39話 異世界は妄想
2028年になった。祥太郎は組織から研究室を大学の中に与えられていた。そこにはちょっと大きめのパソコンが置いてある。それは最新式のAIで祥太郎や世界各国の学者が発表したデータや、ハッキングした秘密のデータまで取り込まれ自己学習をしている。最近、真弓が日本に住み始めた。祥太郎が頑張っているので組織からの対応が良くなったのだ。真弓は祥太郎の世話が仕事になっていた。
当然、子供の佑太郎も一緒で今も祥太郎の研究室に遊びに来ている。忙しい祥太郎はあまり構ってくれないのだが、お目当はAIだ。
「祥太郎、何で生物は空気がないと生きていけないの?」
「佑太郎、質問がファジーです。動物は酸素を吸収してエネルギーに変えています。多くの植物は二酸化炭素を吸収してエネルギーに変えています。地球の空気はメインが窒素で酸素や二酸化炭素も含まれています。いま、地球上に生き残っている生物は地球の環境に長い年月をかけて対応したのです。ですので、空気がないとというより、今の空気成分比率に順応した生物だけが生き残ったという方が正しいです」
「祥太郎は何でそんなに詳しいの?」
「長年、多くの人が苦労して集めた情報が記憶として残っているからです。ビッグデータとも言います」
「ふうん、そうだ。僕ね、掛け算ができるようになったよ」
「佑太郎は4歳ですよね。人間の平均よりかなり早いですね」
「そうみたい。ママが凄いって褒めてくれたんだよ」
それを聞いていた祥太郎は、
「おい、佑太郎。何でそのAIが祥太郎なんだ?」
「パパよりも話し相手になってくれるからパパの代わりだよ。ママがそう呼んでいいって」
そう言われると何にも言えない。でもいいのかね、AIをそんな事に使って。佑太郎は暗くなる前に真弓が迎えに来て連れて帰る。最近はこれがルーチン化している。佑太郎は組織に英才教育を受けていたようだ。父親が僕とは思えないほど頭がいい。
祥太郎は佑太郎が帰ると影でやっている研究を始める。祥太郎は組織から核ミサイル発射装置を無効にする装置の起動スイッチを作るように言われていて、AIを使い8割方完成している。ところがこれ以上がなかなか進まない。外から電波を鍵の中に飛ばして、そこで3D化しスイッチを押すというこの技術、完成させるには何かが足りない。何度やっても細部まで3D化ができないのだ。AIは電波を出す金属の材質の問題と言うが、具体的に何かがわからない。ディープランニングであらゆる組み合わせを試したのだが結果が伴わないのだ。例の徳子ちゃんが持っていった猫のストラップに入っている物、一体どんなものなのか?
行き詰まっていて気分転換も兼ね、もう1つの研究をはじめていた。それは例の穴だ。テストではあの道路に空いた穴の再現ができない。そもそもこの装置は電磁波を飛ばして3Dキーを作るもので、あんな風に螺旋状のなにかを発生させたりはしないのだ。
「おっかしいよな。あの現場は下から何かが吹き上げて、そう螺旋状に捻れた竜巻みたいなものが発生したように見えた。でもどうやってもああはならない。風すら起きないし。もしかして風ではなく電波?だけど物理的な破壊だったんだよな、あの穴って。なあ、AIちゃんよ、どう思う」
「祥太郎。私の名前は祥太郎です」
「いや、それいいから。佑太郎がいない時は祥太郎にならないでくれ。なんか複雑だし。それより北条徳子だ。あの子はどこへいったのだと思う」
「祥太郎は異世界と言いましたが、過去に異世界に行ったと断定できるケースは存在しません」
「そうなのか?でも神隠しとか言うだろう。突然人がいなくなったりする事は昔からあるんじゃないのか?」
「それは川に落ちて亡くなったり、どこかへ家出して行方を眩ましたりしているのです。そもそも異世界というのはどういう世界だと思っているのですか」
「そりゃ、ゴブリンがいたり、美女の冒険者がいて露出多めで」
「論外です。ただの妄想です」
「AIには男のロマンがわからないんだ。ギルドの受付嬢に恋をしたり、チートなスキルでハーレムを作ったり。話が逸れたけど、お前はどう思う?異世界でないなら可能性がありそうなのを教えてくれ」
「原理は不明ですが、発生したエネルギー量と波動から推測すると未来へ飛んだと思われます」
「はあ、何言ってんの!タイムマシンかなんかに乗っちゃたってこと?」
「違います。そんなマシンはありません。時空間は波動でできています。時間はΩΩΩΩΩのような形状をしていてその線に沿って流れています。ところが、例えばですがループの頂点同士をつなぐことにより時間を短縮することができます」
「何だっけ?ワープとかホールドとかいうやつだ。でもあれは移動距離を詰めるだけで時間が飛ぶわけではないよね?」
「それとは違います。似て非なる理論です。祥太郎が先ほどタイムマシンと言いましたが、タイムマシンはループの頂点を進むことにより時空を超える仕組みです。ただ、理論上のことであり実現は不可能でしょう」
「何で?理論があれば実現できるはずでしょ?」
「それを実現するエネルギーが存在しないのです」
「じゃあ何で徳子ちゃんが未来へ行ったっていうのさ」
「可能性の話です。ですが、地下から地面に穴を開け上空に向かって舞い上がるような巨大なエネルギーを発生させて、その中心に北条徳子がいたならあり得ます」




