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31. 『“まねっこカインくん”が過呼吸で倒れた日』

その日は、朝から少しだけ違和感があった。


「……おはようございます」

カインくんが、ぼくより早く園に来てた。しかも、ぺこりって頭を下げて。


 


「お、おはよう……?」


なんだろう。

いつもみたいに、木の影にいるんじゃなくて、

今日のカインくんは、やたらと話しかけてくる。


 


「ミミル……って、毎日持ってるんだな」

「……語録、ってすごいな。なんか……わかる、気がする」


目はあまり合わないけど、言葉が増えてる。

うれしいけど、どこかぎこちない。


 


園児たちも少しザワついてた。


ユリウス「えっ、あれ……カインがルカ様の……言い回し使ってない……?」

ノア「“だいじょうぶ?”って声かけてた……ぼくが昨日言われたセリフと一緒……」

レオン「いや、嬉しいけど……逆に心配だな……」


 


ぼくも、思った。


──“まねしてる”のかな……?

でも、ぼくはカインくんが話してくれるだけでうれしいし、

誰かのやさしさをまねることって、悪くないと思う。


 


でも──その午後。


お昼の後、急にカインくんがしゃがみこんだ。


「っ……く、は……っ」

「か、からだが……熱い……く、るしい……」


胸を押さえて、肩が上下してる。息が……うまくできてない。


「カインくん……っ!!」


すぐそばに走って、そっと手を握った。


 


「だいじょうぶ。深呼吸して……ぼくが、ここにいるから」


手が震えていた。

目が合わない。けど、手は離さなかった。


 


「まねしなくていいよ、カインくん。

カインくんのままが、いちばんだよ」


 


──しばらくして。

カインくんの肩から力が抜けて、ぽろり、と涙が落ちた。


 


「……ルカ……なんで……そんなふうに、言ってくれるんだよ……」


「理由なんて、いらないよ。

ぼく、カインくんのこと……ちゃんと好きだもん」


 



 


その日、先生がこっそり言っていた。


「ルカ様のやさしさって……人のまねをやめさせるやさしさ、なんですね……」


 


──語録にはこう書いた。


『“なりたい”と思ってくれて、ありがとう。でも、きみがきみであることが、いちばんうれしい』


 


ミミルもやさしく、ぴぃと鳴いた。


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