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友達は宇宙人  作者: ぱるこμ
友達との遭遇
18/37

沖縄旅行!

読んでくださりありがとうございます

夏休みに入った。


奈月の件で、日本中、もしかしたら世界中に動画配信されたせいで、学校にも嫌がらせの電話や正義を名乗る電話が暫く続いた。イジメていた本人達はクラスからも浮き、奈月のSNSに顔写真を載せられていたため、ヤンキーに絡まれたり、知らない人から名前を呼ばれて説教をされたり。襲われかけたりと怖い思いをしているらしい。次第に不登校になっていった。夏休みに入る頃には、イジメた奴等は殆ど学校から消えていた。


そして。美術部に奈月の保護者と名乗る夫婦が尋ねてきた。奈月と仲良くしてくれてありがとう、いつも楽しそうに話していたと語った。柔和な口調だったが、地球人を許さない…そう瞳の奥に刻まれていたように千鶴は見えた。


「これ。中野先輩が作っていたみたいなんです」


中野千穂が所属していた手芸部の部員が、兎のマスコットを二つ持ってきた。おしりの部分にT。もう一つにはNと刺繍されていた。多分、プレゼントするつもりだったのだろう。

だが、それが叶わず二人共…


「あなた達が持っていなくていいの?」

「はい…手芸部、廃部することになったんです。あれからめっきり、誰も来なくなって…退部届も出されて、もう私達しかいないんです」

「だから、中野先輩と仲が良かった人に渡したくて美術部に来ました」


二人の一年生が健気に言葉を紡ぐ。


「それ」


声を上げたのは、夕陽だった。


「俺が預かっていてもいいかな」

「お願いします」


手芸部の二人は、お辞儀をすると部室へ戻っていった。


「夕陽くん…」花緒が心配げに声をかける。

「預かるだけです。奈月のやつ、多分中野さんくらいしか友達って呼べるヤツいなかったと思うから。あんな性格だし…。先生に聞いて、奈月のご両親に渡します」

「そっか。わかった」


これが夏休みに入る前に起きた出来事だった。



ワゴンカーの前で恵美が声を張る。


「今日から沖縄!怪我をせず行きましょう!」


二泊三日で沖縄旅行に行くことになったのだ。

恵美とマキナ、茉莉と千鶴。そして…


「お誘いいただき、ありがとうございます」

「よろしくお願いします!」

「お願いします…」


柚木、志摩、純も一緒に行くことになったのだ。

沖縄旅行の話が出た時に、千鶴だけが男一人になるので、ミスミ達と留守番すると言い張ったのだ。そこで茉莉が志摩達に声を掛けたのが始まりだった。ちなみに、ミスミとチビ三匹は祖母宅に預かってもらっている。


「ミスミとシロ、ヒコ、ヒメ、大丈夫かな…」


千鶴がしょんもりとする。


「大丈夫だよ。ちぃちゃんのおばあちゃんと百花ちゃんがいるんでしょ?」

「うん。まぁ、慣らしもしたし…。大丈夫かな」

「浮かない顔すんなよ千鶴!折角の旅行なんだし!俺海見るの初めてだわ!」


志摩はもう浮足立っていた。

ちなみに、魚子、汐瑠、刹那も誘ったのだが予定があると断られてしまった。


「刹那も沖縄に家族旅行でしょう?どこかで会いますよ」


マキナがうっすらと口角を上げる。


まさかこれがフラグになるとは誰も予想しなかっただろう。


「じゃあ、レッツラゴー」



「海ってどんな感じなの?」


車内はワイワイと高校生らしく騒がしくなっていた。

この質問をしたのは柚木だった。実は柚木も海を知らなかった。そもそも、故郷…と呼べる場所が険しい山岳に住む民族なのだ。仮に海が見えたとしても水平線が辛うじて見えるくらいだろう。


「海は水がいっぱい溜まってる感じだよ!そこで泳ぐと気持ちいいよぉ」


茉莉が説明する。


「水がいっぱい…あ、でもテレビで見たことあるかも。あれが海だったんだ」

「今度私の故郷にもおいでよ!私の村は海の上にあるから!」

「行けたらね。誘ってくれてありがとう」


千鶴は、なんとなく嫌な気持ちになった。だって。柚木は高校を卒業したら嫁ぐという名の売りにだされるのだ。そうしたらきっと、もう会えなくなる。


「茉莉、柚木。その話俺も行く。絶対だからな」

「う、うん…」


どこかムキになった千鶴に、茉莉は動揺した。いつもおどおどしていることが多い千鶴が、少し怒っているようにも見えた。流石の茉莉も、これにはヒヤッとした。千鶴の地雷を踏んだ可能性が過ったからだ。茉莉もそこまで鈍感ではないし、能天気ではない。ともかく、今出来ることは話題を変えることだった。


「海行ったらさ、イルカと泳ごうね」

「イルカって、沖縄にいるの?」


口調が普段の千鶴に戻り、安心する。


「わかんない。でも任せて!」


ドヤ顔をする茉莉を見て、今度は千鶴が不安を覚えた。変に悪目立ちしなければいいのだが…


「でも俺、泳げないよ」

「私が背負うから大丈夫だよ」


あぁ。もうこの時点で目立ちそうだ。



車を駐車場に止め、飛行機で約二時間強。真夏の沖縄に千鶴達は降り立った。


「あつーい!」


茉莉が真っ先に走り太陽を浴びる。


「あちぃ…」


志摩はTシャツを脱ぐ勢いで暑がっている。汗も酷く、熱中症になるんじゃないかと心配になるレベルだった。


「とりあえずホテルに行こうか。志摩くんがへばっているしね」


ホテルに向かい荷物を預ける。チェックインまでまだ時間があったためフロアにあるカフェで涼しむことにした。


「すーずしぃ!飲み物もいつもより美味しく感じる!」

「茉莉は元気だね。故郷も暑かったりするの?」

「沖縄並みに暑いわけじゃないよ。だから新鮮」

「へぇ」

「茉莉ちゃん、極秘事項教えてあげようか」


そう言いだしたのは柚木だった。茉莉は何々?と興味津々に柚木に顔を寄せる。


「良いホテルやお店で出る飲み物はね、スーパーで売られているジュースや水道水で飲むお水と同じでも雰囲気のせいで美味しく感じるらしいよ」


茉莉は眼を大きくして、出かかった声を両手で隠し抑える。


「本当に?」ヒソヒソと小声で訊く。

「うん。実験もしたらしいよ」


まじまじと飲んでいるジュースを見て、茉莉はもう一口飲む。それでも味は変わらないようで、首を捻った。


「変わんないよ」

「じゃあ、良い物を使っているんだね。さすが良い所のホテル」

「そっかぁ!すごいホテルなんだね!」


クスクスと笑う柚木の腕を引っ張り、千鶴が不満げに言う。


「あまり揶揄うなよ」

「本当のこと教えてあげただけだよ。どう?千鶴くんの飲み物の味は変わった?」

「変わらないけど…」


ゆっくりし、志摩に大きな麦わら帽子を買ってやったところで、大分体調が回復した志摩が声を上げた。


「海行こうぜ!海!」



真夏の太陽が砂浜を熱くする。その砂を駆け抜けて、志摩は海にジャブジャブと入っていく。


「つめてぇ!気持ちいいぞ!」


大きく手を振られ、柚木が降り返す。


「荷物は私達が見てるから、千鶴達は遊んできな」


どうやら恵美とマキナは泳がないらしい。


「どう?似合う?水着」


茉莉は淡いピンク色のワンピースタイプの水着を着ていた。後ろの背中は大胆に開いており、リボンが交差されておりあみあみになっていた。


「似合うよ…?」

「ふふ、ありがとう!行こう、ちぃちゃん。イルカ呼んであげるから!」

「は?ちょっ?!」


茉莉に手を取られ、波打ち際まで駆けて行く。すると茉莉は指笛を吹く。ピー…と、どこまでも、どこまでも届くその指笛に、周りにいた人達の注目の的になる。ただの指笛だと知ると、また周りはビーチボールで遊んだり、海水浴を楽しみ始める。


「指笛なんか吹いてどうしたんだ」


純が千鶴の隣に立った。よく見ると、純は色白だった。志摩が横にいるせいだろうか。


「見て、あれ」


柚木がどこか悪戯っぽく指をさす。

海水浴をしていた人達から、悲鳴が上がったり、歓声が上がる。


「来たよ、ちぃちゃん!」

「え?!」


手を掴まれ、そのまま海へと入っていく。腰位の高さまでくると、イルカがいるのだ。イルカは茉莉が来るのを待っていたかのように、周りに集まってくる。


「一緒に泳ごう!」


茉莉はゴーグルを千鶴に私、そして背負う。


「うわぁ!茉莉?!何する気?!」

「イルカと泳ぐんだよ!」


茉莉がまた指笛を吹くと、イルカが一斉に泳ぎ出す。茉莉も合わせるようにイルカと一緒に深い方へ泳ぎ出す。

息が出来ない。

ゴーグルがあっても、味わったことのないスピードで目が開けない。

でも。

恐る恐る目を開けると、そこにはピンクや黄色のサンゴ礁や、色鮮やかな魚が住んでいた。海は透き通り、陽ざしがゆらゆらと中で揺らめく。


「息継ぎが必要だね!」


茉莉がジャンプし、千鶴に呼吸をさせると、イルカたちも真似をするかのようにジャンプする。

泳げない千鶴にとっては、凄く、凄く感動する世界だった。

暫く泳ぐと、水面に背を向けてぷかぷかと浮かび漂う。イルカたちは周りをキューと鳴きながら泳いでいた。


「海が綺麗なの、ちぃちゃんに見せたかったんだ」

「うん。すごく綺麗だった」

「私の故郷の海に少し似てるかも」

「そうなんだ」

「ママ、元気かな…」


何故。母親のことだけを心配したのか、千鶴には分からなかった。姉と兄がいるのは知っている。ただ。茉莉は自分の家族関係に口を挟むことはない。なら、自分も挟まない方がいいと判断した。千鶴は少し横向きにしていた顔を真上に向け、快晴を見つめる。


「随分離れた所まで来たね」

「みんなの声が小さく聞こえる」


波音を潜り抜けるように、浜辺で遊ぶ人々の声が僅かに聞こえる。


「海って、こんな心地いいんだ…」

「怖い時もあるよ」

「うん…」

「そろそろ帰ろうか。遠くまで来すぎたからめぐちゃんに怒られるかもしれない」


そう言うと、茉莉はまた千鶴を背負い、ゆっくりと泳ぎ始めた。イルカ達は着いてこず、どこかへ泳いでいった。

千鶴が夏で経験した不思議な現象だった。茉莉は何故イルカを呼べて、一緒に泳ぐことができたのか。やっぱり宇宙人は謎だった。

戻ると、案の定恵美に叱られた。



皆にとって、海の家での昼食は初めてのものだった。焼きそば、フランクフルト、かき氷、いつも食べているはずなのに、格別に美味しく感じたのは浜辺で食べるからだろう。

午後は少しだけ五人で海水でバレーをしたり、砂で城を作ったりして遊んだ。疲れたので帰る頃には午後三時になっていた。


「結構海って疲れるんだね」

「俺、もうフラフラ…」


志摩が千鳥足になったと思うと、急にしかめっ面になった。


「なんか見た事ある後ろ姿…」

「魚子じゃないのか?」純が言う。

「声かけに行こうぜ!」


それだけ聞くとナンパである。千鶴が止めようとしたときには、もう声を掛けていた。


「魚子か?」

「げ」


一言目が「げ」であることから魚子確定である。

魚子は水色のストライプ柄のワンピースに、ポニーテールをしていた。眼鏡は珍しくかけていない。しかし、志摩に会ったことで眼鏡を掛ける。


「何で沖縄にいるんですか」

「千鶴に誘われたんだよ。男一人じゃ嫌だからって」

「家族旅行に…まぁ、千鶴くんがいいなら口出ししませんが」

「何?姉ちゃんの友達?」魚子の隣から、よく似た顔の少年がこちらを覗く。

「弟です」

「そっくり~」


志摩は 感動からなのか、ただおちょくっているのか解らない拍手を魚住姉弟に贈る。


「魚子も来てたんだな」

「純くんまで…」

「柚木もいるぞ」

「そうなんですね」


魚子が千鶴達を見つける。恵美とマキナもいるので、魚子はペコリと挨拶した。

そこから、保護者同士で世間話をして、千鶴達は千鶴達でさっきまで海で遊んでいたことを話し合った。魚住一家も海水浴を楽しんでいたらしい。頃合いを見て、お互い挨拶をしあって解散した。

ホテルに戻ると、そこには白咲家が丁度チェックインをしている最中だった。


「せっちゃん!」茉莉が駆け寄ると、刹那が振り返り、千鶴達御一行に笑いながら手を振ってくれた。

「あら。まさかホテルまで一緒になるとはね」


叔母であり、刹那の母である寿々子が夫に任せて前に出てくる。


「お姉ちゃん!私もびっくりだよ。…それより、瞬はどう?元気?」

「うん。刹那みたいに覚醒したってわけじゃないみたい。でも、たまに怪訝な顔をするから、宇宙人がいること、遅かれ早かれバレるかも」

「そう」


瞬は志摩達に囲まれて質問攻めにあっていた。刹那の姉としての振る舞いや、彼女はいるのかとか、学校楽しいか?とか。

瞬は人懐っこい弟気質なので何でも素直に答えていた。


「学校楽しいです!親友って呼べる奴も出来ました」

「親友かぁ。ソイツの事、大事にしろよ?喧嘩したらどっちが悪くても先に謝るのが仲直りのコツな」

「それって…純くんの機嫌損ねた時の対処法じゃないの?」柚木がチクりと刺す。

「折角先輩面しようと思ったのに…バラすなよな!」

「俺はそんなに怒っているのか…」純が珍しく落ち込む姿を露呈する。

「まぁ…志摩相手なら怒りたくなる時もあるでしょ」


千鶴は、ポンと純の肩に手を置いた。


「ねぇねぇ!ここまで来ると汐ちゃんにも会いそうじゃない?」


茉莉が嬉しそうに輪に入る。


「ううん。汐瑠は沖縄じゃないよ」


え?と視線が刹那に集まる。


「ハワイだって!流石キャリアウーマンのお母さんを持つと違うよねぇ。バリキャリらしいよ。そういば…雨森先輩もハワイに行くって言ってた…」

「あぁ、刹那が憧れてる先輩か」

「まぁ…うん」


どこか濁されたように感じた。ここでパンパンと手が叩かれる。


「今日は海で遊んで疲れているんだから、休憩するよ。じゃあお姉ちゃん達も楽しんでね」


恵美が手を振ると、寿々子も手を振り、両家は別れた。


「ねぇ、せっちゃんのお部屋のランク、うち等より上だったよ」茉莉が喜々として言う。

「あそこは旦那さんがやり手だからね。お姉ちゃんもドールハウス作っては小さいけど個展開いているし。ファンも着いているんだから」

「白咲の両親ってすごいんだな」志摩があくびをしながら言う。それを見ていた純が「疲れているなら昼寝でもしろ」小言を言った。


部屋は勿論男女別。そのために柚木達を呼んだのだ。部屋に入った瞬間、「俺ここ~」と志摩は手前にあったベッドにダイブすると、暫くもしないうちに寝息を立て始めた。初めての海で相当遊んで疲れたらしい。


「ねぇ。よかったらちょっと街の散策しない?お菓子買うついでに」


柚木の提案に、千鶴が乗った。


「そうだなぁ。外、でてみるかな…。純は?」

「…俺も行く」


純は冷めた目で志摩を見ていた。仲が良いのか、悪いのか。二人の関係は千鶴にもよくわからなかった。

ホテルから出ると、丁度海に太陽が沈む瞬間だった。


「綺麗…」柚木が穏やかに言う。


海で遊ぶのは今日だけ。

明日は国際通りに行き、首里城を観光する。明後日はひめゆりの塔を見て、ぶらぶらしながら飛行機に乗る予定だ。柚木と純の表情に、すこし、もう少し海で遊びたかったという面影が見えたのは気のせいだろうか。

そんな二人にくぎ付けになっていたら、ガサガサと、ビニール袋が道路に転がる。


「誰だよ、ビニール袋捨てた奴」


志摩が真っ先に拾いに行こうとして、途中で止まり猛ダッシュで戻って来る。


「逃げるぞ!」

「はぁ?!」


訳も解らず手首を掴まれ走らされる。志摩の速さに着いていけない千鶴は足がもつれると、志摩に担がれる。


「なんだよ、急に!」

「あの袋、ビニール袋じゃなくてバッグドッグモンスターだったんだろ?」


純が冷静に言うが名前が穏やかではない。後ろを振り向くと、輪の口に牙がぎっしり生え、四つ足が生えて追いかけて来る気色悪い化物、いや宇宙生物が爆走で向かってくる。


「う、うわああああ!キメェ!!」

「どうする!?処分する?!」

「柚木も物騒なこと言わないでよ!」

「だけどアイツ、放っておくと人を食うぞ」


純の言葉に千鶴は眼が飛び出すほど驚いた。


「ヤバいじゃん!そうだ、めぐちゃんに相談すれば」

「…いや、俺が殺る」


純が振り返り、口を開くと犬歯が伸び、間から電流が走り上を向くと雷を吐く。それは落雷となりバッグドックモンスターに直撃する。

バッグドックモンスターは黒焦げになりピクピクと痙攣した後、息絶えた。


「…俺は黒岩さんに報告してくる。お前達は菓子でもなんでも買ってこい」

「いや、俺も戻るよ。…志摩、そろそろ下ろして」

「おぉ。ワリィ」


志摩は千鶴を下す。柚木は死んだ宇宙生物を見て、険しい顔付きになる。


「柚木、どうしたの?」

「……入れ墨が彫られてる」


宇宙生物を見ると、焦げて分かりにくいが、僅かに見える模様があった。


「急いで戻ろう」


柚木は千鶴と純の手を掴むと急いでホテルへ向かい走る。その後を志摩が意味深な表情をしていたことを、千鶴は気づかなかった。



柚木から報告を受けた恵美は、茉莉が入浴中の隙にマキナに相談する。


「予定変更して明日はゆっくりホテル内で遊ぼうか」

「いえ。予定通りに行きましょう。変に行動を変えたら、不安を与えます」

「もしなんかあったら?」

「私が着いています。まだ危険が及べば抹消します。それに」


マキナがテレビを点ける。丁度ニュースがやっており、丁度全国放送だった。そしてキャスターが淡々と言うのだ。『本日、夕方頃首の無い死体が埼玉県内で発見されました』

この報道を見て、恵美は慌ててMIBに連絡をする。


「うん、うん…解った。ありがとう」

「どうでした?」

「予想通り。スカベンジャー狩りが始まってる」


これは埼玉県、日本に限らない。世界中で起きていた。スカベンジャーの民が野良狩人に狙われている。沖縄で遭遇した宇宙生物も、狩人に飼育され調教された生物だろう。MIBが言うには関東、関西圏を中心にスカベンジャー狩りが横行しているらしい。


「なら、少しでも沖縄に居るべきではないでしょうか?」

「でも宇宙生物がいたのよ。死体を回収したとはいえ、ここにも狩人がいる」

「宇宙生物だけを放って生物任せにする狩人もいます。大丈夫、私がいます。信じて」


いつも無表情のマキナが、真面目な表情をしているように見えた。これは気のせいじゃない。マキナは本気で言っている。

恵美は溜息を吐くと、お手上げのポーズをした。


「解った。何かあったらマキナを頼るわ」

「ありがとうございます」



翌日は予定通り国際通りを歩いて、首里城を見学した。最終日も予定通り過ごした。


「沖縄、楽しかったね!」


空港の搭乗ロビーで飛行機を見ながら茉莉が言う。


「楽しかったね。袋犬以外は…」千鶴はぼそりと呟いた。

「また来年、皆で来ようね」

「来年かぁ」

「約束だよ、ちぃちゃん」


茉莉が小指を差し出す。千鶴も、小指を出し、きゅっと絞める。


「やく、そく…します」


それを聞いた茉莉は満面の笑みを見せる。満足したのか、するりと小指が抜けていく。


「ありがとう」


沈む太陽が、夕焼けが茉莉を包み込む。それが眩しくて、思わず目を細めた。夕日が茉莉を溶かして、一体化するような幻覚を見る。


「茉莉…?」

「ん?」

「いや、なんでもない…」


こうして楽しかった沖縄二泊三日の旅行は終わった。大ハプニングがあったのは一日目のみ。


...


雨が降る中、一人の男が逃げていた。亜麻色の髪をし、海のように深い青い瞳を持つ男だ。


「殺さないでくれ!頼む!殺さないで、」


男は心臓を串刺しにされるが、まだ息はあった。


「そう易々と殺すわけねーだろ。お前はこれから拷問されんだよ!」

「や、だ…だ、れか…」


串刺しにした槍を、大柄な男が肩に担ぐ。


「さーて。帰って紫蜻蛉と一発ヤるかな…」


男は昂った熱を、興奮を発散するために囲っている女の事を思いながら宇宙船へ帰っていった。


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