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12. 『たい焼きを買っただけなのに、「ルカ教の聖地」と呼ばれました』

「今日はちょっと街まで出かけましょうか。ルカ、いい?」


ママがそう言って、久しぶりの外出が決まった。


(園と家の往復ばかりだったから、少し新鮮かも)


「うん。……ミミルも一緒に、ね?」


「もちろんよ」


レイは僕の頭をそっと撫でて、いつもより少しだけ軽い魔力のマントをかけてくれた。

おめかしというより、“気づかれないように”の配慮。


──でも、気づかれなかったかというと、まったくそんなことはなかった。


 



 


街の中心にある石畳の広場。

僕がミミルを抱いてゆっくり歩いただけで──


「い、今の……ルカ様では!?」

「えっ!?公爵家のルカ様!?うわあああ!」

「本物だ……!布告で見た姿そのまま……!現実……尊……!」


……ザワッ……!


みるみるうちに人が集まってきて、

気づけば僕の周囲に自然と道が開いていた。

両脇にはひざまずく市民、道を掃除する商人、そして──


「ルカ様ご通過!!たい焼き屋、焼きたて確保!!」

「花屋!花道準備OKです!!」

「ルカ様信仰、今日から開始します!!布教用チラシ刷って!!!」


(……え?)


「……ただ、たい焼き食べに来ただけなんだけど……」


 



 


結局、たい焼きを買おうとした僕に対し──

店主は号泣しながら差し出した。


「ど、どどどどど……どうか……!これを食べてくださることで、我が家に福が……!」


「……ありがとう。いただきます」


その場で一口かじった瞬間──

(←誰かが勝手に魔法カメラで撮ってる)


「くっ……!食べてる姿まで……破壊的……!」

「この姿を彫刻に残そう!!永久保存だ!!!」

「たい焼きの神降臨……!!」


──たい焼きの神って何?


 



 


帰り道、ママが笑いながら言った。


「街の広報掲示板に、明日から“ルカ様ご来訪記念ポスター”が貼られるそうよ」


「……たい焼き買っただけなのに……」


「それが、あなたなのよ。ルカ」


僕はミミルをぎゅっと抱きしめた。

たしかに、今の僕は前より世界に広がっている。


でも、僕自身は何も変わってない。ただ、静かに生きていたいだけ。


「ミミル……帰ったら、たい焼きの分、君にもおやつ分けてあげるね」


ミミルはあたたかく、ただ黙って寄り添ってくれていた。


──ちなみにその日の夕方。

広場にあったベンチに「ルカ様が座った」と噂が広まり、

そこは以後【第一聖座】と呼ばれるようになった。


 


こうして、“ルカ教”という言葉が、この国の市民にとっても他人事ではなくなっていくのだった。


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