生と死・1
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それは放課後の事だった。もうテスト週間が近づいてきたある日のことだ。志摩が暇そうに廊下を歩いていると丁度下校しようとする柚木と汐瑠を見つけた。これ幸いにと言わんばかりに、二人を捕まえる。
「柚木、汐瑠!これから帰るのか?」
「そうだよ。でも汐瑠さんの居候先でテスト勉強するよ」
それを聞いた志摩は、あからさまに嫌そうな顔をした。実は魚子も純も、今クラスに残ってテスト勉強をしているのだ。志摩は中の下の成績。勉強を積極的に学んでいる訳ではなかった。だからつまらなくなって、二人が帰るであろう十九時までフラフラするつもりだったのだ。
「二人も勉強かぁ…千鶴達はどうだろう」
「部活だと思うよ。今週が終わったらテスト期間に入って部活動は停止するしね」
「魚子さん達はどうしているの?」
尋ねられたので素直に答えると、汐瑠と柚木の様子が変わる。まるでいい事を聞いた、とでもいうように表情に明るさが灯るのだ。
「魚子さんは言わずもがな、純君って上位だもんね、成績」
「うん。教えてもらうにはうってつけだよ」
「志摩君、僕達一組に行くけど、どうする?」
それを聞いた志摩はまたがっくりとくるのだった。折角放課後残らない友達に会ったのに、二人は勉強会をする予定が、今すぐ合流して成績上位者に教えを乞おうとしているのだ。
「俺はいいかな…」
「それは残念。それじゃあね。また明日」
「ばいばい、志摩君」
二人は手を振ると、一組に向かい歩いていく。そして教室に入ると、賑やかな声が聞こえてくる。もういっそ、美術部へ向かい、見学でもしようかと思うほどだった。それだけ志摩は勉強が嫌いだった。テスト三日前に魚子と純に教えてもらうのが相場となっていた。
美術部では、マーブルをしてはしゃいでいた。やれこの色どうしがいい、これもいい、あれもいいと三人で興奮していた。失敗しても笑って何かに使えると試行錯誤をする。
「ねぇ、これを便箋にしたらおしゃれかな?」
「いい案だな、世界に一つだけの便箋になるし」
夕陽が茉莉の提案を肯定する。それに喜び、茉莉は綺麗だと思う色の三種類を水に垂らしていく。そして紙を置き、すっととりあげる。すると思った以上に成功し、茉莉は歓喜するのであった。
「便箋に、ってことは、誰かに手紙でも書くの?」
「ふふーん。実はお姉ちゃんから手紙が来たんだよね。来たときは良い香りがしたんだけど、今はもう消えちゃった」
茉莉が鞄から大事そうに手紙を出す。「読んでいいよ」と渡された。
読んでいいよと言われても…しかし、シェルピスがどうなったか、気になっていたのは事実だ。千鶴は封筒から手紙を取り出し、読み始める。
『茉莉へ。この間はごめんね。あれから私が務めている支部では自殺者も、安楽死を望むヒトもいません。皆、苦しいけれど、辛いこともあるけれど、同士として手を取り合って生きていくことを決めました。ただ、本部から何か言われたらアウトだから、何とか新しい居住地を探さないといけないから皆慌ただしくしています。埼玉の方に移動してきたので、好きな時に遊びに来てね。おやつを準備して待っています。シェルピス改め北沢樒。』
「よかったね、茉莉」
「うん!」
「なんだ?仲たがいしていたとか?」
夕陽が訊いてくるので、茉莉はうーん、と首を傾げながら答える。
「そうと言えばそうだし、なんか違うと言えば違う」
「なんだそりゃ。まぁ仲直り出来たならよかったけどさ。マーブルの続き、しようぜ」
すると「たのもー」とやる気だけはありそうな声が美術室に広がる。志摩が来たのだ。
「どうしたの」
「美術部見学しようと思って」
「魚子さん達が勉強会しているから一人なんでしょ」
千鶴が指摘すると、志摩は気まずそうに笑う。図星だったようだ。
「まぁ、そうなんだよ。柚木と汐瑠も向こうに合流しちまったからさ。つまらなくて」
そうだろうと思った。千鶴はそんな志摩に笑いかけた。そして後ろから夕陽が現れる。
「見学はいつでも歓迎だぜ。今マーブルっていう技法をやってんだ。よかったらやってみなよ」
「ありがとうございます」と志摩が会釈をすると、夕陽に案内されてマーブルを行っていたテーブルの前に立つ。ほう、と珍しそうにマーブルを眺めている。絵具を観ずに垂らすと、美しく煙が立つようにゆらめく。それをまた一滴、一滴と違う色を乗せていく。そこに紙を置き、さっと取り上げる。
「こうやるの」
出来た作品を志摩に見せると、「おぉ」と感心の声を上げる。
「すげぇ、俺もやりたい!」
「どうぞ、好きなだけやりな」
夕陽と茉莉は完成した絵を並べ乾かしている間、千鶴は志摩の手伝いをしていた。
「茉莉はお姉さんに手紙を送るって言っていたよ。志摩もご家族に送ってみたら?」
「うーん。どうだろうな」
「どう…?」
「俺んちって、じっちゃんとばっちゃんが育ての親なんだよ。俺の両親は同性同士でさ。おまけに何が理由か知らないけど若いうちに死んじまったらしいんだ。俺の故郷では同性の結婚や花の生命技術はタブーみたいな風潮があったんだ」
「え…じゃあ。志摩は……その生命の花で生まれた子で、そういう風潮ってことは…」
「そ。親戚からも厄介者扱いされて、老体に鞭うつようにじっちゃん達が俺の事育てたんだ。後ろ指刺されながら」
同性結婚で疎まれ、その結末が理由の解らない早死に。そして育ての親である祖父母からも嫌がられながら育てられた。それがどうしても、胸が張り裂けそうになった。こんなにも人を放っておけないような人物が、愛情を得られない環境で育ってきた。こんな事実に、千鶴は思わず志摩の手を取った。
「おぉ、どうした急に」
「……志摩は立派な奴だよ。人助けもするし、俺のこと助けてくれた」
ありきたりな言葉しか出てこない。そんな自分が悔しい。もっと気の利いた言葉が出て来ればいいのに。
「今頃俺のありがたみを知ったか?思う存分噛みしめるといいさ」
「話してくれてありがとう」
「おう。いい機会だったしな」
なんやかんや作業をしているうちに、十九時を迎える。下校しようと下駄箱にいると、魚子達も丁度やってくる。
「千鶴君。これからうちで勉強会をするんですが、三人もどうですか?」
「え、いいの?是非お邪魔したいです」
「いいね!いいね!楽しそう!」
「遊びに行くんじゃねぇんだぞ…」
茉莉が喜ぶのに対し、志摩はどこかうんざりとしていた。そんなに勉強が嫌なのだろうか。千鶴もそこまで勉強が好きなわけではないが、友達と語りながら、談笑しながらの勉強会だったら大歓迎だった。寧ろ、友達同士で勉強会なんてしたことがなかったのだから。中学生の頃に無くなった青春を今こうして取り返している…というと違うが、謳歌していることには変わりなかった。
「志摩も行こうよ」
「じゃあ教えてもらうかぁ。俺の事を学年順位上位になるように指導してくれ」
「何言ってんですか…。勉強は教えますけど、あとは実力ですよ」魚子が呆れる。
こうして七人は魚子の自宅へお邪魔することになった。そこでの勉強会は騒々しく、賑やかで楽しかった。おまけに夕飯までご馳走になり、お腹まで満たされた。千鶴も教えてもらった甲斐があり、あやふやだった問題もすんなり解けるようになっていた。
そんな楽しい光景を、見ているヒトがいたことに千鶴達は気づかなかった。
それは翌日の事だった。廊下を歩いていると泰斗がいたのだ。千鶴は声をかけるか迷ったが、助けてもらったお礼もろくに出来なかったことを思い出し、声をかけてみる。
「泰斗」
「おぉ、お前のことを待ってたんだ」
「それなら四組に来てくれればよかったのに」
千鶴は泰斗の隣に並ぶと壁に寄りかかる。すると、泰斗はポケットから宝石を差し出してくる。
「何…急に」
「二十一グラムの宝石だ。俺が探している魂の重さと同じ重さだ」
そう言えば、そんなことを言っていたことを思い出す。
「見せびらかしにきたの?」
「いや。なんか知らんが千鶴には伝えておいたほうがいいかなって。いるか?俺が生まれた日に家族が用意した代物だ」
「そんな大事なものを簡単にあげるとか言うなよ。あげるとしたら、そういうのは大切なヒトにあげるべきだ」
「……なるほど。俺はただ、慰謝料の代わりと思って…」
しょんぼりんとした泰斗は納得したのか、宝石をポケットに仕舞う。
「いないの?そういうヒト」
「悲しいことを聞くなよ。……どうだろうな。イマイチわからないんだ。親父は母さんのことを愛していたかわからないし、そういう愛や恋を学ぶような機会は無かった。覚えているのは母さんが愛情深いヒトだったってことくらいかな。母さんが死んだら、すぐ新しい女性と結婚したからな。親父が母さんのことを愛していたかすら解らん」
つまり、泰斗の実家には不仲っぽい父と、関係が不透明な義母がいると。
「そんな複雑な家庭なの…?重い話ししないでよ」
嫌そうに顔を歪めると、泰斗がウソ泣きをする。
「いいだろ!誰かに聞いてもらいときだってあるんだよ!」
「俺を採用した時点で間違いだ。もっと適任がいたはずなのに」
「聞いてほしいって思ったから話したんだよ。他にも話している奴はいる。千鶴にも、知ってもらいたかったんだ」
そう言われると、何も言えなかった。悪口を言う気にもならなかった。
「…まぁ、頭の片隅にでも覚えておくよ」
「おう。そうしてくれ」
本当にその事だけを話しにきた泰斗は、満足したのか三年の階へ帰っていった。残された千鶴は、暫く動けなかった。ちゃらんぽらんな泰斗は、ピエロを演じているからなのかとさえ思った。どうしてそんなことまでして、楽観的な人物であるフリをするのだろうか。それこそ、話されていない部分に真実があるのかもしれない。
長い溜息を吐く。部活ももう、テスト週間で休みに入る。
家に帰ると、恵美が待っている。
「お帰りなさい。夕飯は頑張って作ってみたの。食べてもらえるかな…」
「めぐちゃんが?!食べるよ、もちろん!」
料理嫌いの恵美が作ったとなり、千鶴と茉莉はわきたった。テーブルの上にはオムライスと出来あいのサラダ、インスタントのコンソメスープが乗っていた。オムライスは決して不格好なものではなく、綺麗に卵が乗っていた。料理嫌いと言っても多少は出来るようだ。手を洗いすぐテーブルに着くと、「いただきます」を言いオムライスを口に運ぶ。
「美味しいよ、めぐちゃん」
「美味しい!めぐちゃん何で料理嫌いになったの?美味しいよ!」
「ありがとう。昔学校の先生から盛り付けが下手って言われてから、嫌いになったんだよね…でもこれからは意識を変えてみようかなって…。いつまでも千鶴達に甘えちゃうのも卒業しないとなって」
別に気にしなくてもよかったのに。が、千鶴と茉莉の感想だった。外食でも、千鶴が作る夕飯でもよかったのだ。恵美が無理せず、嫌な思いをしなければ、それでよかった。
「早くめぐちゃんも食べよう」
「うん。いただきます」
三人の談笑がシェアハウスに響く。とても楽しい時間。
『僕はこんな日常が続くと思っていました。それこそ、卒業しても。大学か、就職するか決めるときも。茉莉達が傍にいてくれると信じていました。そんな僕を、彼等は見ていたのです』
それは、金曜日の夜の事だった。
緋色が間違い電話をしてきたことがきっかけだった。些細なきっかけだが、千鶴はそれが嬉しかった。あのカーネーションを貰った日から、緋色と関われることを楽しみにしていた。だから、間違い電話が嬉しかった。
「え、じゃあ映画観た事ないんだ」
『あぁ。いつか実際に観てみたいものだ』
「それじゃあさ…明日とか、どう?映画」
『明日?テスト勉強はいいのか?』
「一日くらい大丈夫だよ。それに、終わったら図書館へ行って勉強をすれば大丈夫だよ。教えてくれるよね、勉強」
『俺に解る範囲であればな』
千鶴は思わずガッツポーズを取る。
「それじゃあ明日ね」
『明日は迎えに行くから』
迎えに行くと聞き、千鶴は首を傾げた。駅で待ち合わせをした方が早い気もしたのだが、緋色がそう言うなら、「解った」と返事をする。
翌日。約束の土曜日。千鶴は心躍りながらリュックの中身を確認していた。
「いいなぁ、映画。私も行きたかった」
「茉莉はまた今度ね。ラブキラの映画が公開されたら行く?」
「行く?ラブキラ楽しみだなぁ!」
ラブキラとは日曜の朝に放送されている女児向けアニメだ。何がきっかけかは知らないが、茉莉がドはまりしてグッズを集め、お気に入りの回は繰り返し観ている。
キキィー、とバイクが止まる音がする。
「え…まさか緋色じゃあないよね」
千鶴が困惑していると、茉莉が窓から外の様子を伺う。
「緋色だよ」
「え?!高校生なのにバイクとか乗っていいの?!」
外に出ると、ヘルメットを取る緋色がいた。バイクは二人乗りも可能なものだった。
「やぁ。まだインターホン押していないのに」
「いや、驚いたよ。まだ十八でしょ?!なんでバイクなんて乗っているの!」
すると、おもむろに財布を取り出し、その中から免許書を取り出す。生年月日を見ると、緋色はどうやら十九歳らしい。
「え…留年してるってこと?」
「正確には十七で高校に入学したんだ。泰斗に合わせてな」
「あぁ…蒼志軍のリーダーだから合わせたんだ」
「それもあるな。ほら、被ったら行くぞ」
千鶴はヘルメットを被ると、緊張しながら緋色の後ろへと乗る。
「手は腹に回して。しっかり掴まっていろ」
「う、うん」
言われた通りしっかり掴まると、それを合図にしたようにバイクが走り出す。これから川渕市にあるショッピングモール内にある映画館へ向かう。初めて乗るバイクに心臓がバクバクと鳴る。身体が密着しているから緊張が伝わったらどうしようかと、内心焦るし、困った。何か誤魔化すように、千鶴は喋り出す。
「最近、本を読んでいないことに気付いたんだ」
「へぇ。それはいい事なのか?」
「どうだろう。楽しいから、読む機会が減っただけで…また読みたいと思っているよ」
「本を読むのは楽しいか?俺はボーッとしている方が好きだから、本はあまり読まないんだ」
そう聞いて、なんとなく緋色がどんなヒトなのか見えてくる。
「本は…独りにさせてくれるんだ。独りになりたいときに読むと、居場所をくれる。本を読んでいれば、よっぽどの用事が無い時や、お節介や無神経じゃあなければ誰も話しかけてこないから。中学の時はよく読んでいたんだ」
「そうなのか。それなら、俺も…」
知っている道なら線路伝いに行けばいずれ着くのに、緋色は違う道に進入する。何故かと思いながらも、ふとミラーが目に入った。答えはすぐわかった。宇宙人が屋根の上から自分達を追いかけてきているのだ。
「緋色!」
「手を放すなよ!」
千鶴はギュッと抱き着くと、バイクが加速する。しかし宇宙人――女の身体をしており、背中から蜘蛛の足を生やしている。頭には角が出ている――もスピードを緩めずついてくる。そして反対からも男の宇宙人が屋根からこちらに向かって走ってくる。
緋色は住宅街へ逃げるが、屋根の上からなので宇宙人も容易く追ってこられた。このまま巻くにはどうしたらいいかを考える。それよりも早く、向こうが攻撃を仕掛けてくる。雲のような女が糸を吐き、緋色の走行を妨害していく。しかし糸を何とか避け、二人は住宅街の迷路のような道をただひたすら走る。
「アイツ等、狙いは何なんだ」
「うわぁ!」
糸が千鶴に付着し、そのまま女の方へ連れて行かれる。
「千鶴!」
油断した。女と男が合流し、千鶴の鼻と口にガーゼを押し当てると気絶する。
「任務完了。帰るぞ」
「えぇ」
男と女はそのまま屋根を伝いどこかへ向かう。緋色は逃がすまいと、身体を変え、狼のような姿になる。脚力が強く、壁を伝い簡単に屋根へ上ると、男と女を追いかける。その速さは、先にいる男女との距離をあっという間に埋めるものだった。
「しつこい奴は嫌われるぞ」
男の腕が粘土のようにうねると鋭利な刃先になり、そのまま緋色の肩を貫く。
「ぐっ…!」
そして振るい落とすと、二人は準備していた小型の宇宙船に乗り、この町から去っていった。
痛みが走るなか、緋色は息を荒げながら宇宙船を見ていた。早く誰かに知らせないといけない。緋色は人間の姿に戻ると、腕時計に喋りかける。
「泰斗達に連絡してくれ。千鶴が誘拐された」
そうすると、時計はピピピと音を立て、泰斗達蒼志軍に連絡を送る。
刺された場所を確認すると、出血があり、ドクドクと吹きこぼれてくる。手で圧迫するが、背中の方までは手が足りない。触手を背中から生やし、傷口にあてがう。それから十分程待っていると、泰斗達がやってくる。緋色はそのまま病院へ連れて行かれ、手当てを受けた。治療を終えて病室から出ると、そこには恵美と茉莉の姿もあった。
「千鶴が誘拐されました…申し訳ありません」
「謝らないで。でも、どうして千鶴が…」
恵美はまた誘拐された千鶴の安否を心配する。こんな立て続けに誘拐されるなんて可笑しい。何が目的なのか解らない。
その時だ。茉莉のコンパクト型携帯に着信が入る。
「お姉ちゃんだ」
茉莉が電話に出ると、シェルピスは出てもらえたことに安心する。
『よかった、出てくれて』
「お姉ちゃんだもん、出るよ」
『…ありがとう。それより、天使から千鶴君が誘拐されたって聞いたの。誘拐犯は聖ウェルダー教教祖の幹部。きっと、本部に連れて行かれたかもしれないわ』
「聖ウェルダー教本部…」
通話を終え、茉莉は恵美に相談する。
「どうする?」
「どうするも何も、助けに行く。今度は私がちゃんと向かうわ」
「うん、わかった」
「俺も行かせてほしい」緋色が手を上げる。
「お前怪我しているのに大丈夫なのかよ」
霜月が心配そうに言葉をかけるが、緋色は「平気だ」と答える。
「一緒にいたのに守れなかった。だから連れ戻すために俺は行く」
「緋色が行くなら安心だね」翠蘭が言う。
お前は行かないのか、と内心思うが誰も口にはしなかった。そこに、「俺達に行かせてください」と声がかかる。瑛二と鞠だった。
「聖ウェルダー教本部に、俺と鞠ちゃんのことも連れて行ってください」
「いや、元信者なのに本部なんか乗り込んで大丈夫なのかよ。返り討ちに合うとか、恨みとか買ってんじゃあねぇのか?」
泰斗が心配をして声をかける。しかし瑛二の意思は固いようだった。
「地球の、ましてや日本という小さい島国の信者が脱退した、入信したなんて向こうにとってはどうでもいい事なんだよ。俺はその島国から攻撃をしたいだけなんだ」
思わず、泰斗は助けを求めるように恵美を見た。恵美は肩を竦めると、瑛二に声をかける。
「一緒に来てくれるの、頼もしいわ。鞠ちゃんもありがとう」
「私は道連れにされるだけよ…」
どうやら乗る気ではないらしいが、同行はしてくれるらしい。
「なら私と瑛二君、鞠ちゃん。緋色君。あとは…」
「私も行く!」
「俺も!」
茉莉と泰斗が挙手をする。
「お前、大丈夫なのか」暦が言う。
「大丈夫だ。留守は頼んだぞ」
「かっこつけんなよ……」
呆れて、暦は溜息を吐いた。
「船は俺がまた出すし、信者の足止めもする。それくらいは働くさ」
「ありがとう、暦君」
どうして千鶴が誘拐されたのか解らない状態での出向に、恵美は不安だった。もう自殺を起こすようなことはしないし、唆されたとしても強い意志で拒否できると恵美は信じていた。それなのに、どうしてまた聖ウェルダー教に拉致されたのか。何か千鶴にしかないモノでもあるのだろうか。
「茉莉ちゃん、お姉さんにもう一度連絡を取ってくれる?」
「え、うん」
もう一度シェルピスに連絡をすると、驚きながらも対応をしてくれる。
『教祖について、ですか…?』
「そうなの。何か知っていることってあるかな?」
『教祖は女性で…ヒトだけど、機械仕掛けなの。そちらにいたマキナさんと同じ種族みたいらしいけれど、私は違うと思ったの』
「違う…?」
『これは私の感覚の問題だから、違うかもしれないけれど』
「本部では何をしているの?」
『集団生活をしているの。一応、各地の聖ウェルダー教と同じだと思うわ』
「なるほど。また連絡してもいいかな?」
『勿論です』
こうして情報を得た恵美達は、早速泰斗達の宇宙船に乗り地球から離陸する。恵美にとっては初めての宇宙だった。
「地球って本当に青いんだ」
「感動した?」
「千鶴がいればね」
シェルピスから教えてもらった進路を頼りに、恵美達を乗せた宇宙船は聖ウェルダー教本部へ進んでいく




