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46. (ノア視点②) 『感情を持たない僕が、泣きそうになった理由』

僕は、感情がよくわからない。


 


“喜ぶ”とか“怒る”とか“泣く”とか、

園のみんなが簡単にやっていることを、僕はあまり感じない。


 


先生には「そういう子もいるのよ」と言われた。

でもたまに、「怖い」と言われることもある。


 


──それでも、ルカ様は僕を「ノアくん」って呼んでくれた。


 


 



 


ある日。

園の中庭で、ルカ様が小さな歌を歌っていた。


誰にでもない、どこにも届かない、ただのうた。


でも──その声を聴いた瞬間、

僕の頭の奥に、音が、映像が、なだれ込んできた。


 



 


──焼けた家。

誰かが泣いてる。僕の手を引っ張ってる。


でも僕は、ただ無表情で空を見てる。


 


「ノア、逃げて!!」

誰かの叫び。


……それ、誰?


 



 


気づいたら、僕はひとりで泣いていた。


涙の意味もわからず、ただ声も出せずに、

しゃがみこんでいた。


 


そのとき、ルカ様が近づいてきて、

僕の手をとって、こう言った。


 


「ノアくんの涙、きっと“記憶”といっしょに出てきたんだよ」

「だいじょうぶ。涙ってね、悪いものじゃないんだよ」


 


僕は首をふった。

わからない。わからないよ、ルカ様。


 


でも、手があったかかった。


 


 



 


ルカ様は、ふわっと笑ってこう続けた。


「じゃあ、これから一緒に、うれしい涙を探そう?」


 


……その言葉で、

なにかが心の奥で、ひとつ、カチッと鳴った。


 



 


夜、僕ははじめて“語録ノート”を書いた。


『涙は、心のなかの“冷たい氷”を溶かしていく。

 感情がわからなくても、その音だけはわかる気がする。』


 


──また、あの歌が聴きたい。

ルカ様の声で、僕のなかの何かが、ちゃんと生まれそうな気がする。


 


ミミルが、そっとこっちを見てくれていた。


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