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14. 『夜泣きしたら、国中の魔法陣が反応して星空ができました』

その夜、僕は眠れなかった。


ベッドはふかふかで、ミミルも胸にいる。

あたたかい。安心できるはずなのに──


「……やめて……触らないで……やだ……」


小さくつぶやいてから、僕は自分の声で目を覚ました。


夢だった。

前世の、最後の記憶。

教室の隅。冷たい笑い声。あの手の感触。


(……ここは、違うのに。もう、大丈夫なのに……)


気づけば、頬に涙が伝っていた。


「……ミミル……」


ミミルをぎゅっと抱きしめて、

言葉を出さずに、泣いた。


 


その瞬間だった。


──パァァァァ……ッ。


部屋の天井に、光の粒が浮かび上がった。


「……え?」


まるで、星空のような、淡い光。

それはゆっくりと、天井から壁へ、壁から廊下へと広がっていった。


 



 


【魔力警報:ルカ・エインズレイ 泣き反応 検出】

→自動連動魔法陣《光の天蓋》発動

→都市空域結界:一時点灯

→国家魔力線:安定のため自動拡張中


王都の空が、深夜にもかかわらずふわりと明るくなった。

天井に星。道に光。家々の窓に、やさしい光の花。


 


「ルカ様が……泣かれてる……ッ!!」

「起きろ、全員ッ!!護衛体制──!!!」

「光魔法、全出力で星空モードへ!!」


騎士団・魔法団・王族・街の民。

誰もが“あの子の涙”を感じて動き出していた。


 



 


でも、その中心で。

僕はただ、ぬいぐるみを抱いてうずくまっていた。


(……僕、どうして、泣いたんだろう)


もう、愛されてるってわかってる。

大事にされてるって、ちゃんと伝わってきてる。

それでも、心の奥にはまだ──「信じていいの?」って声が残ってる。


 


「……ルカ」


優しい声がして、扉が開いた。


レイ(ママ)が僕をそっと抱き上げて、何も言わずに撫でてくれた。


「全部、消えなくていいのよ。

怖かった思い出があるままでも、ちゃんと幸せになっていいの」


ガルド(パパ)も黙って背中をさすってくれた。

「……世界ごと、ルカを守ってやる」って顔だった。たぶん本気。


 


そのまま窓の外を見ると、王都の空全体が、光で満ちていた。


──星が、僕のために瞬いている。


(ああ……。そうか)


涙を流しても、拒絶されない世界。

怖いって言っても、信じてくれる人がいる。


「……ありがと、ミミル……ありがと、パパ、ママ……」


僕はそっと目を閉じた。


今度は、ちゃんと眠れた。

安心して。泣きながら。愛されながら。


 


そしてその夜、国中の空が一晩中光り続けたことは、

“ルカ様の涙夜ルカ・ナイト”と呼ばれ、毎年祝日に制定された。


 


──ルカは知らない。

この国が、どれだけ彼の涙に弱いかを。


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