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友達は宇宙人  作者: ぱるこμ
自殺戦争
25/37

小話3つ決めごと・勧誘・勧誘貮

読んでくださりありがとうございます

―決めごと―


残暑が残る中、クーラーを点けた施術室で花緒が教壇に立っていた。


「今年もこの季節が来ました」

「来ましたね…あの時期が」


花緒と夕陽が重たそうに溜息を吐くのを、千鶴と茉莉は不思議そうに眺める。


「この季節って?」

「運動会。部活対抗リレー」

「しかも公平だから運動部とあたるかもしれない、嫌なリレーだよ」

「部活対抗リレー…」


川渕中央高校には、入学希望見学者や保護者向けに各部活動をリレー形式でお披露目をしている。目立つのは運動部だろうか。文化部では吹奏楽部が強いほうである。――文化部は文化祭にかけているので本気で走る生徒はほぼいない――


「いやー、今年は有無を言わさずこのメンバーで走るからな。代表四名が走るんだからな!」


夕陽の言葉に、千鶴は頭を抱えた。


「嘘だ」

「先輩!ちぃちゃんは男子全員参加の棒倒しに真っ先に外されそうになったんです!どうかご慈悲を!」


茉莉が挙手をし、助けを請うが花緒にバツ印のジェスチャーをされてしまう。


「人数がギリギリなので無理です」


千鶴は。運動が苦手だった。苦手だし大嫌いだ。小学生の頃に行われた一キロマラソン大会を貧血で棄権するほど体力が無い。中学校では不登校になったので運動会だって出ていない。なので、ちゃんと出るとなると久々の、小学校以来の運動会になるのだ。どうにもならない状況に千鶴は頭を抱えた。


「ただでさえ三年ぶりなのに、リレーに出るなんて…クラス対抗リレーも嫌なのに」

「観念しろ」夕陽が憐れむように肩を叩いた。

「ハーハッハッハッハ!」


廊下から、高笑いが聞こえる。するとドアがガラリと開き、泰斗と、どこか元気の無い霜月が現れる。


「話は霜月から聞いた!部活対抗リレー!俺も出たい!から入部します。さっき美術部顧問に入部票を提出してきた!」

「誰…ですか」


夕陽の頭に疑問形が浮かぶ。


「大井泰斗だよ。便底眼鏡をすれば判るか?」

「マジかよ!便所サンダル先輩?!眼鏡取るとイケメンなのかよ…そんなの漫画だけの世界で勘弁してくれよ」

「ハハハ!眉目秀麗に生まれた俺にかかればリレーなんぞなんの心配もない!」


寧ろ心配しかないと喉まで出かかったのは内緒である。


「わりぃ、花緒。泰斗に体育祭のこと喋ったら出たいって聞かなくてさ…」

「大井君、一年生の時も二先生の時もサボりだったもんね。でもなんで今年は出ようと思ったの?」

「俺だって部活リレーくらいは出たいよ!運動部の鼻を捻ってやるんだ」

「部活リレーだけかよ」


なんとか参加を回避できた千鶴は内心安堵の溜息を吐く。


「ちぃちゃん。おばあちゃんとももちゃんは体育祭見に来ないの?」

「あー…誘った方が良いと思う?」

「誘いなよ。折角なんだから。喜ぶよ、たぶん」

「なら…誘うか」

「なら余計出られる種目には出たほうがいいんじゃないか?」夕陽が提案する。

「いや…本当に必要最低限でどうにかしたいので…」

「そっか」

「それじゃあ私と東雲君、北沢さんと、そして新メンバーの大井君で決まりということで。それじゃあバトン、どれにしようか」


なんとか回避できたことに、安心した。だけど、少しのモヤモヤが生まれた。本当にこれでよかったのか解らなくなった。部活対抗リレーに出た方が、祖母や妹は喜んだんじゃないかって。でも、走りたくないのも本音だった。この矛盾した気持ちが上手く整理できずに、筆は進まず、部活はいつの間にか終わりの時間になっていた。

帰宅後、千鶴は志摩に電話をしていた。対抗リレーの件を、誰かに聞いてほしかった。美術部じゃあない、誰かに。


『なるほどなぁ。事情は解った。何か違う形で参加できるようなこと考えようぜ』

「違う形?」

『おう。例えば…バトンになる絵を描くとか?』

「あー、はるほど。でも、それはもう決まっているんだ」


あの後、バトンをどうするか決めるとき、泰斗がラックに仕舞われていた絵を指定してきた。


――「この絵にしよう」


それは奈月が生前描いていた物だった。最初こそぎこちない空気になったが、夕陽が賛成すると、満場一致でバトンとして決まったのだった。嘘でもいい、形だけでも奈月と走りたかった。


『なるほどな。なら一番いい案を俺は思いついた』


それは千鶴にとって、とても勇気がいるし、羞恥を覚悟でするものだった。でも、美術部の一員としては目立ついい案だと思った。


「あの、手伝ってくれる…?何でも屋同好会」

『当たり前だろ!俺達三人しかいないから走れない代わりに協力するぜ!』


こうして、当日のサプライズを千鶴と何でも屋同好会は決行するのであった。



―勧誘―


「ちぃちゃん帰ろう」

「うん」


今日は部活も何も無い日だ。自転車に乗り、学校を出る。まだ暑さが残る。早く秋らしく紅葉や気温になってほしいと願ってもまだまだ続きそうだった。自転車を漕いでいても熱風で、全然気持ち良くない。


「あの、す、すみません!」


突然声を掛けられて、ブレーキを握る。


「はい?」


道でも聞かれるのかと思い、止まる。

そこには同い年くらいの少年が立っていた。不気味なほど白い肌に、骨ばった細い腕。目が覚めるような青い髪の毛に、ゴーグルをしている、宇宙人。


「あれ、君ってお姉ちゃんの所にいた子だよね?」


茉莉の言葉にギョッとする。茉莉の姉は信徒だ。


「シェ、シェルリィもいたんだ…じゃあ、話は早いや。あの、僕はゴジ・ウィンターって言います。今日は黒岩千鶴さんを勧誘しに来ました」

「シェルリィ?」

「私の本名。マ=シェルリィ=シリーフィア。日本語に直すとこんな感じ」

「へぇ。マ=シェルリィ=シリーフィアか…」

「あの!僕の話も聞いて下さい!」


正直、面倒臭そうだった。勧誘と言う時点で、千鶴は良い顔をしなかった。


「宗教は入りません。うちは無宗教で葬式の時に都合よくなります」

「でも、自殺未遂、したことあるんじゃない?」


指摘されて言葉が急に出てこなくなった。自殺とどう関係ある。人の弱みに付け込んだ勧誘の仕方でもするのか?

そもそも、どうして自殺未遂の過去を知っている。誰が話した?思わず茉莉を見る。しかし、茉莉も察したようで首を横に振る。


「…どうして知ってるの」

「シェルピスが教えてくれたんだ」ゴジが得意げに言う。

「お姉ちゃんが?」

「シェルピスって、シェルピス樒のこと?」

「そうだよ!凄い、シェルピス。もう話題の人になってるなんて!」


純粋に喜ぶ姿は子供のようだった。この人物がどれだけシェルピスに酔心しているか十二分解る。


「いい意味で聞いたわけじゃあないよ」

「そうなの?でもいいや。辛いから死のうとしたんでしょう?肉体から、苦悩から解放されたくて手首を切ったんでしょう?僕も同じだよ…でも、失敗しちゃうんだ」


半袖から見える切り傷。ケロイド状の傷跡。自身で死のうとした証拠が左腕にも、右腕にもびっしりと刻まれていた。

他人から見る生々しい傷跡が、過去の行いを嫌でも思い出させる。他人が行った自殺行為に、思わず吐き気がもよおす。


「始業式で、自殺した子がいるって報告されたんじゃない?その子もシェルピスの言葉で救われたんだ。そして自殺を成功させた…羨ましいや」


ゴジは、どこか悔しそうに唇を噛んだ。

正直、何を言っているか解らなかったし、どうでもよかった。だって、中野千帆を自殺に追い込んだ奴の末路なんか興味が無かった。奈月の復讐が実った、としか思わなかった。

だが。シェルピスが背後にいるとなると話が別角度から見えて来る。そんな気がした。


「ちぃちゃん、帰ろう」

「うん」

「待って!僕達は聖ウェルダー教って言うんだ!興味が湧いたらいつでも話を聞くから!」


ゴジの声が背中に刺さる。


「茉莉、あのさ…」

「うん」

「茉莉は違うよね…?」

「違うよ。地球に来て一緒に暮らしていたのは確かだけど、違う。お姉ちゃんがどうしてちぃちゃんの自殺未遂を知っているのかも解らない。でも、心当たりがある」

「え…」

「一度、無理矢理にでも帰る必要があるかもしれない」

「行かないで!帰らなくていいから。真相を調べようとしなくていいから。俺の望みは、平穏な日々を茉莉やめぐちゃん達と過ごせればいいんだ。それだけでいいんだ…」

「ちぃちゃん…解った。帰らないし、調べない。私もちぃちゃんと何気ない日々を暮らしていきたい」


その言葉に、安堵を覚える。


「帰ろう」

「帰ろっか」


何も起きなければいい、何も起きないを信じ、二人はペダルを漕いでいく。しかし、この対峙のせいで巻き込まれていくことを、まだ千鶴達は知らない。



―勧誘・貮―


「今日も体育祭の練習疲れたね」

「アハハ!花緒は体育が苦手だもんな」

「それに反して、霜月君は凄いね。出る種目も多いし…今年も棒倒しに選ばれたね」

「頑張るぜ!」


恋人同士の帰り道。霜月が喜ばない訳が無く。

花緒に褒められて、気分は最高潮に上る。


「それじゃあ、また明日ね」

「おう。また明日な」


霜月は花緒と別れると、一人帰路に着く。いつもの分かれ道。部活が無かったから早めの帰宅。家に帰れば夕飯の準備をしなくちゃならない。暦も泰斗も料理が苦手なぶん、家事や掃除をやってくれる。自然とそれぞれがやるようになった分担作業だ。


(今日はカレーでいいかなぁ)


なんて考えながらあるいていると、背後から付けられている気配がする。


「泰斗か?」


真っ先に信用の無い、揶揄うならコイツしかいない名前を上げる。だが、そこに居たのは自分とさほど年齢の変わらなさそうな女子だった。


「すみません、人違いでした」


謝罪をすると、女子は首を降る。


「気にしないで。後を付けていたのは本当だから」


左目には眼帯がしてある。鶯色に近い白い髪。何より、隠す気がないのでぴんと立っている猫耳。猫耳を生やした民族は多く居る。その中の一人だろう。大柄でもなければ小柄でもない背丈。花緒より少し高めに見えた。


「私は芳梅(ファンメイ)。崇高で気高き女がわざわざ足を運んで貴方を勧誘しに来たの」

「勧誘?」

「聖ウェルダー教によ」


その名を聞いた瞬間、霜月は身構える。


「何しに来たんだよ!お前等、自分達がカルト宗教だってこと自覚してんのかよ!」

「カルトとは失礼ね。皆救いを求めて来ているの。卯川奈月さんみたいにね」

「は…?嘘を吐くな」


奈月がカルト宗教に救いを見出す訳がない。だって、あの奈月だぞ。そう言い聞かせるが、思い出してしまう。彼女の親友が自殺したことを。


「まさか…奈月が自殺してまで訴えたのって」

「我々は助言しただけ。焼身自殺をしようとしたのは彼女の意思。それに、見たんでしょう?卯川奈月とシンクロしたせいで」

「…シェルピス樒が言った天使の正体か…」


全て合致した。

夏休みも最後に差し迫った時、花緒とデートをしたときにシェルピス樒に占ってもらえることが出来た。その時に言われたのだ。貴方には天使が付いていると。

そしてその天使って奴は、奈月とシンクロ…心を通わせたときに、最期に奈月が火に包まれる瞬間に見た、白いヒトの正体…肉体を持たない、宇宙人。


「その白いヒトってのが天使だって?宇宙人じゃあなくて?」

「誰が何を天使と言おうと自由じゃない。文句あるの?」


芳梅は腕を組み、人差し指でトントンと苛立ちを現し始める。


「私はね、シェルピスのお願いで来たの。シェルピスだから言うことを聞くの。これ以上時間を取らせるなら、無理矢理にでも連れて帰るわ」

「そりゃごめんだね!」


霜月は咄嗟に来た道を引き返す。


「逃がすか!」


芳梅は小瓶を投げると、その中から宇宙生物が現れる。羽を生やし、口から火を噴く。まるでドラゴンみたいに。見た目は可愛いが騙されて丸焦げになるタイプだ。


「俺は今丸腰なのに…!」

「苛立つ…腹立たしいわ。折角自分の時間を過ごしていたのに、こんな奴のために無駄にした!何故勧誘を断る!何故逃げる!」

「宗教勧誘お断りだからだよ!」


角を曲がろうとしたとき、人影が現れる。


「うぁ!」

「きゃあ!霜月君、どうしたの?!」


影の正体は花緒だった。


「花緒、なんでここに居るんだよ」

「なんか胸騒ぎがして…そしたら喧嘩してるっぽい声が聞こえてきたから戻ってきたの。霜月君に何かあったんじゃないかって」

「戻ってきたら危ないだろ!それに…あれ?」


後ろを振り返ると、芳梅も宇宙生物もいなくなっていた。騒ぎになるのは流石にまずいと判断したようだ。なんにせよ、花緒が来てくれて助かったのは事実だ。


「サンキュー、花緒。だけど今度からは暦辺りを呼んでくれればいいから。お前まで危険にあったら元も子もないから」

「わかったよ、そうする」

「…花緒」

「何?」

「シェルピス樒のことだけど、花緒には天使の加護は受けていないって言われたんだよな?」

「うん、そうだよ。言われたのは霜月君だけ。ちょっとショックだったけどね」

「それならいいんだ…安心した」

「…大丈夫?送っていこうか?」


花緒が何か察したのか、不安そうにこちらを見つめていた。霜月はお道化ながら言う。


「大丈夫だって。ちょっと変な勧誘されたからさ。花緒も気を付けろよ」

「解った」


花緒的には、もう少し事情を知りたいと顔に書いてあった。しかし、霜月が踏み込ませなかったため、訊くのは断念したようだ。それでいいと思う。これ以上巻き込まないために。

芳梅という、粗暴そうな奴だったから回避できたのだろうか。他の連中は、もっと甘い言葉で勧誘をするのだろうか。奈月も、それに引っかかったのだろうか。救いを、復讐を見出したのだろうか。

何にせよ、今日の事は泰斗に報告する必要がある。


この先に、これ以上厄介事が起きない事だけを、霜月は願った。

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