5. 『おままごとで前世スキルが出ちゃった。ミミルプレートも添えて』
「今日は“おままごとあそび”です!」
先生がそう言った瞬間、
園児たちの視線が、例によって一斉に僕に集まった。
「ルカに“お嫁さん役”してほしい〜♡」
「ルカ様の作るお料理、絶対おいしいですわ……!」
「待って、まだ結婚してないでしょ!!俺が夫だって言ったよね!?」
(……みんな元気だなあ)
静かにミミルをぎゅっと抱きしめながら、僕は今日の役割を確認した。
「ルカくんは、お料理係お願いね」
「はい。……あの、ミミルにも一皿、出していいですか?」
「もちろんいいよ〜♡」とノアが即答。
「ミミルちゃんも大事な園児ですから〜♡」って、ちょっと意味わからないけどありがたい。
◇
用意されたのは、小さなキッチンセット。
でも、おままごととはいえ調理道具は本物に近く、
刃こぼれしていない小型ナイフや、子ども用のまな板もある。
(……なるほど。前世で覚えたやつ、ちょっとだけなら……)
キャベツを手に取って、芯を落とし、くるりと外葉をむく。
千切りにして、水にさらして、サラダに添える。
次に卵。
ひとつ割って、黄身と白身の割合を見て、フライパンに落とす。
「っ……すご……」
「手の動きが、滑らかすぎ……!?」
「ちょっと待って!? それ普通の5歳じゃ無理じゃない!?」
園児たちの騒めきはどんどん大きくなっていく。
でも僕は、いつも通り。
淡々と、でも丁寧に、一皿一皿を仕上げていく。
「これ、ミミル用」
そう言って、ぬいぐるみサイズの小皿に、
一口サイズの野菜とミニパン、目玉焼きをのせた「ミミルプレート」を完成させる。
その瞬間、ざわめきは静寂へと変わった。
「……ぬいぐるみに、こんなに丁寧な……?」
「むり……尊すぎて胃が……」
「ルカって、ほんとに……ほんとに天使……!!」
「……ルカ」
ユリウスが、僕の前にそっと膝をついた。
「やっぱり、君は“人類の宝”だ。早めに婚約しておこうか?」
「却下です」
レオンが即答して僕を引き寄せる。
「……ルカ、今日もかわいい。料理姿も最高だった」
ノアはほっぺをぷにっと触りながら、
「今度、ルカのレストラン開こうよ〜♡」と満面の笑み。
……ミミルも、今日も無事でよかった。
ちょっとだけ、前世の記憶が滲み出たけど──きっと、まだバレてない。
(たぶん……)
そう思っていたのは、このときだけだった。
後日、「ルカくんは料理人の魂を継いでいるに違いない」という噂が園に流れ、
僕は“ちびシェフ”という謎のあだ名で呼ばれることになる。
それでも──
誰かのために作った料理を、
「おいしい」「かわいい」って言ってもらえるのは、少しだけ嬉しかった。
そして、ミミルが最後まで静かに皿の前に座ってくれていたことが、
僕の今日一番の安心だった。