表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/59

53. (カイン視点④) 『ルカ様と“薬草の小道”で──はじめて涙をこぼした日』

あの日の風は、少し冷たかった。

でも、ルカ様の手は……ずっとあたたかかった。


 



 


「ここが、薬草の小道?」


ぼくがうなずくと、ルカ様は両手でミミルを抱きしめながら、

ふわっと笑った。


「わぁ、いい匂い……」


 


その一言だけで、なんだか救われる。


誰にも言わずに、ずっと一人で通っていたこの場所。

気づけば「誰かに見てほしい」と思ってたなんて──

気づきたくなかった。


 


「この草、知ってるよ。“コルナ草”でしょ?」


「えっ、どうして……」


「前に本で見たよ。おなかにいいんだって」


 


優しい声で、ぼくの秘密を知ってるみたいに話す。

なのに、不思議とこわくなかった。


 


むしろ、心がふわって軽くなるのが、くやしかった。


 



 


ぼくは、“いい子”じゃなきゃ生きられなかった。


大人の顔色を読んで、期待に応えて。

叱られないように、責められないように。


なにかを間違えると、すぐに「要らない」って目で見られた。


 


でもルカ様は──


「間違えちゃっても、大丈夫だよ」って言った。


 


“間違えても大丈夫”なんて、信じられるわけがなかった。


……なのに。


 


ルカ様が、そう言って笑うだけで、

信じてみたくなる自分がいた。


 



 


「カインくん、……泣いてる?」


 


気づけば、頬をつたうものがあった。


「……泣いてない、こんなの、ただの草のせいで──」


「うん、わかった。じゃあ、泣いてない涙ってことにしよう」


 


そう言って、ルカ様はミミルでそっとぼくの目を拭いた。


その仕草が、あまりにも優しくて、

また涙がにじんだ。


 



 


帰り道、ルカ様がぽつりと言った。


「悲しいときはね、ぼくがここに連れてくるよ。

 “この小道に来たら、心がほどける”って思えるように、なったらいいなって」


 


……ぼくはまだ、うまく言えないけれど。

その言葉が、胸の奥にまっすぐ響いている。


 


この場所も、この人も──

たぶん、ぼくの“居場所”なんだと思った。


 



 


その夜、誰にも見られない語録帳にこう書いた。


『守るって、誰かを助けることだと思ってた。

 でも本当は──

 “心をふわっとさせてくれる人”のことを、守りたいって思うんだ。』


 


──それが、はじめて流した涙と、

はじめて知った“愛しさ”の意味だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ