48. (カイン視点③) 『あの日、何もできなかった僕が、“一番近く”にいた日』
ルカ様の“落とし物騒動”を聞いたとき、
最初に思ったのは、悔しさだった。
どうして、あの時、俺は隣にいなかったんだろう。
街の空気が変わるほどの出来事なら、
いちばんそばにいたかった。
「べ、別に……心配とか、そういうんじゃねぇし」って、
ノアやレオンに言ってごまかしたけど、内心は焦ってた。
◇
その日の夜、ルカ様が園に戻ってきたあと──
先生が、手袋をそっと渡してきた。
「カインくん、ルカ様の手袋……少し、ほつれていたの。
縫えるならお願いできる?」
俺が? 縫い物? なんで俺に──
……でも、断れなかった。
◇
針を持つ手が、ぎこちなかった。
でも、手袋を見つめると、思い出す。
小さな手で、俺の袖をつかんでくる温度。
くしゃって笑うときの匂い。
「ただいま」って言われたときの、あの安心感。
──その全部が、このちいさな手袋に詰まってる気がした。
◇
縫い終えた手袋を、
ぼくは──いや、俺は、そっとルカ様の机に置いた。
そばに、小さなメモも添えて。
『次は、落とす前に言え。お前の隣にいるのは俺だ』
◇
次の日。
ルカ様がそのメモを読んで、
ふにゃっと笑って、こっちを見た。
「……うん。じゃあ、これから落とし物するたびに、呼ぶね」
「……なるべく、落とすな」
◇
日記には、こう書いた。
『“守る”って、剣を振るうことだけじゃない。
針を持つ手にも、愛は宿る。』
たぶん俺は、ずっとそばにいたいだけなんだ。
“いちばん近く”に。




