魔界
そこから2ヶ月も経つと俺たちのパーティの攻略は42階層に差し掛かり、ラビアさんや他の大きなギルドに攻略先で出会うことも多くなっていた。
「おお憐也じゃんか!またあったな!」
こいつは40階層のボスフロアで共闘したアルビレオだ。
頭から猫のような耳、お尻から狐のような尻尾が出ている獣人だ。
「久しぶりだな」
かれこれ一ヶ月ぶりに会う戦友のアルビレオに向けて挨拶を返す。
「まだどこのギルドにもはいってないのか?そんな実力があるのに?」
「まあな。」
「それならうちのギルドにこいよ。ミラ団長もお前達なら歓迎してくれるさ!」
うちのギルドというのは、アルビレオが所属しているノワールギルドのことだろう。
この街のギルドで大きいギルドは5つある。ラビアさんやマーズ団長がいるミカエレギルド、タルタロスギルド、薬やポーションの研究を主にしているリーフギルド、滅多に表舞台には出てこないハーミットギルド、そして、アルビレオが所属しているノワールギルドだ。
基本的にダンジョンの攻略をしているのは、ミカエレギルド、タルタロスギルド、ノワールギルドの三つだ。
「いや、遠慮しておくよ。大人数で過ごすのは俺には向いてないからな。ただ、この前みたいに共闘なら俺も助かる。」
「そっか!ならそのときはまたよろしくな!」
そういってアルビレオは笑顔で去って行った。
この二ヶ月で俺たちもさらに強くなった。ただボスは40階層から格段に強くなり、俺たちのパーティだけでは倒しきれなくなった。
そこにたまたま攻略にきていたアルビレオのパーティと出会い、そのまま2パーティで突破したのだった。
「私達も40階層まできたのね。」
マリンが感慨深くつぶやいている。
「ああ、そうだな」
最初は3階層で躓いていたのにな。
「俺はまだこんなところで止まるわけには行かない。もっと先に行く。」
「しょうがないから、私もついて行くわ。どこまでも」
そして俺たちは43階層に足を踏み入れた。
「ようやく50階層か。」
俺たちはあのあと43階層も突破し、ついに50階層に到達した。
「ラビアさんの話によるとこの辺でダンジョンの半分くらいまでは来たらしい。」
この前ラビアさんと話した時に、50階層で半分くらいという情報と理不尽な攻撃ですぐ死が訪れるから気をつけろという注意喚起がされた。
俺たちもなんだかんだとトップ攻略者の仲間入りを果たしたわけだった。
「グオオオオオオオ!」
50階層のボスの声が近い。そろそろボスと戦うことになるだろう。
えっこの前、俺たちだけじゃ倒しきれないと話していたじゃないかって。
安心したまえ、今日はなんとミカエレギルドのラビアさんとマーズ団長が一緒に来ている。
今度はしっかりと攻略を手伝いにだ。
しかし、やれるだけ俺たちだけで倒したい。
この頃は自信もついてこう思うようになっていた。
「蒼き我の魂よ、呼応せよ。楔を解き放って力を示せ。」
「エターナルブラスト!」
「叡智、永劫、神を殺す炎の剣けんよ。蓋世がいせいの剣つるぎし天に還せ」
「レーヴァテイン!」
マリンとレーシィが50階層のボス、エキドナに魔法を放つ。
確実にダメージが入った。
その隙を逃さず、俺とリリスとリュウ、マーズ団長で特攻する。
最近は共鳴と唱えなくても常に共鳴状態にすることが出来ている。
エキドナは斬られながら魔法を放とうとするが、
「束縛せよ。刻印を刻め。虚空を捉えし深淵を止めるのは我。その鍵で堕天せよ。」
「ナイトメアロック」
ヴィネに拘束され魔法も撃てず、さらに叫びをあげる。
「霧の世界よ。極炎とともに包み込め。贖罪させ私に矜持せよ」
「ニブルヘイム」
とどめはラビアさんが刺して、50階層も無事突破した。
俺たちは無事50階層を突破して、ホームに帰ってくることができた。
「なかなか大変だったな」
ラビアさん達が居てくれたおかげで倒すことはできたが、ここから先はこの人数だと難しいかもしれない。ギルドに入るかパーティの人数を増やす必要があるかもしれない。
50階層にくるパーティの平均人数は約10人ほどだ。今回の50階層ボスには8人で挑んだが、ルミナスの街で10位までには入るであろうラビアさんとマーズ団長がいてこその勝利だった。
「みんなの安全を気にするなら決断はしないとな、、、」
「どうしたんですか?憐也さん浮かない顔して」
「リリスか。少し悩み事があったんだ」
「そうなんですね、、私で良ければお話し聞かせてください!」
「ああ、、。パーティ全員にかかわる事かもしれないからな」
リリスに促されるまま、俺は今後ギルドに所属するか人数を増やすか悩んでいることを話した。
「なるほど、、、。ギルドだとたくさんの人に係わるようになりますし、するのであればパーティの人数を増やす方が良いと思います。ギルドだと苦手な人ともパーティを組まないといけないこともありますし。」
ギルドにはいれば私が憐也さんと話す時間がなくなる、、とリリスは思った。
「きゃっ、、貴方たち一体何なの?」
突然雑貨屋に人が入ってきたと思ったら、急に襲われてしまった。
「悪いけど一緒に来てもらうよ。」
「いやよ。それに貴方たちが悪魔族だったなんてね」
黒い翼に赤い瞳。間違いなく悪魔族だ。
「今更知っても遅いわよ、ようやくあなたのこと見つけたんだから。天使族の末裔さん?」
悪魔族に居場所が割れないよう気をつけていたというのに、とミズキを苦虫を噛んだ表情をした。
「抵抗するのはやめた方がいいわ。ただの一般人の店の店主が死んでしまうから。」
ミズキは魔法で拘束された育ての親をみる。
「わかったわ、、。」
「物わかりが良くて助かるわ」
そういって二人の悪魔族と一人の天使族は暗闇の空間に消えていった。
「おい、起きろ憐也君」
50階層を突破して二日後、早朝突然カペラが家にやってきた。
「なんだよ、一体。」
眠い目をこすりながら、カペラの話を聞く。
「良く聞け。ミズキが攫われた。」
その瞬間、俺の意識は覚醒した。
カペラと家に居たマリン、リュウ、レーシィとともに時計台の地下室に向かった。
詳しい話をアンシャルに聞くためだ。
「ここにこんな場所があったなんて、、」
マリンは時計台に地下室があったことに驚いている。
「認識阻害の魔法がかけられているからな。普段は分からない。」
地下室へと続く階段を降りながらカペラが説明する。
「まっていたぞ、憐也」
「アンシャル、ミズキが攫われたって一体どういうことなんだ」
「ああ、おそらく悪魔族の仕業だろう」
「なんでミズキを攫うんだ」
「それは分からないが、何かの生贄に必要なのじゃろう。悪魔族はなにか儀式を行う時にはきまって生贄を必要とするからな。」
そういえば、レーシィが襲われていたときもあの悪魔族の奴は生贄にすると言っていたな。
「ミズキを助けに行かないと。」
「待て、まずはこの街に居るはずの悪魔族の代表に事情を聞く。」
「でも、そいつの場所は分からないって言ってなかったか?」
確か以前、どこに居るかまでは把握していないと言ったはずだ。
「まあ見ておれ」
「ここが悪魔族の代表の住処のはずじゃ」
俺たちは街の古びた図書館に来ていた。
「ここが悪魔族の代表の住処?」
古いだけで特にそんな感じはしないが、、、。
「隠密活動や情報収集に長けたギルドに調査を任せたから間違いないはずじゃ」
「あれ、お久しぶりですね。」
図書館に入るといつも司書をしている眼鏡をかけた子が話しかけてきた。
「ああ、久しぶり。」
この子に会うのも久しぶりだな。最近図書館には来てなかったからな。
「この図書館の中に鍵になるものがあるはずじゃ」
とにかくそれを見つけるんじゃとアンシャルが言う。
鍵か、、、。
とりあえず図書室の鍵といえば本棚を押して動かす隠し扉だと思ったので3階建ての図書館の片っ端から本棚を押してみる。
「でてこないな、、、」
どうやら外れだったみたいだ。
と思ったが、本棚と本棚の間に一人分通れるスペースを発見した。
「なんだここ、、、?」
こんなとこに通路なんかあったかな?
「いってみるか」
通路をどんどん進んで行くと、そこには一つ部屋があった。
ドアノブをひねってみると鍵は開いているらしくドアは素直に開いた。
「なっ、、、、」
そこに転がっていたのは悪魔族の死体だった。
心臓を刺されて居る。血は固まっているが、、、
俺はすぐにみんなを呼んできた。
「なんてことじゃ、、、」
アンシャルは言葉を失っている。
「なんでこいつが死んでおるんじゃ」
「俺が来たときにはすでにその状態だった。」
「お前さんはここに入ったということは鍵を見つけたんじゃろ。どこにあった?」
「いや、鍵は見つけてない。元から開いてたんだ。」
俺はこの悪魔族を見つけたときの状況を説明する。
「元から、、、ということは誰かがここに来てこいつを殺したということか、、。」
「侵入者、発見。排除します。」
感情のこもっていない声が悪魔族の部屋に居る俺たちの後ろから響いた。
「どうして君が、、、」
そこに居たのはさっき俺に挨拶してくれた眼鏡をかけた秘書の少女だった。
その目からは輝きが消えている。
「君が門番の役割をしていたのか。」
アンシャルは眼鏡の少女に問う。
しかし、答えはかえってこない。
「戦うしかなさそうね、、」
そういってマリンは魔法の詠唱を準備する。
「いや、ここで魔法を撃ったら図書館が崩れるからだめだ!」
ただでさえ古いんだ。何が起きてもおかしくない
「俺がやる。」
「そうか、じゃあ僕も君に任せるよ」
そういってカペラは剣を抜きすらしない。
「侵入者を排除します。」
眼鏡の少女は剣を構えて突撃してくる。
「すまない。」
俺はその剣を避けて、心臓に剣を突き刺した。
少女は胸から血を吹き出して倒れた。
「門番は以前もっと強かったはずじゃ、、長い年月で劣化してきていたのか、もしかすると殺して欲しかったのかもしれんな、、」
目に輝きはないが、少女の顔は少し笑っている気がした。
俺たちは時計台の地下室に戻り、今までの状況を整理することにした。
「おそらく、悪魔族の代表であるファールヴァウティは同じ悪魔族に殺されたのだろう。」
アンシャルはそう仮説を立てる。
「あの門番は儂らに対しては機能した。であれば既に壊されていてもおかしくない。が、あやつは壊れていなかった。ではどういうことが。同族には機能しない設定があったのだろう。」
なるほど。それなら俺たちが来る前にファールヴァウティが殺されていても辻褄があう。
「でもなんで、ファールヴァウティが狙われたんだ?」
俺は気になったのでアンシャルに聞いてみる。
「それはあやつの立場もあっただろう。1000年前、天使族と悪魔族が冷戦状態になったとき、悪魔族は争いをやめる派閥と天使族を滅ぼそうとする派閥の二つがあった。悪魔族代表のファールヴァウティが争いをやめる派閥だったからこの冷戦協定は結ぶことが出来た。だが、天使族を滅ぼそうとした派閥がなくなったわけではない。ずっと復讐する機会を窺っていたのだろう」
だからファールヴァウティは殺されてしまったのか、、。
穏便派であった悪魔族をなくしたことは悲しいし、今後どうなるか分からないな。
「ファールヴァウティが居なくなった訳だが、今回のミズキの誘拐はおそらく天使族を滅ぼそうとしている派閥がしたことだろう。」
「ミズキを助ける方法はないのか!?」
今は穏便派だろうが滅亡派だろうが関係ない。
とにかくミズキを救うことを考えないといけない。
「あるにはあるが、、、」
アンシャルはあまり言いたくなさそうに顔を歪めた。
「何かあるなら言ってください!」
俺はアンシャルに詰め寄った。
「魔界にいくことじゃ、、、」
「分かりました。行きます。」
「分かりましたってなぁ、、、とても危険な場所なんじゃよ」
「それはわかっています」
「わかっとらんじゃろう、、、。もし魔界で死んでしまった場合お前さんはもう元の世界には戻れない。」
「それでも構いません。ミズキは俺にとって大事な人なんです。」
「そうか、、わかった。」
そういってアンシャルは魔界への行き方を教えてくれた。
「さっきいった図書館に魔界に繋がるゲートがある。そこを通るんじゃ。」
だが、といって言葉を切る。
「一度入ったら戻れるかは保障できん。儂も魔界に行ったことはないからな。」
「それでも俺は行きます。」
アンシャルはすぅと息を吸って
「ミズキを頼む。儂らもできる限りのサポートはする。」
「お願いします。」
俺たちは魔界に向けて準備を始めた。
魔界に行くことになった次の日、リリスとヴィネにこのことを伝えるため、二人が泊まっている宿に来ていた。殆ど毎日朝、家に顔を出しに来るのだがたまたま今日は来なかったからだ。
「あれ、いないのかな」
その宿にはリリスとヴィネは居なかった。
どこか出かけているのだろうか、、、。
「憐也、リリスとヴィネは居た?」
家で待っていたマリンにリリス達の行方を聞かれたが、
「いや、居なかった。多分どこかにいっているんだろう」
ただ、あの二人を待っている時間は正直ない。
「しょうがないから二人は置いていくしかないな」
戦力的には居てくれた方が助かったんだが、、、
「バルバドスさん、どうしてミズキを悪魔達に渡したんですか。バルバドスさんの実力があればミズキを攫いにきた悪魔達なんて瞬殺できたはずですよね。」
カペラに問われたバルバドスは答える。
「ああ、もちろんだ。あの程度の悪魔、1分あれば片付く。」
「じゃあなぜですか。ミズキは私達にも必要な駒なはずです。」
「ミズキだけでは意味がない。憐也の覚醒が必要だ。二人の力があってようやく完成する。」
「では、憐也君の覚醒のためにミズキを渡したんですか」
「そうだ。」
バルバドスはこれ以上言うことはないと示すように黙ってしまった。
「よし、じゃあ魔界に行くか、」
「うん!ミズキさんを助けに行かないとね!」
魔界に行くメンバーは俺とマリン、レーシィ、リュウの4人だ。
「気をつけていくんじゃよ。」
アンシャルは図書館の魔界のゲートの前までのお見送りだ。
ちなみにこのゲートはアンシャルがハーミットギルドをつかって既に見つけ出していた。
「ああ、いってくる」
そうしてゲートを抜けた先に俺たちを待っていたのは荒れ果てた土地だった。
「ここが魔界なのね、、、」
さすが魔界といったところか、赤色の空に緑色のものがないくらい痩せこけた土地だ。
「憐也、ここからどうやってマリンさんをみつけるの?」
レーシィが俺に聞いてきたが、それは考えていなかった。
「ええ、、もしかして考えてなかったの?」
「はい、、、」
ミズキを助けたい一心でここまで来たが具体的な方法は考えていなかった。
「とりあえず街に行ってみましょう。なにか分かるかもしれないし」
レーシィはそう提案する。
「でも、私達は悪魔族じゃないのよ?街なんかに行ったら袋叩きにされちゃうわ」
マリンの言うとおりだ。どうみても俺たちは悪魔族には見えない。
「それなら私に任せて!」
そういってレーシィは大きい胸を張る。
「声よ、歌よ、私に一時の安らぎを与えよ」
レーシィがそう唱えると、俺たちに光がまとわりついた。
「これは?」
「その光は変身魔法の光よ。その光が体の周りにあるうちは変身魔法の効力があるわ。」
「すごいわね。何にでも変身出来るの?」
マリンがレーシィに驚きながら聞いている。
「基本的には出来るわ。ただ体格差が激しかったり、極端に大きかったり小さかったりすると出来ないけど。」
なるほどな。これで向こうからは悪魔族の姿に見せることができる。
これならミズキを探すことができそうだ。
「どうして私を攫ってきたの?」
ミズキがここまで連れてきたヴィネに聞く。
「どうしてって、あなたの力が必要だからよ。」
「天使族の力ということかしら。」
「それだけじゃないわ」
「それだけじゃない、、?」
怪訝な顔をしてヴィネを見る。
「あなた、自分の力のことしらないのね」
そういってヴィネは私にある事実を教えてくれた。
「あなたは女神族の血を引いてるのよ」
「女神族?」
「そんなことも知らないで今まで過ごしてきたの?」
ヴィネは驚くようにミズキを見る。
「ええ、今まではアンシャルの言うとおりに過ごしてきたから、、」
自分が女神族であることなんて今まで知らなかったし、そもそもそんな種族がいたなんて聞いたことがなかった。
「私の事は殺すの?」
「それは返答次第ね。まあまだしばらく時間はあるし、牢獄でゆっくりしてなさい。」
そういってヴィネは牢獄の前から去って行った。
「とりあえず、一番近くの街にはついたな。」
荒れ果てた土地をあるいて4時間。ようやく最初の街に着くことが出来た。
「すごい遠かったわね、、、。少し休みたいわ。」
空の色は赤いまま変わっていない。ここは昼も夜も変わらないようだ。
「そうだな、すこし宿で休憩しようか。」
魔界の街も作りとしてはヒナクスの街と殆どかわらず宿もあれば店もある。ただ品揃えはあまり良いとは言えなかった。
「あんまり品揃えはよくないな」
食べ物も枯れかけているのもが多いし、パンも凄く堅そうだ。
こんな土地なら仕方がないか。
まずは今日の食事のために買い物をしないとな。贅沢は言ってられない。
「じゃあこれとこれください」
店を出しているおばちゃんにセルを渡して置いてある分の肉と枯れかけの野菜を買った。
どうやらヒナクスの街のお金は魔界でも使えるらしい。
ていうかよく考えたら、この町の人達は瞳が赤いだけで翼もないな。ほとんど人と変わらないじゃないか。
宿に帰るとさっそくリュウとマリンが料理をしてくれた。
「これしか売ってなかったの?」
マリンが量の少なさに俺に聞いてくる。
「ああ、この量でもヒナクスの街で買う倍の値段がした。」
「本当に貴重な食料なのね、、」
そういって野菜と肉を鍋にして出してくれた。
肉は少し干して非常食も作っていた。
次の日、俺たちは魔法をかけ直し、ミズキを見つける手がかりを街で探していた。
リュウとレーシィは街を探索して、俺とマリンは聞き込みだ。
「ただどうやって聞けば良いんだ?天使族の人探しているんですなんていったら即襲われそうだ。」
「そうね。どうしましょうか。」
「とりあえず、最近なにか大きな事がなかったか聞いてみるか。」
街で聞きこみをしていると数日前に王都の方からかなり大きい花火の音がしたという情報を手に入れることができた。
「まずは王都に向かってみるか。」
合流したリュウとレーシィとともに俺たちは王都を目指すことにした。
「ロキ様、女神族を連れてきました。」
ロキと呼んだ髪の長い女とも男ともとれる格好をした悪魔にむけて伝えた。
「ありがとう、ヴィネ。これで奴らを止めることが出来る。」
その悪魔は優しい声でヴィネに感謝を伝えた。
「これ以上、奴らに好き勝手させるわけにはいかない。私の使命は民を救うことだ。」
ロキは独りでに呟いたのだった。
最初の街から三日歩き、俺たちは小さな街に到着した。
「ようやく少し休めるところについたな。」
「おや、珍しいね。お客さんかい?」
村に入るとすぐに悪魔族のおばあさんが話しかけてきた。
「ええ、旅をしていて。少しここで休ませてもらっても良いでしょうか。」
「構わないよ。むしろ賑やかになってうれしいや」
そういっておばあさんは笑顔で歓迎してくれた。
魔界に来て思った事だが、親切な人ばかりな気がする。
もっと殺伐としている場所かと思っていた。
夜になるとおばあさんはここで寝泊まりしていいよと家を貸してくれた。
なんでも昔人は住んでいたが、いまは出稼ぎに行ってしまっていないみたいだ。
「魔界っていい人が多いんだな」
「そうね。もっとすぐ戦うことになるものだと思っていたわ。」
マリンもこんなに親切にされるのは想定外なようだ。
もちろんレーシィの魔法のおかげも大きいが。
次の日、俺たちは朝から村の仕事を手伝っていた。
「いやあ、ありがとう。助かるよ。」
「いえいえ、この村に泊めてもらっているので当然ですよ」
そうして村の仕事をし、夕時になったころ、俺は貸してもらっている家に一人で帰っていた。
周りには珍しく誰も居ない。
突然、何かに襲いかかられた。
目に見えない速度で顔を殴られ、受け身を取るのが精一杯だった。
「誰だ!」
「それはこっちの台詞だよ」
月明かりに照らされて見えた顔は赤い瞳の悪魔族であることは間違いないが、その頭からはオオカミのような耳が生えている。
「なんだその格好は。悪魔族のフリをしている賊か?」
なぜ俺が悪魔族でないことがばれた?変身魔法の効力時間を誤ったか?
いや、身体に光の粒が纏ってる。まだ効力時間内のはずだ。
「俺は鼻がきくんだ。匂いで分かる。何者か答えないつもりなら吐かせるまでだ。」
そういって彼は俺に向かって殴りかかってきた。
「速い、、、!」
彼は目にも止まらぬスピードでパンチを繰り出してくる。
その拳にはメリケンのような堅く尖っているものがつけられている。
今までこんなに速い攻撃は見たことがない。
俺はなんとか二本の剣で応戦した。
「共鳴状態でも追いつくのがやっとなんて、、、」
俺は防戦一方でなんとか彼の攻撃を捌き続ける。
「お前、なかなか強いな。俺の攻撃をこんなに耐えるなんて!」
殴りながら話しかけてくる。
こっちは話す余裕なんてないのに。
彼のパンチに合わせて剣で大きく弾く。
「はぁ、、はぁ、、、」
「なんだ、もうバテたのか。」
「まってくれ!君と戦う意思はない!」
「お前にはなくても、俺にはあるが?」
「俺は仲間を助けにきただけなんだ!」
「仲間だと?」
ここで彼の戦闘意欲が少しそがれた。
「この魔界に攫われた仲間を探してるんだ。それで王都に向かっているんだ!」
「王都か、、。なら尚更ここで殺さないとな!」
彼が殺意丸出しで突っ込んでくる。
「蒼き我の魂よ、呼応せよ。楔を解き放って力を示せ。」
「エターナルブラスト!」
俺と彼の中心に氷属性の魔法が降り注ぐ。
「おっと!」
彼は魔法を避けるために後ろに下がった。
「なんだ急に撃ってきやがって!」
いきなり魔法を撃たれ攻撃が中断された彼は激怒した。
「離れなさい!」
マリンが俺たちに声を発する。
「おい、ネビロスやめんか!お客様だぞ!」
俺たちのことを歓迎してくれたおばあさんも止めに来ていた。
「大ばぁ、、。」
おばあさんに止められるとネビロスも攻撃態勢を完全に解き、おとなしくなった。
「でもよ、こいつら自分の身分隠してやがったんだぜ。こっちに戦う理由があるんじゃねーか」
「それでもいきなり攻撃するのはいかん。私だってこやつらの変装には気づいておる。」
「ならなんで攻撃しないんだ!」
「こちらに害があるならそうしたさ。でもこやつらはいいやつだ。攻撃する必要はない」
この村に来てからの行いがおばあさんにいいやつと思わせることが出来たようだ。
どうやら変身魔法は意味ないようだが、、。
「私が事情をおばあさんに説明して止めに来てもらったの」
俺とネビロスが戦闘を始めたとき、マリンは危機感を覚えおばあさんに言いに行ったようだった。
それからおばあさんの家に戻りここに来た事情を話した。
もちろん救出にきたのは天使族という情報だけは隠した。
「そうだったのか、、いきなり攻撃して悪かったな。」
「こっちこそ変装して近づいたのは攻撃されてもおかしくないことだった。」
ネビロスは話してみるといいやつで、俺を攻撃したのは村を守る純粋な正義感からのようだった。
「お前ら、王都に行きたいのか?」
ネビロスが俺たちに聞いてくる。
「そうなんだ。王都に俺たちが探している子の手がかりがあるかもしれないからな」
「そうか。ただそのままでは王都には入れんぞ」
「どうしてだ!」
俺は驚いた。王都にさえ行けばミズキを探すことができると思っていたのに、、。
「王都は悪魔の中の王族だけが住んでいる。その辺の旅人や村出身が入れるところじゃない。」
「じゃあどうしたら、、、」
「方法がないわけじゃない。俺も王都に行くつもりだしな。」
「どうやって行くつもりなんだ?」
「王都では年に3回、決闘大会が開かれる。この大会には腕に自信があるやつは誰でも出られることになっている。そして優勝者には王都の居住権が与えられるんだ。」
「それなら王都に入れるのか。」
「ああ。ただ、開催期間の5日間しか王都に居られないからな。人捜しってのは難しいかもしれない。」
「それでも探しに行けるだけましさ!教えてくれてありがとう。」
「王都に入るには少なくともエントリーはする必要がある。大会開始の一週間前に王都に行ってそれを門番に伝えるんだ。」
「なるほどな。次はいつ決闘大会は開催されるんだ?」
「3ヶ月後だな。」
ならそれまでに王都に着けばいいのか。王都まではここから今までのスピードで2ヶ月くらいでつくから大丈夫そうだと少し安心した。
「じゃあ、俺達は明日からさっそく王都に向かって行くことにするよ。」
「なら、俺も一緒に行くぜ。目的地は一緒だしな」
ネビロスも一緒に来るそうだ。パーティメンバーにも聞いてみたが、
全会一致で良いということだったので一緒に行くことになった。
「ねえ、ヴィネ。」
「なに、リリス」
「憐也さんに何も伝えなくてよかったの?」
「どうして?」
「急に居なくなったら心配するだろうし、、、まずミズキさん助けに来なかったら攫ってきた意味もないんでしょう?」
「それはそうだけど。大丈夫。憐也はミズキのこと助けに来てるから。」
「どうしてそんなことが分かるの?」
「ミズキが教えてくれたわ。間違いなく魔界にいるって」
「そうなんだ、、、迎えに行ってもいいかなぁ」
「まだだめよ。弱すぎるわ。」
「そっか、、、。もう少し待つね!」
リリスは憐也に会えるのを今か今かと待ち望んでいた。
俺たちはおばあさんたちに別れを告げて、王都に向かって進み出した。
ネビロスは俺たちがヒナクスの街から来たことを聞いて珍しいと言いつつ、少し安心したようだった。
「ネビロスが言ってた裏切りの悪魔達ってどんなやつなんだ?」
俺は襲われた日にネビロスから聞いていた裏切りの悪魔達について聞いてみた。
「ああ、なんでも最近悪魔族を殺す悪魔族が出てきてな。憐也が来たときもうちの村を滅ぼしにきたのかと思っちまった」
「そうだったのか、、」
「王族も殺されて、王都は今は大騒ぎだ」
そんな時期に決闘大会なんてやって大丈夫かと少し不安にも思うが、、。
とにかくいまはミズキを探し出すことが優先だ。
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