聖ウェルダー教・3
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ほのかに甘い香りが鼻孔をくすぐる。
優しい香りに、思わず深く息を吸う。まだ、この香りに包まれたまま眠っていたい。目覚めたくない。もう少し、まどろみたい。この感覚が多幸感が溢れて、瞼を開けたくない。
そこに花緒が現れて、霜月の頭を優しく撫でる。
――霜月くん。
「か、お…」
「グゥ?」
霜月の耳に届いた声に、思わず飛び起きた。
「うわぁ!なんだお前!花緒は?!夢?!」
肌色の、毛も生えていない、キャラクターのような謎の宇宙人が霜月の顔を覗き込んでいた。
「ヴ!」
「なんだよ…なんか嬉しそうだな、お前」
宇宙人は「ヴ、ヴ!」とご機嫌になる。
周りを見渡すと、汐瑠が眠っていた。
「おい、汐瑠。起きろ」
「うぅ…。ここ、どこ。私、下校しようとしてたのに。それに、霜月先輩までいる」
「俺も下校しようとしたらここで寝てたよ」
まるで天国にいるかのような空間だった。空は白桃のような色をしており、辺り一面は花畑。耳をすませば川のせせらぎが聞こえる。霜月は立ち上がると辺りを見渡す。
誰かヒトがいないか確認するためだ。先ほどから周りをうろちょろしている宇宙人は人語が解るのか、解らないのか謎なのでカウントしない。
すると、一人の地球人がどこからか現れた。
「あ、やっと起きたんだね」
「あの。ここは…」
「聖ウェルダー教の宇宙船の中だよ。ここは花の栽培所。綺麗だろ?」
「はい、とても…綺麗なお花ですね」
汐瑠は相手が豹変しないように穏やかに話題に乗る。聖ウェルダー教には気を付けろと翠蘭から聞いていたからだ。まさか、どうして自分がここに攫われてきたのか解らない。
「俺は上田那由多。君達はシェルピスの部下に攫われてここにいる。名前を訊いてもいいかな?」
自己紹介をされ、霜月と汐瑠は顔を合わせる。その様子を見て、那由多はアハハと笑い声を上げた。
「まぁ、そうだよね。カルト宗教信者に名前を教えるのは怖いよね」
「す、すみません…」
思わず謝ってしまうのは、那由多の人柄からだろうか。
「いいよ。気にしないで。でも、教えてもらったんだ。君は利根霜月くん。君が小鳥遊汐瑠さん。あってる?」
「え…誰から訊いたんですか」霜月の眉間に皺がよる。
「地球では天使って呼ばれているよ。ソイツに聞いた」
冷汗が止まらない。心地よい風が吹く、気温も管理されているのに、それが余計不気味だった。天使…それはシェルピス樒から言われた言葉。「君には天使が付いている」
今、眼に見えない所に、静かに自分を監視している天使。
「今も…その天使はいますか」
「どうだろう。今はいないんじゃあないかな」
少し、ホッとする。監視されることは無い。
「あの。ここってどこですか?私達、宇宙に…いるんですか?」
汐瑠が不安そうに尋ねる。その不安を払拭するように、那由多は笑顔になる。
「いや。地球だよ」
安心と同時に人の闇を見た気がした。彼…那由多の笑顔が張り付いているように思えた。彼は本当に地球人なのだろうか。そう。刹那と似た何かがあると汐瑠は直感する。
「那由多さんも…自殺願望があるんですか……」
もしあるなら、
「ないよ」
もしもあるなら
「だけど、僕は安楽死を希望しているんだ。二十歳になったら薬を貰う。ここで栽培した花を薬にして、多幸感に包まれながら死ぬんだ」
それを聞いた瞬間、霜月は汐瑠の手を掴むと走り出す。広い場所から扉を探し出し、思い切り叩く。
「ここから出せ!やべぇ薬になる花畑にいるなんて御免だ!」
「この花を栽培するバイトを茉莉ちゃんはしていたよ。大丈夫、エキスを抽出しないと薬にはならないから」
那由多の声はやけに大人しく、耳障りのいい声だった。聞いていて不快感が無い。霜月も汐瑠も、那由多の声に耳を傾け、納得する。納得するしかなかった。この花はまだ安全だと。
するとどこからともなく丸テーブルと椅子が四つ。お茶菓子が用意されていた。
「少し、僕と話さないかい?」
二人は顔を見合わせて、様子を伺う。摩訶不思議なことに、どうやら霜月も汐瑠も、那由多を心のどこかで信用したらしい。二人は歩き始め、椅子に座る。
それを見た那由多は微笑を零す。
「ありがとう。マイキーも座りな」
あの肌色の宇宙人はマイキーと言うらしい。マイキーはさっさと椅子に座ると準備されていた菓子を一つ手に取り、バクバクと食べ始めた。
「あはは、マイキーはスコーンが好きなんだ」
焼き立ての、甘い香りがする。お腹の虫が刺激される。
「…いただきます」
「い、いただきます」
手にスコーンを持ち、先にジャムを塗るか、クリームを塗るか、迷子になる。
「好きに塗って大丈夫だよ」
そう言われ、手元にあったジャムから先に塗る。
「イギリスではどっちを先に塗るか論争があるらしいね」
「あ…やっぱりあるんだ」
サクッとした歯ごたえに。口に入れた瞬間腹が減る。このスコーンは美味しかった。
「美味しいです」汐瑠が言う。
「よかった、気に入ってくれて。本当なら黒岩君にも食べてほしかったんだけど」
「千鶴君の事、知っているんですか」
「知っているよ。バイト先が一緒なんだ。僕がここに連れてきても良かったんだけど、シェルピスは他の信徒に任せてね」
ここに、千鶴がいることを知った霜月は内心焦る。ここをどう脱出するか算段を立てていたのに、千鶴を置いていける訳が無い。このどこまで広いか解らない所から、千鶴を探し出さなければならないことに。
「汐瑠さん。腕を見せてもらってもいい?」
那由多に言われ、汐瑠はおずおずと右腕を出す。すると「両方」と言われ、手の動きが鈍くなる。
「大丈夫」
「……」
汐瑠が左腕も捲ると、そこにはリストカットの痕があった。
「痛かったでしょう」
「もう、忘れました」
でも。たまに腕が痛くなる幻肢痛に悩まされることがある。傷口は塞がったのに。その痛みが出るたびにいじめられていた記憶が蘇る。忘れたくても、忘れられない。
「僕が言った安楽死と自殺って、どう違うんだろうね。霜月君と汐瑠さんはどう思う?」
難しい質問に、汐瑠と霜月は顔を見合わせた。
「まずは…安楽死を願うアンタにやめろって殴ってやりたいです」
「アハハ!それは嬉しいな。でも、僕は安楽死を希望している。それを止めるかは僕の自由だ」
霜月は那由多の様子を伺う。彼の言う安楽死とは、聖ウェルダー教ではどのような位置にあるのか。
「安楽死は、末期患者に与えられる選択肢…とか?」
汐瑠がおずおずと答える。霜月は、奈月を思い出しながら答える。
「自殺は追い詰められて、とか。学校や会社で辛いことがあって…でも、そうしたら安楽死と似ている、のかな」
奈月は苦しみながら死んだけれど。止められなかった。奈月が最期に見たのは、天使だった。
「でも死ぬことに楽なんてあるのかな」
「じゃあ、そうなると那由多…さんは、自殺ってことになるのか?病気じゃあなければ」
那由多の顔色をチラリと様子見る。那由多はどこか楽し気に二人を伺っていた。
「そうだね。僕も答えを出せていないよ。僕の行為は自殺かもしれないし、安楽死かもしれない。ちなみに僕は病気ではないからね」
「どうして死のうとするの?」
汐瑠の質問に那由多は笑顔で答える。
「天使に身体を渡すためだよ」
「そんなの間違っている!」
間を入れずに、霜月が叫ぶ。
「卯川奈月って女の子を知っているか?あの子を唆したのはお前達じゃないのか?!本当なら、死ななくて済んだかもしれないのに!」
大声を上げ、肩で息をする。
「唆すは酷いな。僕も全員の名前を把握している訳じゃないから解らないけれど。シェルピスが親身になって相談に乗っていた子の名前が確か奈月って子だったのは確かだよ」
奈月は、誰にも相談できないことをシェルピス樒に相談しにいったのだ。その結果、焼身自殺を勧められた。抗議するならその方がいいと。
その結果、一度は生きることを思い直したのに、天使のせいで錯乱して死んだ。
ネットでの誹謗中傷、特定などに傷ついたイジメていた一人が自殺した。奈月にとっては願ったりかなったりだったかもしれない。だが。花緒や千鶴の気持ちはどうなる。死んでほしくないと願っていたのに。もう、奈月はいない。
霜月は拳を強く握る。
「生きることを放棄することは罰だ」
「霜月君が決める選択はないよ。生きるか死ぬかは僕が決める。そうだろう?それに、天使に身体を明け渡すんだ。僕の魂は死ぬけれど、新しい魂が入って次の人生を送る。何も悪いことはないじゃあないか。僕は肉体からの解放を望むし、肉体の縛りを求める天使がいる。ウィンウィンだと思わないかい?」
何を言っても無駄だと思った。思想は変わらない。彼が一体いつからウェルダー教にいたのか知らないし、知りたいとも思わない。
知りたいとも、思わない。霜月は霧で見えなかった何かが、晴れ渡るように新し考えが巡ってくる。
「……アンタのこと、教えてくれよ」
「え?」
那由多は怪訝そうにする。
「どうせ天使に明け渡すんだろ?俺は、天使に興味は無いけど、今関わっている上田那由多っていう地球人には興味がある。だから…何でもいい。話してほしい。俺も、話すから」
那由多は少し黙ってから、話し出す。
「いいよ。僕の出生から話そうか」
那由多の人生は、最初から波乱に塗れていた。
地球人として生まれたのに、刹那と同じ実験体として生まれたのだ。それを知った地球に滞在し、看護師として働いていた宇宙人が那由多に同情した。そして親の記憶を改ざんした。本物の両親は赤ん坊が死産したと記憶を書き換えられた。
育ての母となった宇宙人は、逃げ込むように聖ウェルダー教に入信した。ウェルダー教は訳ありの人物達の巣窟にもなっていた。ここに居れば、外部との接点を持たなくていいし、都合の良い隠れ蓑にもなるからだ。
「ウェルダー教って、死にたい人だけが集まる場所じゃあないんですね」
汐瑠が不思議そうに尋ねた。
「そうだね。僕の母みたいに逃げ場として考える人もいるよ。僕は経歴を偽って外の世界を満喫しているんだ。楽しいよ。期限付きだって思うから、それまでにやりたいことをやらないといけないから、余計楽しいのかもしれない」
無垢に笑う那由多に、霜月は眼を伏せる。
そんな楽しみ、いらないだろうと。
寿命が来るまで、人生を謳歌すればいいのにと、胸の奥が苦しくなる。どうしたら考えを変えられるのだろうか。染みついた思想を変えることは難しいのだろうか。難しい。山を動かせと言われているようなものだ。
「大変…だったな」
「大変だったのは母だけだよ。僕は何不自由なく育ててもらったからね。感謝している」
「お母さんは、どうしたの?」汐瑠が訊く。
「母は去年亡くなったよ。自然死だよ。だから…僕も二十歳になったら体を天使に捧げようと思ったんだ」
そんな理由で、と思った。だが、この異様な思想が舞う中で育てられたら、ヒトと違う考えを持つなんて、当たり前のことで。死のうと思った理由も、自由で。
「那由多…さんは、怖くないのか?俺は怖い」
霜月は、思い切って尋ねる。
那由多は、優しい笑みを見せる。
「怖いよ。死ぬ瞬間を想像すると、怖くなる。でも、一瞬だから。眠るように死ぬと思う。死を怖がることは、自然なことだよ」
「俺は。アンタに死んでほしくない」
「優しいね」
那由多はスコーンに手を伸ばす。不思議なお茶会は、まだ続いていく。汐瑠も、霜月も、もうスコーンを食べようとは思わなかった。
恵美は茉莉達を見送った後、鞠に連絡を入れていた。どうしてこうも人脈があるかと言うと、鞠の地球での名前を付けたのが恵美だからだ。鞠が地球に来て、アイドルとして成功しながら、どういう理由か蒼志軍として暴れていることには頭を悩ませて入る。
現に。監視として連絡を定期的に入れている。鞠をMIBで捉えることも可能だが、それを実行しないのは、恵美の甘さからだろう。
鞠もそんな恵美を着信拒否するわけでもなく出るのだから、何を考えているのかさっぱりだった。
『何かしら』
ほら出た。そして今回の目的を伝える。
「鞠。お願いがあるの。九十九瑛二に会わせてほしいの」
『また急ね。ファンにでもなったの?』
「違うの。甥が…聖ウェルダー教に連れ去られたの」
『ハァ?!』と大声が返ってくる。そして少し、間が開く。
『…そもそも、どこで九十九が信者だったって知ったの』
「噂よ。噂で昔耳にしたの。だから、甥を助けるために少しでも情報が欲しいの」
ハァ、と呆れた溜息が返ってくる。
『九十九の野郎に会ったからって、アイツはもう元信者だから、もう解らないことが多いかもしれないわよ』
恵美はスマホをギュッと握る。
「それでもいいの。千鶴を助けたい」
『…解ったわ。今から私の家に来られる?』春に千鶴を襲ったことへの謝罪も込めて。
恵美は「えぇ」頷く。そして電話を切ると、恵美は早速準備をし、鞠が住む東京都へ出発した。
いつも。今年に入ってから千鶴が宇宙人と邂逅する出来事が増えた。だから危険に晒される機会も増えた。守る立場なのに、組織や事情によって助けてあげられない事が多かった。だから、今は。今こそ助けたい。ひとりの叔母として。家族として。
茉莉と柊は川渕中央高校に来ていた。泰斗の個人情報を盗むのが目的だった。
「あの恵美さんは連絡先を知らなかったのかい?」
「流石に持っていなかったね」
校門を登ろうとした時、声を掛けられる。
「そこの不良少女。何をしている」
ヤバい、と思い振り返るとそこには泰斗と翠蘭、麗亜、賢太郎…そして刹那が立っていた。
「せっちゃん…?なんでいるの?」
「ごめんね、茉莉ちゃん。大井泰斗から聞いて、千鶴が誘拐されたことを知ったの」
茉莉と柊は泰斗を睨む。
「どういう経由でせっちゃんに話したの」
「いや、お前の連絡先知らなくて。あのMIBの叔母さんの連絡先も知らなかったから白咲経由で聞こうとしたらどんな理由があるんだって問い詰められて、話しました…」
威勢が良かったのは最初だけで、徐々に小さくなっていく泰斗がなんだか面白かった。しかしこれで手間は省けた。茉莉達の狙いはこのメンバーで揃う事だったから。
「私達も泰斗さんと合流したかったんだ」
「そりゃナイスタイミングだったな」
茉莉は校門から降り刹那の前に立つ。
「今回は本当に危ないよ…敵は手加減なんかしてくれない」
「うん…。それでも、千鶴を助けたいの。足手まといになったら見捨ててくれていいから」
その言葉に、麗亜が何か言いたそうに前に出るが、賢太郎が止める。そして茉莉は決意したように笑顔になる。
「わかった。ちぃちゃんのこと助けよう」
「ありがとう。茉莉ちゃん。麗亜先輩も、同行を許可してくれてありがとうございます」
少々複雑そうに、麗亜が微笑む。
「危険な目には合わせないから」
「先輩…」
完全に信頼しきっている眼差しを向ける。それ以外にも、意味が含みそうな瞳に、茉莉は首を傾げた。
「翠蘭、九十九には連絡取れたか?」泰斗が聞く。
「取れたけど断られたよ。もう関係ないってね」翠蘭が肩を竦める。
「まぁ、仕方ないか。茉莉、シェルピスがいる場所、解るか?」
茉莉はコンパクトを出すと、映像が映し出される。地図だ。そのまま指で操作すると、東京の八王子に赤い印が記されている。
「私がまだお姉ちゃんと一緒に住んでいた時はここに居たよ。いつも送り迎えしてもらっていた」
「八王子…?今からだと…間に合うかい?終電だって近いはずだよ」
賢太郎の疑問に麗亜が提案する。
「私が持っている小型の宇宙船があるから、それで行きましょう」
「でもあれは、国王がくれた物だろ。いいのか?」
「つべこべ言っている時間は無いわ。選べる選択をするだけよ」
「いや!」
そこに物申したのは泰斗だった。皆の視線が集中する。
「そんな小型船じゃあ駄目だ。俺にいい案がある」
泰斗はニヤリと笑うと、誰かに連絡を取った。
シェルピスは千鶴を連れて艦内を案内していた。今見せている場所は、多数の男女が馬鍬う様子をぼんやりと見ていた。千鶴は男女が乱れ合う光景に、嫌悪感を抱く。
「こんなの見せて、何がしたいの…」
「何を感じるかは千鶴君の感性次第だよ。そしてここで死ぬのは男だけ。女は赤ん坊を生むっていう仕事があるからね」
「その赤ん坊が成長したら自殺させるんだろ」
「よくわかったね。何年もかかるけど…。その価値はある」
シェルピスを睨んだところで、彼女は何も思わない。乱交が終わると、男達は何か薬を飲むと、眠るように死んでいく。そしてしばらくすると目を覚ます。肉体を手に入れた天使達が幸福を感じるような笑みを見せる。
死んでいく人を止められない。ただ見ているだけ。傍観者。嫌でも記憶が蘇る。奈月が自殺をしたときを。止められなかった自分が憎い。
「うっうえぇ、ゲホ」
「吐いちゃったね。大丈夫?」
「心配なんかいらない」
ハンカチを渡そうとしたが、手を叩かれてしまう。シェルピスは微笑むとしまう。
「そう。千鶴君だって、望めば肉体を天使に捧げることだって出来るよ。だって、近くにいるんだから」
「勧誘…お断りだから」
微笑んでいたシェルピスが、急に鋭い表情になる。
「来る」
何が来るのかと思うと、ドン!と大きな揺れが起きる。
「なっ、地震!?」
「ここは浮いているもの。地震の影響なんか受けない。来たんだよ、君達を助けに」
外から見ると、宇宙船に宇宙船が減り込んでいた。泰斗がアジトとしている宇宙船で激突したのだ。
「行け、泰斗!」
操縦していた暦が叫ぶ。そして防衛しに来た信者達を影で縛りつけていく。
「暦、ここは任せたぞ!乗り込め、お前等ァ!!」
泰斗は叫ぶと茉莉達を連れて艦内へ突入していく。
「それじゃあ作戦通り、手分けするぞ!」
泰斗達と離れていくのは麗亜と賢太郎、そして刹那だった。
「茉莉ちゃん、お願いね」
「気を付けてね」
「ご武運を」
二手に別れて、シェルピス。そして亜簾を捜すのだ。千鶴の居場所はどちらかに吐かせる作戦だ。誘拐した亜簾なら、千鶴の居場所は知っているかもしれないし、シェルピスなら確実に知っているとの見通しだ。
茉莉の案内で、泰斗と柊はシェルピスの部屋へ向かう。長い廊下から窓が見える。その窓の向こうは、地下となっており何やら怪しい儀式めいたものをしている。こちらの騒動なんぞ気にせず続けている。気味が悪い。
「何を考えているんだ…侵入者が来たっていうのに」
柊は眉を顰める。
「私達より大事な何かなんだよ。行こう、お兄ちゃん」
「そうだな。気にしてる場合じゃあない」
それぞれの目的を持ち、聖ウェルダー教へと乗り込んだ。




