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13. 『絵本の読み聞かせ中に話したミミルの物語が、出版されかけてます』

園では週に一度、読み聞かせの時間がある。


今日はその日。

でも、先生が本を忘れてきたらしく、急きょ「誰か代わりにお話してくれる?」と聞いてきた。


「じゃあ僕が──」


……と手を挙げた瞬間、教室が静まり返った。


「る、ルカが……!?」「まって、録音石準備!!」

「しぃっ!しゃべるぞ、天使がしゃべるぞ……!」


(な、なんでそんなに期待されてるの……?)


 



 


僕はミミルを膝に乗せて、ゆっくり話し始めた。


「むかしむかし、“ちいさな銀色のうさぎ”がいました。

名前は、ミミル。どこにいても、すぐに誰かを見つけられる、不思議なうさぎ」


話しながら、少しだけ前世の記憶がかすめた。


「ミミルは、いつも優しかった。こわいときも、さみしいときも、ぴたっと寄り添ってくれた。

でも、誰もその声を聞いたことがない。“うさぎ”だから、しゃべれないから」


──まるで、前の僕みたいに。


でも──


「ある日、小さな男の子が“ありがとう”って言った。

そしたら、ミミルの胸の中が、ぽっとあったかくなったんだ」


 


話し終えると、教室が静かだった。

みんな、じーっと僕を見ていた。


ノアが最初に言った。


「……ミミルちゃんって……しゃべれなくても、伝わるんだね……」


ユリウスはまっすぐ僕を見つめて、言った。


「ルカ……今の話、記録しておくべきだ。いや、する。必ずする」


レオンは黙って、僕の手を取って、ぎゅっと握ってくれた。


 


──その日の放課後。


先生が魔法通信でどこかに連絡していた。


「はい……はい!本当に即興で……いえ、原稿などは……いえ……あっ、いま本人に──」

「……え?“そのまま製本すべき”!?!?魔法局が!?!?」


え、なに、どういうこと? たい焼きといい、最近すぐ本になる世界なの……?


 



 


数日後、王都の魔法印刷局から正式な連絡が届いた。


【書籍化希望のお伺い】


タイトル案:『ミミルとちいさな魔法の子』


・対象:全年齢

・内容:ルカ本人の語ったお話そのまま

・印税契約の準備あり

・朗読会での定期イベント化希望


(……えっと、ただのお話ごっこだったんだけどな)


僕はミミルを抱きしめながら、静かに首をかしげた。


──でも、ほんの少しだけ嬉しかった。


僕の言葉が、ちゃんと“届いた”こと。

誰かの心を、ほんのちょっとでもあたためられたこと。


「ありがとう、ミミル。きみがいたから、話せたよ」


 


──こうして、ルカとミミルの物語は、

園の壁を超えて、“読み継がれる絵本”の第一歩を踏み出した。


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