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4. 『園に行っただけなのに求婚されました。なんで?』

「……ミミル……いる?」


朝、ぼんやり目を開けた僕の腕の中には、いつものぬいぐるみがあった。

ふわふわの毛並みに頬をすり寄せる。安心する。世界が落ち着いて見える。


「おはよう、ミミル……」


ベッドの柵の向こうから、すぐに声がかかった。


「ルカ、おはよう。ちゃんと寝られたかしら?」

「ん……うん。ママ」


白銀の髪を後ろで結ったレイが、僕の髪をそっと撫でた。

そのあと、筋肉の塊みたいな誰かが勢いよく部屋に入ってきた。


「ルカァアアア! おはよううう!!」

「パパ、声、大きいよ……」


騎士団総隊長である父・ガルドは、相変わらずテンションが高い。

でも、僕が少しでも寝ぼけていると、ぬいぐるみごとやさしく抱き上げてくれるのが嬉しい。


 


「今日は園、初日だな!!」


そう。今日から僕は王都の教育施設──

『王立第一幼児園』 に通うことになる。


この世界では、5歳になると“家柄に応じた園”に入るのが通例。

第一幼児園は、貴族階級や上級官吏の子どもだけが入れる特別な場所らしい。


教育内容は、礼儀作法・集団生活・初歩の魔法・体術・芸術……など多岐にわたる。

ただ、僕はそれより気になることがあった。


「……園って、ミミルも一緒でいいの?」


「もちろんよ。ルカの心の支えだもの」

「落とすなよ! 騎士団10人がかりでも探せるけどな!」


そうして、制服に袖を通し、ミミルをぎゅっと抱きしめた僕は、

大きな馬車に乗って、園へと向かうことになった。


 



 


園に着いたとき──僕は、明らかに“注目の的”だった。


「ち、小さ……!?」「なにあの子、可愛すぎない!?!?」


身長160cm前後の園児たちの間を、

90cmの僕がミミルを抱いて歩く光景は、確かに“異物”だったと思う。


僕は立ち止まり、小さく会釈した。


「はじめまして。ルカ・エインズレイです。よろしくお願いします」


言葉遣いは丁寧に。立ち振る舞いは落ち着いて。

前世で叩き込まれた“人付き合い”の知識が、自然と出てしまう。


でも──


「しゃべった……!?」「声、やば……かわいい……」


なぜか周囲は大混乱していた。


 


そんな中、前から銀髪の男の子が歩いてきた。

静かに膝をつき、まるで騎士のような仕草で、僕の手を取る。


「初めまして、ルカ。僕はユリウス・フォン・リシェル。結婚してくれない?」


「え?」


「見た瞬間に、運命だと思った」


いや、え? はやくない? 僕、今日からなんだけど!?!


 


次の瞬間、黒髪の男の子が僕の正面に立った。

金色の瞳が、真っ直ぐにこちらを見てくる。


「ルカは、俺が守る。ユリウス、お前には渡さない」


「……えっと、レオン、くん?」


「ぬいぐるみ、似合ってる。あと、俺の膝、空いてる」


そのままふわっと抱き上げられて、

僕はミミルごと高く持ち上げられた。


(……え、展開が早すぎる……)


 


「ルーカぁぁ♡ ぎゅ〜してもいい〜? ミミルちゃんもさ〜!」


茶髪の男の子が背後から抱きついてくる。

にこにこした顔で、僕のほっぺをぷにっとつまんできた。


「……ミミルの耳、引っ張らないで……」


「ごめんごめん♡ でもルカって、ミミルと同じくらいかわいいよね〜」


(……この園、平和じゃない……)


 



 


帰り道。僕はミミルを抱いて、馬車の中で深いため息をついた。


「……園って……あんな場所なんだね、ミミル」


パパとママは、にこにこしながら言った。


「ルカが可愛いからだ。しょうがないな!」

「気になる子がいたら、保護者面談するわよ?」


違う、そうじゃない……。

初日でプロポーズ3件、膝上抱っこ5回、あ〜ん要求12回って……。


 


「ミミル……明日も一緒にいてね。絶対、離さないから」


ぬいぐるみは、あたたかく僕の不安を包んでくれた。


 


──こうして、僕の「モテ地獄な園生活」は幕を開けた。


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