35. 『父と歩く朝の道──ぼくの“うまれた日”の話』
朝、ひとけのないお庭。
いつもより早起きしたら、パパがいた。
「おはよう、ルカ。ちょっと、散歩しないか?」
パパはおっきな手で、ぼくを軽く抱き上げて、
朝の道を、ゆっくり歩いた。
◇
「今日はな、おまえの“生まれた日”だ」
「えっ、ほんと……?」
「うん。だから、今日は特別な日だ」
パパの声は、いつもよりずっとやさしかった。
◇
「ルカって名前はな、精霊の長に選んでもらったんだ。
“光”って意味がある。世界に差し込む、朝の光だって」
「……ルカが、光?」
「そうだ。
おまえが生まれた瞬間、夜明けの空がぱぁっと赤くなって、
空に虹が出たんだぞ。夜なのにだぞ?」
「……ほんとに?」
「ほんとだ。隊のみんな、泣いてたよ。
“こりゃ神の子か”ってな」
◇
パパは少しだけ、立ち止まって空を見た。
「最初はな……こわかったんだ。
あんなにちっちゃくて、
折れそうで、透明で──」
「でも、おまえが、指を握ってくれたときな。
“この子は生きようとしてる”って、分かった」
「だから、ぼくの名前は、ルカ……」
「そう。
“光を抱く、騎士団の宝”──それが、おまえだ」
◇
ぼくは、ミミルを抱きしめて、
ちょっとだけ、泣いてしまった。
前の人生では、
「名前」を呼ばれるたびに、何かが冷たくなった。
名家の子。政治家の息子。
優等生。商品。駒。飾り。
でも今のぼくは──
たったひとりの子として、名付けられた。
「ルカ」って呼ばれたとき、あったかくなった。
◇
朝の道。
パパの手は、お日さまみたいに大きかった。
「……パパ、ありがとう。ぼく、生まれてよかった」
「当たり前だ。
おまえはな、世界で一番愛される子になるんだよ」
──ぼくは、うれしくて、また涙が出た。
でも、泣きながら笑った。
だってそれは、
前の人生では、一度ももらえなかった言葉だったから。
◇
語録には、こう書いた。
『ぼくの名前は、“光”。
誰かにそう信じてもらえるって、すごく心が強くなるんだね』
ミミルも、ぴぃと鼻を鳴らした。
空の上に、ほんの少しだけ虹が見えた──気がした。




