第二条
-合宿-
夏休みも中盤に差し掛かろうとしている8月3日。今日から3泊4日のアニメ部の合宿が始まる。合宿といってもアニメのストーリーを考えたりキャラクターの作画をするのは午前中と夜のミーティングの時で、午後は観光をする。
「観光楽しみだね。」
バスの中は賑やかであまり聞こえないけど千鶴に、うん、と頷く。
千鶴は元テニス部で和葉と仲が良かった。千鶴がテニス部を辞めてアニメ部に入って私と知り合い、千鶴の紹介で私と和葉が友達になり、その和葉が私に日和を紹介して今の4人組ができた。そう考えると偶然が重なって今があるのだなと思う。
合宿3日目の夜
私は眠れなかった。
スマホを取り出す。
ガサッ
しまった。音を立ててしまった。
「春?」
千鶴を起こしてしまった。
「大丈夫。ずっと起きてたから。」
それなら良かったと胸を撫で下ろす。
「ねぇ聞いていい?」
何を聞くのだろうか。
「春ってさ、日和のこと好きなの?」
頭が真っ白になる。
「え、それってどういう意味で?」
「恋愛的な意味で。」
千鶴はすかさず返してくる。
正直に答えるべきか。千鶴は信頼できるし、相談できれば気持ちも幾らか軽くなるかもしれない。だけど、千鶴を困らせる可能性もあるし、そもそも何で私が日和のことが好きなことがわかったのかが気になる。
「そうだよ。」
「そうなんだ、やっぱり。」
しばらくの間沈黙が続く。
「どうしてわかったの?」
恐る恐る聞く。
「見てればわかるよ。昔の自分を見ているみたいでさ。」
「昔のって。」
「うん、私ね、昔好きな女の子がいたんだ。」
「その好きだった子とはどうなったの?」
勢いで聞いてしまったと思う。
「私がその子に想いを伝えて、振られて、お互い気まずくなってもう話してない。」
千鶴はその子に告白したということか。私も日和に告白したらもう一生話せなくなってしまうのだろうか。
何回か想いが実らないとわかっていても告白して、ちゃんと振られて日和の恋を応援する方向を考えたことがあった。
「ごめん。暗い話になっちゃって。」
「ううん、あのさ、私相談していいかな。」
「もちろん。」
千鶴に日和を好きだと自覚した時、日和には好きな人がいること、恋の終活のためのto doリストを作ったことを話した。
「終活ってことは想いを伝えずに応援するってこと?」
「うん。勇気ないよね私。」
「そんなことない。告白しないのも勇気だよ。告白せずに日和の恋を応援しようって決めたんでしょ。すごい考えに考え抜いた結論でしょ。」
「ありがとう。あと、映画館ドタキャンしたのってもしかしてわざと?」
「うん、わだと。」
「じゃあ和葉も知ってるの?」
「和葉は知らないよ。恋愛漫画の恋のキューピットがする必殺技ドタキャンして二人っきりにする作戦やってみたくない?って話したらやってくれたから。」
「確かに恋愛漫画とか必殺技とか言ったら和葉、話になりそうだもんね。」
「でしょ。意外とこう見えて策士なんですよ私。」
「よっ策士の千鶴。」
「よっ、て古くない?」
「そんなことないでしょ。」
いつも通りの会話をしばらくした後眠りについた。
帰りのバス
「千鶴、8月27日の花火大会一緒に行かない?」
「いいけど私と春と日和だと私一人が余っちゃうからもう一人誘った方がいいと思うけど。」
「一人余るとかじゃなくて普通に和葉も誘おうと思ってたんだけど。あっ、今回は必殺技出さなくていいから。」
「そのつもりでしたよ。だって毎回それやったら怪しすぎでしょ。」
自分で何当たり前のこと言っているのだとツッコミを入れたくなった。
花火大会当日
「たーまやー」
「かーぎやー」
赤、青、緑、黄色、白、紫、ハート型、星形、スマイル型、たくさんの花火が上がる。
儚く散っていく。
なぜか少し感傷的な気持ちになる。
ここの花火大会は2日間開催されていて、日和はもう1日は好きな子と見にいくのだろうか。見に行って欲しくない気持ちと見に行って欲しい気持ちが入り混じって複雑で。
左隣の日和を少し見る。うわー綺麗と目を輝かせている。
「そういえば合宿の時も花火見たよね。」
和葉が言う。
「そうだね。あの花火も良かったよね。」
日和が言う。
「千鶴もテニス部辞めてなかったら今年2回花火見れたのに。」
「うん、そうだね。」
惜しいそうな和葉の声とは正反対に千鶴の声は静かなものだった。
「そういえばさ、千鶴も突然辞めちゃったけどその2ヶ月後くらいに楓も辞めちゃったよね。」
「楓が?」
驚きを隠せない様子。私は推測する。千鶴が好きだった子はたぶんその楓ちゃんという子だ。
千鶴は今、楓ちゃんと話したいと思うことがあるのだろうか。
楓ちゃんは千鶴のことをどう思っているのだろうか。二人はもう本当に永遠に話すことはないのだろうか。
嫌でも考えてしまう。
私には千鶴みたいに告白するつもりはないのに。
「なーに考え込んじゃってるの?」
日和にほっぺをつつかれる。
「別に。」
「素っ気ないなぁ。あっ、もしかして好きな人のこと考えてた?」
「違うよ。だいたい出会いないし。」
嘘です。本当は私の好きな人、香坂日和のことを考えていました。
「それはそうだよね。」
そんなことは露とも思いもしない日和。
私が男子だったらこういう時意識してもらえていたのだろうか。いや、自分が女子で良かったと思う。だって女子じゃなかったら同じ学校に通うことも、同じクラスになることも、こうして一緒に遊んだり話したりすることはなかったのだから。
『第二条 花火大会に行く ☑️』




