11. 『「ルカを養子にください」って手紙が山ほど届いたけど、全部お断りしました』
お披露目会から、わずか三日後。
僕の暮らす公爵家には──毎朝、バケツで水を汲むような勢いで、手紙が届いていた。
【ルカ様をご養子に迎えたい】
【婚約のご提案について】
【我が家の長男と引き合わせを──】
【いっそ当主として迎える準備がございます】
……えっと。何通目? 今日だけで……。
「67通です」
レイ(母)は微笑みながら、魔力で手紙を“灰”に変えていた。
「……ママ、燃やしすぎじゃない?」
「ええ、でも──」
「うちの子を“他の家の子”として見てくるような奴らに、ルカを渡す気はないわ」
後ろではパパ(ガルド)が大剣を研いでいた。
もう明らかに“穏やかな戦闘態勢”である。
「許可なくルカの名前を書いた家には、騎士団から直接“礼”をしてやる!!」
「礼」じゃなくて「制裁」って読みましたよ、今のトーン。
◇
その日の昼、王城から正式な使者が来た。
「ルカ・エインズレイ様を、陛下の養子としてお迎えしたいと──」
「却下です」
ママが0.2秒で答えた。即答すぎて逆に使者が固まる。
「い、一度、ご本人のご意見を……!」
「ルカが自分で決めるわ。ね、ルカ?」
全員の視線が、僕に集まる。
僕はゆっくりと立ち上がって、ミミルを抱いたまま、はっきり言った。
「……お気持ちはありがたいけど、僕は、ここの子です」
「レイが、ママ。ガルドが、パパ。ミミルが、僕の家族。だから……お断りします」
使者の人が息を呑んだ。
そして──
「っ、ルカ様あああああぁぁ……ッ!!(泣)」
泣いた。え、泣いた!? 王宮から来た大人が!?!?
「そ、そんな尊いことを……この歳で……っ」
帰り際、彼は涙を拭きながら言っていた。
「やっぱり、ルカ様こそがこの国の“心”だ……」
◇
その日の夜、僕はミミルを抱いてベッドに入りながらつぶやいた。
「……たぶん僕、またちょっと“広がって”しまったね、世界に」
でも、前と違って怖くはなかった。
誰かに利用されるんじゃないかと怯えたり、見返りを求められたりはしなかった。
──守ってくれる人が、ちゃんといるから。
「パパ、ママ、ありがとう……。僕、大丈夫だったよ」
ミミルが、ほんのりあたたかくなった気がした。
「でも、誰とも結婚はしないからね。全員、だいすき、だから」
それが、今の僕の答えだった。