表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/65

9.愛妻弁当から錬金術師へ(一)

「料理、できますか?」


エルスの唐突な質問に、ペルフィが顔を上げた。


「できるわよ。一応」


「じゃあ、愛妻弁当作戦です!」


エルスが立ち上がって宣言した。


「愛妻弁当?」


「そう!愛情たっぷりの手作り弁当で、隊長の心を掴むんです!」


ペルフィの目が少しだけ輝いた。


「それなら……」


「よし、メニューを決めましょう!」


俺も調子に乗って立ち上がった。


「愛妻弁当といえば——」


「七彩露の滴サラダと赤竜肉のカツレツでしょ!」


ペルフィが即答した。


「は?」


「違います!」


エルスが割り込んだ。


「愛妻弁当といえば、ゴールデンアップルのパイです!ロマンチックじゃないですか!」


「ゴールデンアップルって、神殿への供え物じゃないか」


「だからこそですよ!神聖な愛の証明です!」


「いやいや」


俺は二人を制した。


「愛妻弁当といえば、唐揚げ、厚焼き玉子、タコさんウインナーだろ!」


……


……


沈黙。


「何それ」


ペルフィが眉をひそめた。


「タコさん……ウインナー?」


「唐揚げは鶏肉を油で揚げたやつで——」


「分かるけど、なんでタコ?」


「いや、タコの形に切るんだよ」


「……なんで?」


なんでって言われても。


「か、可愛いから?」


「意味不明」


ペルフィがバッサリ切り捨てた。


『ゴールデンアップルパイがいいです!』


エルスが俺の味方をしないで、必死に主張している。


「ゴールデンアップルパイなんて、お前が食べたいだけだろ!」


「女神は食事しません!」


「じゃあなんで推すんだよ!」


「健康にいいんです!女神の祝福も得られます!」


「それ、供え物だから祝福されるんだろ!」


俺たちが言い争っている間に、ペルフィが冷静に聞いてきた。


「ちょっと待って。ゴールデンアップルパイはまあ置いといて……」


彼女は俺を見つめた。


「その、唐揚げとか、厚焼き玉子とか、タコさんなんとかって、何?」


来た!


俺の中で何かがスイッチオンした。


これだ!これこそが異世界転生の醍醐味!


日本の料理を紹介して、みんなを感動させる展開!


「いいか、よく聞け!」


俺は自信満々に説明を始めた。


「唐揚げは、下味をつけた鶏肉に片栗粉をまぶして、高温の油でカラッと揚げる。外はサクサク、中はジューシー。冷めても美味い、弁当の王様だ!」


「……」


「厚焼き玉子は、卵に砂糖と出汁を加えて、何層にも重ねて焼き上げる。ふわふわで甘くて、子供から大人まで大人気!」


「……」


「そしてタコさんウインナー!ソーセージに切り込みを入れて茹でると、足が開いてタコみたいになる!見た目も可愛くて——」


「却下」


ペルフィが即答した。


「は?」


「変な料理。却下」


なんでだよ!


普通、異世界の人って日本料理に感動するもんだろ!?


『へぇー!?チャーハン!?なにそれ、聞いたことない!美味しそう!作って!』とか!


『スシ!?生の魚を米に乗せるの!?斬新!食べてみたい!』とか!


そういう反応はどこ行った!?


俺は必死にペルフィに詰め寄った。イケメンフェイスを最大限に活用して。


「いや、本当に美味しいんだって!騙されたと思って——」


『ゴールデンアップルパイ!』


エルスが叫んだ。


「うるさい!」


『ゴールデンアップルパイがいいんです!』


今度は心の中で叫ばれた。


『ゴ!ール!デン!アッ!プル!パ!イ!』


「ぐああああ!」


脳内核爆発、再び。


俺が頭を抱えて悶えている間に、ペルフィは眉間にしわを寄せて考え込んでいた。


「そんなに嫌なら——」


俺は急に真面目な顔になった。


目を閉じて、遠い目をする。まるで昔を懐かしむ中年男性のように。


「……実はこれ、俺の夢なんだ」


「夢?」


「誰かに、唐揚げ弁当を作ってもらうのが」


俺は幸せそうな表情を浮かべた。


「朝起きたら、台所から唐揚げを揚げる音がして、『お弁当できたわよ』って……」


「……最低」


エルスが冷たい声で言った。


「ただの私欲じゃないですか、但馬さん」


「お前だってゴールデンアップルパイ食べたいだけだろ!」


「女神は食事しません!」


「さっきから連呼してるけど、絶対嘘だろ!」


でも——


「そう……なのね」


ペルフィが何か納得したような顔をしていた。


「男の人が求めてるのって、そういう贅沢なものなのね」


「おい、人の夢を贅沢とか言うな」


俺が突っ込んだが、ペルフィは聞いていない。


『なんで急に信じるんですか!』


エルスが心の中で叫んだ。


ペルフィは続けた。


「確かに、私が今まで作ってた弁当、レオンはいつも『ありがとう』って笑ってくれたけど、特別喜んでる感じじゃなかった」


彼女は俯いた。


「私の好きなものばかり入れて……でも、もしかしたら庶民的すぎたのかも。冒険者のリーダーなんだから、もっと高級なものを求めてたのかもしれない……鶏肉に卵にソーセージ……確かに私が普段作るものより高級ね。さすが、カウンセラーさんは違うわ」


え?高級?


俺は首を傾げたが、ペルフィはもう決意を固めていた。


「よし、決めた!」


彼女が顔を上げた。


「豪華な故郷の愛妻弁当を作るわ!」


「「賛成!」」


俺とエルスが同時に叫んだ。


……いや、待て。なんで豪華?


「じゃあ、まず買い物ね」


ペルフィが立ち上がった。


「鶏肉と、卵と、ソーセージを買わないと」


「お、話が分かるじゃないか!」


俺は感動した。やっと普通の反応が返ってきた!


「市場に行きましょう」


ペルフィが先頭に立って歩き始めた。


店を出て、初めて異世界の街並みをじっくり見る機会を得た。


石畳の道が続き、両側には木造の建物が並んでいる。看板には読めない文字——いや、よく見ると日本語だった。本当に都合の良い設定ね。


空気は澄んでいて、朝の光が建物の隙間から差し込んでいる。行き交う人々の服装は中世ヨーロッパ風だが、なぜか妙にカラフルだ。そして、普通に獣人やエルフが歩いている。


「すごいな……」


思わず呟いた。本当に異世界なんだと実感する。


市場に近づくにつれ、賑やかな声が聞こえてきた。


「新鮮な野菜だよ!」


「今朝採れたての魚!」


「魔法薬の材料、安くしとくよ!」


市場の入り口をくぐると、そこは活気に満ちていた。


色とりどりの野菜や果物が山積みになっている。見たことのない紫色のキャベツみたいなものや、光ってる林檎、なぜか浮いているオレンジ。


肉屋の軒先には、巨大な肉塊がぶら下がっている。血の匂いと香辛料の香りが混ざり合い、異世界感を演出していた。


「まず鶏肉ね」


ペルフィが肉屋の前で立ち止まった。


「すみません、鶏肉ください」


「おう、嬢ちゃん。普通の鶏肉でいいのか?」


店主のおっさんが聞いてきた。筋骨隆々で、いかにも肉屋って感じだ。


「普通のでいいです」


「了解。でも今日は狩猟隊が戻ってきたばかりだから、新鮮だぜ」


店主が奥から肉を持ってきた。


——狩猟隊?


まあ、この世界なら養鶏より狩猟の方が一般的なのかも。


「銀貨5枚だ」


「はい」


ペルフィがさらっと支払った。


銀貨5枚って高くない?


でも、ペルフィが普通に払ってるから、この世界の相場なんだろう。


「次は卵ね」


今度は別の店に向かった。卵専門店らしく、様々なサイズの卵が並んでいる。小さいものから、俺の頭くらいある巨大なものまで。


「卵を6個ください」


「へいへい。でも嬢ちゃん、運がいいな。今朝、冒険者が巣から持ってきたばかりだ」


——巣?


「銀貨8枚になります」


「はい」


卵が肉より高い!?


「最後にソーセージ」


加工肉の店に入った。店内には様々な腸詰めがぶら下がっていて、スパイスの香りが充満している。


「ソーセージ5本お願いします」


「おお、今日は特別な日か?高級品だぞ」


店主が丁寧に包んでくれた。


「銀貨12枚」


ソーセージが一番高い!?


買い物を終えて、店に戻る道中。


「ねえ、ペルフィ」


「何?」


「さっきの食材、なんか高くない?」


「そう?普通よ」


ペルフィがきょとんとした。


「だって、冒険者が定期的に狩ってくる食材だもの」


「……は?」


「鶏肉は、森に住むコカトリスの幼体の肉でしょ?」


コカトリス!?石化能力を持つ伝説の魔物じゃないか!


「卵は、山岳地帯のグリフォンの巣から採取したものよ」


グリフォンの卵!?


「ソーセージは、魔猪の腸に竜の血を混ぜた特製スパイスを——」


「待て待て待て!」


俺は頭を抱えた。


「それ、全部高級食材じゃないか!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ