


「つまり」


俺は口を開いた。


「ペルフィの離脱は避けられない、と」


レオンが頷いた。


「でも」


エルスが首を傾げた。


「それだけなら、わざわざ相談に来る必要は——」


「違うんです」


レオンが俯いた。


「問題は、その後のことで……感情面の問題というか……」


彼は顔を上げて、真剣な目で俺たちを見た。


そして——


「僕、ルナが好きなんです」

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