23話 出発
徳子は市長に毎日面談をしてこの世界の知識を増やしていきました。たまに鈴木さんがやってきますが、鈴木さんからはエロい視線を感じません。どうやら徳子が女だという事を市長から聞いていたようだ。市長から聞くとエロくならない?よくわからん。
あの後、何度かどんとこい東村山!へ新人類を連れて行こうと試したのですが、結局誰もたどり着けませんでした。新人類の皆さんは目が無く感覚で位置を把握しているようです。鈴木さんに聞いたところ、どんとこい東村山!の周囲は闇のように感じ、足がすくんでしまうとの事でした。徳子は何にも気にならないのにどうしてという感じです。
仕方なく徳子は一人で何とかしようと頑張りました。
「いっけー!ギャラクティカなんとか!大車輪なんとか!メガバズーカなんとか!ついでにハイパーなんとか斬り!」
びくともしません。掛け声だけですただ回そうとしているだけです。
「おかしい、なぜだ、なぜなんだ」
なんにも不思議ではありません。徳子もこんな掛け声で扉が回るとは思ってはいません。ただ何もしないでいるのに耐えられなかったのです。この世界に女がひとりきり、なのにいる男は巨人しかいません。会話は通じないし何にも楽しい事がないのです。
そんな中でもめげないのが徳子のいいところなのですが鬱憤は溜まります。
「スクリュークラッシャーなんとか!ドリルプレッシャーなんとか!ブーメランなんとか!ジェットなんとか!ハリケーンなんとか!スペシャルローリングなんとか!そして極め付けは幻の多角形なんとかだ!ハアハア、今日はこの位で勘弁してやるだわさ」
ただの鬱憤ばらしです。その時、徳子のディバックについていたストラップが急に光り出します。
「えっ、なになに?なんで光るの、これただのマスコットじゃん」
その時、カチリという小さな音がしたのですが徳子は自分の声の大きさで聞き逃してしまいました。徳子はマスコットに夢中です。
「ええと、これは確か、なんだっけ?」
徳子のディバックにはストラップが何個かついています。そのうちの一つは祥太郎からもらったもので後はどっかで手に入れたのですが記憶が曖昧です。
「なんだっけなあ?そうだ、どんとこい東村山!で買ったら付いてきたやつ」
なんかどんとこい東村山!のおばちゃんがいっぱい買ったらくれたやつだと思い出しました。そういえばあのおばちゃん優しくていい人だったなあ、8000年も経ってたら生きてる訳ないよなあ。あたいは生きてるけど。結局なんでストラップが光ったのかわかりませんでした。気のせいか、なんかの反射かと勝手に考えてその場を離れました。ぼちぼち戻らないと心配されます。滅多に出ない脱走兵が2日連続で出て大騒ぎになっています。変化点はどう見ても徳子ですが、本人は気にしてません。
戻ろうとすると鈴木さんが待っていました。と言ってもどんとこい東村山!には近づけないので少し離れたところで。
「北条様。よかった、戻りましょう」
「鈴木さん。どうかしたの?」
徳子はこの数日で敬語を話すのをやめています。敬語だとどうも調子が出ないのです。皆さんとも仲良くなりましたし、新人類の人達は徳子を敬っているみたいだし、開き直りです。そもそも徳子に敬語は無理なのです。少しくらいならともかく、この世界にはきてずっとなので。
「新宿に行く準備が整いました。出発します」
そうでした。新宿、都庁のあるところです。そこに翔太郎という名のAIなのかなんなのかがいるようで、近藤市長が言うにはそこに行けば色々とわかるそうなのです。というより行かねばならないと強く言われました。
この数日、市長から聞いた話の中に、各市長は北条徳子が現れたら新宿へ連れて行くという使命を代々引き継いできたというのがありました。なんじゃそりゃ?と思いましたが、近藤さんは真剣に話をしているのが伝わってきましたので茶化すのはやめました。どうも徳子が現れる事を知っていて待っていたようなのです。つまりあたいが未来へ飛ばされた事を知ってる人がいる?
新宿まで旅するのは、徳子、鈴木さんの他に、大塚さん、大石さん、高木さんだそうです。大塚さんは小平に顔が聞くそうで、大石さん、高木さんは魔獣を狩った経験があるそうです。市長に聞いたところによると、魔獣というのは昔は動物と言われていた生き物だったそうですが、今では人間を襲う事もある危険な存在として知られています。
魔獣の生態はよくわかってなく、各市では食料調達も兼ねて定期的に魔獣の狩りを行なっています。また、魔獣を調べる研究所がどこかにあるそうです。町には魔獣が出ません。町と町の間にある山野と呼ばれるところに魔獣は住んでいます。町には魔獣が嫌う音が発せられていて近づかないのだそうです。
徳子達は旧宿に向かって出発しました。まずは隣の小平市を目指します。