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7. 『ちょっと熱を出したら、王宮と園と実家が非常事態になりました』

「……うーん……なんか、あったかい……」


目を開けた瞬間、世界がほんの少しぼやけて見えた。

額がじんわり熱くて、息が重たい。だるい。ふらふらする。


「……ミミル……」


小さく名前を呼ぶと、

胸の中にいるぬいぐるみが、いつも通りの温かさで応えてくれた。


(……よかった。いる)


それだけで少し安心できた。だけど──


 


「ルカ、起きたのか!? どうした!? 顔が赤いぞ!? 熱か!? 何度だ!? 38度!? 39度!? 40いったら戦争だぞ!!」


パパ(騎士団長)の声がでっかくて、逆に熱が上がりそうだった。


「ルカ、横になってて。私がすぐに魔力診断を……」

ママ(魔法団長)は既に魔法陣を展開していて、僕の周囲を浮遊結界が包み始めていた。


(ちょっと……本当に……そんなに大騒ぎしなくても……)


 



 


《王宮騎士団 緊急連絡網》

発令内容:【第一王子ルカ・エインズレイ、軽度の発熱】


・園の授業:全面停止

・園児:面会制限あり

・騎士団:警備最大警戒モードへ

・魔法団:全治癒師、詠唱準備完了

・近隣の空気:浄化中

・ミミル:ぬいぐるみ安置所から正式回収


 


園からすぐに飛んできたのは、例の3人だった。


「ルカッ! 大丈夫!?」

「俺が氷枕用意した」

「ミミルちゃんに代わって僕が横で抱きしめるよ〜♡」


(……やっぱり来た)


ユリウスは看病マニュアルを握りしめて、完璧な手順で脈を測りはじめる。

レオンは無言で冷たいタオルを僕のおでこに乗せてくれた。

ノアはミミルの隣にすっぽりはまり込んで、僕の手を握っている。


「ルカがつらいなら、代わってあげたい……」

「俺の体温、分けてやる」

「ごはん作ってあげよっか?ミミルちゃんの分も♡」


(みんな優しい。でも……)


 


ほんの少しだけ、怖くなった。


前世で──「体調が悪い」と言ったら、

その代わりに身体を求められた日があった。


心配されることが、怖くて。

優しくされると、何かを取られる気がして。


「……だいじょうぶ、だから……。みんな、ありがとう……」


震えた声を出した瞬間、誰よりも早くミミルがぎゅっと胸に収まってくれた。


 


それを見た3人が、静かに膝をついた。


「……やっぱり、君を守れるのはミミルだね」

「ぬいぐるみに嫉妬したの、俺が悪かった」

「ミミルちゃん、かっこいい……」


そして、彼らは誰一人として無理に触れようとはせず、

ただ静かに、僕のそばでそっと見守ってくれていた。


 


(ああ……。これは、違うんだ)


前世の“奪う優しさ”とは違う。

ここにあるのは、“与えてくれる愛情”なんだ。


それに気づいたとき──ほんの少しだけ、目から涙がこぼれた。


「……ありがとう、みんな……」


ミミルを抱きしめながら、僕は初めて心から甘えるように、

小さな声で「そばにいて」とお願いした。


そしてその夜、僕は久しぶりに夢も見ずに、ぐっすり眠ることができた。


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