29. 『ルカ様ごっこが園児たちの間で大流行し、全員の性格がやさしさに染まりました』
きっかけは、いつもの遊びの時間。
ユリウスが、おままごとのセットを前に突然こう言い出した。
「今日のぼくは“ルカ様”だから。
このミミル役はノア、レオンは料理係ね。異論は認めない」
──それを皮切りに、
クラスのあちこちで“ルカ様ごっこ”が始まった。
「ぼく、クッキー配ります。これ、ルカ様の気持ちです」
「きみの心に、そっと寄り添いたい……ルカ様風に言ってみた」
「今日の語録ごっこタイム、始めまーす!」
◇
【ルカ様ごっこのルール(園児たちが勝手に決めた)】
・言葉づかいはていねいに
・誰かをぎゅっとしていいのは、許可をとってから
・困ってる子には、まず「だいじょうぶ?」って聞く
・最後は「ハグでしめる」こと(※ミミルをかかえて)
先生がそっとメモしていた。
「この子たち……人としての基礎が、ルカ様ベースになってる……」
◇
昼休み。
“ルカ様ごっこ”の中心になっていた数名が、僕のところに来た。
「ルカ様〜っ! 本物のルカ様〜っ!!」
「う、うん。どうしたの?」
「今日、全員ルカ様になって過ごしてるの! ルカ様になれるかな!?」
僕は少しびっくりしながら、ふっと笑った。
「うーん……なれるかは分からないけど、
きみの中の“やさしいとこ”を大事にしてくれたら、うれしいな」
──その瞬間。
全員が正座。
レオン「本人 降 臨」
ノア「本物の“語録”が出た瞬間、空気が変わった……」
ユリウス「尊すぎて……鼻血出そう……」
◇
その日の園は、まるで神殿のような空気感だった。
誰も怒鳴らず、誰も泣かず。
おもちゃを譲り合い、手を取り合い、言葉で気持ちを伝えていた。
園長がボソッとつぶやいた。
「これ……理想の人類じゃない? 世界、救えるんじゃない?」
◇
その夜、僕はミミルといっしょにお風呂でつぶやいた。
「ぼくみたいになるのは、ちょっと難しいかもだけど──
誰かの気持ちを、大事にしてくれるのは、うれしいなぁ」
ミミル「ぴぃ〜……」
──そして語録には、こう記された。
『なりたい“ぼく”より、やさしい“きみ”でいてくれるのが、いちばんうれしい』




