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紅月は独り夜を歩く  作者: H.BAKI
五大大陸と魔界
22/34

第21話:ふたたび歩き出す朝

薄く光が差し込む静かな朝の宿屋。


小鳥のさえずりが窓の外から聞こえ、あたたかな空気が部屋の中を満たしていた。毛布の中で丸くなっていたメルフィが、ぱちりと瞼を開ける。


「……うぅん……ん……」


彼女のすぐ隣、同じく布団に入っていた僕――ルシアスは、半分だけ目を開けながらその寝顔を見つめていた。金色の髪が朝日でやわらかく輝いている。


「……メルフィ、朝だよ」


そっと声をかけると、メルフィは布団に顔をうずめたまま、小さくむにゃむにゃと何かを呟いた。


「……ルシアス……あと、もうちょっと……」


「だめだよ。もう日が昇ってる」


「んぅ……エリスさんに、怒られちゃう……」


その言葉を聞いて、布団の反対側――椅子に腰掛けていたエリスが軽く笑った。


「怒ったりしないわよ、ただし遅刻は減点だけど」


「うぅ……減点もやだぁ……」


まだ目を閉じたまま、メルフィはぷいと横を向く。その様子に、僕もつい笑みをこぼしてしまった。


「……ほら、ちゃんと起きよう。今日は海沿いの町を出て、新しい道を探すって言ってたでしょ?」


「……ん、うん……起きるぅ……」


ようやく上半身を起こしたメルフィは、寝ぼけ眼のまま髪をかきあげて伸びをする。くすぐったそうな笑顔で、こちらを見つめてきた。


「おはよう、ルシアス」


「おはよう、メルフィ」


……。


朝食を終え、僕たちは町を出るための支度を整えた。


港町での騒動もひと段落し、あの海賊団の生き残り――カイゼルも牢に送られ、町は以前の平穏を取り戻していた。


「さて……出よっか」


軽く髪をまとめながら、エリスが立ち上がる。その表情は相変わらず穏やかだが、どこか緊張感を帯びているようにも見える。


「今日の目的地は、北東の小さな村。そこから先は、森を抜けて内陸の都市に入るルートになるわ」


「……エリスさんって、本当に色んな場所を知ってるんですね」


メルフィが感心したように呟くと、エリスは肩をすくめた。


「昔、あちこち放浪してたからね。無駄に知識だけはあるの」


「うぅん、無駄なんかじゃないです。エリスさんがいると、すごく心強いですよ」


「ふふ。そう言ってもらえるなら、悪い気はしないわね」


町の門を出ると、風が海の香りを運んできた。


僕はメルフィの隣を歩きながら、ふと気になっていたことを口にした。


「……ねえ、メルフィ」


「ん?」


「どうやって僕たちに追いついたの? 一緒に戦ってたわけじゃないし……魔物とかもいたと思うんだけど」


「ふふ、やっぱり気になってた?」


メルフィは小さく笑って、指を唇に当てる。


「実は、ご主人様が馬車を用意してくれたの。安全なルートで……裏道とか、ちゃんと整備されてるところを通ってきたんだって」


「そうだったんだ……よかった。でも、戦闘はしたことないんでしょ?」


「うん。私はまったく……役に立てることなんて、ほとんどないから」


少しだけ寂しそうに目を伏せる彼女の手を、僕は思わず握った。


「そんなことないよ。メルフィがいてくれて助かってる、ご飯も美味しいし」


「……ありがとう、ルシアス」


再び顔を上げたメルフィは、ふわりと笑った。


……。


日が高くなるころ、僕たちは緩やかな丘を越え、小さな農村の手前まで来ていた。


「ここで昼食にしようか」


エリスが立ち止まり、持っていた荷物を下ろす。僕も腰を下ろして水筒を取り出した。


「わたし、何か作りますね」


メルフィが器用にパンとチーズを取り出し、手際よくサンドイッチを作っていく。その横顔を見ていると、戦えないことが嘘みたいに感じられた。


「ねえ、ルシアス」


「ん?」


「……わたし、本当に何もできないけど……これからも一緒にいていい?」


「もちろんだよ」


僕は即答した。


「僕たちは仲間だよ。メルフィがいてくれるだけで、きっと僕もエリスも……ずっと強くいられる」


「……ありがとう」


メルフィは小さく呟き、僕の肩にもたれかかってきた。


その柔らかなぬくもりを感じながら、僕は空を見上げた。


これから何が待ち受けているのかはわからない。


でも――この仲間となら、きっと乗り越えていける。


そう、信じていた。


……。

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