8. 『魔法訓練で「火を出して」と言われたので出したら、花壇が浮きました』
発熱も無事おさまり、園に復帰した翌週。
今日はついに──
魔法授業の日。
「ルカ様……ついに……!」
「我々、覚悟しております……!」
「初の全属性チート覚醒をこの目で……!!」
園児も先生も、なぜかみんな緊張していた。
(※ちなみに僕は“全属性魔法適性あり”という前代未聞の結果が出ている)
でも僕自身は、ただ“迷惑をかけないように”って、それだけを考えていた。
「……ミミル。落ち着いてやるね」
ぬいぐるみにそっと語りかけると、ミミルの毛並みが少しだけあたたかくなる。
いつも僕の気持ちをわかってくれる、不思議で優しい存在。
◇
「では、まず“火”の魔力を手のひらに浮かべてみましょう」
魔法教師の先生が穏やかに言った。
隣ではユリウスが薔薇のような炎を浮かべてるし、
レオンはコンパクトな火球を正確に保ってる。
ノアは火をハートの形にしてニコニコしてるし……すごいな、みんな。
(……僕も、やってみよう)
深呼吸して、手を出して──
「ふわっ」
手のひらに、“ちいさな火”を──と思ったら、
ボウッ!!!
「きゃっ……!?」
突然、目の前の花壇がごと、浮いた。
「え?」「あれ?火?浮いた?花……花壇!?」
花壇の中に咲いていた花々が、魔力の圧でふわっと舞い上がり、
まるで空中庭園みたいにくるくると回転を始めていた。
先生:「……芸術ですね(泣)」
ユリウス:「……やっぱり君は、奇跡だ」
レオン:「今日も、尊かった……」
ノア:「ルカがふわってするだけで、全部浮いちゃうんだね♡」
園児たちの顔がどんどん赤くなってく。
「ちょ、ちょっと強かったかな……。ごめんね……」
僕がぺこりと頭を下げると、全員が同時に崩れ落ちた。
「ひえええ天使が謝った……!」「悪くないのに……!」「罪深い……!」
「ルカ……っ!」
ユリウスが膝をついて手を差し出す。
「ごめん、泣きそうだから、抱きしめてもいい?」
「ダメ。ルカは俺が今守ってる」
レオンがミミルごと僕を抱き上げる。
「ふわふわルカ発動中♡今なら3秒以内に心臓止まる自信ある♡」
ノアが頭をなでようとして、ママの魔法感知結界で阻止された。
こうして、「初めての魔法訓練」は僕にとっては“ちょっと火を出しただけ”。
でも、園にとっては「歴史に残るレベルの騒動」になったらしい。
僕自身はただ──
「誰かの迷惑にならないように」って、それだけを考えてるつもりなのに。
なのに、みんなはなぜか、そんな僕を「神聖視」してくる。
(……いいのかな、僕なんかが、こんなに……)
ふとよぎる不安を、ミミルがぬくもりで包んでくれた。
「……ありがとう、ミミル」
火も水も風も、僕が動かせる魔法より、
このぬいぐるみのぬくもりのほうが、ずっと強い魔法みたいだった。