GW神隠し事件・二
読んでくださりありがとうございます
真夜中に自転車を走らせる。チェーンが回る音。タイヤが道路とこすれ合う音。
真っ暗で、眠りについた住宅街にはよく響いた。
「下校した直後、奈月先輩が変な宇宙人と対峙したんだ。きっとその宇宙人が犯人だと思う。どうしよう、人体実験とかに利用されたら」
胸の奥がザワザワして、モサモサと気持ち悪い感覚が襲う。しっかりしろと暗示を掛けないと、すぐにでも喚き出しそうで嫌だった。
「ねぇ。なんで誘拐や失踪が急に相次いだんだろうね」
「え?」
変な質問をしてくるから、咄嗟にブレーキを握った。振り返ると、茉莉がワンセグでニュースを見せてくる。キャスターが大まかだが、誘拐された年齢層をパネルで説明する。
『最近、SNSやインターネットで見ず知らずの人と交流できる場所が増えました。もしかしたら、この失踪事件も意図的に…』
ここで茉莉がブツンとワンセグを切った。
「誘拐された年齢層って、二十代前半から下が多いんだよね。私思うんだけどね、ただ地球人の生態をしりたいなら老若男女を片っ端から捕まえると思うんだ。若い人達だけってなると…生殖機能が適合しているから繁殖を目的として誘拐したとか?でも遺伝子さえあれば卵子や精子が無くても赤ちゃんが作れる技術だって宇宙にはあるんだよ。それに、地球みたいにまだ宇宙への進展が遅い惑星の先住民を売り飛ばすのはご法度なんだよね」
「あの、物騒なこと言わないでよ…。それに何が言いたいの?」
まさか安心させようとして不安を煽るような慰めをしているのだろうか。だとしたら、それは恐ろしい方法なので止めてほしい。
「ちぃちゃんに思い出してほしいんだよ。せっちゃん達が誘拐されるような理由。なんか思い当ることない?白咲姉弟だけなんか違うとか、誘拐された人達の中に知っている名前があるとか」
今度は可愛くデザインされたコンパクトを取り出し開くと、映像が浮かび上がる。まじまじと見ると、そこには失踪者の写真と名前と生年月日、年齢がずらりと羅列されている。
MIBのサイトだろうか。失踪事件の行方不明者リストと明記されている。
「…MIBのサイト、ハッキングしたの?」
「まさかぁ!サイトに辿り着ければ誰でも見られるようになっているんだよ。で、どう?見覚えのある人いる?」
「ご近所づきあいとか苦手だし…関わってないし。そう言われても…」
だけど。苦手だった(・・・)人物と同じ苗字を見つける。それは刹那達にも共通する点があった。
それはずっと怯えていた頃の記憶。ついこの前までの話。
「…ある。共通する点!刹那達が誘拐された理由かもしれないヒント」
まだ幼稚園児だった頃だ。
白咲家と黒岩家の皆でお食事会をしたことがあった。
この時、刹那の父と祖父の顔が黒塗りになっており、怖かった。だから言ってしまったんだ。言葉に出してしまったのだ。
『どうして伯父さんと刹那のおじいちゃんは顔が真っ黒で見えないの?』
そこからは両親から怒涛に怒られた。罵られた。
――また嘘吐いて!気色悪い!ごめんなさい、この子、虚言癖があるんです。
嫌な過去から現実に意識がゆっくりと戻って来る。
『あの時は両親意外の親族が止めてくれて、両親を怒ってくれました。でもそこから悪化していったんです。僕の家族関係が』
蓋をしていた記憶。忘れようとした過去。
――黒岩さんちの坊ちゃんじゃないか。こんにちは
それは庭掃除をしていた穏やかな老人の声だった。だが、顔が塗りつぶされていて、怖くて逃げ帰った。今思えば、刹那の父も祖父も、あの時挨拶をしてくれた老人も宇宙人、あるいは混血だったのだ。
「…だから、怖くて挨拶出来ないおじいさんとか、おばあさんが居たんだ。怖くて苗字だけは覚えて、その人達の家に近寄らないようにしてた…。リストの中に同じ苗字の子が何人かいたよ。年齢的に孫だと思う。たぶん、刹那も含めて誘拐された人達は宇宙人のクォーターの可能性がある」
「手がかりその一、見つかったね」
茉莉が二パッと笑った。
「犯人候補の宇宙人、まだここら辺に居る気がするんだよね。ちぃちゃんが怖がって近寄らなかった家に行ってみよう。まだ無事かもしれないし、これから誘拐されるなら張り込んでとっ掴まえよう!」
「それはちょっと…。でも…やる、しかない!」
千鶴はペダルを踏み、漕ぎ始めた。従姉弟を助けたい一心で。
いつも刹那には助けてもらってばかりだった。だから、今度は自分が助ける番だと、怯える気持ちを奮い立たせた。だって、今は心強い味方だっている。
普段体育が苦手で、運動嫌いの千鶴が茉莉を荷台に乗せて自転車を走らせるのは相当の体力を消耗した。まず一件目の家がもうすぐなのに息切れをしている。
「うぅ、あともうすこし…」
「ちぃちゃん、あれ!」
疲弊する意識にピントを合わせて指さす方を見ると、変な姿の宇宙人が目的の家の二階窓に張り付いていた。脳が一気に覚醒し、叫ぶ。
「誘拐だ!」
「ちょっくら行ってくる!」
茉莉は荷台に足をかけると強靭な脚力で跳びあがった。その反動で自転車の後輪はへしゃげ、千鶴は派手に横転しそうになり目を瞑った。
「大丈夫か?」
尻餅を突いた痛みは走るが、思っていたほど激痛は無い。寧ろ、誰かが受け止めてくれたお蔭で激痛を味合わずに済んだ。恐る恐る片目を開けると、東十条が覗き込んでいた。
茉莉は勢いのまま侵入しようとしていた宇宙人の顔面を鷲掴みにし、窓からひっぺがえすと道路にクレーターが出来る馬鹿力で叩きつけた。
「お前!誘拐した地球人をどこにやった!吐け!吐け!」
茉莉はガンガンと宇宙人の頭を道路に叩き付き続ける。人体から鳴っちゃいけないような音を立てながら、後頭部が半分以上ぐちゃぐちゃになっているのに気づきもしないで。
「バカかてぇめェは!」
茉莉の右頭部に蹴りが一発入る。
西河だ。茉莉は鬱陶しそうに西河を睨んだ。
「は?正気だが?」
「正気なのは解った。解ってやる。だけどな、折角見つけた誘拐犯殺してどうすんだよ!情報聞き出す作戦がパーだろ!ポンコツ!」
握っていた宇宙人を持ち上げると、後頭部は原形をとどめておらず、顔も握力のせいで酷い有様だった。茉莉は悲し気な表情をするとポイッと道路に捨てた。
「やっちゃった」
「だろうな…。お前がオーフィシェルの民って察した時点で注意しとくべきだったわ。まさか黒岩とつるんでるなんて思いもせんかったわ」
「手、汚れちゃった。タオルかウェットティッシュ持ってない?」
「あんな、俺はママじゃないんだから持ってねぇよ」
二人がいがみ合っていると、東十条と、その後ろに隠れながらへっぴり腰で近づいてくる千鶴が宇宙人の死体を見る。
「…酷い有様だな」
「ちょっと、気持ち悪いかも…」
いくら敵とはいえ、悲惨な現場を見てしまったのだ。千鶴は吐き気を催しながらも、西河と東十条に向かい直す。
「あ、ありがとう。来てくれて」
自宅を出る前、千鶴は西河から渡された何でも屋同好会の名刺に連絡を入れたのだ。助けてほしい、従姉弟を助けたいと。
「気にすんなって。何でも屋同好会の本領発揮よ。ちゃんと約束は守る。従姉弟のこと助けるぜ。それよか、お前大丈夫か?顔色悪くね?」
「ちぃちゃん、一旦どっかで休憩しよう!」
一体誰のせいで血の気が引いているのか、一旦考えてほしいものである。
すると西河の携帯に着信が入る。魚住からだ。
嫌そうな顔をしながら「もしもし」と出る。
『貴方達、今私の自宅付近にいるでしょう。騒々しい音がしましたよ。一度、こちらへ来てください。いいですね、絶対に、来て、くださいね。返事は?』
「承知の助…」
『では、また後程』
それだけ言い終わるとツー、ツーと切れる。
「…やっちまった」
西河はヘロヘロと頭を抱えしゃがみこんだ。
魚住宅は市内でも立派な門構えと日本家屋でちょっと有名だ。曾祖父が市長だったとか。当時建てた家が、今も世代を超えて住まわれている。
だから、市内には今も魚住家を崇めると言うか、信頼して相談を持ち掛けに訪れる人や、市議選や市長選に出ないかと古い付き合いの市民が訪れる…と聞いたことがあった。
「土着愛か…嫌だねぇ。どこの星にもあるんか」
「おじいさんはもう亡くなっているし、お父さんも貿易関係の仕事してるって噂で聞いたことあるよ。それでも選挙の年になると説得しにくる人が絶えないって…中学んとき、クラスで話題になってたな…」
今思えば、魚住家にとっては迷惑極まりない話であろう。持ち上げようとする奴等も奴等だ。もう、今の
魚住家の家庭が築かれているのに。最早お節介を通り越して嫌がらせの域だ。
「つうか、曾祖父って、えぇっと、大正時代か?昭和初期とか?そのあたりに市長やってたんだろ?それなのに子孫に出馬しないかって可笑しな話だな」
「ここもベッドタウンで比較的都市部に入るけど…意外とまだ根強いんだよね、そういう地元愛というか、先祖代々みたいなの。特に老人」
ひしゃげた自転車を担ぐ西河の隣を千鶴が歩き、茉莉と純は二人の後ろを付いて歩いた。茉莉は千鶴と喋りたそうにしているが、千鶴の気分悪化が自身のせいだと発覚し、申し訳なさから西河に会話を譲っている状態となっていた。
(喋りたいなら入って来ればいいのに。あ、でも茉莉って、人見知りするタイプなのかな…それとも西河みたいなタイプは苦手とか?)
どうやら、千鶴に茉莉の気持ちは届いていないようだった。
「ここ」と千鶴が魚住と立派な字で書かれた表札が掛かった門を差す。
すると西河と東十条が見合い、どちらがインターホンを押すかで目でケンカをし始める。
「ジャンケンで決めるか」
「文句は無しな」
「来ているのは解っています。さっさと入ってください」
突然声をかけられ、四人はビビってビクッと身体が跳ねる。そこには小門から顔を覗かせる魚住がいた。
「お前はエスパーか」西河が反射的に言う。
「アンタ達の行動なんて予想できるんですよ。黒岩くん、北沢さん、大変だったでしょう。一旦休んでください」
「魚住さん!手を洗いたいので洗面所を貸してください!」
「もちろんですよ」
西河達に対する態度から、茉莉達には柔和な態度に一変する。慣れると本性を現すタイプなのか。それとも、西河と東十条へのイラつきが態度に出てしまうのか…。
千鶴は魚住を怒らせるようなことはしないようにしようと心から誓った。出来るなら、優しく対応されたいのが本心だ。
魚住低はもはや文化財レベルだった。
「おばあちゃん、友達を連れてきたの。リビングに置いといてもらってもいい?」
「あら、早かったわね。どうぞ、お好きな席にすわってくださいな。お腹は減っていない?夕飯で残った豚汁があるの。夜食に、おうどんでもいれてどうかしら」
灰色と白髪の綺麗な髪をショートカットは、癖毛で波打っていた。寝間着用の浴衣を着て、千鶴達を出迎える魚住祖母は上品な出で立ちだった。
「北沢さん、洗面所はこっちです。黒岩くんはちょっと私に着いてきてください」
魚住家の家は広かった。母屋から離れに続く小さな橋。長い廊下。木造は年季が入っており、ニスの影響もあるのか黒く鈍く光っている。
「部屋で待っていてください」
待たされたのは、魚住の部屋だった。障子はカラフルな和紙で柄が入っている。すずらん型のペンダントライト。ミスマッチな白い洋風な箪笥にベッド。クマのぬいぐるみが枕の隣に鎮座している。
あまり女子の部屋を見渡すのは良くないと解っていても、この不思議な空間に魅了されていた。
(刹那、こういうの好きそう)
早く助けないと。焦燥だけが募る。
「お待たせしました。祖母から許可をもらったので、手当てしましょう」
「え」
「怪我、されているのでは?」
ハッとなり、左腕を見ると血液が流れ乾いた跡が手首に残っていた。
「だ、大丈夫です」
「…貴方の大丈夫は信じないようにしているんです」
そう言うと、有無を言わさず魚住が袖を捲って来る。ベタベタに貼られた絆創膏から血が滲み、たいしたことがないのに悲惨なものに思わせる。魚住は黙ったまま、救急箱から謎の太めテープを取り出した。
「これは宇宙商会から買った医療品です。これを貼っておけば、まぁ傷口は綺麗に治りますよ」
「あ、ありがとうございます」
絆創膏を剥がし、消毒をし、血液の跡を拭きテープを貼っていく。
無言の時間が続き、気まずくなる。
「う、魚住さんも宇宙関係の人だったんだ…」
「祖父がそうでした。この眼鏡も祖父の遺品です。これが無いと、誰が宇宙人か解らないんです」
「そう、なんですね」
魚住は千鶴の腕に残る傷跡を見て、疑問が生まれる。黒岩の叔母はMIBだ。この医療用テープだって買おうと思えば買えるし、宇宙関係の病院で治療させることだって出来たはずだ。なのに、どうして日本で受けられる治療方法を選択したのだろうか。
千鶴に知られるわけにはいかなかった。それもあるかもしれない。でも、…いじめが原因で自分を追い込んだ傷なのだったら、消してあげたいと思う。
「魚住さん?」
「あ、これで終わりです。しばらく剥がさないようにしてくださいね」
「ありがとうございます…」
不思議だった。
どうして自分を攻撃するのか。自傷するのか。誰かに助けを求めればいいのではと考えてしまう。でも、それが出来ないから最悪の結末になることがある。「助けて」言えない子もいる。
だったら
私は彼の味方でありたい。もう「知らなかった」では済まされない。
「さ、居間に戻りましょう。今夜はもう休息です。焦る気持ちも解りますが、こっちがダウンしたらいざって時に動けませんよ。明日、探すのに私達も協力します」
千鶴はどこか焦りと腑に落ちない顔をしていたが、見なかったことにした。
客間で、千鶴は西河と東十条と眠りについていた。
あの後、豚汁をご馳走になり、どこかホッとして、落ち着きを取り戻した。夜間も警察とMIBが巡回している。プロに任せて、今は休むことにした。
(刹那と瞬、まだ地球にいるよね…)
不安で眠れないかと思ったが、疲労がどっと押し寄せいつの間にか眠りに落ちていた。
・・・
「ここ…」
意識がクリアになっていく。千鶴は目の前の後継に息が出来なくなった。
人が入れるカプセルが下から上までぎっしりと詰まれている。それは円形の建物に沿っており、手前にあるのはまだ一部だろう。奥にもまだカプセルがあるのが見える。
「何、これ…」
起き上がり、辺りを見渡す。よく見ると、カプセルには人が入っていた。
もしかして、誘拐された人達?
(わかんない、わかんないけど助けなきゃ!)
千鶴は何故カプセルに閉じ込められているかも判らない人物を助けようとカプセルを開こうと叩いたり、引っ張ったりする。しかし取手もなければ押しても開かない。上から出し入れするのだろうか。
「千鶴…?」
知っている声が自分を呼ぶ。
振り返ると、困惑した表情の霜月が立っていた。
「ぁ、あ…!霜月先輩!助けてください!」
「お前、まさか実験体だったのか?!」
「実験…?」
口を滑らせた、と霜月が口を隠した。
「大丈夫、今逃がしてやるからな。お前は逃げろ」
「待ってください、霜月先輩はどうしてここに…?先輩も誘拐されたんですか?」
「…えぇっと、それは…」
口が重く、濁すような言い方に千鶴が顔を曇らせていく。
「先輩が、この事件の犯人、なんですか…」
「ごめんな、千鶴。今は言えないけど、花緒や千鶴が悲しむようなことはしないよ。絶対に」
「は…!潜入捜査って、やつですか?」
「そう!そんな感じ…。とりあえず、こっちにおいで。…あと、ここから逃げたMIBに伝えてくれ。明後日、新都心でキャトルミューティレーションが起きる。同時に荒川で最後の実験体引き渡しが行われる」
伝えると、霜月は千鶴の手を掴み避難口へ歩き出す。
「待って、刹那と瞬が捕まってるんです!従姉弟なんです、助けたいんです!」
「親戚が捕まってんのか?解った。俺が捜しておくから、まずは千鶴は逃げろ。今言ったこと、ちゃんと伝えてくれよ」
その時だった。
優しく微笑んでいた霜月が驚く。その光景を最後に、千鶴の意識が途絶えた。
・・・
目が覚めると、木目の天井が広がる。
(そうだ、昨日は魚住さん宅に泊まったんだ…)
伸びをし、身体をほぐす。
「あれ…俺、夢見てたのに、忘れちゃった。なんだろう…どんな夢だったっけ」
全然思い出せない。思い出せないのに胸に引っかかって気持ち悪い。
とんとん、と襖が叩かれる。
「弟の方です。朝食が出来たので起きてください」
魚住の弟が襖越しから伝えると、戻っていく。
「あ~、もう朝か。早いな」
西河が独特な伸びの姿勢を取る。
「朝飯食ったら今日はどこを探すかね」
「そ、それなんだけど。祖父母や両親のどっちかが宇宙人に持つ人が狙われてるって、仮説立てたんだ。だから、そこら辺調べれば昨日遭遇した宇宙人にまたかち合うかも」
「そりゃいい作戦だな!探す場所が絞れるに越したことはない!」
すると東十条が、唐突に千鶴が着ていたパーカーを差し出してきた。
何がしたいのか解らず困惑していると、淡々と喋りだす。
「バイブレーションがずっと鳴っていたり、ライトが点滅してたぞ」
「あ、ありがとう…教えてくれて」
パーカーには自分の携帯と、刹那の携帯が入っている。千鶴の携帯に着信履歴やメールは入っていない。となると、刹那の携帯だ。申し訳なさを覚えつつも、何か情報が得られるかもしれないと履歴を見る。
同級生と思われる名前の中に、どこかで見た事のある名前があった。
「…小鳥遊汐瑠って」
「三組にいる生徒だろ」
電話帳にも小鳥遊が登録されている。友達フォルダにも登録されメールはここに受信されていた。
「刹那ちゃん、気づいたら連絡ください――。安否確認の内容ばっかりだ」
「小鳥遊ってあの焔煌鳥人族とつるんでる女子だろ?クラスでやべぇことが起きてさらに浮いた感じになってるぞ」
西河が興味無さそうに答える。
「えんこう…?三組、なんかあったの?」
「お前シスターペストに襲撃されて入院してたんだっけ?虫とか苦手なら聞かない方がいいぜ」
あんまり聞かない方がいいようだ。
千鶴はその小鳥遊へ返信するため打ち込み始める。
「どうするんだ」東十条が訊く。
「宇宙人と一緒にいるなら何か力になってくれるかもしれない。それに、刹那の友達フォルダに入ってるくらいだから、結構仲良いと思う」
自分が従弟の黒岩千鶴であること、同校の四組であること、そして刹那が誘拐されたこと、そして南野も連れてきてほしいと簡潔に書くと、送信した。
三十分もしないうちに、小鳥遊と南野が魚住家に訪れた。
「刹那ちゃんから、従弟が川高にいるってきいていたけど、黒岩くんだったんだ」
小鳥遊は黒目がちの瞳に僅かに光が宿る。
「俺は小鳥遊さんと小学校が同じで仲良しだって、聞いたことすらなかったです…」
なんだろう、この差の扱いは。
「初めまして。南野柚木です。黒岩君は僕の正体…解ってるんだよね?」
「う、うん…」
「じゃあ、誤魔化さなくていいんだね!よろしく!」
一気に距離を縮め、手を握って来る。同性だと解っていても、見た目が美少女なので不覚にもドキッとする。
「立ち話もなんです。居間へどうぞ」
魚住が二人を案内する。
そこに、千鶴の携帯に着信が入る。花緒部長からだ。
「もしもし?部長、どうしました?」
『あ、黒岩君。忙しい時にごめんね。時間取らせるのも申し訳ないから単刀直入に訊くね。ねぇ、霜月くんから連絡とかきたりしてないかな?連絡したら、朝にはいつも返してくれるんだけどね、今日は朝になっても返信がなかったの』
「それって、霜月先輩にも何かあったってこと…あ」
そうだ。
そうだ、そうだ。――俺は夢を見たんだ。霜月先輩と会って、それで――
「わ、わかんないです。でも、どうしよう、わかんない…!」
『黒岩君?!大丈夫?ごめんね、大丈夫だよ、大丈夫だから落ち着いて!』
千鶴のパニックにいち早く気付いた茉莉が駆けつける。
「ちぃちゃん!どうしたの?あ、花緒先輩、あとでまた連絡します!」
切ると、茉莉は千鶴の背中を摩る。
「大丈夫だよ、私がいるんだもん。せっちゃんも、瞬くんも絶対助けるよ」
「茉莉、どうしよう…。あの、あの。俺の話、信じてくれる?」
不安でいっぱいの瞳が茉莉を捉える。茉莉は微笑むと、頷いた。
「もちろんだよ。ちぃちゃんの話は、なんでも信じるよ」
「…俺、夢の中で霜月先輩に会ったんだ。先輩は…なんでいたか忘れちゃったけど。誘拐された人達がいっぱいいた。それで…えっと。さいたま新都心と、荒川で何かするって教えてくれた」
「ふーん…。なんだろう。ねぇ、みんな!ちぃちゃんが重大情報ゲットしてきたよ!」
茉莉の一声で居間がどよめく。
事情を説明すると、魚住は半信半疑だったが、西河と茉莉は乗り込む前提で話を進めていく。
「夢の話でもなんでも関係ねぇぜ!正夢ってやつかもしれねぇしな!」
「明後日でしょ?なら二手に分かれて犯人をとっ捕まえよう!」
「ストップ!」
魚住が一旦止める。
「まずはMIBに情報提供をします」
「でも信じてくれなかったら?」
茉莉が不服を申し立てる。
「…私達だけでどうにかします。じゃないと、従姉弟さん達も、霜月先輩も危険なんですよね。お集まりになってしまった皆様、お覚悟の方はいいでしょうか。来た以上、道連れですよ」
魚住の言葉に皆が頷き、西河はニッと笑った。
「決まりだな」
ここから形勢逆転に簡単になることもなく。だけど、一本の解決の糸は見えてきた。その糸が切れないように、千鶴達は動き出す。
例え大人に止められようと、反抗心と未熟な精神のくせに大人ぶる高校生を舐めないでいただきたい。




