GW神隠し事件・七終
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朝食を取っていたら、突然スマホのバイブが振動する。
相手はめぐさんだった。
「はい、喜界マキナ」
『黒岩だけど。千鶴達の同行見張っといてほしいの』
「…それは、千鶴が家を飛び出し刹那を捜索しているという意味でいいんでしょうか」
『うん。家族としてはすぐにでも連れ戻したいけど、仕事として考えるならMIBが動くよりいい選択だと判断したの』
「なるほど」
私はコンパクト式パソコンを取り出し、指で画面をなぞると映像が浮かぶ。今回の主犯と協力犯。私は主犯よりも協力者の方に目が行く。
「私も正しい選択だと思います。私達が下手に乗り込んで殺し合いになるよりも、千鶴達が向かった方が彼等は手を抜きます。殺さないでしょう」
『そこまで断言できるの?』
「えぇ。大井泰斗は黒岩千鶴達を殺しません」
これが今朝の出来事。
車を走らせ信号で停車すると、見知った人物等が渡っていた。
視線に気づいたのか、二人は私を見て、戸惑いながらも会釈した。
卯川奈月と東雲朝陽だ。
東雲朝陽はめぐの上司である東雲という男の息子だ。彼の母はスカベンジャーの民。双子の弟がいるが、彼は母の血が薄いのかほぼ地球人と変わらない。朝陽のほうは、私達の正体にも気づくほど、容姿がスカベンジャーと変わらぬほど血が濃いようだけれど。
二人も刹那探しの途中だと言うので、同乗させた。
「…夕陽に伝えなくてよかったの?」
「アイツのこと巻き込めないだろ…。そっちこそ、夕陽に声かけなくてよかったのかよ」
「巻き込めないでしょ。夕陽はほぼ人間なんだから」
要約すると、各々で探していたところ遭遇し、一緒に行動していたら私と会ったらしい。そして夕陽のことで若干気まずい雰囲気が流れる。
父はMIB。母は宇宙人。双子の兄は宇宙人の血を濃く継いている。何も知らないのは自分だけというのもさぞ辛いだろう。
「あれだ」
荒川上空に宇宙船を確認。
「手荒くいきます」
私はハンドルを切ると細い道へと入っていく。そしてそのまま土手が見えるとそのまま乗り上げる。後部座席に座っていた二人はシートベルトにしがみついていた。
「道路で駐車してもよかったんじゃ?!」
朝陽が若干キレているが、奈月は違うようだった。
「あの、警察にバッチリ見られていましたけど」
スピーカーでそこの車止まりなさい、とお決まりの文句を言われる。
「…ここはあとで恵美に責任を取ってもらいましょう」
警察官二名を殴り気絶させ、私達は宇宙船に向かい走り出す。
搭乗口から、千鶴達がこちらを見ている。
「ねぇ、あれどうするの!」
「撃ち落とします」
私は右手で爆弾を生成する。それを見ていた朝陽が何か思いついたのか、自分の分も作ってほしいと願い出た。
「作ってもらってどうするのよ」
「俺だって何も考え無しで来た訳じゃねぇよ」
取り出したのはパチンコだった。
「あんた、漫画に影響された?」
「ちげぇよ!俺が唯一できることって、多分これくらいしかねぇから」
朝陽の口元をよく見ると、両方の犬歯が成人にしては短く見えた。
「まさかとは思いますが、犬歯を抜いたんですか?」
パチンコの先端についている飾り。よく見ると歯だ。
そうか。この子はミックスであるけれど、スカベンジャー特有の姿にはなれないのか…。
ただ、能力だけが受け継がれた。
「ば…馬鹿じゃないの、アンタ!いくら再生するからって、自分で歯を抜くとか馬鹿だよ!」
「俺が腹くくったんだよ!夕陽の後輩助けるために!」
喧嘩がヒートアップしそうなので、間に入り止める。
そして私は朝陽に火薬玉を二つ渡す。
「あの宇宙船を撃墜するには手持ちの三つくらいが丁度いいでしょう。中央のエンジン部分を狙います」
「わ、解りました」
左腕を空気砲に変形させ、爆弾を仕込むと打ち飛ばす。
朝陽もパチンコのゴムを最大限に引き、火薬玉を飛ばした。これが予想外の威力だった。
雷が火薬の威力を上げ、風が酸素を大量に吹き込んでいく。
爆弾が爆発した後にお追い打ちをかけるように火薬が衝突し爆発する。
宇宙船は完全に飛行機能が無くなり、落下の一途をたどった。
二回、爆発が起きた。床下からだ。
俺達は落ちないように広間中央に慌てて戻る。
今度はふわりと浮遊感が襲う。
「うあああぁ!」
落下だ。
「止まってぇ!」
刹那が床に手を置き、瞳を琥珀色にさせ空中停止に持ち込もうとするが落下する速度は増すばかりだ。
純が何かしようとしているが志摩が怒鳴り止めている。
(このまま衝突しても、平気、なのか…?それとも映画みたいに、爆発するの?)
胸元が苦しくなり呼吸が荒くなる。
「さ、いあく…!」
こんな時に過呼吸が出始めるなんて!
「私、なんとか出来るよ!だから待ってて」
茉莉が俺の手を握って、自信満々に申し出てきた。
緑色の瞳がキラキラしていて、綺麗だった。こんなピンチな状況で何思ってんだって感じだけど、吸い込まれるみたいに、魅入ってしまった。
俺は茉莉の手を握り返した。
「また、助けてくれるの?」
「うん。何回も助ける!」
出入口から茉莉は飛び降りると、荒川へダイブした。
数秒後、川の水が塔のように上昇し、宇宙船を受け止める。大きく揺れ、俺達は床やカプセルにしがみつく。水の上にいるせいか不安定で船に乗っているような、もったりとしたような揺れこそあるが、落下は防げたようだ。
水の塔は徐々に低くなり、宇宙船は荒川の真ん中…と言っても、赤羽側の土手と川渕側のどてに置かれるような形で無事着陸した。
「千鶴!」
土手で待っていたのは、奈月先輩だった。真っ先にきて、思い切り抱きしめられた。
「イダイ!」
「ごめん、怪我してた?」
「してます…」
「あ、奈月先輩だ!」
茉莉が川から上がって来る。茉莉も無事だったことに、奈月は安堵し、抱きしめていた。
「おい、従姉弟は見つかったのか?」
朝陽が訊いてくる。
「はい…でも、あと一人はまだ…」
「とりあえず救急車呼ぶぜ。捜すのは俺達に任せて、お前等は病院で一旦診てもらえ」
すると、脱出船なのか、小型飛行機くらいの宇宙船が飛び出し空へ向かい消えていった。
「千鶴」
その声に思わず心臓が止まるかと思った。
めぐちゃんだ。
怒りたいのを滅茶苦茶我慢している様子である。腕を組み、仁王立ちで俺達への叱責を我慢していた。
「…ここから先は私達の仕事になります。マキナ達は千鶴達に同行してくれるとありがたいんだけど、いい?」
船内を捜索していた奈月が顔を出し、救急へ電話が終わった朝陽が顔を見合わせる。
「手伝いとか、しなくていいんですか…」
「お前は一般人だ。病院に行った後、母さんにして迎えに来てもらえ」
父である東雲の言葉に、朝陽はぐっと言いたいことを飲み込んだ。
「心配せずとも、これから我々MIBが来ます。あと、君達に謝罪もしないといけないので、落ち着いたら訪問させてください」
話が纏まろうとしたとき、マキナがそっと手を上げた。
「あの。恵美。お願いがあるんです」
「どうしたの?」
めぐちゃんが心配そうに尋ねる。
「警察を気絶させたので、記憶を書き換えてほしいのです」
それを聞いためぐちゃんは数秒黙り込んだ後、頭を抱え、項垂れた。
後日談。
GW最終日。
俺達は、魚子さんの自宅にお邪魔していた。
あの後、宇宙船内に瞬もいて、無事保護された。それから、神隠し事件で行方不明になっていた人全員の生存確認、保護が完了。無事終幕となった。
魚子さんはボブヘアになっていた。片側の耳を出し、バレッタで止めている。どうしてロングヘアから急に短くなったかは、何故か聞いちゃいけないきがした。本人が話してくれるまで。
柚木も火傷を負ったと聞いていたけど、再会した時には綺麗に治っており、痕は残っていなかった。
俺の骨折も、宇宙の技術で一日もあれば完治した。
テレビではさいたま新都心で行われたアイドル合同ライブの映像が紹介されていた。その中にMarieこと南禅寺鞠も圧倒的な歌唱を魅せていた。
「この人が柚木の従姉で、強々従姉なぁ…」
「見かけても関わらない方がいいよ」
柚木が溜息を吐きながらお茶を飲む。
さて。
刹那達が発見された宇宙船が最終引き渡しとされていた。では他の実験体と呼ばれ誘拐された人達はというと、すでに出荷されていた。
MIBが本拠地を特定後乗り込むと、既に主犯の宇宙人等は半分死にかけていた。
蒼志軍である、泰斗達が仕掛けた攻撃だった。
誘拐された地球人は眠っていたが意識もはっきりとしており、以上も見られなかった。
「わかんないけど、誰かが泰斗さんか、翠蘭さんにお願いしたんじゃないかな…実験体にされた人達を助けてほしいって。じゃないと、動かないと思う」
これは汐瑠の推測だ。
「頼れば、アイツ等聞き入れてくれんのか?」
志摩が訊く。
「そこまでは…。でも、賛同できたから助ける側に着いたんじゃないかな。味方のフリをして」
「…俺は好きになれない」
純が小さく呟いた。
「いいよ。俺も好きになれそうにないし」
そう言うと、純の目元が柔らかくなった気がした。
「なるほど。蒼志軍が統率もとれず、仲間同士で争いが起きるのも納得です」
魚子さんがスナック菓子を盛り合わせた皿をテーブルの真ん中にドンと置いた。
「わぁ!お菓子!」
「ケーキもありますよ」
ケーキもあることを知った茉莉はさらにテンションが高くなる。
「あの、本当に助けてくれてありがとうございました。なにより…千鶴に協力してくれてありがとう」
刹那の言葉に、皆の口角が上がった。
「友達だからね」
『この出来事がきっかけで、僕はかけがえのない友人と出会うことができました。離れていても、忘れないでしょう。…ううん。生涯忘れられない時間になりました。それは、これから話すことも含めて、全部。全部――』