16話 人間の欲求
徳子は見事に爆睡しています。手足ボロボロに疲れていたところにフカフカベッドです。精神的にも疲れ切っていましたので当然ですね。徳子は眼が覚めると夢の中で聞いた声を思い出しました。確かどこかで聞いたことのある男の人の声で、あたいが悪くないとかなんとか言ってた気がします。
「どういう意味だわさ。私が何かしたとでも?身に覚えは………、ないだわさ」
徳子の独り言が聞こえたのか、世話係の佐藤さんが部屋をノックします。佐藤さんは市の職員で他の市との連絡係をしているそうです。今回、旧宿に行くメンバーの1人です。
「北条様、お目覚めでしょうか?朝食のご用意をしてもよろしいでしょうか?」
「はい。ありがとうございます。おはようございます」
そう言って徳子は部屋を出て挨拶をしました。佐藤さんも身長が3m位あります。出会った人全員がほぼ同じ身長なのは偶然なのでしょうか?あとまだ女性に出会えていません。以前、門番の人が幻の女性がどうとか言っていたので怖くてまだ聞けてません。この間の話だと人工授精なのかクローンなのか、女性はいなくても子供ができるみたいですし、つまりそういう事なのでしょう。
朝食は普通の食パンとサラダと目玉焼きだった。目玉が3倍位大きい目玉焼きだ。なんの卵かは聞くのをやめた。せっかく美味しいんだから聞かない聞かない。食事をしていると鈴木さんが来たようで何やら佐藤さんと話し込んでいる。祥太郎様がどうとかこうとか。祥太郎ねえ、うだつの上がらない浪人生と同じ名前なんて可哀想に。
その祥太郎様という人だかAIだかわかりませんが、そのお方に会いに行く事になっているのだが途中に魔獣が出るらしい。その対策に時間がかかっているみたいで出発日はまだ決まっていないそうだ。となると、もっと色々な事を聴きたくなる。
「佐藤さん、今日も市長とお話しできる時間は取れますか?」
「夕方セットしておきます。それまではごゆるりとお過ごしください。だいぶお疲れのようですし」
確かにまだ眠い。休みの日の女子高生は昼まで寝ているのです。おっとそれは言い過ぎですね。あたいは、だね。カレピッピとデートで早起きしてお弁当を作る人生、うーん、憧れない。それよりも浪人生の部屋でこっそりゲームでもしている方が性に合ってる。あっ、この世界にゲームってあるのかな?
「佐藤さん。時間潰しにゲームとかしたいのですが?」
「ゲームですか!どのようなものでしょうか?」
徳子はゲームしたさに一生懸命説明した。必死に説明したが伝わらなかった。
「うーん、無い物は仕方ないです。ところで皆さんは空いている時間は何をして楽しんだりしていますか?」
「空いている時間は食事と休息です。楽しむというのは仲間との会話でしょうか?」
「お話しするのは楽しいですよね。それ以外になんていうか、そう、欲求を満たすような楽しみって無いのですか?」
「欲求ですか?食欲、睡眠欲、会話欲、3大欲求については皆満たされています。食事は食堂で食べられますし、睡眠時間は十分に取ることができます。会話も躊躇なく思った事を言えます」
ん?なんか違う気がします。でもそう自信持って言われると合ってるような気も。人間の3大欲求って性欲とギャンブル欲とゲーム欲じゃなかったっけ?処女とはいえ完全俗物の徳子は、
「そうだ、ビデオとかDVDとかってありませんか。映像を見るやつ!」
異世界モノではなく未来モノってどんなのだろうとアホな想像をした徳子でしたが、
「映像ってなんでしょうか?」
と返されて撃沈です。そういえば鈴木さんがこの世界には男しかいないって言ってたっけ、男同士のは見たくないです。BLってわかんないっす。それはともかくこの世界には徳子が考えるような娯楽というものはないらしい。その創造主とやらがつまんないやつ確定!
という事で夕方まで暇になりました。鈴木さんが管理区域A3に戻るというので上まで付き合ってもらいます。スマホのマップで位置がわかるので外へ出ても迷子にはなりません。と、自信満々に外へ出たところで鈴木さんと別れて散策開始です。鈴木さんからは街からは出るなとキツく言われました。街と街の間には道はあるものの魔獣が出るそうなのです。鈴木さんによるとさっきの3大欲求で満たされているはずなのにまれに何かを求めて脱走する人間が出てくるそうです。脱走者は冷蔵庫を開けられない見えない仕組みがあって、結局食料を野生に頼る事になります。脱走者は食料とすべく魔獣と戦って死んでいくそうです。
「なんでそこまでして脱走するのですか?」
「わかりません。区域長はバグとかいっていましたがどういう意味なのかわかりません」
バグ。頭に浮かぶのはプログラムのバグです。簡単に言うとエラーですね。クローンかどうかはわかりませんがなんらかの技術で産まれた人間に元々備わっていた欲求が爆発するのではと考えました。徳子なら耐えられません。
「探索欲ってのもあるだわさ。好奇心の塊なのですこの徳子さんは」
徳子はスマホ片手に歩き始めました。