15. 『ぬいぐるみのミミル、ついに“国家級魔法聖具”になりました』
その日、王都魔道具研究会の偉い人たちが、
公爵邸にやってきた。
「本日は、“魔力共鳴型守護道具”の検証のため──」
……はい、つまり「ミミル」の話である。
きっかけは、先日の“夜泣き事件”だった。
ルカの涙とともに、
ミミルが反応し、周囲の空間魔法が暴走するのを見て──
「このぬいぐるみ、ただ者ではない」
「明らかに、意志がある」
「もしかして、生きてないか?」
と、魔法学者たちが騒ぎ始めたのだ。
「……でも、ミミルは、ただのぬいぐるみなんだよ?」
僕は不安そうに言った。
「生まれたときに、ママが魔力で作ってくれたの。
僕の心を守るために、“世界に一体だけ”の、僕の友達」
そう話したとき、魔道具審査会の最長老がそっと言った。
「──つまり、“愛”から生まれた魔具、ということですな」
◇
魔力感応、魔力融合、記憶波測定──
たくさんの術者が検証をした結果、
驚きの事実が明かされた。
【ミミルの構造魔法解析】
・製造者:レイ・エインズレイ(魔法団長)
・材質:高精度魔力糸+魂感応核
・中核魔法:感情同調型魔力安定結界
・特性:
①持ち主の魔力に完全同調
②周囲の感情波に自動反応し、主を癒す
③転移/自動召喚/共鳴防御システム搭載
・危険度:0(完全にルカ専用のため、他者には無害)
・分類:国家級魔法聖具(A-0001号)
──つまり、こういうことである。
ミミルは、「国家が認定した、世界に一体だけの愛の聖具」である。
「……ミミル、すごい」
僕がそう言って、いつものように頬をすり寄せると、
ミミルはほんのりあたたかくなった。
「……でも、僕にとってはずっと、“ミミル”のままなんだ」
「ただ、僕のそばにいてくれるだけで、十分なの」
審査会の大人たちは、全員が立ち上がって深く礼をした。
「──ルカ様。
あなたの心が、この国に奇跡を生んでいるのですね」
僕は少し照れて、ミミルの耳をくしゃっと撫でた。
◇
後日、国から正式に書簡が届いた。
【ミミル:国家管理下登録証明】
→ 魔法遺物第1号「心護」
→ 保護対象:ルカ・エインズレイ
→ 国費による保守・結界・修繕体制を整備済
──ちなみに、その日から「ミミル防衛部隊(非公式)」という名の護衛班が設立され、
ミミルが床に落ちそうになるたび、10人の騎士が同時に飛び込むようになった。
(なんか、前より過保護になってない?)
それでも、ミミルをそっと抱きしめながら、
僕は微笑んだ。
「ありがとね、ミミル。僕のこと、いつも守ってくれて」
“ぬいぐるみ”が、“家族”になって、“国の宝”になった。
でも、僕にとってはいつも変わらず──
ミミルは、僕だけのミミルだった。