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恋の終活始めました!  作者: 眞壁翠
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第三条

 夏休みが終わりいつものようにまた学校に行く。

 文化祭、体育祭、10月考査、修学旅行と秋は結構忙しい。

今は文化祭で上映するアニメの原画の最終チェック、中割り作成、動画作成と忙しく帰るのも遅くなる。

でも悪いことばかりじゃない。作業が終わった後にお菓子が食べられる。それが至福の時間だ。

「生き返るー。」

「ビール飲んでるおじさんみたいに言うね。」

そう言いながら千鶴はバリバリボリボリと煎餅を食べていて、そっちの方がおじさんっぽいと心の中で言う。

「でもさぁ一緒に帰れなくなっちゃったの寂しくないの?」

「まー寂しいけど、日和も練習頑張ってると思うとさ、私も頑張んなきゃってそっちの方が勝つんだよね。」

「おーなんか大人だね。」

本当に感心した感じの顔をしている。

「私もさ大人にならなきゃなー。」

「えっ?」

その声はため息混じりの嘆いているような諦めているようなそんな声だった。

慰めようかどうしようかと思ったがそのまま何も言わないことにした。千鶴の中にある何かを私はわからないし、千鶴はそこに人を介入させたいような人ではない気がするから。なんとなくだけど。


「いよいよ明日が文化祭ですね。前日準備気合いを入れて頑張りましょう!」

顧問に喝を入れられ私も皆もやる気がさらに入った状態で機械の不具合や手順の確認、掃除や装飾をする。

「すいません。ここのシフトなんですけど変わってもらえませんか。」

「あーそこなら全然大丈夫。」

千鶴が部長と話している方を向く。

「シフト変わってもらったの?」

「うん。バスケの試合見ないなーって。」

バスケってことは楓ちゃんがいるということか。

「それでもし良ければさ、春も一緒にいてくれないかな。」

「いいよ、行く。絶対に。」

「なんかすごい乗り気だね。」

千鶴はそう言いながら笑う。

「じゃあテニス部の試合も千鶴に一緒に来てもらっていい?」

「もちろん。」

待ってました、と言わんばかりの勢いで言われた。


「私54分の電車にどうしても乗りたいからバイバイ。」

そう言って千鶴は走って行った。

一人で帰るのは夏休み明けから久しぶりだなと思っていると

「おつかれ。」

どこからともなく日和が目の前に現れた。神出鬼没の日和様と心の中で呟く。

「いよいよ明日だね。」

そこから文化祭の話、小学校の文化祭の話、小学校の林間学校の話とたくさん話した。

「私の学校は新潟に行ってねすごい星が綺麗だったんだ。」

それをきいた今だ、と不意に思う。天体の話、電車からは夜空、今日は満月、いけるぞ。

「今日は月が綺麗だね。」

「え?」

「だから月が綺麗だなって。どうかしたの?」

「いや、え、それって…」

そうです。でもそんなことを言う勇気は私にはない。ましてや電車の中で。

「夏目漱石の言葉だよね。貴方のことが好きですって。」

「そうなの?ごめん、理系だからそういうの疎くて。」

それでも顔が赤くなる日和が可愛かった。だけど私が夏目漱石のそれと同じ意味だよなんて言ったって、貴方は私のことを好きではないのでしょと思ってしまう。


「第三条 「月が綺麗だね。」と言う ☑️』

寝る前にリストを見る。いっそ一生達成したければいいのにと思う。

 

「ねぇ待ってよ。ねえってば。」

疲れた。たくさん走った。鬼ごっこ。追いつけない。

「日和。」

呼びかけて日和はこちらを振り向いてくれた。けれど近づけば近づくほど私の足は動かなくなっていった。

やっと追いついた。タッチするぞ、そう思ってもしなぜか今度は腕が動かなくなってそのうちに全身が動かなくなる。日和はそれを見ている。動かなくても何か言わなければ。口も動かない。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

「夢か。」


 


 







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