第29話:揺れる心
数日間の旅路の果て。
僕たちは、オルディア大陸でも最大級の都市――セントリアの門前に立っていた。
「ここがオルディア・セントリア。五大大陸のひとつ、オルディア大陸最大の拠点都市よ」
エリスが静かに告げた。
目の前に広がるのは、高くそびえる城壁と、無数の人々の往来。市場の喧騒、行き交う馬車、魔導機械の音――すべてが、これまでの村や町とは規模が違っていた。
「すごい……本当に、こんなに大きな街があるなんて……」
メルフィが目を輝かせながら僕の手を握ってくる。
「オルディア大陸……って、この大陸のことだよね?」
僕の問いに、エリスは小さく頷いた。
「ザルファン、ヴァルゼリア、ミルディオス……そして“あちら側”の領域を含めて、五つ。けど、それぞれに事情も違う。旅を続ければ、いずれわかるわ」
そう言って、彼女は視線を街の奥へと向けた。
――
街の中は活気に満ち、宿屋を見つけるのにも一苦労だった。
ようやく見つけた大通り沿いの高級宿――そこは旅人というより貴族向けの空間だった。
「今日は特別。ここに泊まりましょう」
エリスの一言で、豪奢な宿に泊まることになった。大浴場があり、料理も豪華。たまには、こういう贅沢もいいのかもしれない。
「すっごい、ふわふわのベッド~!」
メルフィが跳ねながら叫ぶ。僕は少しだけ笑った。
――そして、夜。
湯船にゆっくりと浸かった僕は、心の奥がじんわりとほどけていくのを感じていた。
(……なんだかんだで、平和だな)
先に風呂から上がり、部屋に戻った僕は、髪を拭きながらベッドに腰かけた。照明は薄暗く、窓からは街の明かりがぼんやりと差し込んでいる。
そして、しばらくして――
ギィ、と扉が開いた。
「……ただいま」
メルフィが、ふわりとバスローブ姿で入ってくる。髪はまだ少し濡れていて、頬が赤い。
「ちょっと……疲れちゃった」
そう言って、彼女はベッドの端まで来ると、そっとバスローブの帯を解いて脱いだ。
その下は、薄手の下着姿。迷いなく僕の隣へと滑り込んでくる。
「ちょ、ちょっと、メルフィ! 服!」
「ふふ……あったかくて、気持ちいいよ?」
僕のすぐ隣に、柔らかい肌がぴたりとくっついてくる。その体温に、思考が一瞬停止する。
(お、落ち着け……)
「……いいお湯だったわ」
今度はエリスの声。扉がもう一度開き、彼女がタオルで髪を拭きながら入ってきた。
「……最近、血を吸ってないせいかしら。なんだか、少し体が重いのよね」
バスローブを脱ぎ捨てた彼女もまた、下着姿で僕の反対側へと布団に入ってくる。
僕の視線に気づいたのか、エリスがふっと笑って、僕に視線を寄越す。
「……心配しないで。今夜は――我慢するから」
その言葉と同時に、彼女はそっと僕の頬へキスを落とした。
熱が、伝わる。
「……って、2人とも、服くらい着てよ!」
ようやく声をあげた僕に、メルフィが楽しそうに笑い、エリスは肩をすくめた。
「……ほんと、幸せものね、ルシアス」
僕の両脇に、すべすべで柔らかな肌がぴたりと触れる。
心臓の音が、自分でもうるさいほどに高鳴っていた。
――この夜、僕は眠れるわけがなかった。




