2. 『ミミルがいない!?それだけで世界が大混乱』
その日も、僕はいつものように、
大好きなミミルを抱きながら朝の陽を浴びていた。
銀色の毛並み。自分とおそろいの色。
抱き心地はふかふかで、ほんのりあったかい。
「おはよう、ルカ。今日も可愛いわね」
「ん……おはよう、ママ。ミミルもおはようだって」
ママが僕の額にキスを落とすと、
ぬいぐるみにもそっと指先を添えて笑った。
「ミミルは、ルカの心そのものだものね」
うん。そう。ミミルがいれば、どこにいても安心できる。
前世では、こんなふうに“誰かに守られている”なんて感じたことなかったから。
このぬくもりが、すごく……嬉しい。
だけど――その事件は、昼前に起きた。
「……ミミル、どこ……?」
午睡後、目を覚ました僕の腕の中に、ミミルがなかった。
布団をめくっても、ベッドの下をのぞいても……いない。
「……ミミル……いない……っ」
小さな声が、震えた。
目の奥がじんわり熱くなる。胸がざわざわして、呼吸が浅くなる。
「ミミル……ミミル……どこ……?」
「ル、ルカ様!?お目覚めですか!?」
扉が開いて、護衛のダリオ兄ちゃんが飛び込んできた。
「お、おぉぉ!?その顔っっ!?え、泣きそう!?ルカ様が泣きそうだとおぉぉぉ!?!?!?」
その直後、騎士団本部に非常警報が鳴り響いた。
『緊急事態発生!!緊急事態発生!!第一王子殿、感情揺れ値マックスレベル!!』
ガルド(父):
「ミミルが無い!?捜索班、全員動けぇぇぇぇええええ!!!」
レイ(母):
「……転移魔法を展開するわ。ミミル、どこにあるの……っ!」
数十名の騎士、魔法使い、使用人が一斉にミミル捜索モードに突入。
空は割れそうになり、騎士団の馬たちが森を駆け、空から鳥型魔法が飛ぶ。
まさに──国家規模のぬいぐるみ捜索。
……そして。
「ルカ、ミミル、見つかったわ」
「……!!」
レイがミミルを抱えて戻ってくると、僕はふるふると手を伸ばした。
「ミミル……!!」
ぎゅっ、とぬいぐるみを抱きしめる。
その瞬間、体中があったかくなって、安心で満ちた。
「……よかった、ありがとう……ミミル……」
その様子を見ていたダリオと騎士団員たちは、一斉に膝から崩れ落ちた。
「無理……可愛すぎて息ができない……」「尊い……国が傾く……」
こうして、ぬいぐるみ一つで王国が本気を出す一日が終わった。
もちろん、ミミルには今後「紛失防止魔法」がかけられることになる。