第1話 マクギリスと理由のいらない愛
マクギリス・ウナトゥーラは、平凡な貴族である。
特に目立つ長所などはなく、いつも無難な選択肢を選び、平均的な成果をあげてきた。
貴族の家に生まれ、恵まれた環境で生きてきたと言う幸運はあれど、それ以外で幸運と呼べる出来事は起きなかった。
しかし、それはとある女性と出会うまでの認識だ。
彼は、リオナと言う運命の相手ーー貴族令嬢と出会ったのだから。
一目見た瞬間恋に落ちた彼は、わき目もふらず彼女の心を射止めようと奔走。
無難に過ごしてきた社交の時間を使って、情報を集め、リオナの好きな物や人間関係などを調べあげた。
リオナという女性は、マクギリスと同じで特に目立つところのない普通の女性だった。
誰かの目を引くほどの功績も上げていなければ、マクギリス以外を虜にするような美貌もない。
専門的な分野に秀でているという事もなかった。
一通り調べ上げたマクギリスは、なぜ自分が彼女に惹かれたのか分からなくなった。
しかし、その彼の考えは、苦労して作り上げたお見合いの席で、リオナからもたらされる。
「恋や愛に理由などいりませんよ」
何か原因があって恋に落ちるのではない。
愛が芽生えるのではないのだと。
リオナは確かに平凡な女性であったが、恋愛に関しては誰よりも深い考えを持つ人物だった。
そんな人物と逢瀬を重ねたマクギリスは、彼女に指輪を贈り、結婚。
リオナを自分の家に迎え入れた。
やがて妊娠が発覚して、一人息子が生まれるのだが、マクギリスはその時にはっきりと分かった。
愛に理由は要らないのだと。
抱え上げた腕の中で頼りなく小さく泣く我が子を見て、何もできないその子供を見てそう思った。
それから数年後、もう一人娘を授かったマクギリスは平穏な、普通の日々を送っている。
娘が大変な人たらしに育ち、異性の友達を多く持つようになったのは心配であったが、用心を伝えるもののその交流を絶とうとは思わなかった。
なぜなら、愛や恋に理由はいらないからだ。
好きになるべく好きになったのなら、相手が平民であっても、性格に多少の難があっても、不幸体質であっても、部外者がどうこういったところで意味がない。
恋や愛の火が鎮まるわけがないからだ。