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友達は宇宙人  作者: ぱるこμ
自殺戦争
34/37

文化祭

読んでくださりありがとうございます

公立川渕中央高校の文化祭が始まった。

手作りの門が来客を出迎える。午後から始まる吹奏楽部の宣伝で十数人が流行りの曲を演奏して歓迎をする。運動部は屋台を出店しており、呼び込み合戦が始まっている。

千鶴のクラスでの出し物はフルーツポンチ屋で、クラスTシャツに下は指定の制服という簡単な衣装だった。


「あっつい文化祭でひんやりフルーツポンチ、いかがですか!」

「シュワシュワソーダで気分転換、いかがですかぁ!」


呼び込みの甲斐もあり、上々な出だしである。


「お兄ちゃん!」

「百花!おばあちゃんもめぐちゃんも、いらっしゃいませ」


恵美達家族が遊びに来てくれたのだ。


「クラスTシャツ懐かしいなぁ。どこかに仕舞ってあるはずだから、みつかるかも」

「ふふ。フルーツポンチ三つ、くださいな」

「ありがとう。空いてる席で待ってて」


千鶴がフルーツポンチを作っていると、クラスの男子が有料オプションのサクランボをもって、三つのグラスに入れていく。


「え、通常のフルーツポンチだから悪いよ」

「サービスだって。無くなったら買ってくるから」

「ありがとう」


千鶴が恵美達にフルーツポンチを振舞う。それを見ていた男子たちは、千鶴が変わったことを話す。


「黒岩、明るくなったよな」

「わかる。人って変わるんだな」


それに聞き耳を立てていた茉莉は、ご機嫌になる。だって、千鶴が変わっていく様を、ずっとそばで見てきたのだから。千鶴がどれだけ勇気のあるヒトかを、茉莉は知っている。

そこに刹那がゴジと芳梅を連れて来店する。クラスが一気に空気が変わる。刹那の美少女具合と、芳梅の美人さに誰もが息を呑んだのだ。


「千鶴。来たわよ。途中で芳梅さん達と会ったの!」

「茉莉からチケットを貰ったからゴジと来たの。来てよかったかしら」

「僕、こんな場所初めてだから緊張してきた…」

「いらっしゃい…珍しい組み合わせだね。瞬はどうしたの?」

「あの子は学校の友達と自由に歩き回っているわ。昼食後のデザートに食べるとか言っていたけど…千鶴だってシフトがあるでしょ?」

「まぁ…。でも午後は美術部にずっといるから、そっちに来てもらえれば」


クラスは湧きたったままだった。

あの美少女が千鶴とどういう関係なのか、話題になった。


「千鶴、あの美少女誰だよ」

「刹那の事?従姉だけど」


千鶴の従姉であることを知ると、男子たちがこぞって刹那達に誰が運ぶかで揉めている。そして女子から「誰でもいいから運びなさい!」と叱られる。


そして次に現れたのは志摩と純だった。看板を背負い「メイド&執事カフェ」と書かれている。女子からは黄色い声が溢れかえる。

純は珍しく、ゆるくオールバックにしていた。普段隠れている丹精な顔立ちが露わになり、女子の視線を独り占めにする。


「サボりに来たぞ!千鶴、フルーツポンチ二個な」

「サボりなの…?」


千鶴はジト目で志摩を見る。


「純、かっこいいじゃん」

「魚子にやられたんだ。前髪が鬱陶しいからって」

「あー、なんか解る」


解る、といフレーズに純が千鶴の顔を凝視する。どうやら不服らしい。

フルーツポンチを作り、志摩と純に渡す。


「部活の方は何時から行くんだよ。合わせて行くわ」

「お昼食べてから行くよ。だから午後には美術室にいる」

「漠然だなぁ」

「午後はずっと美術室にいるから、いつでもおいで」

「午後な、承知」


クラスの内装は、夏を彷彿とさせるものだった。黒板には向日葵が大きく描かれ、水色の風船が壁に貼られている。そして青いビニールテープが天井に緩やかに貼られている。


「ただいまぁ!お客さん連れて来たよ!」


ご機嫌な茉莉が帰ってくる。お客さんとは、東雲一家だった。


「黒岩!来たぞ!」

「夕陽先輩!」

「あ、紹介するね。母と、妹の日和。朝陽は後から大所帯で来るって言ってたぞ」

「わぁ…ありがとうございます」


大所帯と聞き、素直に喜べない自分がいた。



シフト交代の時間になり、千鶴は茉莉と出し物を見物しにいく。たこ焼きや焼きそば、アイスといろんな物が売られていた。


「えぇっと。この時間帯だと志摩達も交代しているし…花緒先輩のところで食べようか。小悪魔カフェだって」

「へぇ!面白そう!」


花緒のクラスに行くと、黒の衣装に赤い角を付けた女子生徒数名が一斉に挨拶をしてくる。


「いらっしゃいませぇ。小悪魔カフェへようこそ」

「あ、黒岩君、北沢さん。いらっしゃい」


丁度花緒がシフトに入っている時間帯だったようだ。普段シニヨンでまとめている髪はツインテールに結ばれ、赤いリボンが結ばれている。背中には蝙蝠の羽根が付いている。


「花緒先輩可愛い!」

「ありがとう、北沢さん。さ、こちらのお席へどうぞ。それと、悪戯をさせていただきまぁす」


フェイスシールを取り出すと、目元にハートのシールを付けられる。


「はい、可愛い悪戯でした」


ニコニコする花緒に、茉莉と千鶴はお互いの顔を見合わせて笑うのだった。


「似合ってるよ、茉莉」

「ちぃちゃんも似合ってるよ!」

「これで美術部行くの?」


ケラケラと笑う。

小悪魔カフェではパフェを食べ、昼食は食堂が込んでいたので購買でパンを購入し美術部のブース裏で食べることにした。

美術室に行くと、なかなかに盛況だった。

そしてさばいているのは美術部ではない霜月だった。


「霜月先輩がなんで?!」

「いや、その…泰斗が最初やってたんだけどな。風貌が怪しすぎて誰も入ってこないから俺が変わったの。そしたらぞくぞくと人が来てくれて。交代しようにも泰斗の奴、いじけちゃって」


ブース裏を覗くと、キノコが生えそうな泰斗が蹲っていた。


「どうせおれなんか…」

「…便底眼鏡と芋ジャージを脱げば変わりますよ」

「本当か?」


ギラっとした眼差しが千鶴に刺さる。


「一回やってみればいいじゃあないですか…面倒臭いヒトだな」

泰斗は便底眼鏡とジャージを脱ぎ、前髪を整える。そして霜月の隣に立った。

すると美術室がワッと驚きの空気へと変わる。誰だ、あの生徒はと。そして噂が噂を呼び、泰斗見たさに、生徒が集まる集まる。


「あのイケメン誰!?」

「あんな生徒うちの学校にいたんだ」

「全然知らなかった!」


泰斗は。こんなに歓喜や注目の的になっているのに、冷汗をかき、結局便底眼鏡とジャージを着てしまう始末だった。そしてブース裏で一息つく。


「なんで戻ってきたんですか?まだ交代まで時間がありますよ?」


茉莉が尋ねると、泰斗は溜息を吐く。


「いや…俺の顔がこんなに人を呼び寄せるとは思わなくて…怖くてやめた」

「さようですか…」


呆れなのか。同情なのか。どちらともはっきりとしない感情を胸に仕舞う。パンも食べ終えたので、今度は千鶴と茉莉が案内係をする番だ。霜月に交代を申し出ると、花緒の所に行ってくると笑顔で美術室から出て行った。


「悪い事しちゃったかな」

「霜月先輩、良いヒトだから」


そこからはお昼もあったのか、人の出入りは落ち着いてきていた。そこに、芳梅とゴジが現れる。


「芳梅さん、ゴジ。いらっしゃい」

「お邪魔します…」


絵画を鑑賞するが、ゴジにはピンときていないのか、不思議そうに見つめていた。

そして芳梅が茉莉の方へ歩いて来る。


「妹さん、よね。場違いかもしれないけれど…シェルピスを止めてくれてありがとう」

「いや、それほどでも…?」


芳梅は視線を下に向ける。


「その日が来るまで、私達は生きるわ。…全員を止められたわけではないのだけれど」

「そっか…」


あれだけの信者を抱えていれば、洗脳が済んでいれば一度覚えた教えを変えることは遥に難しい。


「もしよかったら、私と友達になって、ほしいん…だけど」

「私でよければ」


茉莉は手を差し出すと、芳梅も微笑み、握手をする。


「芳梅よ。よろしく」

「北沢茉莉!これからよろしくね」


一方ゴジは、千鶴の作品を見てぽかんと口を開けていた。


「どう?俺の絵」

「千鶴が作ったの?!すごいやぁ…」

「ふふ。ありがとう」


ゴジは恥ずかしそうに、髪を弄る。


「ありきたりでごめんね。僕の故郷は美術や芸術に乏しかった…というか、無かったに近いかな。地球に来て初めて文化的なものに触れたから」

「そうなんだ…」


そう言えば。麗亜が言っていた。ゴジと亜簾の関係について。


「…亜簾、だっけ。ソイツから暴力受けてるって、訊いたんだけど…」

「あぁ。今はもう手を上げてこないよ。憑き物が落ちたみたいに、大人しくなってるよ」

「それならよかった」


ひとつ、不安の種が消化された。


「こうして同世代の子達がワイワイやってるの、新鮮で楽しいね!」

「…俺も。そう思う」


中学校での行事は殆どでなかったに等しい。こうして運動会や文化祭を楽しむのは初めてかもしれない。


「そうだ。もし絵とか興味あるなら美術館とか…」

「千鶴君、間に合いました!」


そこに現れたのはメイド服姿の魚子だった。看板を掲げての登場だ。千鶴もゴジどころか、観覧してくれた人達が驚いたのではなかろうか。


「何事…」

「今三組に行くと面白いものが見れますよ!私大興奮ですよ!」

「面白いもの…?」


その話題に、泰斗もブース裏から出て来る。

気になるので三組へ行くと、確かに面白い…ものは見れた。腹出しルックの汐瑠と柚木が看板を持ちながら客寄せをしているのだ。しかも柚木は何故かスカートを履いている。

女子は何人かが腹出しルックになっており、男子は働けと言わんばかりに氷を削りシロップをかけ、客まで運ぶをひたすら繰り返している。


「二人共似合ってるね!」

「わっ!皆来たの?!」


柚木が恥ずかしそうに看板で腹を隠す。


「柚木、なんちゅう恰好してるの」

「色々あって…」

「やっぱり膝小僧で男だって解るな」


泰斗が柚木のスカートをペロンと捲る。それにビックリした柚木が看板で泰斗を殴る。


「ぎゃん?!」

「あっ…ご、ごめんね、泰斗さん」

「わ、わるかったのはおれだからぁ」


心なしか瞳がグラグラしているように見えた。どんだけ強く殴ったんだろうか。


「にしても、この活気は何?」

「三組に敏腕プロデューサーが来たんですよ」


魚子が嫌そうにクラス内を指さす。そこには赤い制服が目立つ、二人組…翠蘭と緋色が、暖房のかかる教室の中でかき氷を食べていた。


「使えるものは使うのが吉だよ。もったいぶっていたら損じゃあないか」

「…」

「緋色…!」


千鶴は駆け寄り、声をかける。


「そういえば、千鶴の学校でもあったな。久しぶり。元気にしてたか?」

「うん。色々あったけど、元気だよ」

「ふぅん。懐かれているんだね」


翠蘭の言い方がまるで犬みたいに言うもんだから、千鶴は少しムスッとする。


「汐瑠のクラスの出し物がかき氷屋って聞いてね。だけど夏らしくないからアドバイスしたんだ。どうだい?少しは良くなったと思わないかい?」

「色気で売っているように思えますけど…」

「売れればいいんだよ」


翠蘭は満足気にかき氷を口にする。


――「兎浦高の制服じゃね?」

――「マジじゃん」


赤い制服で解りやすいのは、兎浦市にある高校。私立兎浦高等学校を象徴している。

するとそこに暦が笛を吹きながら現れる。


「腹出ししながら客寄せは見過ごせないな。すぐにクラスTシャツを戻すように。あと…勝手に指示をだすのは止めてください。他校生徒の方」

「はいはい。緋色、美術部へ行こうか」

「あぁ」


翠蘭は暦に向かい微笑むと、長い髪をなびかせて去っていった。


「はぁ…アイツは手がかかる。本当に」

「あの、大丈夫でしたか?」


暦の後ろから、魚子が申し訳なさそうに現れる。


「大丈夫だ、気にするな」

「あの…この後シフトが休憩になるんです!そうしたら見回り、一緒にしませんか?」

「いいのか?助かるよ」


魚子は内心ガッツポーズを取る。


「黒岩も悪かったな」


そう言い残すと、暦と魚子は見回りに行ってしまった。



「あー!ゆっこ!」


茉莉は雪子を捕まえ、腕にしがみ付く。


「どうした?今見回りの途中なんだけど」

「私のクラスのフルーツポンチ食べた?」

「いや、まだだけど」

「じゃあおいでよ!冷たくて美味しいよ」


そのまま雪子を連れて行く。

雪子は。聖ウェルダー教の件がまだ心残りだった。茉莉が普段通りに接してくれているが、内心…本心はどう思っているのか、怖かった。


「北沢…その」

「私さ。今のゆっこしか知らないんだよね。過去に何があったとか、知らないんだよね。もしゆっこが罪を犯していたとしても、後悔の気持ちがあるなら。どう足掻いても。過去を変えることはできないよね。罪滅ぼしがしたくて生きている。でしょ?」

「…私が彼女を殺した、としたら?」


すると茉莉の瞳孔が-になる。


「それは許さないよ。彼女の意思があって、貰った身体なんでしょう?」

「っ…あぁ、そうだ」


瞬きをすると、+に戻る。


「なら、その子の分まで寿命を全うしてね、ゆっこ」


心臓がどくどくと脈打つ。緊張で体が強張る。茉莉の民族の怒りを、垣間見た気がした。牙を抜かれた戦闘民族と言われるがそれは幻想だ。牙を隠しているだけで、抜かれてなんかない。


「なぁ、北沢」

「うん?」

「もしもだが…北沢が良ければ、綺羅星解放戦線に入らないか?」

「綺羅星…?それって、マキナちゃんが入っていた…?」

「あぁ、そうだ。そこに入れば、東十条や、お姉さんのような人を助け出すことが出来る」


茉莉は首を捻る。そしてうんうんと考える。


「それは。ちぃちゃんが必要になった時に答えるね」

「ふっ。解った」


本当に、千鶴中心なのだと、改めて思った。しかし、茉莉がどうしてこんなに千鶴に拘るのかが解らなかった。何か理由でもあるのだろうか。


「黒岩に何か縁でもあるのか?好意とか?」

「ふふふ、内緒!この感情は私だけのものだから!」


茉莉は嬉しそうに、雪子の手を取ると教室へと案内した。四組へ入ると、明るい声で「ゆっこ先生、いらっしゃい!」と出迎えられる。



「そろそろ帰らなきゃ」


ゴジが言うと、芳梅も時計を見る。二人は初めての文化祭が大変お気に召したようだった。


「そうね。シェルピスが待ってる」


芳梅は少し迷ってから、小瓶を手に取る。


「最後に。今日のお礼よ」


芳梅が黄色いドラゴンを取り出すと、そのドラゴンは空へ舞い、光を降らし始める。

――「雪?」

――「綺麗!」

――「不思議…何これ」

届けたかった千鶴達もベランダから覗いている。


「帰りましょうか」

「うん!」


こうして文化祭は問題なく、無事閉幕した。

教室の片付けを大まかにしたあと、美術部へ向かう。


「あ、黒岩君、北沢さん!片付けが終わったらお疲れプチパーティーしようって話していたの」

「それはいいですね」

「早く片しちゃおう!」


千鶴達は早速片付けに取り掛かる。ワイワイとしながら。


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