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友達は宇宙人  作者: ぱるこμ
友達との遭遇
10/37

GW神隠し事件・五

読んでくださりありがとうございます

――「ちぃちゃんはラムネが好きなんだよ」


北沢と名乗った宇宙人が、教えてくれた。


――「なんで好物を知ろうと思ったの?」

――「別に」


「そっか」それだけ言うと、北沢はうどんをすすり、頬を緩めていた。


どうしてアイツの好物を聞いたのか、解らない。ただ、俺を見た時のアイツの眼が、忘れられなかった。

今まで向けられた視線じゃない。冷たくない、安心しきった瞳。

あんな目を向けられたのは、初めてだった。



『僕たちは、大事な局面なのに途方に暮れていました』



そう。俺達は今荒川に来ている。俺が見た夢を信じて。

ここまで来た。

だが、荒川のどこで最後の引き渡しがされるかまでは知らなかった。


「うーん…見つかんないなぁ」


茉莉は親指と人差し指で丸を作り、その中を覗き込んでいた。まるで望遠鏡替わりのように。


「そんなんで見えるの?」

「見えるよぉ!我々を侮っては困るぞ、ちぃちゃんくん」


ドヤッた後、また空彼方を見上げてはうんうん言っている。

志摩も走り回り、痕跡や手掛かりがないか探している。動き周り、落ち着きがない。


「俺も、何か出来ることしよ…」


双眼鏡を取り出し、覗いても雲の上までは見えない。


「…天体用の望遠鏡の方がよかったかな」

「持ってるのか、そんなの」


聞き慣れない声に、ビクリと体が反応した。純だ。あの東十条純が声を掛けてきたのだ。


「あ、あるよ…」


そうだ、言わなくちゃ。


「あ、あの」

「ん?」

「一昨日は、助けてくれてありがとう。今も、助けてくれてありがとう…俺、俺」


なんて言葉を続けようか。迫害に負けないで?味方だよ?助けになるよ?

だけど出た言葉は


「純と志摩が来てくれて、嬉しかった…!」


あぁ…結局自分のことばかり考える嫌な奴になってしまった。純だってポカンとして俺を凝視している。

やってしまった…。肩を落とし、しょげて、泣きそうになるのを我慢し、発作が起きないよう胸を撫で落ち着かせていると、顔の横にプラスチックの瓶が差し出された。


「ぅぇ…あの」

「黒岩はラムネが好きだって、北沢から教えてもらった。体調悪い時に食べることもあるって聞いたから。お菓子でも食べて、まずは落ち着け。探すのは北沢と志摩に任せておけば大丈夫だろう」


俺はラムネ菓子を受け取り、早速食べ始めた。懐かしい味がじんわりと広がる。この歯ごたえも好きだったりする。


(でも、茉莉はなんで俺がラムネ好きって思ったんだろう。どっちかっていうとグミの方が好きなんだけど…)


いただいた好意を無下にするような無粋な真似はしない。カリカリと食感を楽しみながら気持ちを落ち着かせる。


「あ、ありがとう。純。だいぶ楽になった…」

「なら、よかった」


純はとても不器用な子らしい。今も、すぐそっぽを向かれたけど、気になるのかチラリと俺の方を見る。


「あ!ジュンジュンお菓子渡せたんだね!やったね!」


茉莉が嬉しそうに純に声を掛けた。


「え?!俺貰ったことないのに…」


志摩はあからさまにがっかりと肩を落とした。


(純純って、パンダみたいなあだ名だな…)


晴れていた空が、急に陰りを見せる。

見上げると、上空には太陽を遮るような円盤が浮遊していた。風が吹き、俺達の髪や服を乱していく。


「あ、誰かいる」


茉莉の指望遠鏡から見えた光景。出入口が開き、そこから二人がこちららを見下ろしている。

双眼鏡を覗き、犯人であろう二人の姿を確認しようとするが、距離があるため目視するには限界だった。だけど、ピントが合わなくても、まだ離れていても解る。


雰囲気、姿形


「え…」


一人は知らない。だがもう一人は。


「会長だ…」


生徒会長、赤城暦。魚子が尊敬している先輩。なんで、引き渡しにいるんだ。


「あの宇宙船が最後の引き渡しだよ!早く捕まえよう!」


茉莉が急かしてくる。我に返り、呼吸を忘れた愚かな俺は、陸の上にいた魚が水に戻ったときのように酸素がどっと体に入って来る。


「な、投げ飛ばして、茉莉!」

「え、出来るけど、ちぃちゃんが怪我しちゃうよ!」

「それでもいいよ!早くしないと刹那達が!」

「落ち着いてよ!」


手を伸ばしたところで無意味で。跳びたくても、飛びたくても、ただの地球人には遠くて、遠くて、届かない。お前達地球人が勝つ手段なんて無い。そう叩きのめされ、暗くて深い穴の溝に立たされた。


「刹那、瞬…」


焦燥だけが募っていく。


「見下されっぱなしでいいのか」

「へ?」


純が首根っこを掴むと、急上昇する。みるみるうちに地上が離れていく。下からは「ちょいちょい、待ちぃ!」「ちぃちゃん!」と志摩と茉莉が叫んでいる。


「怪我する覚悟あるんだよな」

「あ、ある!」


その瞬間、俺達は宇宙船の出入口数十メートル前まで接近していた。そして純に大きく振りかぶられて、思いっきり投球された。


叫ぶ暇も無かった。


誰かに激突し、一瞬意識を飛ばした。



血生臭さが鼻腔を突く。

薄っすら目を開けると、煙が立ちこんでいた。あぁ、純が俺を投げ飛ばした衝撃でどこかが壊れたんだ――そう理解した。


それは正解で、壁、床が損傷していた。

俺の左腕は多分罅入ってる。額から出血。体に痛みはあるが動けないほどではない。


背後から伝わる蠢く感触から逃げるように退くと、その光景に目を丸くした。言葉が出なかった。

ヒトの形をした宇宙人の半神が肉の塊となり、肉はカビのように床や壁に這っていた。つまり、この人物は右半身を俺に潰されたことになる。


鋭い、真っ赤な瞳が不気味で俺は何も言わず逃げ、刹那と瞬を探し出す。

円形状の広間、カプセルに入れられた地球人が綺麗に並べられ、フックで吊るされ保管されている。下から上まで積み上げられている。


「千鶴、探せ!」


純の声が船内に響き渡るがどこにいるか解らない。


「純、どこ?!」


走ると左腕に痛みが走る。それでも足を止めなかった。

グチュグチュ、グチャグチャと肉をこねる音がする。半身肉の塊が再生し人型に回復したらしい。奴の腕は肉が枝になったように伸び、俺を追跡してくる。


息を荒げながら逃げ、刹那達と捜す。


(ここで捕まったら終わり、ここで捕まったら終わり…!)


どこ。どこ、どこ、どこ

カプセルの隙間に入ると奥にも誘拐された人達が保管されていた。

こんな膨大な数を、一人でさがすのか?


(駄目だ、諦めるな。捜して、見つけて、また会うんだ!)


ふわり


さら…


絹のような肌触りのいい何かが俺の頬を撫でた。振り返るが誰もいない。あの肉触手でもない。


――千鶴、八〇七五


「…霜月先輩?」


だけど彼はいなかった。だけど彼に頭を撫でられて、謎の番号を教えられた…気がした。

肉触手野郎が追いついてきたので、さらに奥に隠れ息を殺す。


(早くどっかいけ、通り過ぎろ…!)


ふと、カプセルに番号が記されているのが目に入った。


「このカプセルが一九四三番ってことは…」


二段目に目をやると、三〇八一と書かれている。刹那か瞬は、上の方にいる。


「うわぁ!」


油断した。

肉触手が足を取られ、盛大に後頭部を打ちつけて広間へと引きずり出された。


「ッ痛ぅ…!」殺される?


心拍数は上がり、またシスターペストが脳を支配する。

瞳孔を動かせない。瞬きしたら、殺されるかもしれない。

乱れる呼吸。


しかし、奴は何もせず、ただじっと俺を見ているだけだった。無表情で、やる気のなさそうな瞳で、俺を見ている。


沸騰した脳みそが冷えるように。自身も落ち着いてくる。喉の奥から振り絞り、尋ねてみた。


「…か、家族を、返してください」

「それは出来ない。この個体等は実験体になるために生まれてきた。回収時期が今日だっただけだ」

「じゃあ、言い方を変える。家族を奪うな」


「どうしてコミュニティに拘る。いずれいなくなるのに。地球で言うなら出荷、売買、オークション…少し違うか。引っ越し、結婚、死別…今生の別れ。それが今日、早まっただけだと思えば割り切れる」


「割り切れないよ!」


怒鳴り声が、反響する。


「他の地球人がどうだかは知らないけど…少なくとも、俺みたいに、大切な人の帰りを待っている人達がいる。最期まで、傍にいたいって…離れ離れになることがあったとしても、こんな非人道的な別れ方は許さない」


すると肉触手野郎の眼が丸くなった。


「お前は家畜に感情移入するのか?」

「は?」


言葉が出なかった。


たった一言ですべてから置いてきぼりにされる感覚。


茫然としていたら、宇宙船が大きく揺れた。


「うわぁ!」

「っ、」


肉触手は「今度は何だ」という視線で出入口を睨む。

そこからは、這い上ってきた茉莉が顔を覗かせた。


「遅れた!」

「どうやってここまで…」肉触手野郎が僅かに狼狽えた。

「!茉莉、八〇七五番のカプセル捜して!多分上のほうに保管されて、そこに刹那か瞬がいる!」

「おっけーぃ!」


茉莉は承知するとあの脚力で上りカプセルを捜し始める。


「クソ」

「お前は行くな!」


『わかっていました。タックルをして、捕まえて足止めした時点で、地球人が触手を持つ宇宙人に勝てないことくらい。それでも、僕は茉莉の邪魔をすることを許さなかった』


タックルをかまし、肉触手野郎を押し倒ししがみつく。左手に上手く力が入らないから、右手の握力で、精一杯掴んだ。


「宇宙人が…他人のくせに、地球でやってることに口出ししてくるな!」


真っ先に出た怒りだった。


「俺は理性的に考えただけだ。なら、ここにいる奴等の祖父母が出会った当時に将来孫は実験体として回収されますって宣言したほうがよかったか?」

「そうじゃなくて…言い方変える。お前の物差しで基準を考えるな」


真っ赤な瞳孔に俺が映る。コイツからの反撃は無く、ただ静かに時間が過ぎる。


――ちぃちゃん!


空間に茉莉のドデカい大声が響き渡り反響する。


「ちぃちゃん、いたよ!せっちゃん!」


茉莉が一つのカプセルを持ち上げながら降りてくる。


「せ、つな…刹那!」


俺は肉触手野郎から離れ、転びそうになりながらも茉莉達の下へ走った。

カプセルの中には眠っている刹那。


「刹那、刹那!」


ドンドンとカプセルのガラスを叩いても簡単には割れない。


「ちぃちゃん、任せて」


茉莉が台パンするようにカプセルを叩き割る。すると浮いていた体が重力に従いドサッと倒れこんだ。


「刹那、刹那!起きて、せつな」


肩を叩いて必死に呼びかける。


「起きて、目を開けて、せつな!」


呼吸もある、眠っているだけのはずなのに。いくら呼びかけても反応が無い従姉に、心臓が握りつぶされそうになる。口元がひくひくして、目の奥が熱くなる。


「…!ちぃちゃん!」


目を擦り茉莉を見ると、晴れ晴れとした表情で刹那と俺を交互に見る。カプセルを覗きこむと、小さく唸り、薄っすらと瞼を開き始めた刹那がいた。


「せつな…刹那!」

「ち、づる…?」


掠れて、消えそうな声。朦朧としている瞳が俺を捉える。

それだけで、それだけでこんなに救われるなんて知らなかった。


「ぅ、…っああああああぁ!」


十六歳にして、大声を上げて泣きじゃくった。涙なんか止まらないし、嗚咽を上げないと苦しくてどうしようもなくて。


「よかったね、ちぃちゃん!」


茉莉がおもいっきり抱きしめてくれて、背中をトントンと叩いてくれる。

刹那はゆっくりと起き上がると、頭痛がするのかこめかみを押さえていた。


「だ、大丈夫?!怪我は?体調は?!」

「私、千鶴の家に着いたはずだったんだけど…。茉莉ちゃんも来てたんだね…。…千鶴、あんたの方が怪我してるじゃない!」


カプセルから飛び出し、ポケットからハンカチを取り出し額に当ててくれる。


「茉莉ちゃんは?大丈夫?」

「私は頑丈だから大丈夫!あ、でもちぃちゃん腕が折れてるかも」

「大怪我じゃない、病院に…どこ、ここ」


冷静になった彼女の眼に映った光景は異様なものだったろう。映画の世界に飛び込んでしまった広間にいるのだから。


「何、これ」刹那の声が強張る。

「あの、刹那、説明は後でするから、」


カコン、カコン――


ヒールのような足音を立てて、誰かが近づいてくる。広間に唯一あるドアから、一人の青年が現れる。

蒼と紅のオッドアイを持つ、宇宙人が現れる。ソイツは便所サンダルを履いていて、ジャージを着ていた。


「ウッセーから様子見てこいって言われたわ。緋色、どうなってんだよ」

「侵入者だ」

「は?さっさと追い払えよ。つうか!一人逃げ出してんじゃねぇかよ!お前何してんだよ!」


俺と茉莉は、静かに見合った。言葉を失って。


大井泰斗…川渕中央高校三年生、都市伝説と呼ばれている男。いつも便底眼鏡をかけているけれど、それが無くても解る。

きっとあのドアの奥に犯人がいる。


その時、悪運強く携帯が鳴る。着信は魚子さん。


「電話鳴ってんぜ。最後の挨拶になるかもしれねぇんだから出る時間くらい作ってやるよ」


最悪な台詞に冷汗が止まらない。それでも出るしかない。


「も、しもし」


声が上ずった。それで凡その状況を察する魚子さんも恐ろしかった。


『…今すぐ逃げてください。新都心は囮で、そっちに緋色という男がいます。彼は生きた兵器だと汐瑠さんから教えてもらいました。あとは恵美さんが向かっています。すぐ逃げて!』

「わかった…!でも純が、」

『いいから!』


通話漏れした会話に聞き耳を立てていた茉莉が、俺と刹那を両脇に抱え走り出した。


「逃がすな!」


泰斗の命令で肉触手野郎…改め緋色がまた体を変化させ触手で俺達三人をあっという間に捕らえる。


「痛い!」


左腕に激痛が走る。締め付けられて罅が悪化したようだ。


「……ねぇ、千鶴。誰が千鶴に怪我を負わせたの?」


刹那は俯き尋ねてくる。


「今それどころじゃ、」

「誰がやったの?」

「あ…あの人!オッドアイのヒト!」


何故か茉莉は嘘を吐いた。大井泰斗が俺に暴力を振るったと。――真相は純に投げつけられ、緋色と激突したさいに負った怪我だけど――


「わかった」

「せつな、目の色…どうしたの」


刹那の瞳は、日本人特有の黒茶色ではなく、琥珀色に輝いていた。


「今ならアイツに一発くらいお見舞いできそうだわ」


ハイになっているのか、いつもの雰囲気と違う刹那が目を見開き泰斗を捉えていた。

床に散らばったカプセルのガラス破片が、カタカタと僅かに動き出しているのを、まだ俺と茉莉は気づいていなかった。





千鶴を船内に放り込んだ純も、中に飛び込んだ。

一歩踏み出すと、硬い床ではなく沼に踏み込んだような感触。下を見ると、真っ黒な穴が出来ていた。嫌な予感がした。


「千鶴、探せ!」


それだけ伝えると、大きな黒い腕に捕まれ引きずり込まれていった。

暗かったのは一瞬。風が吹き、太陽が眩しい。周りを見渡すと、どうやら宇宙船の外部に連れてこられたらしい。


まだ俺は手に捕まれ身動きが取れない。寧ろ、もがけばもがくほど締め付けが強くなる。

ミシッと肋骨が軋む音がする。


「まさかお友達を投球するとは思わなかったよ。お陰で一人捕まえそこねたし」


歩いてきたのは赤城暦。予定通りいけば、俺と千鶴を捕まえてここから放り出すつもりだったのだろう。


「…アンタ、学校の会長だろ。なんでこんなことしてんだ」

「それはこっちも似た疑問だな。なんでここが解った。散歩に来た訳じゃないだろ。それに…一般人に紛れて平穏な生活をしたがるスカベンジャーの民がなんでここに首突っ込んでいるのかも理解しがたいな」

「それこそどうでもいいだろ」


暦はハァと溜息を吐き、頭を掻いた。


「こっちはお陰で揉めてるっての」


どうやら仲間割れが起こりそうらしい。ならもっと、揉めてもらおう。


「俺達がここに来たのは又聞きだ。でも、直接聞いた本人は、ここの誰かから聞いたって言っていたぞ」

「それなら情報漏らした犯人の目途は立っている。折檻して、頭冷やさせてる」


やばいことになってきた。

千鶴は懇意にしている先輩から教えてもらったと言っていた。暦が事実を言っているのであれば、救出対象が一人増える。


(厄介だな…誰かを助けるって)


でもそもそも、何故その先輩はここにいる?


「…お前等何者だ」

「蒼志軍」

「え…」

「俺達は蒼志軍所属。聞き覚えが無かったらお家に帰れたらググりな」


蒼志軍――聞き覚えが無い訳無い。


自分も被害にあった。アイツ等は自分の正しい理想と志を掲げ、間違いだと思えば攻撃してくる、所謂過激テロ派集団。所属人数が多すぎて真の目的なんて有耶無耶になり、今じゃ同志間で殺し合いをする始末。活動内容はテロを起こし、意見が合う国、組織への攻撃。金で雇われ裏仕事をする奴等もいる。

こいつ等も、この神隠し事件の犯人、或いは協力者。


「…知っている。宇宙の生ゴミって言われてる」

「そうだな」


だけど、俺は、俺達スカベンジャーの民は、こんな生ゴミより必要とされていない。



―東十条純回想―

絶叫が拷問室に響く。

冷たい石の壁。劣悪な環境。床は血や指、もう解らない体の部位が落ちている。

スカベンジャーの民。宇宙の癌と言われ迫害される民族。捕まれば拷問、奴隷、ただ死を待つしかない。


しかし悲しいことに治癒能力が異常に発達しているため、腕を切り落とされても、内臓を取り出されても、目を潰されても再生する。死にたくても簡単に死ねない体。


俺達が信仰する神様は意外と残酷だった。


(なんでこんな体を創ったの…)


神様を恨んだ。

ただ、信仰する神が違うだけで迫害を受けて。神様から享け賜わった体のせいで生きて。


(死にたい)


――ボス、いい仕事請け負ってきましたね!下等生物の排除!好き勝手やって殺しても無罪!

――だろ?蒼志軍に入れば癌共を排除できるって思ったが、まさかこんな早く仕事が来るなんて思ってなかったぜ


神様…助けてって、祈ったら助けてくれますか?


叶えてくれますか?


その時だった。


「手ェ上げな」


重工に出来た扉を蹴飛ばし、一人の宇宙人が銃を構えこちらを見ていた。


「なんだテメェ!」

「お前等こそ何やってんのよ。私から見たら犯罪者よ、犯・罪・者!犯罪者は死刑よ」


極端な思考を持った女性が、仲間を引き連れ拷問室に雪崩れ込んできた。

そして俺達は無事保護された。



「ねぇ、地球に移住することを考えてみてほしいの。青くていい惑星よ。私の故郷でもあるの。よっぽどのことが無い限り、貴方達を狩る者は現れないはずだし」


保護された後、あの女性が勧めてくれた新しい生活拠点。



―回想終了―


地球に来てから本当に、何事もなく生活を送れた。迫害、狩人に怯える必要も無い。安心して暮らせた。

なのに…

志摩と魚子と出会ってしまった。そこから歯車は狂って、今こうして、誰かのために動いている。


(平穏に暮らしたかっただけなのに)


だけど、今の方が楽しいと思うのは何故だろう。


地上から見た時、船内には二人いた。

千鶴と、刹那、そして先輩とやらを助けに行かないといけない。独りでも、この手から脱出できる可能性はある。でもそれは再生時間との賭けになる。


「…神様」


小さく、小さく呟いた。


助けてと祈ったら、叶えてくれますか?手を差し伸べてくださいますか?

あの時みたいに


ドーン!


「うおっ」

「…?!」


宇宙船が大きく揺れた。すると、ひょいと志摩が身軽に外壁を跳び上がり現れた。


「いやぁ、北沢に任せたら全身骨折するかと思ったぜ」

「…志摩」

「助けに来たぞ、純!千鶴んところには北沢が行った!」

「ハハ、そんな面初めて見た」


志摩は可笑しそうに笑った。

暦が、本日二度目の溜息を吐く。


「ややこしいことにしやがって…」


暦の周りから黒い腕が何本も出現する。


「今助けるからちょい待ち」


それだけ言うと、志摩は金属性の手甲鉤を装着した。


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