32. (カイン視点) 『“ルカ様になろう”として、ぼくは自分を見失いかけた日』
ルカは、きれいだった。
ちがう、見た目のことじゃない。いや、見た目もおかしいくらいきれいだけど──
内側から、光ってるみたいだった。
誰かが泣いたら、近づいて。
転んだ子には、手を差し出して。
ミミルをぎゅっと抱いて、あったかい声で話す。
最初は、意味が分からなかった。
“なんでそんなに、やさしくできるの?”
“なんでぼくにも、何も求めずに、笑ってくれたの?”
──でも、あの日からずっと考えてた。
ルカみたいになれたら、ぼくも少し変われるんじゃないかって。
◇
「……おはようございます」
言った。声が変になった。
ルカが“ぽかん”としてた。
「ミミル、かわいいな」
「……語録、いいと思う……」
うまく、言えない。けど、必死だった。
──でも、視線が痛かった。
ユリウスがじっと見てる。
ノアもそっとノートを閉じた。
レオンは笑ってたけど、目が笑ってなかった。
“まねっこ”。
その言葉が、頭の中をぐるぐるした。
◇
昼過ぎ。
胸が、苦しくなった。
「はっ……はっ……あ、ああっ……」
手が震えてる。息が、吸えない。
魔封の呪符が熱くなる。──また、暴れる。
怖い。
また、壊しちゃう。
また、嫌われる。
──そのとき。
「カインくんっ!」
小さな手が、ぼくの手を握った。
「深呼吸して……だいじょうぶ、ぼくがいるから」
──ルカだった。
ミミルを抱いて、震えるぼくの前にいた。
「まねしなくていいよ。
カインくんのままが、いちばんだよ」
……その言葉が、
胸の奥に落ちた。
はじめてだった。
言葉って、こんなに、
泣かせるんだなって。
◇
その日の夜。
誰にも見られないように、はじめて日記を書いた。
『あんなふうにはなれない。
でも、あの子は、“ぼくのままでいい”って言ってくれた。
それが、こんなにうれしいなんて──知らなかった』
明日、また“おはよう”って言おう。
今度は、“ルカのまね”じゃなくて。
“ぼくの声”で。
──魔封の呪符が、うっすらと光を弱めた気がした。




