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5. 『おままごとで前世スキルが出ちゃった。ミミルプレートも添えて』

「今日は“おままごとあそび”です!」


先生がそう言った瞬間、

園児たちの視線が、例によって一斉に僕に集まった。


「ルカに“お嫁さん役”してほしい〜♡」

「ルカ様の作るお料理、絶対おいしいですわ……!」

「待って、まだ結婚してないでしょ!!俺が夫だって言ったよね!?」


(……みんな元気だなあ)


静かにミミルをぎゅっと抱きしめながら、僕は今日の役割を確認した。


「ルカくんは、お料理係お願いね」

「はい。……あの、ミミルにも一皿、出していいですか?」


「もちろんいいよ〜♡」とノアが即答。

「ミミルちゃんも大事な園児ですから〜♡」って、ちょっと意味わからないけどありがたい。


 



 


用意されたのは、小さなキッチンセット。

でも、おままごととはいえ調理道具は本物に近く、

刃こぼれしていない小型ナイフや、子ども用のまな板もある。


(……なるほど。前世で覚えたやつ、ちょっとだけなら……)


キャベツを手に取って、芯を落とし、くるりと外葉をむく。

千切りにして、水にさらして、サラダに添える。


次に卵。

ひとつ割って、黄身と白身の割合を見て、フライパンに落とす。


「っ……すご……」

「手の動きが、滑らかすぎ……!?」

「ちょっと待って!? それ普通の5歳じゃ無理じゃない!?」


園児たちの騒めきはどんどん大きくなっていく。


でも僕は、いつも通り。

淡々と、でも丁寧に、一皿一皿を仕上げていく。


「これ、ミミル用」


そう言って、ぬいぐるみサイズの小皿に、

一口サイズの野菜とミニパン、目玉焼きをのせた「ミミルプレート」を完成させる。


その瞬間、ざわめきは静寂へと変わった。


「……ぬいぐるみに、こんなに丁寧な……?」

「むり……尊すぎて胃が……」

「ルカって、ほんとに……ほんとに天使……!!」


 


「……ルカ」

ユリウスが、僕の前にそっと膝をついた。


「やっぱり、君は“人類の宝”だ。早めに婚約しておこうか?」


「却下です」

レオンが即答して僕を引き寄せる。


「……ルカ、今日もかわいい。料理姿も最高だった」


ノアはほっぺをぷにっと触りながら、

「今度、ルカのレストラン開こうよ〜♡」と満面の笑み。


……ミミルも、今日も無事でよかった。

ちょっとだけ、前世の記憶が滲み出たけど──きっと、まだバレてない。


(たぶん……)


 


そう思っていたのは、このときだけだった。


後日、「ルカくんは料理人の魂を継いでいるに違いない」という噂が園に流れ、

僕は“ちびシェフ”という謎のあだ名で呼ばれることになる。


 


それでも──

誰かのために作った料理を、

「おいしい」「かわいい」って言ってもらえるのは、少しだけ嬉しかった。


 


そして、ミミルが最後まで静かに皿の前に座ってくれていたことが、

僕の今日一番の安心だった。


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