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友達は宇宙人  作者: ぱるこμ
友達との遭遇
3/37

小話・イースター

読んでくださりありがとうございます

以前。CMで本当の自分がデビューするって謳ったのがあったけど。

あれはコンタクトのCMだった気がするけれど。

あれで本当に変わるものかとも思ったけれども。


どうやら本当らしい。俺の場合は荒治療で、被害者で、手術でコンタクトじゃないけれど。

今まで恐れていた世界が全くもって怖くない。

学校に行けば、今まで黒塗りになっていた生徒等の顔がハッキリと解る。


「おはよう、黒岩。大怪我したって聞いたけど…もう大丈夫なの?」


白百合先生だ。心配そうに通りかかった俺に声をかけてきた。

淡い水色が毛先につれて青く濃くなっている。キラキラと光る不思議な髪の毛。


(先生も宇宙人だったんだ…)

「黒岩?」

「あ、大丈夫です…なんか、大袈裟に噂になってるだけで…」

「そっか。ならよかった。そうだ、もう北沢が来てるぞ」


入院初日以来だ。ちゃんと会うの。

クラスに通じる廊下を歩き、ドアの前に立つ。中から賑やかしい声が漏れてくる。

ガラリと重いドアを開けたとき、俺はもう怖くなかった。



「お昼一緒に食べてもいい?」

「…どうぞ」


茉莉がコンビニの袋を持って前に立つ。かく言う俺もコンビニで買ったおにぎり二個。

茉莉は席の主が留守の椅子に座る。


「ゆっこ先生や美術部の先輩の顔、解るようになってよかったね。一件落着だね」

「まぁ…。ありがとう」


女子と二人でお昼を食べるとか今まで無かったので、気恥ずかしくて携帯を開く。一件の着信メール。


「どったの?」

「あぁ、従姉から。今週の土曜日にイースター祭があるから学校に来いって」

「イースーター?」

「イースターね。なんか、復活祭…。死んだ人間が蘇ったお祝い…で。たまごとか兎とかが、シンボルで、」

「宗教の話?」

「そう、そうです。平気な人?こういう話題…」

「私はね。無問題。何でもウェルカム。でもお姉ちゃんはアウトだね。お姉ちゃんには黙っておくね」

「うん、その方が、正しいと思う…」

(茉莉のお姉さんって宗教関係の人だったんだ…)


内心冷や汗を掻く。

黒岩家も、従姉の家もぶっちゃけ言うと無宗教だ。だが、通っている従姉の高校がカトリック系なのでこういったイベントは付き物だった。


「ねぇ、私もそのイースター行ってみたい!行きたい行きたい!」

「え、大丈夫なの?」

「大丈夫。地球の文化を知るのも留学のひとつだよ!」


茉莉のもっともらしい言葉と、謎の自信。


「なら、行ってみようか」


従姉は中学からその私立校に通い始めていた。だから過去三年間、誘われ続けていたけど、ずっと断っていた。だって嫌だし、向こうの学校にも黒塗りがいたら気まずいし。

でも。


(たぶん、友達と一緒に来たら喜ぶかな…)


心配をかけ続けた従姉に、少しだが安心させてあげたかった。


【Re:参加します。】



《当日》

「はぁー、厳かですな」


在校先とは既に違う趣ある校門に茉莉は口をポカンとあけて眺めていた。

私立マリージャンヌ学園。都内に建つ中等部から大学まである歴史ある女子校。ここは中高の校舎のみ。大学はまた別に校舎がある。

イースター祭ということもあり、校門からすでに賑やかさが伝わってくる。


「行こう、ちぃちゃん」

「うん」


チケットを提出し、指定された教室へ向かう。チケットを持っている人のみが参加できる行事らしい。文化祭とはまた違うようで。

中庭には薔薇が植えられていた。

吹き抜けになっている校舎。

もう既に格の違いを見せつけられているようだった。

さすが私立…


「えっと、一年花組…ここだ」


教室に入ると、五グループに分けられた班の一つに、従姉の刹那…白咲刹那がいた。


「あ、千鶴!待ってたよ、こっちおいで」


嬉しそうに手を振る刹那に、なんだか恥ずかしくなる。だって、クラスにいる皆からの視線が集中するので。


「こちらがお友達?」

「はい!北沢茉莉っていいます。よろしくお願いします」


茉莉が深々とお辞儀する。


「こちらこそ!いつも千鶴がお世話になってます!千鶴、学校ではどうですか…?北沢さんの他にも、その、友達、とか…」


徐々に歯切れが悪くなる。


「まだ私しかいませんが、これから作る予定です」


あ、そうなんだ。なんか知らないうちに決まっていた。


「そ、そうなんだ!よかった…。あ、千鶴、お見舞いいけなくてごめんね。なんか、おばあちゃんが結構重傷だったって言ってたから無理させないように落ち着いたらと思ったら、もう退院してて驚いちゃった」

「ですよね。俺も驚いたよ」

「聞いてたより酷い怪我じゃなかったってこと?」

「まぁ…そう、なのかも」


口籠り始めた俺を見て、刹那はこの話を止めた。

席に座ると、プリントを渡される。


「たまごって言っても作り物なんだけどね。塗る色や柄によって意味があるの。想いを込めて塗ってね。あ、自由に塗ったり絵描いたりしてもいいからね!教卓の上にサンプル品もあるから、よかったら参考にして」


ニコニコと嬉しそうに説明する。

教卓の上には、たまごに動物の顔(特にウサギがたくさん)描かれたものや、オリジナルのロゴらしきものや、凝ったデザインのものまで色々鳥の巣に入れられ飾られていた。


「何を描こうか」

「私、ちぃちゃん描こうかな」

「は…?」


真顔の茉莉に、マジで困惑する。

その時だった。教室をひょっこりと覗く生徒が現れた。


「あ、刹那ちゃん。呼んでるの、アマモリ先輩が。一緒に来てもらってもいいかしら?」

「了解!今行くね!ごめん、ちょっと席外すけど、代わりの人が来てくれるから大丈夫だよ!」

そう言い残すと、刹那は教室から出ていった。

そして入れ替わるように代わりに俺達の指導をしてくれる保護者が入って来た。


「こんにちは。少しの時間だけ僕が教えることを許してください」


その保護者は困り眉で微笑んだ。


(奈月先輩と同じ宇宙人(ヒト)だ…)

「知ってますか?イースターのたまごやバニーは復活や生命のシンボルなんですよ」

「き、聞いたことあります」

「へぇ、そうなんだ」


茉莉は白の絵具で全体を既に塗り始めていた。視線は既に保護者に向いていない。俺も急ぐように水色で塗っていく。

星を疎らに、それを見上げるウサギを描く。茉莉は魚と花、そしてなんか波線を引いていた。


「可愛いね」

「ありがとう。私、魚好きなんよね。食べる方で」

「あぁ…」


出来上がると、乾くまで少し時間がかかるので催し物を見学することにした。

あの中庭ではイースターエッグ探しや、体育館ではたまごの代わりにボールをおたまに乗せて落とさないように運ぶゲームや、校庭では売店では今日限定でチョコレートエッグも販売されているそうだ。

折角なので、チョコレートエッグを購入し、食堂で食べることにした。


「これ、中にカプセルが入ってて、おもちゃが入ってるよ」

「そうなの?」

「うん、たぶん。…ただの空洞だったらごめん」


なんか不安になって謝った。


「大丈夫だよ、ほら」


見せられたのはパッケージで、おもちゃ入りの文字。

茉莉はチョコレートエッグをガジガジと食べていく。


「ねぇ、ちぃちゃんは何で星を選んだの?」

「え」話題の急カーブ。

「星って何の意味があったっけ?読んだのにもう忘れた」


あっけらかんとする茉莉。忘れた事を悔いている様子も、開き直っている様子も無い。ただ忘れた事実を口にしただけみたいに、言葉にする。


「俺も覚えてないよ…。ただ星描いていいんだ~みたいな」

「星好きなの?」

「好きって言うか、その。……その、自分語りみたいになって嫌なんだけど、あの」

「聞くよ、ちぃちゃんのことなら。なんでも。かんでも。全部ね」

「あぁ…どうも。日本では、人が死んだらお星様になるって言われてて」

「へぇ。私の故郷では死んだら海に帰るの」

「で、おじいちゃんが幼い頃に死んでて。大好きだったんだよ、おじいちゃんのこと。認識障害って診断されて、匙投げられて。嘘つき呼ばわりされて。でも真っ先に味方になってくれたのがおじいちゃんなんだ」

「そうなんだ」


死んだら、人がどこへ逝くのか教えてくれたのも祖父だった。

天国、地獄。雲の上や星になって見守ってくれている迷信とかも。

祖父が天寿を全うし、出棺する、棺に蓋をするときに大泣きした。燃やされて灰になることを知っていたから。もうこの世に存在しないことが嫌だったから。


「魂はいないのに、死体や遺灰に固執するんだ。その人の残りだから。灰になったおじいちゃんを見てまた泣いたし、お墓に入れる時もこんな真っ暗な場所で可哀想って駄々捏ねたんだ。今じゃなくても、相当迷惑なガキだったろうね、親からしたら」

「私んトコロの葬儀は海に遺体を帰すの。だから、肉体も灰も骨も残らないから、ちぃちゃんの気持ちは解りかねるけど。寂しいよね、誰かが死ぬのって。自分の日常から、ポンって消えちゃうんだもん」

「…うん」

「フヘヘ、今蘇らない人の話してるの、なんかウケンネ」


何がツボに入ったのか、なんかケタケタ静かに笑う茉莉が面白おかしく見えた。

チョコの中から出てきたカプセルを開くと、小さなフィギュアが入っていた。

俺は星を抱いた天使。

茉莉はイースターバニーだった。


「魂はいつだって傍にいる」

「え?」

「お姉ちゃんが教えてくれた。大切な人を見守りたい魂は、成仏はまだしないで、しばらく傍にいてくれるんだって」

「そっか」


俺はなんとなく、天使をそっと握りしめた。




教室に戻ると、刹那と、教えてくれた保護者が俺達を待っていた。


「千鶴、北沢さん!ごめんね、途中抜けちゃって!大学の方がなんか混んじゃってて、ヘルプ頼まれちゃって」


刹那は手を合わせごめんねと謝る。


「大丈夫だよ。校舎回って来たし」

「本当なら案内したかったのに…あ、忘れないうちに渡しちゃうね」


差し出されたのは、先程作ったイースターエッグだった。可愛くラッピングされ、OPP袋にはウサギのシールが貼られていた。


「ありがとう!めっちゃ楽しかったよ!」

「楽しんでくれたならよかったよ。そうだ、まだ時間あるなら、たまご探しとかやって行かない?私も自由時間になったし」


普段よりどこかテンションの高い刹那だった。学校行事に友達を連れてやってきた従弟がそんなに嬉しいのか。いや、嬉しいんだろうな。ずっと断り続けていたから。


「…あ、っと」


だけど俺は心身ともに貧弱なので。正直言うと、疲れてしまった。

断わったら、きっと傷つける。


「白咲さん。従弟くん、初めて来た場所だから疲れてしまったのでは?食堂で休憩でもしたらどうでしょうか?」


あの保護者さんがアドバイスをすると、刹那はハッとする。


「あ、そうだよね!どうする?遊ぶもよし!帰るもよし!千鶴と北沢さんの自由でいいんだよ!」

「じゃあ、その…帰ろうかな。申し訳ないけど、ちょっと、疲れちゃって。茉莉はどうする?」

「私も帰るよ。ちぃちゃん倒れたら困るし」


倒れはしないよ。


「うん、わかった。今日は本当にありがとうね!来てくれて嬉しかったよ!」

「ごめん、刹那…。でも、本当に、俺も楽しかった…。本当に」


刹那は数秒呆然としたあと、穏やかに微笑んだ。


「知ってる。だって、友達と一緒に来てくれたこと自体、千鶴も少なからず楽しみにしてくれたのかなって思っていたから」




帰りの電車は時間帯もあってか空いていた。椅子に座り、今日の短い滞在時間に思い耽る。


(まだお昼過ぎだ…かなりいた気がしたけど、そうでもないのか)


本当に楽しかった。

初めて他校に行ったけど。ちょっとした冒険みたいで緊張した。


「ねぇ、ちぃちゃんと刹那ちゃんは昔からあんな感じで接してたの?」

「?うん。刹那は親戚では仲良い方だと思ってる。…本人はどう思ってるか知らないけど」

「そうなんだ。でもあれは、大事に思ってるね。保証する」

「ありがとう」


茉莉の謎の自信が妙に心強く思う時が来るとは思わなかった。


「あ、刹那は弟もいるんだ。刹那と違って社交的じゃないけど…馬が合うのは瞬とかも」

「瞬?それが弟君の名前?」

「あぁ、うん、そう。で、俺の妹が百に花って書いて『ももか』。千鶴に百花。刹那と瞬。名前が正反対なの、なんか笑っちゃうよね」

「ふふ、ホントだね」


茉莉は俺のどんな話でも笑顔で聞いてくれるから。面白いとか、気にせず話している自分がいた。実際、どう思っているのか解らなくて怖いけど。

俺はどうやら、友達が出来ても、まだ人付き合いという不安からは逃れられないらしい。

例え相手が宇宙人でも。

滅茶苦茶気にしてしまう。反応や、言動を。

だって傷つけたくないから。自分も傷つきたくないから。


「ちぃちゃん」

「ぁ、なに?」


不意に話しかけられて内心ビビる。


「またどっか遊びに行こうね!ちぃちゃんが疲れない範囲でさ」

「…!うん、行こう」


その一言ですぐ不安が飛んでいくので、俺はどうやらチョロイらしい。


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