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47. 『“たったひとつの落とし物”が、街を救った日』

「ルカ様、片方の手袋が見当たりません」


 


あっ。


 


朝、園に着いてすぐ、先生が気づいた。


ぼくがいつもしている、小さなうさぎ柄の白い手袋。

右手だけが、どこにも見当たらない。


 


「……昨日、街の本屋さんで最後に見たような……」


 


落とし物なんて、久しぶりで。

ちょっとだけ、胸がぎゅっとなった。


 


ミミルを抱きしめながら、

先生に「取りに行ってきてもいい?」と聞いた。


 


もちろん、魔法団の護衛つきで。


 


 



 


街に出ると、なんだかいつもと空気が違った。


パン屋さんの笑顔がなくて、

花屋さんの店頭から花が消えていて、

通りの人々も、ひそひそ声で──なにかを恐れてるみたいだった。


 


「最近、“心を吸い取る病”が広まっていてね……」

道端で出会ったおばあさんが言った。


「笑うことも、泣くこともできなくなるんだよ。

 誰もが、誰かの心を疑ってしまうのさ」


 



 


ぼくの手袋は、本屋さんの前にあった。


風で飛ばされて、ドアのすみに引っかかっていたの。


 


拾いあげて、手に戻した瞬間、

向こうのベンチでしゃがみこんでいた子どもが──ぼくを見た。


 


その子の目は、まっすぐだった。


でも、まったく動かない。無表情で、声も出ない。


 


ぼくは、その子の前にしゃがんで、手袋を外し、

そっと、その子の手を握った。


 


「……きっとね、君のなかにも、あったかい光があるよ」


 


すると、その子の手が、ほんの少し震えて、

ぽろりと、一滴だけ涙が落ちた。


 


その瞬間、空気が──少し変わった。


 


 



 


後日。


街では「ルカ様の落とし物が“心の病”を払った」と噂された。


 


パン屋さんが笑顔を取り戻し、

花屋さんに花が戻り、

人々が、少しずつ“声”を取り戻しはじめた。


 



 


夜。ミミルに言った。


「ねぇ、ぼくの手袋、どうして落としたんだろうね?」


 


ミミルは、ちょこんと膝の上に乗りながら、

こう言った気がした。


──『それはきっと、“誰かとつながる片手”を空けるためだよ』


 


 



 


語録にはこう書いた。


『落とし物は、“誰かの心”を拾うきっかけかもしれない。

 なくしたものが導いてくれる出会いも、きっとある。』


 


おやすみ、ぼくの小さな手袋。

またどこかで、誰かを救ってね。


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