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35. 『父と歩く朝の道──ぼくの“うまれた日”の話』

朝、ひとけのないお庭。

いつもより早起きしたら、パパがいた。


 


「おはよう、ルカ。ちょっと、散歩しないか?」


パパはおっきな手で、ぼくを軽く抱き上げて、

朝の道を、ゆっくり歩いた。


 



 


「今日はな、おまえの“生まれた日”だ」


 


「えっ、ほんと……?」

「うん。だから、今日は特別な日だ」


 


パパの声は、いつもよりずっとやさしかった。


 



 


「ルカって名前はな、精霊の長に選んでもらったんだ。

“光”って意味がある。世界に差し込む、朝の光だって」


 


「……ルカが、光?」


「そうだ。

 おまえが生まれた瞬間、夜明けの空がぱぁっと赤くなって、

 空に虹が出たんだぞ。夜なのにだぞ?」


 


「……ほんとに?」

「ほんとだ。隊のみんな、泣いてたよ。

 “こりゃ神の子か”ってな」


 



 


パパは少しだけ、立ち止まって空を見た。


「最初はな……こわかったんだ。

 あんなにちっちゃくて、

 折れそうで、透明で──」


 


「でも、おまえが、指を握ってくれたときな。

 “この子は生きようとしてる”って、分かった」


 


「だから、ぼくの名前は、ルカ……」


「そう。

 “光を抱く、騎士団の宝”──それが、おまえだ」


 



 


ぼくは、ミミルを抱きしめて、

ちょっとだけ、泣いてしまった。


 


前の人生では、

「名前」を呼ばれるたびに、何かが冷たくなった。


名家の子。政治家の息子。

優等生。商品。駒。飾り。


 


でも今のぼくは──

たったひとりの子として、名付けられた。


「ルカ」って呼ばれたとき、あったかくなった。


 



 


朝の道。

パパの手は、お日さまみたいに大きかった。


 


「……パパ、ありがとう。ぼく、生まれてよかった」


「当たり前だ。

 おまえはな、世界で一番愛される子になるんだよ」


 


──ぼくは、うれしくて、また涙が出た。

でも、泣きながら笑った。


 


だってそれは、

前の人生では、一度ももらえなかった言葉だったから。


 



 


語録には、こう書いた。


『ぼくの名前は、“光”。

 誰かにそう信じてもらえるって、すごく心が強くなるんだね』


 


ミミルも、ぴぃと鼻を鳴らした。

空の上に、ほんの少しだけ虹が見えた──気がした。


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