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友達は宇宙人  作者: ぱるこμ
友達との遭遇
15/37

少女N

読んでくださりありがとうございます

事故。が起きたのは六月上旬だった。


『本日午後二時頃、埼玉県川渕市の公立川渕中央高校で火災事故が起き、一名が死亡しました。』

千鶴はそのニュースを、病院の待合ロビーから茫然と眺めていた。



時間を巻き戻すと、それは今から一週間前から前兆はあった。


「中野が自殺したのは中野の問題なんだよ。イジメとか遺書とか無かったんだから先生に言われても困るよ」


Tシャツとジャージのズボンを履いた体育教師が持ちクラスの生徒からの訴えを適当に返す。


「中野さんが自殺したのはイジメなんです!不登校になったのだって、それ原因です!」

「でも誰も中野がイジメられていた所を見た生徒はいないんだよ。解ったらさっさと教室に戻れ」


食いついていたのは奈月だった。親友である中野千穂が一昨日に住んでいたマンションから飛び降り自殺をしたのだ。クラスの違う中野がイジメに合っていることは知っていた。なるべく一緒にいるように休み時間もわざわざ足を運んだ。それでも中野は不登校になった。不登校になって安全になったかと思った矢先、自殺した。


「中野さんの担任に訴えても無視されるから先生に助けを求めたのですけど、間違いでしたね」

「いいから戻れ!」大声が職員室に響き渡り、注目の的になる。


奈月は教師を睨むと、無言で出ていった。

廊下に出た奈月は独り言をつぶやく。


「神様が本当にいるとしたら、不公平だと思わない?どうして千穂を死に追いやった奴らがのうのうと生きていて、千穂が辛い思いしないといけないの?どうしたら、皆を傷つけられるかな」


暫く黙ったあと、奈月は自分の教室へ戻っていく。



――「二年生で自殺した人がいんだって」

――「イジメでしょ?」

――「先生たち有耶無耶にしてるよ」


千鶴のクラスでも噂が広まっていた。千鶴は苦い表情を見せる。

奈月が部活に来なくなったのだ。何か変な気を起こさないか不安でならなかった。


「ねぇえ、ちぃちゃん」

「ん?どうした?」

「どうして噂の子は自殺しちゃったんだろうね」

「…もう、限界だったんじゃないのかな。わからないよ…」


「私なら。私なら殺すのに。殺される前に殺すの。それは心の殺人であってもそう。言うでしょ?目には目を。歯には歯を。右をぶたれたら左の頬も刺し出せって」

「物騒なこというなよ…あと、諺の解釈間違えてるぞ」


時折、中二病っぽいことをいう茉莉が怖かった。それを実行しそうで怖かった。彼女なら本当に殺しかねない。きっと、奈月ともっと早く繋がっていたら…


「ちぃちゃん?大丈夫?」

「し、心配だよ…茉莉のこと。変な事起こすなよ」

「私は真っ当だよ。安心してね」


奈月にメールをしても返ってこない。それは花緒にも同じだった。いくら心配しても、届くことは無かった。千鶴は意を決して三年生のクラスに向かう。そう、泰斗に会いに。

ここに来て、泰斗が何組の生徒なのか知らないことに気が付く。各学年。五クラスある。千鶴は四組。じゃあ泰斗は?知らなかった。

困っていると、丁度暇を持て余し、面白いことを探していた泰斗が千鶴を見つけ、ダル絡みをしてきた。


「ちづるじゃぁん。何?俺に会いに来たの?」

「腹立つけど、そうだよ。相談が…あって。刹那に慰謝料として伝えるから、話聞いて、行動してよ」


千鶴の慰謝料、というワードに、泰斗は快く引き受けた。



泰斗が話すなら屋上が定番だと言い張り、鍵を壊し、そこで今までの事情を説明する。つまり、奈月がもし過ちを起こしそうになったら止めてほしいという内容を。


「大切な先輩なんだ。友達が亡くなって、辛いかもしれないけど…復讐なんてするべきじゃないよ」

「解らんぞ。もしかしたら、同じイジメをして相手を自殺に追いやるかもしれないじゃないか。そうなったら俺は喜んで協力するね。クソを成敗するのは気分が良い」


どいつもこいつも、野蛮な思想しか持っていないのか。命を軽く見すぎている。


「お前に相談した俺が馬鹿だった。いいよ、霜月先輩と緋色にも相談するから」


緋色、というワードに泰斗が驚く。


「え、お前いつの間に緋色と友達になったんだよ」

「五月の最後辺りに謝りに来てくれたんだよ。わざわざね」

「アイツが、謝りに…へー。明日血の雨でも降るのかな」

「ねぇ、不謹慎だからやめなよ。今校内中がピリピリしてんだから」


泰斗はフェンスを握るとそっくり返る。


「いいこと教えてやろうか?奈月って奴の友達をイジメていた奴等は反省もせずもう新しいターゲットを見つけてイジメてるぜ」

「は…?」


昔の光景が蘇る。イジメていた奴らが。自分が不登校になっても笑顔で、笑いながら楽しそうに登校する通学路を。薄暗い気持ちで眺めていた。あの時の自分。


「嘘でしょ?」

「嘘吐いてどうする。それこそ不謹慎な嘘なんて吐かねぇよ」

「そう…、そうなんだ。兎に角、奈月先輩の事頼んだよ。俺も、気を付けるから」


どうして学校にいると、イジメで終わってしまうのだろう。過労で自殺するとパワハラとかブラック企業とか言われるのに、学校から自殺者が出るとイジメと呼ばれ子供同士のケンカとして受け止められているように感じる。不登校になるのはイジメられた側。悪いのはイジメられた側にも原因があるらしい。人生狂うのもイジメられた側。イジメた奴等は楽しい学生ライフを送る。そしてイジメたことを忘れて生きていく。


「俺に出来ることって何だろう」

「あれ、千鶴じゃん。久しぶり」

「奈月先輩!」


廊下をとぼとぼと歩いていると、正面から奈月が投稿しており、声を掛けられた。千鶴は急いで駆け寄る。


「心配してたんですよ!奈月先輩、すごくショック受けていたって、朝陽先輩から聞いていたから…」

「朝陽も心配性だなぁ。そうだ。さっき俺に出来ることとか言っていなかった?」

「あ、はい。俺も、その。イジメられた経験があるから奈月先輩の手助けになれる何か、出来たらいいなって」

「助けてくれるんだ。先輩想いの良い後輩を持って私は幸せだよ。じゃあさ。千穂の形見、貰ってくれない?」


そう言われて差し出されたのはコンタクトレンズだった。まだ未開封で、真新しい。


「新しいコンタクトレンズ買ったくせに、死んじゃうなんて馬鹿だよね」

「あの、俺視力は悪くなくて…」

「それ、カラコン。茶色で淵が黒でデカ目に見えるっていう奴。使いまわし出来るタイプだから、暫くは毎日付けてきてくれない?」

「それで、先輩の友達が浮かばれるなら…」


コンタクトレンズなんて初めてだった。ちゃんと着けられるか不安になる。


「それじゃあ、またね」


これが。これが奈月とちゃんと話した最期となった。



恵美にコンタクトレンズを貰ったことを伝えると、渋られた。コンタクトレンズと言っても合わないと目が辛いし、眼球にも悪いと言うのだ。


「とりあえず一回着けてみるか」


恵美と茉莉、マキナに見守られながらコンタクトを装着すると、最初こそ上手く入らなかったが、四回目のトライでやっと入る。瞼をパチパチさせ、馴染ませる。


「どう?違和感とか、痛みとかは?」

「無い。自然な感じ」


課題クリアで恵美も安心する。


「あはは!ちぃちゃん目がちょっと大きく見える!可愛いね!」

「カラコンを必須とする女子の気持ちが、今理解出来ました」


茉莉とマキナからの感想も貰えたことで、千鶴のコンタクト生活が始まった。

着けているのは学校に居るときのみ。不思議とバレそうだが教員からバレることは無かった。家に帰って取り外し、洗浄する。この繰り返し。

本来なら中野さんが着けるはずだったコンタクトを千鶴…しかも男子が着けるとは彼女も想像もしなかったろう。



それから、一週間が経った。六月九日、午後の授業が始まった時だった。

二年生のクラスに、灯油が入った瓶が投げつけられたことで全てが始まった。


「出て来いよ、糞共が!」


奈月が一人ずつ名前を叫んでいく。中野をイジメ、レイプし自殺に追い込んだ男女計八名の名前を。

何事だと、三階にある一年生のクラスは窓から見るものやベランダに出る者もいた。一階の三年生のクラスも、同様だった。


「お前等が中野千穂のこと、暴行してレイプしたこと解ってんだよ!よくそんな酷いこと出来るよな!本当に人間かよ」


奈月はもう一瓶を自分で浴びる。灯油の臭いがじんわりと広がっていく。

ベランダから見ていた千鶴が奈月の下へ行こうと教室に戻ろうとした時だった。茉莉に手を掴まれ、阻まれる。


「茉莉、奈月先輩のこと止めないと!」

「危ないから泰斗さんに任せて」

「アイツのこと信用出来ないよ!」

「じゃあ、花緒部長ならどう?」


茉莉が校庭を指さすと、教師よりも先に暦と霜月、花緒が説得していた。


「奈月ちゃん。こんなことしても、亡くなった友人は喜ばないと思う!お願いだからこんなこと止めて」

「花緒先輩、そういうことじゃないんですよ。これは私の意思です。あの子のためにやってんじゃありません。どうしたらこの事件を大々的に世間に知らせるかの問題なんです」

「だからって、灯油をかぶってライター持っているのは、危険すぎるよ」


奈月の手にはライターが握られていた。

人は。何かを訴えるとき焼身自殺をすることが多いらしい。

奈月は、今回のことを世間に知らしめるために命を懸けているのだ。


「奈月の気持ちは解ったよ…でも、お前が死んでもアイツ等は反省しない。どうせ忘れる」


霜月の言葉にも、奈月は冷静に返答していく。


「お得意の透明なリボンで私の感情を読み取っても無駄ですよ。と言うか、解っていますよね?私が本気な事」


霜月は目に見えない透明な触手で人の感情や伝達、干渉する機能が備わっている宇宙人である。ゴールデンウィークに、千鶴に刹那が捕らわれているカプセルを教えられたのもこの触手のお陰である。


「解ってんだったら、やめよう…」

「やめません」


頑固な奈月に、暦は頭を抱えた。


「本音を言えば他所でやれ。つうか、イジメた張本人の自宅に火炎瓶投げつけてやりゃよかったろ」

「暦、言っていい事と悪い事があるんだよ」霜月が憐れんで返す。

「私が望むのは、彼女達の社会的抹殺です。読めてますよね?霜月先輩」

「解ってるから焦ってんだってば!」


「とりあえず、ライターを寄こせ。ここは学校だ。他の生徒に迷惑をかけるな」

「暦先輩。どうして私にしか怒らないんですか?イジメた奴等にも説教してくださいよ」

「する。絶対に。だからまずは」

「信じられるかよ!」


怒鳴り声に、暦たちは一瞬たじろいだ。


「千穂がイジメの相談しても、担任は知らぬ存ぜぬだし。私が相談しても変な噂は立てるなって言うだけだし。臭い物には蓋をしろで、全然話聞いてくれなかった!解決や、止めようとする素振りすら見せないで!その結果、また千穂はアイツ等に脅された挙句呼び出しに応じて、レイプされて、自殺したんだよ!」


二年生のクラスでは。イジメの張本人達に視線が向かれていた。


「お前等それでも人の心持ってんのかよ!」


千穂が居たクラスに、朝陽が乗り込みイジメに加担した一人を殴り馬乗りになる。


「落ち着け、朝陽!」


夕陽も駆けつけ、朝陽を引きずり剥がす。


「殴ったな!イジメだ、イジメ!」

「なんでお前が生きてんだよ!お前みたいなのが死ねばよかったのに!」

「言葉の暴力~傷ついたぁ」


朝陽はカッとなりまた殴りかかろうとするが、夕陽と周りにいた生徒に止められる。


「この糞に何言っても無駄だよ!言葉の無駄遣いだ!」


夕陽等に引きずられながら、朝陽はクラスから連れ出される。


「許さないからな!絶対に許さない!」


奈月の親友がイジメに合っていたことも、自殺していたことも、全部全校集会で校長が命の大切さ、なんて語るまで知らなかった。奈月は、この一週間をどんな思いで過ごしてきたのだろうか。どんな想いで…


「くそ…なんでだよ、なんでだよ!」



暦が、降参のお手上げポーズを取る。


「解った。もうお前の好きにしろ」

「ちょっと、赤城君?!」花緒が驚く。

「だけど、まずはあのバカの話を聞いてから考えてくれ」


そこに現れたのは。泰斗だった。便所サンダルをカランカラン鳴らしながら、奈月たちの下へ近づいてくる。


「この一週間。野中千穂について調べた。母子家庭で、二人三脚で頑張ってきたみたいだな。でも今朝、母親も娘が自殺したショックで後追い自殺したとさっき警察が話してるのを聞いてきた」

「おばさんまで…?」

「余計許せなくなっただろ。だから、俺も復讐手伝うわ。どうせ来年、いや来月にはこのイジメは世間から忘れ去られる。いじめっ子ものうのうと暮らす。なら、自分の手で罰を与えた方が良いだろ」


霜月と花緒は呆気にとられ、暦は静かに目を閉じた。


「俺は糞ったれを成敗するのが大好きなんだ。特に、こういう地球のイジメって奴は俺の大好物だ。なんでイジメに発展するのか意味が解らん。人を甚振って楽しむような糞は殺していいと俺は思っている。だから奈月。協力する。まず、誰から殺そうか?学校に守られている限り‘イジメ’で片されるんだろ?自殺しても本人の意思扱いになるんだろ?俺達は罪にならない。社会的抹殺がいいっつてたな。お家でも突撃して生配信でもするか?再生回数上がるか解らんけど」


急に肯定された奈月はポカンと口を開けていた。それもそうだろう。また説教をされるのかと思い身構えていたら、自分よりその先を考えている男が現れたのだから。


「中野が死んじまったもんはしょうがねぇ。だから、お前だけは生きて、俺と復讐劇を楽しもうぜ」


泰斗が奈月の近くまで行き、手を差し出す。握手しようと。


「ほ…本当に、手伝ってくれるの?」

「約束は守る。現に、本当はここに来たくなかったけど千鶴に頼まれたから来た」

「千鶴…黒岩が、なんで」

「色々あんだよ…てか、お前のこと心配してたぞ。変な気を起こさないか、てな」


一年生の階を見上げると、不安気な千鶴がこちらを見ていた。


「奈月。一人じゃないぞ」


――『奈月っていうの?いつも一人でいるけど、一人の方が好きなの?』


これが千穂との、最初の会話だった。

宇宙人であることのボロが出るのが怖くて、一人で本を読んでいた。だけど、声を掛けてくれたのが千穂だった。彼女のお陰で、美術部にも入部したし、行事も楽しかった。


――『何かあったら相談してね』

――『イジメは許せないよ。でも、仕返しも良くないと思う』


どうして。どうして千穂がイジメに合ったのか解らない。誰にでも優しくて、成績もよかったから当てつけにされたのかもしれない。千穂の性格が鼻に付いたのかもしれない。それでも、イジメて良い理由にはならない。


「ごめん…ごめんなさい」


ぽろぽろと涙を零し、謝ったのは奈月だった。


「ごめんね、千穂!」


泰斗が掌を見せると、奈月がライターを手渡した。それを、職員室側に向かって投げつける。


「ほら。灯油臭いから今日はもう帰れ。明日作戦会議な!」

「奈月ちゃん、ごめんね…理解できなくて。でも、話は聞くから」


泰斗と花緒が泣く奈月を宥めていると、霜月の様子が可笑しくなっていく。まるで、何かに怯えるように。


「違う…違う、違う。ごめんなさい!っ?!」


突然口走った言葉に、霜月自身が驚き、口を塞ぐ。


「どうした、急に」


暦が心配すると、その答えが開かされる。


「ごめんね、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


奈月は突如カッターをスカートのポケットから取り出すと、首を斬る。血飛沫が泰斗と花緒を汚す。


「へ?」

「…っキャー!奈月ちゃん、ダメ、ダメダメダメ!」


花緒は慌ててハンカチで首の斬り口を塞ぐ。その間も「ごめんなさい」と譫言をいう奈月に恐怖を覚えていく。

追い打ちをかけるように、霜月までもが発作を起こす。


「どうなってんだ!暦!」

「知るか!霜月、一旦奈月からリボンをほどけ!」

「ごめ、ごめんね、千穂!ごめ、ん、うえっ、さ…ごめん、なさい」

「クソ!奈月の感情とリンクし過ぎてる!泰斗、いったん…」


そして。暦は信じられない光景を目にする。泰斗が投げ飛ばしたライターが、点火したまま奈月の下へ投げ返されてきたのだ。


「逃げろ、泰斗!」


泰斗は花緒を引っ張り、離れると奈月に引火し、あっという間に火に包まれた。


「奈月ちゃん!」


泰斗と暦は来ていたジャージ、セーターで火を消そうとするが簡単に消えない。

「馬鹿奈月!死んだらぶん殴ってやるからな!」



「何、これ」


校庭で起きている出来事に、魚子は愕然とすることしか出来なかった。


「なぁ、魚子。やべぇかもしれねぇぞ」

「え?」


志摩が見せてきたのは宇宙人が良く見ている動画サイト。そしてもう一つは地球での動画配信サイト。そこに、LIVEと書かれた動画が流れていた。


「嘘、誰が動画なんて撮っているんですか!」


角度的に、同じ一年生が撮っているようだった。魚子と志摩、純は画面を頼りに撮影している大バカ者を捜し始める。


「コメントが荒れてきているぞ」

「このままじゃ、あの焼身した先輩が願った社会的抹殺も洒落にならないぞ!」

「どこのクラス?四組当たりかも!」


四組に突撃し、誰かが携帯を持っていないか探すが、撮っている生徒はいなかった。しかし、場所からして一名、信じたくない人物が立っていた。


「千鶴くん…?」

「魚子さん…先輩が…」


千鶴が魚子を見ると、動画サイトに魚子が映る。


「ちぃちゃん、そのコンタクト今すぐ取って!」


訳が解らないが、千鶴はコンタクトレンズを取ると床に捨てる。それを茉莉が踏み潰すと、LIVE画面が暗くなった。


「何…何があったの?」

「千鶴くん。正直に言います。貴方は、利用されていたんです」


利用されていた?奈月に?


千鶴はまだ燃えている奈月を見る。必死に火を消そうとしている泰斗と暦。気絶している霜月の傍にいる花緒。もう、何が何だか分からない。


そこに、もう一人現れた。髪も、肌も白い宇宙人が。そのヒトが振り向く。眼も白かった。その数秒後、千鶴は気絶した。



学校側は急遽保護者説明会を開催。

奈月は残念ながら死亡。

動画が上がったことで、特定が始まり、中野をイジメていた奴等の詳細がネットに拡散されていく。

病院に搬送された千鶴は一時間程で目が覚めた。恵美も安堵する。警察が来ており、同じ美術部として何か異変がなかったか聞かれたが、無いと答えた。本当に、知らなかった。こんなことを仕出かそうとするなんて。


会計を済ませるために、ロビーにいると、茉莉とマキナが迎えに来てくれていた。


「大丈夫?」

「うん。他のヒト達は?」

「霜月がまだ目を覚ましません。泰斗と暦は軽度の火傷で、治療した後帰りましたよ」

「そっか…」


丁度、ロビーに置かれているテレビに今日の事件が報道される。


『本日午後二時頃、埼玉県川渕市の公立川渕中央高校で火災事故が起き、一名が死亡しました。』


どうやら、奈月の行動でショックを受けた生徒が何名か緊急搬送されたらしい。その中には千鶴もカウントされている。


「ねぇ。これからどうなっていくの?」

「解りません。ただ、奈月の故郷からはかなりのバッシングが来るでしょう。現に、MIBは対処に追われています」

「そうなんだ」


他人じゃないのに。他人事のような返事しか出来ない自分が嫌だった。そこに、会計が終わった恵美が戻って来る。


「お待たせ。私、会社に戻るからマキナは千鶴と茉莉ちゃんを乗せて帰ってて」

「解りました」



家に帰ると、ミスミとチビ達が尻尾を振って出迎えてくれた。


「ただいま」


千鶴の心が、少し休まった気がした。

マキナはスマホ型の腕時計を起動させ、映像を映し出すと僅かだが渋い表情を見せる。


「奈月さんの故郷の方が特定班に大きなヒントを与えたことで全員特定されました。これから、この生徒達と、関わった大学生。そして高校にも誹謗中傷が来るでしょうね。千鶴、茉莉。暫く学校を休みますか?」

「様子見て、決める」

「ちぃちゃんがそう言うなら。何かあったら、守ってあげるね!」


千鶴はゆっくりと頷く。ミスミを見て、千鶴はやっと日常が戻ってきたと実感する。


「奈月先輩…なんで」


心労が今にきて襲い、涙が溢れて零れだした。



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