6.『騎士団体験授業で「ルカを守れ」と言った結果、園が戦場になった』
「今日は特別授業! 騎士団の皆さんが来てくれました〜!」
朝からソワソワしていた園児たちが、一気に盛り上がった。
剣を持った本物の騎士たちがずらりと並び、かっこいい制服姿で整列している。
……そして、最前列。いつもの声量で叫ぶ父。
「ようし! 本日の課題はこれだ!!」
《模擬任務:『ルカ・エインズレイを1時間守り抜け!』》
「へ?」「はい?」
ざわめきが一瞬で吹き飛び、
空気がピキィィィィ……と張り詰めた。
ユリウス(王子系5歳児)が一歩前に出る。
「……つまり、“僕がルカを守る”正式な舞台が整ったということだね?」
「いや、それは俺の役目だ」
レオン(騎士系5歳児)がすっと横に出て、剣を構える。
ノア(甘え系5歳児)はにこにこしながら、
「ルカを守る〜♡って言いながらぎゅ〜ってしていいのかな〜?」と手を広げてくる。
(……いや、これ、守るって言いながらただ近づきたいだけじゃ……?)
◇
10分後。
園庭にて、“模擬バトル”開始。
ルールは簡単。
1時間の間、誰がルカのそばに一番長くいられるか。
邪魔されたらアウト。交代は自由。妨害も魔法も「非殺傷」ならOK。
「ルカ!任せて!僕の背後は無敵だよ!」
ユリウスは美しい剣術で牽制しつつ、僕の正面に膝立ち。
「……後ろ、俺が取った」
レオンは背中にぴったりついてきて、まるで本物のボディガード。
「ルカ〜!上に乗ってて〜♡ おんぶおんぶ♡」
ノアはすでに僕を抱き上げて走り出している。
「う、うわ、ちょ、ぬいぐるみ……!」
ミミルがぐらついて、僕は慌ててぎゅっと抱きしめた。
「おっと。ミミルちゃんの安全は最優先事項ですから〜♡」
ノア、妙に的確。
他の園児たちも次々と割り込んでくる。
「俺も守る!」「僕こそルカ隊だ!」「推しは推せるときに推す!!」
園児ってそんな言葉知ってるの!?
結局1時間の授業中、僕は交代で5人におんぶされ、
10人に囲まれ、8人から“正義の魔法壁”を張られていた。
(まるで、王様の護衛任務みたい……)
◇
最後、先生が「はい、今日の優勝は──」と発表しようとしたとき。
ユリウス・レオン・ノアの3人が同時に言った。
「優勝は、ルカ自身です」
「本人を一番守れるのは、本人だから」
「でも、僕たちも毎日守るからね〜♡」
僕はそっと、ミミルを抱き直した。
──みんなが守ってくれるのはありがたい。
だけど、僕は僕で、ちゃんと“自分を守れる”ようでいたいんだ。
ぬいぐるみのぬくもりが、今日も僕の胸にやさしく届いていた。