10. 『王宮お披露目会。僕が一歩出ただけで騎士団が全員土下座しました』
「今日は王宮での“跡取りお披露目式”です。緊張しないでね、ルカ」
レイ(ママ)が微笑みながら、僕の髪を整えてくれた。
隣ではガルド(パパ)がずっとソワソワしている。
「騎士団全員には、正装で礼儀も完璧にって通達したからな!!ルカに失礼があってはならん!!」
「……そんなに緊張する日なんだね」
「そうよ。だって、今日はルカが“正式に世界へ存在を示す日”だから」
僕は静かに、ミミルを抱き直した。
きっと大丈夫。ミミルがいるから、落ち着いて歩ける。
◇
──王宮・大広間。
そこに集まっていたのは、上級貴族・高官・騎士団・魔法団・王族関係者。
ざわ……と広がる声の中、
「それでは、第一公爵家の御子息──ルカ・エインズレイ様のご入場です」と響いた。
扉が開く。僕は一歩、足を踏み出した。
その瞬間だった。
「──ッ!!」
「目が、目が……! ま、眩しっ……!」
「く、崇高……天使か……!?!?」
ギィィンッ!!(膝をつく音)
ザザッ!!(全員の騎士団、土下座)
「……は?」
僕、歩いただけだよ……?
目の前にいた皇太子(10歳)が震えながら立ち上がる。
「本物だ……ッ! 本物の“あれ”だ……ッ!! か、可愛いを超えてる……!!」
「お、落ち着いてください皇太子殿下……!」「過呼吸になっておられます!!」
大人たちも半泣き状態。
魔法団長クラスが光の結界を張って「直視不可」とか言い出してる。
(……あの……ミミルを抱えてるだけなんですけど……)
僕は少しだけ前に出て、お辞儀した。
「……本日は、お時間をいただきありがとうございます。ルカ・エインズレイと申します」
瞬間──
「「「うおおおおお!!!」」」
騎士団全員、再度土下座。
魔法団は泣いてる。皇太子は“尊死”しかけてて椅子から転げ落ちた。
「……やっぱり、ルカが一番格上だね」
隣でささやいたユリウスは、誇らしげな顔をしていた。
「騎士団全員、今日から俺の部下って言ってもいいよ」
レオンは既に“隣で控える正妻ポジ”みたいな立ち位置で仁王立ち。
「ルカが笑ったら、たぶん国傾く♡」
ノアは目を潤ませながら手を振ってくれていた。
(うん……もう、いっそ慣れよう)
前世では、誰にも見てもらえなかった。
愛されたくて、苦しくて、でも何も変えられなかった。
でも今の僕は、“ただ立っているだけ”で──
愛される。大切にされる。
(ありがとう、ミミル……。ぼく、ちゃんと見られてる)
ぬいぐるみの耳をそっと撫でながら、
僕は、ゆっくりと真ん中まで歩いていった。
今日という日を、世界が忘れられなくなると知らずに。