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友達は宇宙人  作者: ぱるこμ
友達との遭遇
14/37

小話3つ・初恋・初出勤・ごめんね

読んでくださりありがとうございます

『初恋』


茉莉は魚子と汐瑠と屋上でお弁当を食べていた。他には誰もいない。

それがなんとも心地いい。


「犬を、しかも三匹赤ちゃんが」


魚子がミスミを拾った経緯と仔犬三匹を五十日間でどうにか黒岩シェアハウスで飼うために動いていることに驚きを見せた。


「うん。ちぃちゃんもバイト探してるんだけどさぁ…携帯からピピッと応募しちゃえば向こうから連絡くるのに、緊張してなかなか応募ボタンが押せないんだよね」

「なんとなくわかる…かも。緊張じゃなくて、不安なのかも」


「不安?」汐瑠の言葉に首を傾げた。


「そうだよ。知っている人がいるバイト先と、全くの見ず知らずの人しかいないバイト先だと全然違うよ。それに…ブラックだったらなおのこと」

「私は千鶴君がちゃんと働けるのかが心配です」


―発作、起こさなければいいんですけど

魚子の小さな一言を茉莉は聞き逃さなかった。


「ちぃちゃん、別に働かなくてもいいのに」



一方、千鶴も柚木にどう生活費を賄っているか尋ねている最中だった。


「僕は楼主から生活費と交友費は振り込まれてるよ。地球の仕事文化で働かないっていうのも約束の一つだからね」

「そっか…。あのさ、言いたくなかったら言わなくていいんだけど…。その、嫌じゃないの?勝手に嫁ぎ先が決まってるって」


神隠し事件後、柚木から多少の生い立ちは訊いた。高校を卒業したら柚木に唾を着けている男の息子の下へ嫁ぐと。男同士でも婚姻が可能で、宇宙の技術で赤ん坊も機械を使って産めるらしい。いわゆる、試験管ベイビー。


「嫌だよ。嫁ぎたくない。でもソイツのお陰で体を売らないで済んでる。軽蔑する?体を売っていたら」

「軽蔑というか、心配だよ。だって、どんな客にも体を許さないといけないから…柚木の心が、心配」


それを聞いた柚木は眼を丸くしたあと、クスクスと笑い、話を逸らす。


「あと二年と半年でどうするか決めなくちゃ」

「決めるって、逃げるとか?」

「逃げられないよ。だから、好きな人に小指を渡して、独りで死ぬか考えてる」

「…そうなんだ」


死なないで、と言えない自分が嫌だった。それに、決めるのは柚木だし。柚木は、決められた未来を生きるしかないなら。それなら余計に言えない。

あっけらかんという柚木が、本当に二年後に死ぬのか解らなかったけど。それに、待って。今好きな人に小指と言った。


「好きな人いるの?」

「いるよ。だから余計嫌なんだよね。他の男の嫁になるとか。そもそも男で嫁ってなんだよ。婿って言ってよ、せめて」


なんというか。


「上手いこと、柚木が言ってほしい言葉が解らない自分が嫌だ…」

「言葉に出てるよ」

「え、あ…ごめん」


柚木はアハハと笑う。


「言ってほしい言葉なんて無いよ。どれも気休めでしかないから。思いつかないのが正解。だから責めないで」

「…柚木に想われている人は、きっと幸せ者なんだろうな」


すると柚木は目を丸くして、困ったように微笑んだ。

純粋に笑ったり、困って笑ったり、忙しいくらいいろんな笑い方を見せてくれる柚木がなんとなく面白かった。


すると今度は可笑しそうにクスクス笑い出す。


「ねぇ、なんで幸せ者だと思ったの?」

「全肯定してくれるから」

「アッハハ!ウケんね!そういう千鶴だって、茉莉ちゃんが全肯定してくれてるじゃん。まぁ、ちょっと異様なほどの肯定だけど」


最後はちょっと聞き取れなかった。


「茉莉は…確かに…」


リストカットした時も、苦しんでいる数値だと言っていた気がする。

柚木はコンビニで買ったツナマヨを食べ終わると、訊いてくる。


「千鶴は好きな人とかいないの?」


直球な質問に思わず米粒が喉の変な個所に引っかかりむせ返る。


「大丈夫?」

「ゲホッ、ゲホッ…まぁ。急な質問だったから」

「僕が話したんだから、あったら教えてよ」

「…あるっちゃ、あるけど」



黒岩千鶴の初恋の相手は喜界舞姫撫だ。


当時は表情が解らなかった。でも恵美とは切っても切れない間柄だからしょうがなくマキナが家にいることを許していた。正直、声に感情が乗っていない人だと思った。顔が解らない人と避けるか、声で感情を読み取ろうとしていた千鶴にとっては天敵というか、地雷を踏まないか恐い存在だった。


でも、マキナは自分に楽しいことも、悲しいことも、全部報告するように淡々と話していく。逆に、起伏が無いから楽だった部分もあった。

それからしばらくして、こう言われたのだ。


「私の感情の起伏、解りにくいですよね。メルアドを交換しましょう」


千鶴は親戚以外で初めてメルアドを交換した。

メールのマキナは愉快な人だった。絵文字も使うし、楽しさも悲しさも伝わってきた。次第に、実際に会っても感情が読み取れたような気がしてきた。

メールを通して、千鶴はマキナの事を好きになっていた。


いわゆる、初恋。


メールに夢中になったし、マキナが遊びに来れば心が躍った。

それとなく訊いてみた。


「恋人とか、いるの?」


返ってきた答えに千鶴は狼狽えた。


「私は現代を、今を記録するために造られたアンドロイドと言えばいいでしょうか。感情も、性格もある高度なアンドロイドです。怪我をすれば血もでますが、機械です。誰かと一緒になるということはありません」


ショックだった。その後の記憶は曖昧で、覚えていない。



「マキナさんのこと、好きなんだ」

「今でも好きなのか、諦めが着いたのか解らない感情だよ。正直、複雑だったし」

「好きでいるだけなら、自由だよ」

「うん…」


千鶴はマキナが作ってくれた弁当を平らげる。


「そうだMIBで働けないの?あそこ、中にカフェが入っているし。薇市に支部があるじゃん」

「あー、それは考えていなかったや。ていうか、カフェ入っているなんて知らんかったし」

「MIBで調べても出てこないからね?」

「めぐちゃんに直接訊くよ」

「それが一番確実だね」


恵美に連絡を入れると、速攻で電話がかかって来る。

内容はどうしてそれを知っている。

本当に働けるのか。

カフェはあるけど、大変だということ。

お金を稼ぐのは大変ということ。

要約するとこのようなことだった。

それでも千鶴は働きたいと答えた。


そして今週の土曜に面接。そして恵美の伝手もあってか無事採用。

千鶴と茉莉のミスミ達を養う第一歩が踏み出された。



『初出勤』


店長の提案で、まずは週二回、四時間から始めることとなったアルバイト。

セルフスタイルのカフェなので注文を聞いてレジ打ちが出来ればまず課題はクリアだ。


MIBというだけあり、宇宙人も人間もわんさかいた。基本二四時間運営だ。だから恵美も夜勤があるし、それは東雲もそうだ。だが、カフェは午前一時には閉店する。


「最初はメニューから覚えようか」

「はい」


メニューを覚えながら注文を取り、注文された品を調理担当に伝える。備品が少なくなれば補充し、またレジの前に立つ。次はお会計もやり、それのエンドレス。


「お疲れ様。上がっていいよ」

「あ、お疲れ様です」


時刻は午後十時ピッタリだった。

裏に周りロッカーにエプロンとローファーを仕舞う。


「お疲れ様」


声を掛けてきたのは、先輩にあたる上田さんだった。大学生のアルバイト。黒髪で眼鏡をした地球人。ここがMIBの支部と知って働いているのか、解らず、どう会話をすればいいかきょろきょろと視線を動かし、「あ、う」と困っていると上田が笑う。


「黒岩君って髪の毛綺麗だよね。染めてる…訳じゃなさそうだし。地毛?」

「あ、はい。色々あって、白髪っていうか、灰色ぎみになっちゃって…」

「そうなんだ。俺さ、髪の毛染めようか悩んでいるんだけど友達とかが染めない方がいいって言うんだよね。黒髪は貴重だって」


親し気に話す上田に千鶴は安心感を覚える。


「やっぱり、大学生になると染める人が多いイメージが、あります」

「だよね。大学生って人生の夏休みって言われるくらいだから自由に染めるなら今のうちだよなぁ。社会人になる前にやりたいことやりたいな」

「俺も」


自分のことを話すことって難しい。

初対面ならなおさらだった千鶴が、あの千鶴が思い切って言ったのだ。


「俺も、犬四匹養うためにバイト始めたんです!」


少々音量を間違えて声を張り上げてしまった。それが恥ずかしくて、思わず俯く。


「犬四匹もいるんだ?!じゃあ大変だね。散歩とか、躾とか」

「でも賢いんです。母犬はトイレ行きたいと教えてくれるし、チビ達はトイレトレーニング中で。でも失敗する時は俺達のせいで失敗することが多いので。トイレシート間に合わなかったとか、そういう」

「へぇ…凄いね。大変だろうに。やっぱり、家族だもんね」


微笑みながら千鶴の話を真剣に聞いていた上田は、心の底から千鶴を尊敬していた。一匹でも大変そうなのに、四匹の犬の面倒を見るのだ。骨が折れそうで、自分には出来ないだろうと。


「家族だから。バラバラにしたくないんです」

「そうだね。なんとなく、わかる。俺も上がりなんだ。帰りの方向は?同じなら途中まで一緒に帰ろうよ」

「は、はい!」


帰り道。途中まで一緒だったため千鶴と上田は話し、笑いながら帰った。


上田は十九歳で川渕中央高校卒業生だった。マキナとのまさかの同級生であった。そこにも花が咲いて、マキナの笑顔を見た人は誰もいなかったらしい。そしてアイドルのMarieこと南禅寺鞠も卒業生ということを教えてもらった。在学中でも女王様気質だったが不思議と嫌われてはいなかった。好きでもなければ嫌いでもないと答える生徒が多かった。


ちなみに、マキナとは馬が合うのか後輩として可愛がっていたようだ。


(同じ宇宙人だからかな)


柚木から聞いた話だが。南禅寺がシスターペストということを聞いたため、苦手意識は強い。テレビに鞠が映るとフラッシュバックして体が震えることがある。今でも怖い。だから、こうして一緒に帰ってくれることが嬉しかった。


「あ、ちぃちゃん!ちぃちゃんも帰り?」


正面から、バイト終わりの茉莉が手を振って駆け寄って来る。


「うん。あ、上田さん。バイト先の先輩」

「へぇ。北沢茉莉です」

「上田那由多です。よろしくね、茉莉ちゃん」


自己紹介を終えると、上田は茉莉が来た方向に家があるため、ここでお別れとなり、千鶴は茉莉と帰ることになった。


「上田さんってナユタって言うんだね」

「珍しいよね。漢字は那由多でいいのかな。今度聞いてみるよ」

「うん」


帰ると。マキナが夕飯を温めなおしているところだった。恵美も一通り済ませたのか、ソファでミスミ達を可愛がっている。

こうして千鶴の世界に、また一つ新しい習慣が出来た。



『ごめんね』


それは日曜日のことだった。


茉莉は刹那と出かける約束があり。恵美もショッピングに出かけて。マキナは仕事の上司に呼ばれていなかった。

いるのはミスミとチビ三匹。

陽ざしの暖かい庭のほうでチビ達と戯れていると、ヒラヒラと何かが舞い降りてきた。不思議に思い、窓の外を眺めていると、またヒラリ、ヒラリと舞い降りる。花弁だ。そしてさらには花までもが降って来る。気が付くと庭が花だらけになっていた。


「なにごと?!」


思わず、慌てて庭に飛び出す。

花を降らした犯人はすぐに解った。

緋色だ。


「…何」


千鶴が冷たくあしらうと、緋色はどこかしょぼんとする。


「どうしたらいいか解らない」

「は?」

「謝りたくて。お前に」

「…謝りたいって、ゴールデンウィークの時の事?もういいよ。なんか、手加減されていたし、本来の目的が潜入で刹那達を助けてくれる作戦だったって…知らなかったとはいえ、悪いのは、俺もだし…」

「謝りたいのに、謝り方がわからないんだ」

「…え」


だから彼は、彼なりの「ごめんね」のために花弁や花を降らせていたのだ。どこから?それは彼の身体の構造にある。彼は植物型の宇宙人である。神隠し事件の時は血生臭い匂いを漂わせ気色悪い触手で千鶴を追い詰めたが、それは木の根っこに値する。そして綺麗な花を咲かせようと思えば、咲かせることだって簡単にできる。


「好きな花はあるか?」

「えっ、えっと…カーネーションとか?」


咄嗟に答えた花。それは母の日に恵美に贈った花だからだ。感謝を込めて。茉莉と一緒に買った花。赤い花。綺麗だと思えた。


「わかった」


するとぽこぽことカーネーションが緋色の身体から生えては落ちていく。それを拾い、赤、ピンク、黄色、白の束を千鶴に押し付けるように手渡した。下手をしたら、百本のカーネーションだ。


「あ、ありがとう…。でも。謝り方は普通にごめんね、でいいと思う…。悪かったとか」

「そういうものなのか?」


緋色の脳内では回想が起きていた。翠蘭に謝ってもケチを付けられ許されない人々を何百人と見てきた。そして。翠蘭は汐瑠に謝る時にプレゼントを渡していた。だから真似をした。千鶴は何が好きか知らないから。花なら誰もが喜んでくれるかと思ったから。


「ごめんね、千鶴」


身長が175センチ前後もありそうな男子がごめんねと年下の自分に言う姿が、なんとも可愛らしくて千鶴は噴き出して笑ってしまった。


「ふははは!いいよ。俺もごめんね。だから、これでお相子」


千鶴は白いカーネーションを緋色に一本手渡した。


「…綺麗な白だ」

「自分で出したんじゃん。勿体ないけど、庭の掃除手伝ってよ。めぐちゃんが帰ってきたら卒倒しちゃうだろうから」

「そうなのか」


誰もが花の絨毯を喜ぶわけではないと、緋色は学んだ。


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