悪魔族
16階層の海でしばらく遊んだ後17階層に足を運んだ。
「んー楽しかった!」
「もう少し気を引き締めろよな、まったく。」
気が抜けすぎているレーシィに一言言っておく。
17階層まで来ると敵もどんどん強くなってきている。魔法もダメージが少なくなってきているし、体力も多い。あんまり気を抜いていると一瞬でパーティが壊滅させられる。
なんだかんだ16階層のカニ型モンスターにも苦戦したものだ。
「さすがに辛くなってくるな」
レーシィの回復魔法やポーションがあるとはいえ一戦一戦の精神的ダメージを取ることはできない。
俺たちは18階層に続く階段までたどり着き今回は引き返すことにした。
ダンジョンからの帰り道、マリンと他愛ない話をしていると、
辺りが急に騒がしくなった。
「なんだ??」
「行ってみましょう!」
近づいていくと、そこにはラビアさんやマーズさん、ミカエレギルドの人達と思われる人がたくさん居た。
近くには頭が潰された死体が転がっている。
「どうしたんですか?」
「憐也とマリンか。実はうちのギルドの団員が街で暴れているという報告を受けて向かったところ、その団員がゾンビ化をしていてな。致し方なく殺したんだ。」
ゾンビ化??初めて聞く単語に不思議に思っていると、
「ゾンビ化は、モンスターに殺された人間が復活して人間を襲うようになるって文献に書いてあったわ。」
「その通りだ。しかし今まではたまにダンジョン25階層以上で極稀にみることがあったぐらいだが、街に出現する事例は見たことがない。」
もし、そんなことが今後も起こるのだとしたら大変な事になるだろう。
「偶然で済んでくれたらいいが、、」
普段は不安をみせないラビアさんもこの時は不安を滲ませていた。
ゾンビ化をすると俊敏性は下がるが、攻撃力と体力が大幅に上昇するらしい。
25階層以上に出ることがあるようだが、適正階層はもっと上、30階層レベルの実力があるらしい。
30階層まで行けないギルド、パーティは戦わず逃げること、とラビアさんは言っていた。
「俺たちはまだ20階層にも到達していないからな。会わないことを願おう」
「そうね。」
そう言って俺たちはゾンビ化の現場を後にした。
また後日、俺たちは階段を駆け上がり19階層まで来ていた。
「連携もしっかりとってモンスターと渡り合えてるな」
「この階層のモンスターも問題なさそうね。」
モンスターが強くなればなるほどステータスの伸びも早いので対等に渡り合うことが出来てる。
「はぁ、、、はぁ、、、!」
「すみません!助けてください!」
20階層に続く階段を目指して歩いていると、1人の少女が走ってやってきて、助けを求めてきた。
「どうしたんですか!?」
マリンは少女の慌てように驚いたのか焦ったように事情をきいた。
「仲間が大変なことになってるんです!この先の通路で!」
それを聞いて、急いで俺たちは少女の仲間のもとへ向かった。
「なっ、、、、、」
少女の仲間の元に向かうと絶句する光景が広がっていた。
「どうしてこの階層に、、、、」
そこにはゾンビが2体いた。
いまにも足を負傷している少女の仲間が殺されそうだ。
「ちっ、、」
全速力で少女の仲間とゾンビの間に入る。
目の前には少女の仲間と思われる死体がいくつか転がっていた。
「なんでこんな所にゾンビ化した奴がいるのかは分からないが、戦うしかないだろう。」
いま俺の後ろで足を引きずっている少女を助けるためには
炎舞を発動させ、ゾンビと打ち合う。
ゾンビは動きが遅いのもあって簡単に刃が傷をつけるが、
「堅い!?」
ダメージを入っている感覚がしない
「憐也!ゾンビ化した敵は頭を潰さない限りダメージはないわ!」
そうか。そういえばこの前も頭が潰されていた。
「君はこの子を連れて退避して!」
助けを求めた少女にも指示をだす。
はい!といって少女は仲間の女の子を連れて後ろに下がった。
パーティ全員で攻撃するがほとんどダメージが通ってる気がしない。
1体は俺が、もう1体はマリンとレーシィが足止めしているがこのままだとこちらの魔力切れが先だろう。
「このままだとジリ貧だ。どうしたらいい。」
「そんなだから君は弱いんだよ」
後ろから声が聞こえた。
「誰だ!」
見ると白いスーツのような格好で太刀を持ってる好青年がいた。
「覚えてないのかい?カペラだよ。ああ、以前はローブを被っていて顔はみせてなかったな。」
「何しに来たんだ!」
「何しにきたって?君を助けにきたのさ」
「この前は死んでもいいと言っていたのに?」
「せっかくここまでマシな強さになったんだ。これを捨てるのは惜しい。それに選んでる時間もないんでね。」
そう言って、マリンとレーシィが相手をしていたゾンビ化した敵を一太刀で頭を粉砕した。
「な、、、、」
「これくらい普通さ」
「憐也!」
戦う相手が居なくなったマリンは憐也の援護にいこうとするが、
「おっと、それはさせない」
カペラに阻まれた。
「残り一体は一人で倒すんだ。」
倒せなかったらここに居る仲間は僕が殺すよと冷たい声で言った。
「一人で倒すって行ったってどうすれば、、」
「そんなもの自分で考えろ」
わかんないことを考えたってしょうがない。
ここは最大出力の技をぶつける。
「非道な処刑!」
が、ゾンビ化した敵の頭を砕くことは出来なかった。
これ以上俺にできることはない。技の威力もこれ以上は出せない。
「あきらめるのですか?」
どこかでそんな声が聞こえた。
その声に気を取られているとゾンビ化した敵の攻撃が当たってしまった。
「ぐ、、、」
口から血を吐き出して足から力が抜ける。
もうだめなのか、、、。
「あの子が認めたのよ。諦めないで戦って。そうすれば私はあなたの思いに応える。」
なんだ、、この声、、聞いたことがある声だ、、ミズキの声か、、?
そうだ。ここで死ぬわけにはいかない。守らなきゃならない仲間がいる。
「そう。その気持ちよ。それがあれば戦える。さあ立ち上がって剣を握って。」
水音がする、、、、
「ここはどこだ?」
「ここはあなたが持っている剣の中。正確に言えば剣の心の中ね。」
「あなたは?」
目の前に真っ白な騎士服を着て、長剣を二本携えた悪魔のごとき美しさをした女の人が立っていた。
「どうしてここに?」
「あなたをずっと見てたから。仲間のために戦う意思があるのならば力になるわ。」
「ありがとうございます。最後に名前を聞いてもいいですか。」
「私はエリス。あなたを支え続ける者よ。私と共鳴して強くなりなさい。あなたの帰りをみんな待ってるわ」
「共鳴」
そう唱えると、持っていた二本の剣はあの人が携えていた剣のように長く、俺の姿も着ていた服も白い騎士服のようなものに変わった。
二本の剣からは魔力が溢れ出ている。
「ここで会得したか。共鳴を。あの剣と奴には素質があったということか。」
「まだまだ荒削りだが、目覚めたか。」
俺は、炎舞すら使わず一太刀でゾンビ化した敵の頭を粉砕した。
「やはり君に素質はあったね。今後の成長も楽しみにしているよ」
そう言い残して、カペラは去って行った。
「やったのか、、。」
「助けてくださりありがとうございます!」
「いや、、全員は助けられなかった。」
「それは仕方ないです。みんなもこの子を守るために必死で戦ってくれました。」
「マリンとレーシィも怪我はないか?」
「ええ、大丈夫よ。」
「それにしても憐也さん。さっきのは一体なんだったんですか?服も剣も変わりましたし!」
「俺にもまだあんまりわからないな。気がついたらそうなっていた。」
「共鳴。武器の記憶と思いを使用者に重ねて強化する。強化のされ方はそれぞれ違う。そんなことがほんとにできるなんて、、、、」
マリンが驚いたように言っている。
「今日はとにかくホームに戻ろう。君たちもおいで?」
「ありがとうございます!」
俺たちは助けた少女もつれてホームに帰還した。
憐也ステータス★1
STR880 攻撃力
DEF570 防御力
RES1050 抵抗力
AGI630 素早さ
MAG580 魔力
憐也 スキル一覧
覚醒 何かのスキルに突然目覚める確率が上がる
炎舞 剣に炎を纏って攻撃する。
攻撃力上昇
火属性
物理属性
炎雷 剣に炎と雷を纏って攻撃する。
攻撃力上昇
火属性
雷属性
火事場 ピンチになると攻撃力上昇
治癒 身体の回復速度が上がる
非道な処刑 魔力を全身に巡らせる。
攻撃力上昇(大)
速度上昇(中)
物理属性
共鳴 武器の記憶と思いを乗せる
攻撃力上昇(特大)
速度上昇(特大)
「そういえば名前を聞いてなかったな。俺は憐也だ。よろしく。」
「私はヴィネといいます。こっちの子はリリス」
初めましてとお辞儀をする二人。
続いてマリン、レーシィ、リュウも二人に自己紹介をしていた。
「本当に助けていただいてありがとうございます。」
「ダンジョンで助け合いは基本だからな。困っていれば力を貸す。」
「あのまま居ては私もこの子も死んでしまうところでした。」
私達の力ではどうすることもできなかったので、と俯いている。
「しかし、なんであんなところにゾンビ化した奴が居たんだ。」
ここ最近、ずっとおかしな事が続いている。居るはずのないところに居るはずのないモンスターがいる。
「あの、こんなお願いをして申し訳ないんですが、、、。私達もパーティに入れてくれませんか?メンバーがいなくなってしまったので、、、」
ヴィネが俺に問いかけてくる。
「わかった。あの階層に居たってことはある程度戦えるだろうし問題ないだろう。」
「ありがとうございます!」
二人が少し笑顔になった。
こうして俺たちのパーティは俺を含め6人になった。
「これからはこの家に泊まるか?」
「いえ!そこまでは悪いので大丈夫です!朝、ホームの前に来ます。」
「わかった。じゃあまた明日な。」
次の日、俺たちは20階層のボスに挑んでいた。
モンスターの名前はクラーケンというらしい。
イカのような見た目をしていたが海の階層が近かったからだろうか。」
ボス戦ということで気を引き締めて行ったのだが、新たに加入したヴィネとリリスがクラーケンを翻弄し、(無口なリリスが意外にも大剣振り回す前衛だった。)ヴィネの魔法で大ダメージを与えていた。
その後、俺が共鳴を発動させ一気に片をつけた。
「憐也、助けてもらった時から思ってたけど強いよね。」
「そうか?」
「ボスだってすぐ倒しちゃうし。」
隣でリリスがコクコクと頷いている。
「ヴィネとリリスも充分強いと思うけどな。」
あんなゾンビに苦戦するとは思えないくらい二人は強かった。
20階層のボスを倒し、俺はミズキの元を訪れていた。
「こんちはー」
「こんちはじゃねーよ。大丈夫だったか?20階層のボスは。」
「なんとか大丈夫だったよ」
心配するおっさんをほっといてミズキを呼ぶ。
「ミズキは居る?」
「いるよー」
気だるげな声が店の奥から聞こえた。
「そろそろ深化できるか聞きに来たんだが。」
「深化ね。ちょっと待ってみてみるわ。」
んー、、といって目を光らせる。
「深化出来るみたい。やっちゃうね。」
そう言って俺の右手をミズキの右手が包み込む。
「はい、おしまい」
その数秒後には深化が終わっていた。あっけない、、、。
「なあ、ひとつ聞いていいか?」
「なにー?」
「深化って何回できるものなんだ?」
「人によるけど大体3回から5回ね。それぞれに器があってその器に力を入れていくイメージだから、何十回も出来る人も極稀にいる。」
「そうなのか。ちなみに俺は何回までできるんだ?」
「それは分からない。やってみないと。」
「なるほどな。ありがとう、助かった。」
「うん、いつでもおいで」
そういってミズキは微笑んだ。
憐也 ステータス ★2
STR 1280 攻撃力
DEF 770 防御力
RES 1550 抵抗力
AGI 830 素早さ
MAG 880 魔力
深化をしてホームに戻ると、リュウにマリンさんが探してたよと言われた。
探しているみたいなのでマリンの部屋に行ってみる。
「マリン、いるのか?」
「ええ、入って大丈夫よ」
そう言われたので、ドアを開けてマリンの部屋に入る。
「どうした?」
「今朝、ラビアさんに深化できるか見てみないかって言われたわ。ミカエレギルドに居る昇華師を紹介してくれるみたい。」
「おお、よかったじゃないか!」
「それで、憐也も一緒にどうだって。憐也なら紹介できるからって。」
「いや、俺は大丈夫だ。いつも見てもらってる昇華師がいるからな」
「え!?あなた、昇華師の知り合いがいるの?なんで言ってくれなかったのよ!」
「どこかのギルドに居るわけでもないし、営業してるわけじゃないから言うのは控えてたんだよ」
ミズキのところで深化していることは伏せて話した。
「そうなのね。わかった。私一人で行ってくるわね。」
ラビアさんのところに行ってくるわ。といって部屋から出て行った。
「マリンもこれで深化できるのか。」
パーティが強くなることは嬉しいことだ。
そしてマリンはその日、初めての深化をして家に帰ってきた。
マリン ステータス ★1
STR 580 攻撃力
DEF 670 防御力
RES 850 抵抗力
AGI 630 素早さ
MAG 1280 魔力
次の日、ダンジョンの21階層に登ると、俺たちは苦戦することなく24階層まで来れてしまった。
「こんな順調でいいんだろうか。」
逆に不安に思っていると、
「順調ならいいんじゃない?」
とマリンはいう。
リリスも頷いている。
確かに2段階目の深化をした俺と1段階深化したマリンにレーシィ、リュウ、リリス、ヴィネとこの階層であれば過剰戦力であることは確かだ。
殆どの敵を瞬殺出来てしまうほどの火力もあって攻略があっという間に出来てしまう。
なんと言ってもヴィネの支援魔法の存在も大きい。
「束縛せよ。刻印を刻め。虚空を捉えし深淵を止めるのは我。その鍵で堕天せよ。」
「ナイトメアロック」
とモンスターの動きを止め、その隙に魔法をたたき込んだり、剣で切り裂いて敵を倒している。
今のダンジョン攻略の最前線が50階層付近なので、この調子でいけば追いつきそうだ。
24階層を進んで25階層まで登ってきた。
途中でかい猫型のモンスターや熊のようなモンスターに出会ったがそのまま倒してここまで来た。
「よし、ボスフロアまできたな。このまま気を抜かずに進もう。」
ボスが近いということでみんな緊張しながら進んで行く。
ゴゴゴゴゴッ、、、
「なにこの地響き、、。」
ドーン!
「おわ!」
急にしたからモンスターが出てきた。
不意打ちに全員は避けれずリュウとリリスが被弾してしまった。
「なんだこいつ、、。」
体長は10メートルほどはあるだろう。
「ディザスターゴーレム。このフロアのボスよ。」
ゴーレムは俺たちに向かってパンチを繰り出す、
「この狭い通路じゃ避けれない!」
共鳴を発動させ、二刀の太刀で受け止める。
「重、、、」
さすがはボスといったところか、、
少し押され気味だな。
拳を受け止めている間にマリンとレーシィとヴィネが魔法の詠唱を始める。
「蒼き我の魂よ、呼応せよ。楔を解き放って力を示せ。」
「エターナルブラスト!」
「叡智、永劫、神を殺す炎の剣よ。蓋世がいせいの剣し天に還せ」
「レーヴァテイン!」
「天籟を響かせ、剛となれ。羅刹となって火を穿て」
「百鬼夜行!」
おお、、、気の毒になるくらいの火力だな、、、
あんなの食らったらひとたまりもなさそうだ。
いま最前線にいっても勝てるんじゃなかろうか。
ディザスターゴーレムは消し炭になっていた。
25階層のボスを倒し、そのまま26、27階層と歩を進めた。
28階層手前の階段まで来たところで突然黒い闇が出てきた。
正確には黒い空間が出現した。
「なんだ、、これ、、」
この空間を見て、後ろでリリスとヴィネがおびえている。
「見つケタ。」
「お前はあの時の!」
空間から出てきたのはレーシィを襲っていた黒い翼の奴だった。
「なんのようだ」
「生贄を取りにキタ」
「生贄、、?」
「ソコの女だ」
ヒッ、、とレーシィが俺の後ろに隠れる。
「渡さないと言ったら?」
「お前を殺すだけダ」
「そうか。今度は邪魔されないからな」
そういって剣を抜く。
お互い間合いを詰めて剣を打ち合う。
だが、この前と比べて手応えがない。俺が強くなっている。
「以前は逃げたが。今度は確実に倒す。」
「ナニッ、何故だ。何故攻撃があたらん」
俺の剣だけ奴に当たり、奴の剣は俺に当たらない。
この前は火力不足でダメージが入らなかったが、今は違う。
ダメージを与えている感覚がある。
「共鳴」
俺は共鳴を発動させ、一気にとどめを刺しに行く。
「イッタン引く」
そう言って黒い空間に奴が帰ろうとする。
「束縛せよ。刻印を刻め。虚空を捉えし深淵を止めるのは我。その鍵で堕天せよ。」
「ナイトメアロック」
その前にヴィネが呪文で奴の動きを止める。
「キサマ、、、許さん、、!」
「恨むならお前の運命を恨めよ」
そして奴の体を切り刻んだ。
黒い翼を持つ奴を倒し、俺たちはホームへ急ぐ。
黒い空間。そしてそこから出てきた奴について聞くために。
「すみません。少しお聞きしたいんですが、、、、」
まずは換金所の職員に聞いてみた。
しかし、換金所の職員はこの現象については知らないようだった。
「ラビアさんもこの前知らないって言ってたしなぁ」
今回はなんとしても突き止めないといけない。そんな気がする。
「それについては僕が教えてあげよう」
「お前は!」
換金所から出てきたところに話しかけてきたのはカペラだった。
「ついてきたまえ。そこで伝えてあげよう。ただし憐也君だけだ。」
「なんでよ!」
マリンがカペラに噛みつく。
「君たちが知る必要はないからだ。だが憐也くんから聞くのは良しとしよう。」
それでもマリンはなにか言いたげだったがカペラは無視して歩いて行く。
不信感を抱きながら、真実を知りたいのでカペラについて行くとダンジョン近くの時計台の地下に案内された。
そこにはローブの男とミズキがいた。
「どうしてミズキがここに!?」
「その説明は私からしよう。」
そう言うとローブの男は俺の前まで来て頭のフードを外した。
そこには白い髭を生やした60代くらいの見た目をしたおじいさんが現れた。
「私の名はアンシャル。ミズキと同じ天使族である。しかし、末裔とは違い1000年前から生きている正真正銘の天使だ。」
「天使、、、。」
これが天使なのか、、少し残念な気もする。
「それでどうしてミズキがここに居るんだ?」
「ミズキには私から君を監視するように命令を出していた。」
「監視だと?」
「そうだ。ところで憐也君。君は覚醒のスキルを持っているね?」
「確かにある。でもなぜそれが分かる?」
確かに俺は覚醒のスキルを持っている。
この街に来た瞬間から。
「ミズキは覚醒というスキルを持つ人間の居場所を特定するスキルを持っている。そのスキルで君をいままでずっと見ていた。」
「どうして俺のことを監視する必要があるんだ」
「それは覚醒というスキルが特別な者にしか与えられないからだ」
「特別な者?」
「特別な者とは現実世界からきた者だ」
「現実世界?」
現実世界とはいったいなんだ?
「ああ、すまんな。こっちの世界に来たときに一時的に現実世界の記憶は消させてもらった。」
「その現実世界とやらは一体何なんだ?」
「その世界はお前さんが元いた世界じゃよ」
「元いた世界だと?」
「なんじゃ、いままで何の疑問も持たなかったのか。暢気なやつじゃのう。」
そういってアンシャルは杖で俺の方を指す。
「お前がこの世界に来たとき、今のままの姿だったじゃろう。生まれたときからの記憶はどうじゃ。両親は。全部分からないじゃろう。」
そうだ。確かになにも知らない。始めにこの街で目が覚めた時はどうしていいか分からずパニックになった。
すぐに雑貨屋の親父が父親のように世話をしてくれたが。
「安心せい。帰るときには記憶も一緒に返してやる」
「そうか、、、。」
いまいちピンと来ないがおそらくアンシャルの言っていることは正しいんだろう。
「それで、俺がここにきたのは、あの黒い空間について知りたいからだ。そこから出てきた奴についても知っているなら教えて欲しい。」
「そう焦るな、教えてやるから。」
そう言うとアンシャルはあの空間について話し始めた。
「あの黒い空間は魔界に繋がっておる。魔界と言うのは悪魔族が住んでいる所じゃ」
「悪魔族?」
ここでミズキが悪魔族についての説明を始める。
「悪魔族は、黒い翼を持つ事が特徴なの。そして私達天使族と長くに渡って争い続けてきたわ。」
「なんで争ってるんだ?」
「それは10000年前、まだヒナクスの街すらなかったころ、悪魔族が私達の同胞を根絶やしにしようと殺戮を繰り返していたからよ。」
「そうなのか。」
「それが1000年前。冷戦状態になったの。天界と魔界にお互い干渉しないようにと天使族と悪魔族でこの街を作り上げた。」
「ならこの街に悪魔族がいることは別に変なことではないんじゃないか?」
「それがそうではないんじゃよ」
ここでアンシャルが口を挟んでくる。
「この街は天界、魔界の均衡を保つためにこの世界に入れる天使族、悪魔族の人数に制限をかけた。監視の意味も兼ねてな」
「なるほどな。じゃあ街には何人か悪魔族は居るんだな。」
「そうじゃ。どこにいるかまではお互い知らんがな」
「さっきヒナクスの街を悪魔族と天使族で作り上げたって言ってたが、ダンジョンもそうなのか?」
「いや、あのダンジョンは元から作る予定ではなかった。というかそもそもあれに関しては天使族は関与していない。」
「どういうことだ?」
「なにか天使族に不利に働くものでないかと悪魔族に抗議したが、知らぬ存ぜぬでな。破壊しようとしたが、天使族、悪魔族の力を持ってしても壊せなかったんじゃ。」
ということは本当にあのダンジョンは自然に出来たものなのか、、
「儂らが知っているのはここまでじゃ。全部は答えられなくてすまないな。」
「いえ、充分です。ありがとうございました。」
そう言って俺は時計台の地下室を後にした。
「ああ、一つ言い忘れた。元いた世界に帰るにはダンジョンを攻略する必要があるからな」
アンシャルはそう俺の背中に声を投げかけた。
「おかえりなさい!憐也さん。」
ホームに帰るとリュウが出迎えてくれた。
「待ちくたびれたわよ」
普段はなかなか部屋からでてこないマリンも寝ずに待っていてくれたらしい。
「それで、あの空間と黒い姿のあいつは一体何だったの?」
と他のみんなも気になっているであろうことを聞いてきた。
俺は、自分の素性は伏せながら、天使族と悪魔族について聞いたことをみんなに伝えた。
リリスとヴィネは家に居なかったので後日伝えたが。
「そうだったのね。あれは悪魔族っていうのか。じゃああの空間に入れば魔界に行けるって事?」
「理論的にはそうかもしれないな」
ちょっと気になるわねとマリンが恐ろしいことを口にしている。
「まあでも敵対しなければ放置で良いと思う。」
あのときは敵対してきたから戦ったが、そうじゃないのなら被害はないし戦う必要がない。
「そうだね!悪魔族にもいい人はいるかもしれないし!」
とレーシィが気楽そうに言ってくる。
とりあえず、今回の悪魔族の事件には区切りがついた気がした。
次の日、俺はリリスと二人でダンジョンに出かけていた。
本当は休養するつもりだったのだが、ヴィネにどうしても取ってきてほしいものがあるとお使いを頼まれたのだ。
いや、自分で行けよ。と思ったのだが、行かなきゃいけないところがあるからと一緒に来たリリスを置いて一人でどこかに行ってしまった。
「リリスも災難だな、あんな相方をもって」
「いえ、私は憐也さんと一緒にいるのうれしいですし。」
少し微笑みながら答えてくれた。
最近、リリスはよく話すようになったなと思う。
パーティ組んだ頃はほとんど話さなかったのに。
「ちなみにヴィネに頼まれたものって何階層にあるんだ?」
「11階層です。」
うへぇ、まじか。あんまり良い思い出はないなぁ。
そりゃあ魔法が効かないとなればヴィネも来たくないだろう。
「着きましたね」
「そうだな」
ここまで来るのは俺たちの実力もあって苦労はしなかった。
「それでヴィネが取ってきて欲しいものって一体何なんだ?」
「それはこの階層に生えている白くて綺麗な花みたいです。アネスの花と言うそうで高性能の回復薬の材料になったりするので、高値で取引されてたりもするそうです。」
そんなものヴィネは何に使うんだろうか?
俺たちは出てくるラフレシアを切り捨てながら進んで行く。
奥地まで進むとそこにはアネスの花の花畑があった。
「うわぁー!綺麗!」
「確かに凄く綺麗だな」
見とれていると後ろからラフレシアの攻撃が来ていた。
「危ない!」
そう思った俺はリリスのことを押し倒した。
「きゃっ」
視線が間近でぶつかる。
リリスは頬を赤くしていた。
「ちゃんと後ろも見てないとだめだろ。ダンジョンなんだから」
「はい、、。すみません、、。」
ちゃんと聞いていない気もするが、とりあえずリリスの上からどいて襲ってきたラフレシアを倒した。
「ふう、おわったか、、、」
ラフレシアを倒したあと、今度は俺が背後を狙われた。
「おっと、、、どうしたんだリリス?」
長いツインテールの髪を揺らして、俺に抱きついてきた。
「あの!最初に助けてもらった時から好きでした!」
「え、、、、?」
いま好きって言われた?
「パーティに入ってから憐也さんに気持ちを伝えたかったんですけど、なかなか言えなくて、、」
リリスと二人になる時間なんて殆どなかったからな。
マリンかヴィネがいつもお互いの近くに居たし。
「気持ちは凄い嬉しい。本当にありがとう。ただ今はこのダンジョンを攻略する必要があるんだ。」
元いた世界に帰るためには、、。
「そうですか、、ならダンジョンの攻略が終わった後でもいいので返事待ってますね!」
すこし空元気ではあるものの、リリスは笑顔で返事をする。
11階層から戻り、ヴィネにアネスの花を渡した。
「ありがとう!助かったわ。」
「でも、これを何に使うんだ?」
「えっと、、、研究につかうのよ!」
少し歯切れの悪い回答だったが、
そうなのか、程度にしかこのときは思わなかった。
家に帰っても、リリスの言葉が頭から離れずぼーっとしていた。
リビングで休んでいると、
「憐也、今日家に帰ってきてから変よ?なにかあったの?」
マリンにそう聞かれてしまった。
「いや、、何もないけど、、」
「そう、、、ならいいわ」
マリンは不満げな顔で部屋に戻っていった。
それからしばらくはダンジョンに行かない日にリリスに誘われるがまま、二人で出かけることも多くなった。
あの日以来、リリスは少し積極的になった気がする。
二人で歩いているときに腕を絡めてきたり、並んで歩いていても肩が当たるくらい距離が近かったり、
このままじゃだめだと思いながらも、居心地の良さに俺は溺れかけていた。
「ふう~こんな近くに居たのね。探すの手間取っちゃった。」
ようやく見つけた生贄に喜びが止まらない。
「この前は邪魔されちゃったけど、今度は邪魔させない。」
あの雑魚の悪魔に計画を邪魔されそうになって本当に焦った。
「ロキ様。もう少しお待ちください。私が必ず生贄を連れて帰ります。」
忠誠を誓った我が主に向けて独り言をつぶやいた。
「ようやく、35層についたな」
30階層のボスも突破しそのままの勢いで35階層のボスフロアに来た。
「ここまで長かったわね。」
マリンが一息つきながら話しかけてきた。
攻略自体は難しくなかったが、とにかく道のりが長い。
ここまで来ると一回の冒険で1週間くらいダンジョンに籠もりっきりになる。
30階層を越えると、雑魚モンスターも20階層のボスレベルの強さになってくるが、それでも俺たちは苦戦しなかった。
ただ、空を飛んできたり、異常状態をつかってくるので、ギミック対策はしないといけないかもしれない。
幸い、空を飛んでいる敵はマリンやヴィネ、レーシィが打ち落とすし、地上の敵は俺とリリスで倒す。リュウは万が一、遠距離陣にモンスターが行ったときに足止めをしている。
「グガァァァァァ!」
「おっと、出てきたか。」
今回のボスは子分のモンスターを倒さなければ出てこないようだったので全て倒してきた。
見た目は熊に似ているか。
「束縛せよ。刻印を刻め。虚空を捉えし深淵を止めるのは我。その鍵で堕天せよ。」
「ナイトメアロック」
ヴィネの拘束魔法からの俺の共鳴の斬撃にマリンやレーシィの魔法攻撃もあってこの階層のボスも簡単に勝ってしまった。
「このまま最前線まで突っ走るぞ!」
「おー!」
かけ声にみんなが反応する。
ただ、気になっていることもある。
以前ヴィネとリリスが助けを求めてきた時、そこに居たのはゾンビ二体だった。
この二人の実力があればゾンビ程度、苦戦しないんじゃないか。
パーティで人数が居たならなおさらだ。
その思いが次第に強くなっていった。
いつも読んでくださりありがとうございます!皆様のおかげで執筆が続けられてます!
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