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紅月は独り夜を歩く  作者: H.BAKI
始まりの物語
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第十七話:ふたたびの出会い

小さな村を離れた僕たちは、南へ向かう街道を歩いていた。

峠を越え、森を抜ければ、次の町――海に面した交易港へ至るはずだった。


けれど、その道の途中で。


「……ルシアス様、エリス様」


風に乗って届いた声。

振り返ると、草の間に立っていたのは、見覚えのある金髪の少女だった。


「メルフィ……?」


「はい。また、お会いできて、嬉しいです」


彼女は微笑み、小さな包みを胸元に抱えて歩み寄ってくる。


「どうして、ここに?」


僕の問いには答えず、メルフィは真っ直ぐエリスの前に立った。そしてそっと手元の包みを差し出す。


「ご主人様より、エリス様へお預かりしました」


エリスは黙ってそれを受け取り、封を切る。


短くけれど丁寧な筆跡。


“この子が外を見つめていた理由、ようやくわかりました。

もし行く先で彼女の力が役に立つなら、拒む理由はないでしょう。


今ならまだ間に合う――判断は、彼女に任せました。

……どうか、後悔のない選択を。”


エリスは一読し、無言で手紙をたたんだ。


「ご主人様は……何もおっしゃいませんでした。ただ、私の背中をそっと押してくれました」


メルフィは少しだけ俯いて、深く頭を下げた。


「もし……お邪魔でなければ、ご一緒させていただけますか?」


その声は真剣で、どこか不安げだった。


僕はエリスの方を見た。


彼女はしばらく黙っていたが、やがて静かに言う。


「覚悟があるなら、ついてきなさい」


「……はい!」


森沿いの道を、三人で歩く。


エリスは前を歩き、メルフィは僕の横に並んでいた。

どこか楽しげに、けれど少し緊張した面持ちで空を見上げている。


「……誰かと一緒に旅をするなんて、夢みたいです」


「旅って……こんな感じ、なんだね」


「ええ。新しい風の匂い、初めて聞く鳥の声。全部、ちょっとだけ胸がくすぐったいです」


メルフィがそう言って微笑むと、僕もなんだか自然と笑ってしまった。


――その夜。


場面は、ほんの少し過去にさかのぼる。


屋敷の広い廊下。

メルフィは窓辺に立ち、じっと遠くの空を見つめていた。


「……行きたいのか?」


背後から聞こえた声に、メルフィははっと振り返る。


「ご主人様……」


ラウヴェンは、いつものように静かだった。

けれどその視線は、まっすぐに彼女を見ていた。


「今ならまだ間に合う。君の心が、あの人たちに向いているのなら……」


「でも、私は……」


「後悔だけは、残さない方がいい」


ラウヴェンはそれだけ言って、懐から一通の手紙を取り出す。


「これを渡しなさい。君の判断を信じると、私は書いておいた」


メルフィの目に、そっと光が宿った。


「……はい、ご主人様行ってまいります!」


風の抜ける道に戻る。


今、彼女は確かに、僕たちの隣を歩いている。


その背に、迷いはなかった。


「ルシアス様」


「ん?」


「呼び捨てでもいいですか?」


「……え?」


「だって私達は旅のお仲間、でしょう?」


少し照れくさそうに笑う彼女に、僕も笑ってうなずいた。


「じゃあメルフィ。よろしく」


「はいっ!」


海沿いの町は、もうすぐだった。

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